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JR九州・香椎線の自動運転を見物してきた

JR九州が運営する香椎線という路線をご存知でしょうか?

西戸崎~香椎~宇美を結ぶ香椎線は、全線単線で、運行頻度は昼間だと毎時2本。主要幹線ではないが完全なローカル線でもない、中堅路線という感じ。失礼ながら、地味と言えば地味な路線です。

しかし香椎線、鉄道関係者やファンならば注目している人も多いのではないでしょうか。というのは、「珍しい技術が導入されているから」です。具体的には以下の二点。

  • 蓄電池車を使用している
  • 運転士が乗務しない自動運転を行なっている

特に後者の自動運転が話題になっています。いや、自動運転自体は珍しいものではありません。しかしそれは地下鉄や新交通システムなど、踏切がなく、外部から人が侵入しにくい構造の路線で導入されているのが一般的です。

いわゆる「踏切がある普通の在来線」だと、どうしても相対的にイレギュラーが多いので、自動運転は難しい。しかし2024(令和6)年3月から、「踏切がある普通の在来線」の香椎線で、運転士を乗務させない自動運転が開始されたのです。

これは国内初。

あ、「運転士を乗務させない」と書きましたが、無人運転という意味ではありません。ドア扱いや前方監視、緊急時のブレーキ操作等を目的として、ちゃんと運転台に係員がいます。ただ、この係員は運転士免許を持っていません。
(注:現段階では、免許なしの係員が乗務しているのは、一部の列車に限る)

これは簡単に言えば、将来の人手不足に備えての用意です。運転士は養成する手間や費用がバカになりません。免許なしの係員を乗務させられる(もっと推し進めて無人運転)なら、人手やコストを削減できます。情勢を踏まえ、将来に向けて、いろいろな実験を香椎線で行なっているのですね。

前置きが長くなりましたが、今回の記事は、香椎線の訪問レポ(?)です。蓄電池車や自動運転の様子を見てきました。

写真や図で説明! 蓄電池車の外見や運用法

福岡県の香椎駅にやってきました。駅構内には、BEC819形という車両が停まっており、これが香椎線を走る電車です。搭載している蓄電池の電力で走ります。積んでいる電池で走る車両──巨大プラレールだと思ってください。

BEC819形

床下の青い機器箱が蓄電池

蓄電池車自体は、JR東日本でも走っていますが、そこに自動運転まで組み合わせているのが香椎線の大きな特徴ですね。

蓄電池車は、走るために「電池に充電する」作業が必要です。香椎線においては、この香椎駅にだけ架線が張られており、ここで電気を受け取って充電します。

香椎駅は充電スポットというわけ

そのため、香椎駅に停車中のBEC819形は、パンタグラフを上げています。スマホでいえば、充電器をコンセントに差して充電している状態です。

発車2分ほど前にパンタグラフが下がり、充電作業が終了。スマホでいえば、充電器をコンセントから抜くところですね。

左:パンタグラフを上げて充電中 右:パンタグラフが下がっていく最中

もしパンタグラフを下げるのを忘れて発車すると、架線がないエリアに入った途端、パンタグラフが「バンザイ」して破損してしまいます。

架線がない場所でパンタグラフを上げるとヤバいことになる

香椎駅の発車前に、パンタグラフを確実に下げなければいけません。これを人間の注意力だけで行うと、失念したときにヤバイので、バックアップとして「下げ忘れ防止システム」が導入されているはずです。

自動運転を体感 ブレーキの掛け方は微妙な気が

発車時刻が迫り、信号が青に変わりました。運転台の係員は、モニターの映像でホームを確認します。ドアスイッチを操作し、ドアが閉まりました。ここまでは、通常のワンマン運転と同じ。

そして係員が運転台の「出発用ボタン」を押すと、列車がおもむろに動き始めました。はい、係員はハンドルやレバー操作を何もしていません。おぉ~。

青丸がモニター。車両側面にカメラが設置されており、それでモニターに映像を出しているのだろう。赤丸が出発用ボタン

香椎駅の構内を出るまでは、速度制限箇所もあり、ゆっくり走ります。が、構内から出ると列車は加速し始めました。運転台の係員の手は、動いていません。

係員の左手は、大きなボタンに置かれています。緊急停止スイッチですね。右手は、信号確認のために指差しをしたり、EBという装置のリセットボタンを押したりしています。

黄丸が緊急停止スイッチ。線路に異常を発見したり、侵入者を発見したり……という場合に押せば列車が止まる

次の香椎神宮駅が見えてきました。ブレーキが掛かり始めます。運転台からは、「2両停目に停車します」という自動音声が聞こえてきました。そして停車……したのですが、正直な感想を書かせてください。

下っ手なブレーキだなぁ

いや、所定の停止位置からズレることなく、ちゃんと停まりましたよ。私が言ってるのは、ブレーキの使い方。

そんなにスピード出してないのに、けっこう遠くからブレーキを始めているなぁと感じました。もうちょっと突っ込んだ位置からブレーキを掛けても、間に合う気が。

ブレーキの強弱も微妙だ。まず、緩やかなブレーキを掛けながら停止位置に接近。そして、停止位置が目前に迫ったところで、最後に強めのブレーキを使ってキュッと停まる。儂、衝動でちょっとヨロけたわい。

詳しい説明は省きますが、これは私の感覚──というかウチの会社基準では、下手なブレーキでして。

まあ、こういうブレーキの掛け方は、オーバーランを起こさないという観点では安パイです。雨や霧でレールが濡れていて、滑ることもあるでしょう。自動運転の機械に対して、気象条件や線路状態まで判断してブレーキを要求するのも酷ですし。「手堅く」を重視して、早めにブレーキを掛ける設定にしてあるのかも。

とにかく、ブレーキの技量に関しては、総合的に人間の方が優っていると感じました。

案内放送は作動タイミングが係員による手動だった

そんなこんなで、列車は定刻で順調に走っていきました。運転操作に関しては、駅発車時に出発用ボタンを押せば、あとは何もせずとも次駅の停止位置まで自動的に移動してくれます。

では運転台の係員はヒマなのか? いいえ。信号機や時刻の確認、駅では旅客の乗降監視にドアの開閉操作。いろいろ作業をしています。もちろん、走行中は前方を注視していることは言うまでもありません。

もし無人運転となると、これら(+異常時の対応)をすべて機械に置き換えなければいけませんが、それは大変だなぁと思いました。

ところで、駅発車時と駅到着前には、案内放送が流れます。これが係員の肉声ではなく、いわゆる自動放送……だったのですが、これが「完全に自動」ではなかった。

簡単に言うと、バスでやっているのと同じ。駅発車後と到着前に、係員が運転台のスイッチを扱うことで、案内放送が流れていました。つまり、「放送作動のトリガーは手動」なのですね。

運転は自動にしておいて、なぜ放送は自動にしない?

発車後と到着前に、勝手に案内放送が流れる「完全に自動」は、技術的には普通に可能。それをあえて採用せず、係員による作業を介在させているのには理由があるわけで。アレか? 係員をボケッとさせないために、作業を与えているのか?

どの規模の路線に導入するのが費用対効果面で優れているのか?

