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JR東海の新たな雨規制をやさしく解説! (2)

2020(令和2)年5月15日、JR東海は在来線において、新しい降雨運転規制の仕組みを導入すると発表。「土壌雨量」という指標や、土石流の危険性を評価するシステムを導入する。

大雨が降った場合の徐行や運転見合わせについて、JR東海は新たな仕組みやルールを導入。前回の記事に続いて、このニュースを噛み砕いて解説します。

↓JR東海から公式発表された資料
https://jr-central.co.jp/news/release/_pdf/000040472.pdf

前回は「土壌雨量」について説明しました。今回解説するのは、レーダ雨量という指標です。レーダ雨量という指標を活用することで、どう安全性が高まるのでしょうか?

レーダ雨量 雨の状況をメッシュ状に把握できる

レーダ雨量とは、簡単に言えば、現在の雨降りの状況をメッシュ状に把握できるアレです。たとえば、Yahooの天気情報で見ることができる「雨雲レーダー」、みなさん一度は見たことありますよね?

↓Yahooで見ることができる雨雲レーダー
https://weather.yahoo.co.jp/weather/zoomradar/

気象庁や国土交通省の設置したレーダが、1㎞四方程度の雨の状況を面的に捉え、情報をJR東海のシステムに送信。JR東海は、各駅に設置された雨量計という「点の情報」