というわけで、蓄電池車 + 自動運転の組み合わせを見てきました。自動運転に関しては、一部「マジか」と思う部分もありましたが、非常にスムーズに運行されていました。

いや、だからこそ営業運転を開始したわけですが……。

あとは、こういったやり方をどの規模の路線にまで普及させていくか? いろいろな面で改修が必要になりますから、主要幹線でやろうとしたら、話が大きくなる。ローカル線に導入しようと思ったら、ローカル線にそこまでの投資をするのは費用対効果がどうなん? という話になるのかも。

個人的には、香椎線のような中堅路線で導入するのが、一番効率的な気もしますが。現在は、鹿児島本線でも自動運転の実験中だそうです。

鉄道の将来を大きく左右する蓄電池車や自動運転、今後の推移を見守っていきましょう。

さて、私は長者原駅で下車。篠栗線に乗り換え、博多駅に向かいます。次の目的地は、カービィカフェ(博多)です。

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関西線・名古屋~奈良間の直通構想から 車両重量と線路の話

JR関西線では、名古屋~奈良間を直通運転する列車を走らせる構想が浮上。2024年の秋ごろに実験を行いたい考え。

愛知県の名古屋駅と、大阪府の難波駅を結ぶJR関西線。その運行体系は、3つのエリアに分かれています。

  • 名古屋~亀山(名古屋エリア)
  • 亀山~加茂(山越えエリア・非電化)
  • 加茂~奈良~難波(大和路エリア)

この3つのエリアは運行系統が明確に分断されており、つまり、相互に直通する列車がありません。たとえば名古屋の人が、「関西線で奈良へ行こう」と思ったら、亀山駅と加茂駅で必ず乗り換えが必要になります。

この関西線で特に営業成績がヤバいのが、亀山~加茂間です。ここは非電化のローカル線で、日中は毎時1本が走るだけ。もちろん大赤字で、このままでは将来的に存廃が問題になる路線でしょう。

そこで、亀山~加茂間の利用促進を図り、路線の価値を高めるための施策として、名古屋~奈良間の直通運転(=乗り換えなし)構想が浮上したわけです。

名古屋~奈良間には非電化区間が挟まる 気動車使用が必須

名古屋~奈良間の直通運転構想。このニュースに関して、鉄道ファンの関心の的は、「直通列車に使う車両はどれ?」ではないでしょうか。

名古屋~亀山間はJR東海の管轄。名古屋近郊ということもあり、それなりの列車本数。

亀山以西はJR西日本の管轄だが、亀山~加茂間は完全にローカル輸送、なおかつ非電化。

加茂~奈良間は、大阪方面への列車も運行されるなど、大阪圏に含まれる性格を帯びてくる。

ようするに、この3つのエリアは「路線としての毛色」が全然違います。そこを直通する列車に、どういう車両を使うかは、鉄道ファンなら興味津々ではないでしょうか。

本記事でも、名古屋~奈良間の直通列車に使用する車両は? というテーマで書いてみます。

今回の直通構想で、最大のネックとなりそうなのが亀山~加茂間です。ここは電化されていないため電車は通れず、気動車(ディーゼルカー)でしか走れません。

そのため、名古屋~奈良間に直通列車を設定しようと思ったら、使用する車両は気動車であることが前提条件です。

亀山~加茂間で走るキハ120形は名古屋や奈良には入れない

現在、亀山~加茂間に投入されているのは、キハ120形という気動車です。

こいつが1両ないしは2両で走っているのが、亀山~加茂間の輸送風景

では、このキハ120形の運用範囲を東は名古屋、西は奈良まで伸ばす、つまり名古屋~奈良間の直通列車に充てることは可能なのか?

しかし残念ながら、これは無理。ATSという保安装置の関係です。

鉄道車両には、ATSという保安装置を搭載します。このATSにはタイプ(種類)がいろいろあり、線区によって使用するものが異なります。

そして簡単に言えば、キハ120形が積んでいるATSのタイプは、名古屋エリアと大和路エリアに適合しません。つまり、ATSのタイプ不一致により入線することができないのです。

関西線のキハ120形は、加茂~亀山間での限定的な運用しかできない

したがって、キハ120形を名古屋~奈良間の直通列車に充てるのは無理なのです。

そもそも、キハ120形は基本ロングシート。名古屋~奈良間の直通列車は、おそらく特急なり急行なりの形で運行されると思いますが、そういう列車にロングシート車はふさわしくありませんね。

他の候補車両としては、JR東海が保有するキハ75形です。

キハ75形は、かつて名古屋~奈良間で走っていた急行かすがという列車に使用されていました(2006年に廃止)。つまり走行実績があるわけ。ATSの適合も問題なく、座席もクロスシート。

そのためネット上では、「名古屋~奈良間の直通に使われるのは、キハ75形が有力では?」との意見が多いです。

キハ75形は亀山~加茂間を通れるか?

ただし、「電車か気動車か?」や「ATSの種類は適合するか?」だけで入線可能・不可能を判断することはできません。他にも注意すべき点があります。

車両重量の問題です。

簡単に言えば、「キハ75形は重いけど、亀山~加茂間を走って大丈夫なの?」という確認をしなければいけない。

まず知ってほしいのが、車両重量と線路のスペックには、密接な関係があるということ。

貨物列車が良い例です。貨物列車って、重たいんですよ。そのため、線路をかなり頑丈に造っておかないと、走行の衝撃で破壊されてしまいます。

逆に言うと、軽い車両しか通行しない線路なら、規格はそれなりで大丈夫です。そこまで高スペックで造る必要はありません。

クルマで例えるなら、軽自動車しか走らない道路なのに、ダンプカーの走行にも耐えられる強度で建設したらムダですよね。

このあたりは、JR貨物の列車が乗り入れている第三セクター鉄道を悩ませる問題です。自社の旅客列車(軽い車両)だけが走るのであれば、そこそこの線路スペックでいい。しかし現実は重~い貨物列車が通っていくので、高スペックの線路を維持しないといけず、費用や手間がかかるわけ。

重量的にキハ75形と同程度のキヤ141系が入線できている

関西線に話を戻すと、現在、亀山~加茂間で使用されているキハ120形は、軽量タイプの気動車です。だいたい27トン程度らしい。

対して、キハ75形は重い。1両40トン近くあるようです。

「キハ75形は、かつて急行かすがとして名古屋~奈良間で走っていた」と先ほど書きました。急行かすがは2006年に廃止され、18年が経っています。亀山~加茂間で営業運転するのはキハ120形だけになり、「もう重いキハ75形は入ってこないから」と、経費削減のために線路スペックや保守レベルを落としたかもしれません。

つまり、キハ75形の走行に問題ない線路スペックが、現在でも維持されているか? もし「軽い車両仕様」の線路であれば、キハ75形は通行できないわけで……。

ただ、結論を言えば、キハ75形なら通れます。亀山~加茂間には、旅客営業を行うキハ120形以外にも検測車のキヤ141系という車両が入線しており、こいつが40トン以上あるからです。

40トン以上の検測車が通れるなら、同程度の重量のキハ75形だってセーフのはず。

ちなみに、検測車とは何ぞや? 新幹線のドクターイエローやイーストアイ……と書いて理解できますかね。走行しながら線路の状態を診断できる「線路のお医者さん」です。

ドクターイエローやイーストアイは新幹線の「線路のお医者さん」ですが、もちろん在来線タイプもあります。JR西日本が所有しているのがキヤ141系。

公式ホームページより引用。写真ではわからないが、2両がワンセットになった編成

こいつが検測のため、JR西日本のあらゆる路線を走ります。つまり、亀山~加茂間にも入線している。

キヤ141系は2両編成で、合計90トン近くあるようです。ということは、単純計算で1両約45トン。もちろん2両はそれぞれ重さが違うはずですが。

重量ゆえの速度制限を受ける可能性もなさそう

ただし、走行する際に速度制限を受ける可能性があるかもしれません。

同じ重さの車両でも、高速で走ったときと、低速で走ったときでは、線路に与える負担が違ってきます。当然、高速走行の方が線路は傷みやすい。

重い車両が走るときには速度制限をかけて、線路への負担を減らす。そういう手法です。

ではキヤ141系、亀山~加茂間を検測で走るときに減速運転を行っているのか?

ネット上で運転時刻を調べてみると……どうやら、ゆっくり走るなどの措置は特に行われていないようです。キハ120形の営業列車と同程度のスピードは出しているでしょう。

ひょっとしたら、局地的には減速する箇所があるかもしれませんが、全体として速度を落とすことはなさそう。

つまり、名古屋~奈良間の直通列車にキハ75形を採用した場合でも、しっかりスピードを確保できると思われます。かつて、急行かすがは約2時間10分で走破していましたが、それと同程度の時間でイケるでしょう。

……とまあ、普段その線区を走っていない車両を入線させる際には、いろいろ考慮すべき要素や条件があるわけです。決して、「レール幅さえ合っていれば、どこでも走れる」ではありません。それさえ理解していただければ、細かい話はどうでもいいです(笑)

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京葉線の通勤快速廃止から 速達列車の存在と沿線人口の関係

2024(令和6)年3月のダイヤ改正の内容が発表されて、大騒ぎになったのが、JR京葉線です。

千葉県の蘇我駅から東京駅を結ぶ京葉線。現在、朝通勤の時間帯に、通勤快速・快速という種別が運行されています。ところが、ダイヤ改正で通勤時の快速系を廃止し、普通列車だけにするとのこと。
(注:特急列車は運行される)

この改正に対し、利用者からは悲鳴が上がっています。「快速系が無くなったら通勤に時間がかかる。早起きしないとアカンやん!」という具合。通勤快速・快速・普通の3種別、停車駅とおおむねの所要時間(朝通勤時)は↓図の通りです。

注:列車によって所要時間に差がある。普通列車は52分程度のものもあれば、60分かかるケースも

朝通勤時の快速系廃止の狙いとは?

JR東日本は、朝通勤時における快速系廃止の狙いを、次のように説明しています。

  • 快速通過駅を利用する人に対する、乗車機会の増加
  • 普通列車は快速待避で時間をロスするため、快速系をなくすことで普通を速達化
  • 現状は快速系と普通列車の混雑度合いに差があるので、全列車を普通にして混雑を平準化

……とまあ、こんな狙いがあるそうですが、メディア上では「快速廃止は困る」という人の声が多く取り上げられました。

千葉県知事や千葉市長も「納得できない」と発言。発言だけではなく、JR東日本への抗議や偉い人との面談も行われました。それが実ったか、JR東日本は改正内容を撤回し、朝の快速列車2本は残すことを決めました。

まるで、ものすごいダイヤ改悪かのような印象を受けます。ただ、このダイヤ改正で喜ぶ利用者も少なからずいるはずです。報道するのであれば、そういう人の声も拾うべきで、片方だけの意見を取り上げるのはフェアじゃないと思いますけどね。

実は朝通勤時の快速列車は大して本数が多くない

それはともかくとして、ひとまず客観的に状況を把握しましょう。現在の京葉線の朝通ダイヤ、具体的には始発である蘇我駅の時刻表を見てみます。

6時30分~8時30分の間で、蘇我駅から東京方面へ向けて発車する列車の内訳は、次の通り。

  • 普通 16本
  • 快速 2本
  • 通快 2本

快速は2本、通勤快速も2本です。ちなみに快速2本はいずれも6時台の発車であり、ピークである7時よりも前に運転されてしまいます(東京着も7時半頃)。

冷静に見れば、朝通勤時の快速列車自体が、実はそれほど多くないのですね。ですので、ダイヤ改正で快速系統が普通列車に変わったところで、そこまで大勢に影響ないようにも思えます。

知事や沿線市長は「都心までの通勤時間がかかるようになれば、沿線の価値を損ねる」などとしてJR東日本に激しく抗議していますが、これをやり過ぎと見る向きも、ネット上では少なくありません。「民間企業に対して行政がそこまで介入するのはやりすぎ」「大袈裟に反応し過ぎでは?」という具合。運転本数が減るわけではないですし。

ダイヤ改正による「沿線の価値毀損」が心配なのは理解できる

ただ、個人的には、知事や沿線市長がここまで反応する事情は理解できます。

もし何も騒がなかったのでは「怠慢!」と有権者から罵られますし、行政のトップとして動ける姿勢を有権者に見せたい思惑もあるはず。ようするに“ポーズとして”反応している部分はあると思います。

が、本心から危機感を抱いていることも、おそらく事実。鉄道会社という一民間企業の施策とはいえ、「通勤時の速達性」という要素が沿線に与える影響は、やはり小さくないからです。

知事や市長からは、「沿線の価値」という言葉が出てきました。どういう指標を使って、その地域の価値うんぬんを語るべきかについては、さまざまな意見があるでしょう。

本記事では、人口という指標を用いることにします。単純に人口が増えれば、その地域の価値は上がる(あるいは、価値が高い場所だからこそ人口が増えた)と見てよいと思うからです。

ここでは一つ、鉄道会社の施策と沿線人口の関係について、滋賀県JR西日本の例を紹介します。

(おそらく)新快速のおかげで人口が増えた滋賀県

日本の人口は減っている(減っていく)と言われますが、その中でも人口を増やしている都道府県があることはご存知でしょう。平成の初めと終わり頃を比べて、人口が10%以上増えた都道府県は次の通りです。

  • 埼玉県
  • 千葉県
  • 東京都
  • 神奈川県
  • 愛知県
  • 滋賀県
  • 沖縄県

滋賀県が入っているのは意外だと思いませんか? 失礼を承知で書きますが、滋賀県って、ちょっと地味なイメージがあるからです。

しかし、人口増に関しては、関西都市圏の京都府・大阪府・兵庫県よりも遥かに優秀です。ついでに書いておくと、人口増だけでなく、滋賀県は14歳以下の年少人口の割合も全国トップクラスです。

(※ちなみに京都の人口が増えにくい理由は、景観保護の問題があって、大規模な宅地開発が難しいことが挙げられる。沖縄県の人口増は、全国的に出生率が高いのが理由の一つ)

もちろん、滋賀の中でも人口が増えている場所とそうでない場所があります。人口増が見られるのは、草津市や守山市といった東海道線沿い(=琵琶湖の南岸~東岸)です。タワーマンションなんかもけっこう建っているそうですね。

これ、たぶんJR西日本の施策の影響です。具体的には、東海道線を最速130㎞/hで爆走する新快速のおかげで通勤がしやすく、京都・大阪のベッドタウンとして発展 = 人口が増加したのでしょう。

JR西日本の新快速は相当速い 他と比べるとよくわかる

JR西日本の新快速はめっちゃ速いんですよ。たとえば滋賀県の守山駅からだと、約70㎞離れた大阪駅まで、朝通勤時でも60分ほどで行けます。途中で停車駅を8個*1挟んだうえで、この距離をこの時間で走破するのは相当スゴい。

同じ大阪への通勤でも、福知山線沿線からだと時間がかかります。たとえば篠山口駅~大阪駅が約66㎞ですが、快速で70分以上。

新快速という種別の列車はJR東海にも存在しますが、約72㎞の距離がある豊橋駅~名古屋駅間を、朝通勤時は60分ほどかけて走ります。これも速い。ただ、停車駅が6個*2なのですね。

京葉線の朝通勤だと、外房線の大網駅から東京駅までが約62㎞、直通の通勤快速で60分強。停車駅は6個*3です。

ラスト、特急列車も引き合いに出しましょう。JR東日本の東海道線を朝通勤時に走る特急湘南。平塚駅から東京駅までが距離約65㎞で55分。停車駅は列車によって異なりますが、一例として5個*4です。

路線が違えば条件も違うので、一概に比較できない部分もあります。しかし、JR西日本の新快速が爆速なのは間違いないです。この速さが、滋賀県までを通勤可能エリアに取り込んだ大きな要因である。この意見には、ほとんどの人が同意してくれるでしょう。

もちろん、速達性だけでなく本数も重要。滋賀から京都・大阪方面へは、朝通勤時に毎時4本程度の新快速が走ります。それ以外にノーマル快速(?)も走っており、利便性はじゅうぶんです。

こうしたJR西日本の施策がなかったら、滋賀県は京都・大阪のベッドタウンにはなりえず、平成の30年で滋賀県の人口が増え続けることは、おそらくなかったのではないでしょうか。

スピードダウンに知事や市長が騒ぐのも無理はない

滋賀県の事例を紹介しました。「通勤時の速達性」がその地域の人口、ひいては沿線の価値というものに対して少なからず影響を与えることは、みなさんも肌感覚として「そりゃそうだろ」と思うでしょうが、その具体例を示してみました。

今回のスピードダウン改正に対し、千葉県知事や沿線の市長たちが騒ぎ立てるのも無理ないなぁというのが私の感覚です。

もちろん、人口の増減を決める要素はさまざまで、鉄道だけで決まるわけではないことは言うまでもありませんが。

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京葉線の通勤快速 鉄道マン目線では「急病人の発生」が怖い列車


2024年改正でスーパーはくと増便 智頭急行と因美線の普通列車も大きく変わる


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脚注

*1:草津、南草津、石山、大津、山科、京都、高槻、新大阪

*2:蒲郡、岡崎、安城、刈谷、大府、金山

*3:土気、誉田、鎌取、蘇我、新木場、八丁堀

*4:茅ヶ崎、辻堂、藤沢、大船、品川

京葉線の通勤快速 鉄道マン目線では「急病人の発生」が怖い列車

2024年3月のダイヤ改正の内容が発表されて、大騒ぎになったのが京葉線です。

千葉県の蘇我駅から東京駅を結ぶ京葉線。現在、普通列車だけでなく通勤快速・快速という種別も運行されています。ところが、ダイヤ改正で快速系を大幅に減らし、朝通勤時間帯は普通列車だけにするとのこと。
(注:特急列車は運行される)

この改正に対し、ネット上では悲鳴が聞かれました。房総半島から都心への通勤者は、「快速系が無くなったら通勤に時間がかかる。早起きしないとアカンやん!」という具合。

通勤快速・快速・普通の3種別、停車駅とおおむねの所要時間は↓図の通りです。

注:列車によって所要時間に差がある。普通列車は52分程度のものもあれば、60分かかるケースも

JR東日本は通勤時の快速系廃止を撤回 快速2本は残る

騒ぎはネット上だけにとどまりません。千葉県知事・千葉市長ともに「容認できない」と猛反発の姿勢で、JR東日本への抗議や千葉支社長との面談を実施。その結果──かどうかは知りませんが──、JR東日本は「快速系廃止」を撤回し、朝通勤時間帯に快速2本は残すことを決定しました。

もっとも、その2本は所要時間が普通列車とあまり変わらない“なんちゃって快速”の可能性もありますけど。

普通列車が走るだけの時間を確保してあれば、そこに快速列車を走らせるのは難しくありません。駅は通過するけどスピードを落としてトロトロ走り、普通列車と同じだけの時間をかけて走破すれば済む話だからです。

まあ「そんなに難しくない」で済むのはダイヤ設定の話。旅客への影響は大きいです。全列車普通化によって通勤時の列車本数が増える予定だったところ、快速2本が甦ったことで「損をした駅」があるからです。撤回・変更を行なったことによるプラス面とマイナス面は、あとでキチンと検証する必要があります。

「名物列車」の通勤快速は廃止が撤回されなかった

しかし、快速2本を復活させても知事や市長は満足しません。「快速2本? それだけでは……。ていうか通勤快速も残してくれ!」とのこと。

朝通勤時間帯に2本設定されている、京葉線の通勤快速。今回の記事では、この通勤快速について、鉄道マン的な視点から一つ書きます。

ご存じの方も多いでしょうが、京葉線の通勤快速は、一種の「名物列車」です。先ほどの図を再度ご覧ください。

通勤快速は、蘇我駅を出ると、次の新木場駅までノンストップで走り続けます。この間、約30分。これだけの時間、駅に停まらず走り続ける列車は珍しい。

いや、30分以上ノンストップで走り続ける列車自体はたくさんあります。ただし、それは新幹線や特急列車、通勤ライナーの類であることが一般的で、いわゆる普通の通勤列車が30分停まらないことは稀です。

30分ノンストップの通勤快速は急病人を発生させやすい列車に見える

これだけ長時間、いわゆる普通の通勤列車がノンストップで走り続ける──

鉄道マンとしての個人的な感覚では、こういう列車は嫌な存在です。自分だったら乗務を担当したくないし、指令員目線でもヒヤヒヤする。

なぜか? 急病人が発生しやすそうだからです。

実際のところは「中の人」に訊いてみないとわかりませんが、この通勤快速、他の列車より急病人発生率が高いのではないでしょうか。

みなさんが通勤列車に乗っているとき、もし気分が悪くなったら、どうします? おそらく次の駅で下車し、ベンチに座って休むなり、トイレに駆け込むなりすると思います。

しかし、30分ノンストップの通勤快速では、それができません。体調が悪くなっても降りられない。駅に停まって乗客が入れ替わり、席が空くことも望めない。トイレにも行けない。

これが特急列車なら、基本的に着席できますし、トイレもあるので駅に降りられなくても対応しやすいのですが。

体調が悪くなったときに、非常通報ボタンを押して列車を停めてもらい、駅で下ろしてもらう手段はあります。が、自分で非常通報を押せる度胸がある人は、なかなかいないでしょう。

結局、対応手段がないために、体調不良を我慢して車内で倒れてしまうケースが多いのではないでしょうか。

こうした理由から、急病人が発生する確率が高そうな列車に見えます。私には。

そもそも体調うんぬんに関係なく、30分ずっとドアが開かずの車内にいること自体が、なかなかシンドイでしょう。着席できず立っていたら、なおさらだと思います。変な言い方ですが、乗車するのにそれなりの覚悟が必要な列車です。

通勤快速廃止には「ダイヤの安定」という目的もある……のかも?

車内で急病人が発生すると、その対応を行うためにダイヤが乱れますが、朝時間帯だとダメージが非常に大きいです。ぶっちゃけて言えば、「勘弁して」が鉄道会社の本音。不可抗力なので仕方ありませんけどね。

通勤快速の廃止には、急病人発生率を下げてダイヤをより安定させる目的もある……と考えるのは穿ちすぎでしょうか(^^;)

ちなみに現状、通勤快速は7割程度の乗車率だそうで、朝通勤時に混まないのでは運行する側からすれば勿体ない。さらに、その影響で前後の普通列車が混雑するようです。

そのため、通勤快速を普通列車に変えれば、利用客が分散して混雑が平準化されるという理屈のようですが……いきなり全廃は、中身どうこう以前に第一印象が悪すぎました。

混雑の平準化を目指すなら、通勤快速を新たに海浜幕張駅や新浦安駅に停める手もあったんじゃないなぁ……という気もします。

もちろん、その程度のことはJR東日本内部でも考えられたはずで、そうしなかったということは、それだけの理由があることは間違いありません。

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2024年改正でスーパーはくと増便 智頭急行と因美線の普通列車も大きく変わる


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2024年改正でスーパーはくと増便 智頭急行と因美線の普通列車も大きく変わる

2024(令和6)年3月16日施行のダイヤ改正で、近畿と山陰を結ぶ特急スーパーはくとを改変。半分以上の列車を京都ではなく大阪発着に短縮し、代わりに上下1本ずつ増便する。

以前から、運転区間の短縮や増便の構想がニュースになっていた特急スーパーはくとですが、ついに実現です。ビフォーアフターの比較は↓図の通り。

あ、ついでに書いておくと、自由席が無くなって全車指定席になります。まあ全車指定席化は、スーパーはくとに限らず他のJR特急も同様の傾向ですが。

スーパーはくと増便のために他列車の時刻や行先を大幅改変

当ブログでは、スーパーはくと増便について、以前から考察記事を書いてきました。それらの記事の中では、「現行ダイヤがベースだと、増便はけっこう難しい」という感じで説明しました。

しかし今回の新ダイヤでは、抜本的な改変が行われる模様。岡山~鳥取を結ぶ特急スーパーいなば、および智頭急行線 & JR因美線を走る普通列車の時刻や行先をいじり、スーパーはくと増便のスキマを捻出したようです。

はくと & いなばの特急列車については、新しい時刻案が発表されています。また、智頭急行線内を走る一部の普通列車も、具体的に新時刻案が出ています。そこで、現行ダイヤの上に「新しい時刻案が判明している列車」を当てはめてみました。

みなさんが普段目にする時刻表は数字の羅列ですが、鉄道マンは、この列車運行図表(ダイヤグラムとも呼ぶ)というもので列車の動きを把握します。タテ軸とヨコ軸があり、そこに線が走っている。一次関数のグラフみたいですね。

読み方はこちらの記事で解説しています。

で、このダイヤ(図)ですが、実は不都合な部分が大量発生しています。具体的には、列車の正面衝突や追突が起きます。当然それではダメなので、手直ししないといけません。スーパーはくとの通行する智頭急行線 & JR因美線では、普通列車の時刻をかなり修正する必要があります。
(もちろん、智頭急行とJR西日本の社内では修正が済んでいます)

というわけで2024年3月改正では、特急だけでなく、智頭急行線とJR因美線の普通列車にも、運転時刻が変わる列車がたくさん出ます。沿線の利用者は注意しましょう。

はくとを上下1本ずつを増便するだけでも大変な手間

今回、スーパーはくとを上下1本ずつ増やすだけ──という表現はアレですが──のために、他列車の時刻等をいろいろいじっています。けっこう大胆に動かしたな~という印象で、逆に言うと、それくらいやらないと増便は難しいことがわかります。

上下1本ずつの増発でコレですから、ここからさらに3本も4本も増やそうと思ったら、もはやカオスになることが容易に想像できます。

以前、自民党鳥取県連政調会から、「はくとを1時間に1本走らせたい」との構想が出ていました。

改めて、やはり実現は相当苦しいと感じます。やろうと思ったら、智頭急行と因美線を「スーパーはくと専用路」にするつもりで対応しないとダメですね。

まあ1時間1本構想も、本気で実現を目指したわけではなく、「関西~鳥取のアクセス、もう少しなんとかならない?」との問題提起として発表したのでしょう。実際、そういう下地があったからこそ、今回の増便が行われたと思います。

大阪万博時の増便構想にはどのように対応するのか?

ところで、2025(令和7)年4月から大阪万博が始まります。この万博期間中に、「鳥取への観光誘致のためにスーパーはくとを増便したい」との構想(願望?)もあります。

しかし、万博期間中のスーパーはくと増便は難しいのではないでしょうか。2024年改正ダイヤから、さらに本数を増やすとなると……。車両調達や乗務員確保の問題もありますし。普通に考えたら無理だと思うけどなぁ。

なお、考えるとは、「現実がどうしようもないときに知恵を絞ってなんとかすること」だそうです 『C.M.B.森羅博物館の事件目録』第86話より

「あきらめが早い」と叱られたので、一つ案を出しますと、「大阪発上郡行の快速列車を走らせる → 上郡駅でスーパーいなばに乗り換え」というリレー方式はどうでしょうか。はくと増便ではなく、いなば有効活用で乗り切ると。

現在、スーパーいなばの乗車率がどれくらいかは知らない、つまり万博の乗客増を受け入れるだけの余裕があるかは、わかりませんが……。個人的には、これくらいしか現実的な案が思いつきません(^^;)

(2023/12/18)

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連結が外れたときに自動的にブレーキが掛かる その仕組みとは?

2023(令和5)年11月28日、静岡県の大井川鐡道で、走行中の機関車と客車の連結が外れる事態が発生。自動的にブレーキが掛かり、直後に停車した。

大井川鐵道では過去にも連結器が外れる事件が発生していて、今回で3回目だそうです。

今回の事件を起こしたのは、非常に古い車両のようで、連結器そのものが劣化していたか。それとも整備不良か、あるいは直前の作業や確認に不十分な点があったのか。

国土交通省も、本件をインシデントに認定して調査に入りました。「車両障害」というインシデントに該当するのでしょうか。

車両障害 車両の(中略)連結装置(中略)に列車の運転の安全に支障を及ぼす故障、損壊、破壊等が生じた事態。

鉄道は列車分離が起きると自動的にブレーキが掛かる仕組みを備える

本記事では、原因の考察は行いません。材料が少なくて考えようがないですし、そもそも私は連結器に詳しくないので。

解説するのは、「連結が外れたときに自動的にブレーキが掛かって止まった」という部分。これは、列車が備えている「貫通ブレーキ」という仕組みの作用です。

列車が編成途中でちぎれたとき(=列車分離と呼ぶ)に、ちぎれた車両が勝手に転がっていくと、大事故につながります。そこで、連結が外れたときには、自動的にブレーキが掛かって止まる仕組みになっています。これは大井川鐵道の車両に限った話ではなく、どの鉄道事業者でもそうです。

まあ連結が外れるなんて事態、大昔ならともかく、現代では滅多に起きません。鉄道マンでなければ、そういう機能が備わっていることを知らない人がほとんどでしょうが……

ブレーキ管から圧縮空気が「抜け」るとブレーキが掛かる

では、連結が外れたら自動的にブレーキが掛かる、その仕組みはどうなっているのでしょうか。

ブレーキのシステムというか、方法論にはさまざまなものが存在します。今回の大井川鐡道の車両(古いタイプ)に使われている仕組みを説明します。

まず、編成の先頭からケツまで、ブレーキ管というものを引き通します。ブレーキ管の中には、圧縮空気が充填されています。

このブレーキ管から圧縮空気が抜ける(=減圧する)と、ブレーキが掛かる仕組みになっています。

もし列車分離が起きると、ブレーキ管の途中に「穴が開き」、そこから圧縮空気が漏れるので、自動的にブレーキが作動します。大井川鐵道で発動したのもコレですね。

なぜ空気を「抜く」とブレーキが掛かる? 自動空気ブレーキの仕組み

ここまで読んで、もしかすると、次のような疑問を抱く人がいるかもしれません。

ブレーキというと、空気を「入れる」ことで作動するイメージがあるんだけど……。空気を「抜く」ことでブレーキが掛かる? 逆じゃないの?

そのへんの仕組みを図で説明しましょう。↓図をご覧ください。実際はもっといろいろ複雑で、この図は正確とは言い難いのですが、イメージを掴んでもらうことを優先しています。

必要なところに圧縮空気を込めてみましょう。水色が圧縮空気です。

注目してほしいのは、図中央あたりのオレンジ色の部品。左右からの空気圧が釣り合っていて、動きません。これにより、車輪側へ流れる空気のルートを遮断しています。この状態からブレーキ管の空気を抜くと、何が起きるか?

ブレーキ管から空気を抜く = 減圧すると、右側からの空気圧が優るので、オレンジ色の部品が左に動きます。すると、車輪側へ空気が流れていきます。

空気圧でブレーキシュー(制輪子という)が動き、車輪に当たるので減速します。

つまり、「ブレーキの発動を司る空気管」と「ブレーキシューへ空気を送り込む空気管」が別々に存在するわけです。二つの管の圧力差を利用することで、空気を流したり遮断したりして、ブレーキ力を調整するのですね。

これは自動空気ブレーキと呼ばれる仕組みです。何でもそうですが、最初に考えた人って本当に頭いいよな~。

現代ではブレーキ管ではなく「電線」を引き通す車両が多い

なお、自動空気ブレーキは古い仕組みで、現代では少数派です。多くの鉄道車両では、電気指令式空気ブレーキという仕組みを採用しています。

電気指令式空気ブレーキでは、「連結が外れたときに自動的にブレーキが掛かる」をどう実現しているか? ブレーキ管に代えて、編成全体に電線を引き通し、電気回路を構成します。

この電線に通電しているときは、ブレーキは掛かりません。逆に、電流が途絶えるとブレーキが強制的に作動します。

言い換えると、電気を流し続けることが、ブレーキが掛からないための条件になっているのですね。イメージとしては↓図。

通電を続けることで、ブレーキが掛からないよう抗っている。ここは俺が支えている! 早く逃げるんだ!

通電が途切れると、こうなる。ペシャンコに潰れました

列車分離が起きたときも、電気回路が切れる = 電流が途切れるので、自動的にブレーキが掛かります。

また、故障等で車両がもし電源を喪失しても、やはり電流が途切れるので、その時点でブレーキが作動するのですね。

言ってみれば、鉄道車両とはブレーキが掛かってしまうのがデフォルトです。条件が整ったとき──自動空気ブレーキでは、ブレーキ管に圧縮空気が充填されているとき。電気指令式空気ブレーキでは、引き通し線に通電しているとき──に限ってブレーキが掛からず、走行できるようになっています。

これは言うまでもなく、車両トラブルが起きたときに列車を止め、安全側に作用するための仕組みです。

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ブログ記事紹介

圧縮空気に関しては、以前読んだ↓の記事が面白かったので、興味のある人はどうぞ。

蓄電池の話 安全性その他に優れる「全固体リチウムイオン電池」が次代を担う

先日の記事で、搭載した蓄電池の力で走る電車「蓄電池車」について説明しました。

いわばリアルプラレールとも言える車両ですが、その蓄電池車で重要なパーツが蓄電池(バッテリー)です。電源の蓄電池こそが、蓄電池車の生命線。いやまあ、当たり前ですが……

ところで、その蓄電池たるものについて、みなさんはどれくらいのことをご存じでしょうか。蓄電池はスマホやパソコンにも使われており、普段から大変お世話になっているにもかかわらず、よく知らないという人が多いのでは。

そこで今回の記事では、鉄道とは直接関係ないですが、「最近の蓄電池情勢」について書いてみます。ワタクシそっちの分野は素人ですが、頑張りまっす。

繰り返し充放電できる二次電池 代表格はリチウムイオン二次電池

電池には、「使い切りタイプ」と「繰り返し充放電できるタイプ」がありますよね。前者を一次電池といい、後者は二次電池と呼びます。

  • 一次電池 → リモコンや玩具など、日常生活でお馴染みの使い切りタイプ
  • 二次電池 → スマホやパソコンに搭載されており、繰り返し充電して使える

蓄電池車に搭載されるのは、もちろん繰り返し使える二次電池です。

この二次電池の代表選手が、リチウムイオン電池(※)です。みなさんは今、この記事をパソコンやスマホ等で読んでいるでしょうが、その内部にもリチウムイオン電池が入っているはず。

(※リチウムイオン電池は、LIBと表記されることが多い。Lはリチウムの元素記号から、Iはイオン、Bはバッテリー)

1990年代に登場したリチウムイオン電池は、軽量・小型・急速充電可能といったメリットを多く備え、現在もっとも普及している二次電池といえます。実際、現行の蓄電池車に搭載されているのもリチウムイオン電池です。

鉄道車両に搭載する蓄電池は高い性能が求められる

ただ、鉄道車両に蓄電池を搭載するのは、実はかなり大変です。使用環境がけっこう過酷で、それに耐えうるよう、いろいろな基準をクリアする必要があります。我々が日常生活で電池を使うのと同レベルで考えてはいけません。

たとえば、振動や衝撃。

電池に振動や衝撃を与えることがよくないのは、なんとなく想像できると思いますが、列車が走行する際は、どうやっても振動や衝撃が発生します。それらに強い電池であることが、車両に載せるためには求められます。

それから、気温に影響されにくいこと。

鉄道車両は外を走るので、真夏の酷暑・真冬の厳寒をモロに受けます。特に低温環境下では、電池の働きが悪くなります。

リチウムイオン電池には、内部にリチウムイオンが存在しますが、低温だとイオンの動きが鈍ります。ようは化学反応の効率が下がると。我々も、寒くなると動きが鈍くなりますよね。それと同じイメージです。

そして安全性。

「スマホから発火した」というニュースを聞いたことがありませんか? 発火元は、スマホ内部に搭載されているリチウムイオン電池です。つまり、リチウムイオン電池には発火の危険があります。

車両の床下に積んだ電池から発火……なんてことになったらシャレにならない。そのため、蓄電池車に使われる電池には、高い安全性が求められます。

液系リチウムイオン電池は有機溶媒に発火の危険がある

鉄道車両に搭載するものに限った話ではないですが、この安全性を高めるのが大変みたいです。

先ほど「リチウムイオン電池には発火の危険がある」と書きました。具体的には、電池に用いられる有機溶媒というものが可燃性です。アルコールなんかが有機溶媒の一種ですね。

そもそも電池の仕組みに触れると──電池の内部には、電解液というものが入っています。電解液とは、電解質が溶け込んだ液体。電解液の中をリチウムイオンが移動し、プラス極とマイナス極を行き来することで、充放電を行うのがリチウムイオン電池です。

電池の内部をプールに例えるとすれば、プールに電解液が満たされており、その中をイオンが泳いで移動するイメージでしょうか。

なお、電解「液」を使っていることから、このタイプを液系リチウムイオン電池と呼びます。

そして、電解質を溶かすための液体として、リチウムイオン電池では可燃性の有機溶媒が使われるのが一般的です。

安全性その他に優れる「全固体電池」が次代を担うと目されている

というわけで、安全性向上のためには、材料が可燃性のものではなく、難燃・不燃であることが望ましい。

安全性をはじめとした、現行の液系リチウムイオン電池が抱える課題。それを解決する方法として有力視されるのが、全固体リチウムイオン電池です。単に「全固体電池」と呼ばれることが多いです。

液系電池では、電解質を有機溶媒で溶かし、電解液にして電池に仕込みます。しかし全固体電池はそうではなく、電解質自体を固体化します。

ようは、電池内の液体を固体に置き換えます。

固体電解質と呼ばれますが、これが難燃・不燃性に優れているそうなので、より火災を起こしにくい安全な電池ができる、というわけ。

もちろん課題があって、性能面のアップ。いくら全固体電池は安全性が高いといっても、性能がショボければ採用できません。

具体的には、イオン電導率(プール風に言うなら泳ぎやすさ)というものを、現行の液系電池と同等かそれ以上にすることが必須。どういうふうに固体電解質を作れば、リチウムイオンが流れやすくなるか? さまざまな研究がされています。検索をすると、その手のニュースがけっこう出てきますよ。

というわけで、この全固体電池が次代を担うと目されています。実用化はもう少し先で、ニュース等を見ると、2030年前後が一つの目途でしょうか。

鉄道で使うとしたら、鉄道特有の環境に対応するために課題を克服する必要があるので、2035年とか2040年とか、そのくらいになるかもしれません。

液系電池も研究が続く 一例が「水系リチウムイオン電池」

全固体電池の話をしました。ただし、全固体電池によって液系電池は過去の遺物になりそうかというと、そんなことはなくて、安全性や性能を高めるための研究は続いています。その一つが、水系リチウムイオン電池です。

これは読んで字の如く、水を使用したリチウムイオン電池のこと。電解質を水で溶かすことで、安全性が高まるのです。

と言っても全然わからないでしょうから、例え話。

みなさんが家で揚げ物を作るとき、危ないから注意しますよね。揚げ物調理の何が危ないかというと、取扱いを誤ると、油が発火すること。油は可燃性の物体ですから。

そこで、まあ実現可能性はないでしょうが、仮に「水を使って揚げ物をする技術」が開発されたとしたら、グッと安全になります。水からは火が出ないので。

水系リチウムイオン電池も、これと同じイメージです。

先ほど「液系リチウムイオン電池に使われる有機溶媒に可燃性がある」と書きましたが、有機溶媒に代えて水を使い、難燃性を高めたのが水系リチウムイオン電池です。従来のものより安全性が高いとは、そういう意味です。

東芝さんが実用化に向けて頑張っているようですが、はたしてどうなるか。

まとめの図。本文では説明しなかったが、全固体電池で使われる固体電解質には有機系と無機系がある

将来は蓄電池の性能向上だけでなくワイヤレス給電も併用?

蓄電池情勢をいろいろ解説しましたが、難しいと感じた方が多いと思います。専門外だから書いてても難しかったよ(ヽ´ω`)

最後は、息抜きも兼ねての話。

蓄電池は現実世界だけでなく、アニメなどの空想世界でも頻繁に登場します。たとえばガンダム。作品によっては蓄電池で動く(=バッテリー駆動の)機体が登場します。

ロボットではないけどエヴァンゲリオンもそう。アンビリカルケーブル(有線)から電力を供給されていますが、ケーブルが切断されて内部電源に切り替わる描写、ありますよね。内部電源ということは、すなわち蓄電池が搭載されているはずです。

ガンダムもエヴァも、あれだけ重量のある機体を激しくファイトさせています。そのエネルギーを生み出すだけの電力を、蓄電池で賄っていますから、現代技術では想像もつかない超高性能な蓄電池を使っているのは間違いない。しかも、使用環境が電車とは比べ物にならないほどハードですが、それにも耐えてるし。
(エヴァの舞台は2015年なので、すでに過去になっていますが)

空想世界とは、一種の未来予測とも言えます。すごい蓄電池が登場するシーンを見ていると、「現実世界でも、蓄電池がひたすらパワーアップしていくのかなぁ」と想像しがちです。

ただ、蓄電池の高性能化だけでなく、他の方向性も存在するのではないでしょうか。たとえば、ワイヤレス給電という技術が存在します。ケーブルのように有線を使わずとも、無線、つまり非接触で給電(充電)できてしまう技術です。

もちろんこれからの技術ですが、これが発展すれば、少なくとも蓄電池の容量については超高性能化を求める必要がなくなるはず。

スマホって、基本コンセントのある場所でしか充電できませんよね。つまり、充電には場所的制約が存在しますが、ワイヤレス給電が発達すれば、街中を歩きながら充電、なんて未来があるかもしれません。気軽に充電できるとなれば、「電池にどれだけ電気を貯められるか?」はあまり気にしなくてよくなります。

蓄電池容量の問題をカバーするために、ワイヤレス給電を活用するという発想です。ガンダムでも、母艦からビームでエネルギーを送り、バッテリー残量を回復できる機体があります。ようは活動時間を長くできると。

MG 1/100 フォースインパルスガンダム (機動戦士ガンダムSEED DESTINY)

蓄電池車も同じで、架線がある場所でしか充電できないのが現在ですが、ワイヤレス給電によって充電の場所的制約や活動時間の制約を緩和できれば、運用の幅が広がります。

蓄電池とワイヤレス給電の組み合わせによって、100年後には、電車の仕組みがまったく変わっているかもしれません。

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特急の自由席と指定席 最適な配分を実現するのは難しい

JR東日本は、自由席を設定している特急わかしお・さざなみ・しおさいについて、2024年春から全車指定席化すると発表した。(2023年10月のニュース)

千葉を走る暴走、じゃなかった、房総特急が全車指定席化です。東京都市圏を発着する他の特急列車と同様になります。

E257系・特急わかしお

自由席があることで、近距離だと気軽にワンコイン利用できてよかったんですが……(^^;)

JR東日本によるニュースリリース & 新しい料金体系の案内は↓こちら。自由席利用者からすれば値上げ(※)ですが、指定席料金は現行よりも安くなります。
(※条件によっては値下げになるケースもある)

房総方面の特急列車を全車指定席で運転します

このニュースを見て、自由席と指定席の話を一つ思い出したので、記事を書きます。具体的には、「自由席と指定席の配分」がテーマです。

自由席・指定席それぞれのメリットとデメリット

ここに5両編成の特急があるとします。このとき、

  • 自由席1:指定席4
  • 自由席2:指定席3

どちらの配分が適切か? というのが今回の話。

「そんなんどっちでもよくね?」と思うかもしれませんが、よくありません。その理由は後述するとして──これは極めて難しいテーマです。自由席と指定席、それぞれに異なったニーズがあり、メリット・デメリットが存在します。乗客側の目線、鉄道会社側の目線といった違いもある。

自由席のメリット

  • 指定席より安価
  • 指定席と違って、特定の列車に乗る必要がない(好きなタイミングで乗れる)
  • 場合によっては、指定席号車よりも空いていることがある

自由席のデメリット

  • 着席できる保証はない。座りたければ早めに並ぶ必要がある場合も
  • 鉄道会社からすれば、指定席よりも売上額が低い

指定席のメリット

  • 着席が保証されている
  • 鉄道会社からすれば、自由席よりも高く売れる

指定席のデメリット

  • 自由席より割高
  • 場合によっては、自由席号車よりも混む逆転現象が起きる
  • 指定された列車に乗らなかった場合、指定席料金が無駄になることも

ザッとこんな感じでしょうか。自由席・指定席どちらの方が優れているという話ではなく、それぞれに利用スタイルがあり、需要が存在するわけです。

自由席と指定席の配分を誤ると乗客・鉄道会社双方が不幸になる

鉄道会社がそのへんの需要を読み間違えて、自由席と指定席の配分バランスを誤ると、乗客・鉄道会社双方が不幸になります。

たとえば、自由席2:指定席3の特急があるとしましょう。

この列車、指定席の売れ行きがよくて、満席(売り切れ)になりました。しかし、指定席を利用したい客がさらに存在するとします。

そういう客は、「指定席に乗りたかったけど、売り切れだから仕方なく自由席を利用する」でしょう。

客からすれば、指定席に乗りたかったのは確実に着席したかったから。しかし、自由席の利用を余儀なくされたことで、座れるかどうかが不明になった。これはサービス面での不満を生みます。

鉄道会社からしても、もう1両指定席を増やしておけば、サービス面で客に満足してもらうことができました。徴収できたはずの指定席料金も失っているので、売上面でも損をしています。

もっと言えば、この客は、着席保証がない故に特急の利用そのものをやめるかもしれません。たとえば、並行する高速バスに乗るとか。鉄道会社にすれば痛恨ですよね。

これは、指定席の需要に対して供給が少なかったケースですが、こういう不幸が起こりえます。

自由席が少ない(廃止する)ことによる影響とは?

じゃあ指定席を多くした方がよいかというと、そうでもないのが難しいところ。自由席1:指定席4の特急があるとします。

この列車、自由席がパンパンになりました。立ち客もいます。「座りたいなぁ……」と思いますよね。

指定席も満席なら、物理的に空席がないので、それ以上仕方ありませんが、指定席は比較的空いていたとします(↓図)。

これなら、自由席をもう1両増やした方が適切です(↓図)。そうすれば、立ち客は座れる = サービス面を向上させることができるからです。

鉄道会社目線だと、“料金お高め”の指定席を減らしてしまうと、売上面で損するように思えますが、一概にそうとも言えません。

たとえば、「指定席料金を追加してまで乗るつもりはない」つまり安価な自由席があるからこそ特急を使う客もいるはずだからです。

自由席には自由席のメリット・利用スタイルがあり、そこに魅力を感じて利用する人は絶対にいます。自由席を減らすと、そういう客の特急利用そのものを失うことで、売上が差し引きマイナスになる可能性があります。

先ほど、「自由席があることで、近距離だと気軽にワンコイン利用できてよかった」と書きましたが、そういう客のニーズに応えられなくなる、というのが一例。

(だからといって自由席を増やしすぎると、先ほど触れた「指定席が少ない弊害」が起きますが……)

「全車指定席化 = 鉄道会社の増収策」と単純に捉えられるわけではない

全車指定席化を「鉄道会社の増収策」と見る向きもありますが、話はそう単純ではありません。自由席の廃止によって発生するリスク──サービス面の低下による利用客離れ、かえって売上を失う──も存在します。

もちろん、JR東日本としても理由や目的があり、「トータルでは得だ」と判断しているから房総特急も全車指定席化するわけですが。低価格なチケットレス特急券の普及等も、一つの背景でしょう。

自由席・指定席の最適な配分は容易ではない

ちょっと話が逸れましたが、自由席と指定席の配分を誤ると、乗客・鉄道会社双方が不幸になるという話でした。

理想としては、自由席・指定席どちらも同じくらいの乗車率になっている、つまり平準化されているのが良い配分です。

では、それを実現するためにはどうすべきかというと……これが非常に難しい。なぜなら、ケースバイケースとしか言いようがないからです。

毎日同じ時刻を走る特急でも、季節や曜日によって事情が変わってくることは、容易に想像できます。

また、同じ列車でも、走行区間によって適切な配分が異なることもありえます。A~B駅間では自由席1:指定席4が最適だけど、B~C駅間だと自由席2:指定席3の方がいい、という具合。

つまり、最適な配分を実現するためには、細かい施策が求められます。そもそも、乗客側の需要を正確に把握することからして、非常に困難です。

考えようによっては全車指定席の方が不満が生まれない

そうした観点からすれば──全車指定席化は、鉄道会社の業務削減につながるとも言えます。全車指定席ならば、適切な配分を考える必要などなくなるからです。

自由席・指定席の配分を誤って不幸が生まれるくらいなら、最初から配分などやめちゃえ。難しい業務は、なんとか達成しようとするのではなく、そもそもやめる発想があってもいいじゃないかっ(←開き直り)。

また、考えようによっては、乗客の目線でも似たことが言えます。

自由席と指定席には、それぞれメリット・デメリットがあります。これを別の切り口で考えると、「どちらが得か・損か?」との思考が発生することを意味します。

「自由席じゃなくて、指定席にすればよかったなぁ」
「指定席にしたけど、自由席でも普通に座れた。損した」

比べる対象が存在するから → 損得を比較してしまうのですね。自由席・指定席の両方が存在するために、比較行為によって不満が生まれる、と言ってもよいでしょう。

全車指定席化すれば、そうした不満は生まれません。

もちろん、自由席がないことに対する不満はあるでしょうが、「特急は全車指定席が当たり前。そういうもん」との概念が浸透してしまえば、それもなくなります。ようは慣れの問題だと。

このように考えると、一味違った面白い見方ができるでしょう。

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「あらゆる路線に入線できる」を目指すJR貨物の新型機関車

少し前ですが、JR貨物絡みの面白い情報が出ていました。

JR貨物は、新型ディーゼル機関車の導入を計画しているようです。ディーゼル機関車、つまり架線がない路線でも運転できるものですね。電気機関車と違い、非電化のローカル線にも入線できるため、より広い範囲で活躍できます。

現在、JR貨物で使用されている代表的なディーゼル機関車は、DF200です。

f:id:KYS:20211021203646p:plain

2023年現在、北海道や東海で運用されている

これが導入から20~30年ほど経って老朽化してきたので、置き換えようとの構想。

「あらゆる路線に入線できる機関車」がコンセプト 迂回運転を想定か

その新型機関車ですが、コンセプトとして、「あらゆる路線(※)に入線できること」を掲げているようです。これは災害時などの迂回運転を想定しているのでしょう。

(※正確には、「当社が第1種及び第2種鉄道事業免許を有する全線区、及び乗り入れを認められた他鉄道事業者の線区」と書かれている)

貨物列車の迂回運転。東日本大震災のときに、通常は貨物列車の運行をしない区間を経由し、被災地へ燃料を届けたことは、多くの人が知っていると思います。

同様に、2018(平成30)年の西日本豪雨で山陽本線が寸断された際、山陰本線を迂回して貨物列車が運転された実績があります。

普段は貨物列車が運転されていない路線でも、災害時には迂回経路になることがあるわけです。

迂回運転を行うときは機関車の仕様が問題になる

しかし、迂回運転時に問題になるのが機関車。

貨物列車が普段運転されていない路線とは、つまりローカル線である場合が多いです。ローカル線は線路のスペックが低く、重い機関車が走れるような強度を備えていません。

重い車両が走らないのに線路を丈夫に作ったら、オーバースペックで経費のムダですからね。

ようするにローカル線には、あまり線路へ負担を与えない、軽い機関車(※)しか入線できません。使用できる機関車はかなり限られます。

(※専門用語では「軸重の小さい機関車」と表現する)

これでは、災害時の迂回運転を行いたいときに融通が利きません。“普段使い”ができ、なおかつ迂回運転にも使える機関車があると便利です。

というわけで、「あらゆる路線に入線できる機関車」とのコンセプトが出てきたと推測されます。具体的には、ローカル線でも重量が問題にならない設計にするのでしょう。

会社ごとに仕様が異なるATS すべての装置の搭載は困難

ただ、重量問題さえクリアすれば「あらゆる路線に入線できる」かというと、そうではありません。

新型機関車が開発され、そのうち1両を選んだとします。この1両を北海道から九州、全国どこの路線でも走らせられるかというと、それは難しいと思います。

なぜか? ATSという保安装置の問題です。ATSとは、赤信号の行き過ぎや、制限速度オーバーのときに、自動でブレーキを掛けてくれる装置です。

貨物列車は主にJR線を走りますが、実はATSの仕様がJR旅客会社ごとに異なります。同じ会社内でも、路線によってATSのタイプが違う場合もあります。

ATSは、「地上側の設備」と「車両側の機器」がタイプ一致していないと使えません。車両は、走行する路線に対応したATSを搭載する必要があります。

同じ形式の機関車でも、搭載されているATS機器が違えば、入れる・入れない路線が変わってくるわけ。

交通系ICカードみたいなもんですね。現在は相互利用が進み、どの種類のICカードでもだいたい全国で使えるようになりました。が、昔は「そのICカードが使用できるエリア」が存在しており、エリア外に出ると、そのカードは使用不可能でした。

たとえばICOCAはJR西日本エリアでのみ有効で、JR東日本やJR東海の路線では使えなかった。「エリア」と「カードの種類」が適合しない場合はダメで、互換性がなかったとも言えます。

ATSも同様です。「エリア」と「車両に搭載するATS機器」が合致しない場合は入線不可能。そして、車両に機器を積めるスペースには限りがあるため、全国すべてのATSに対応できるだけの機器を搭載するのは大変です。

そのため、新型機関車がロールアウトしても、配属箇所によって搭載するATS機器が異なるはずです。たぶん。本当の意味で「あらゆる路線に入線できる機関車」にはならないでしょう。

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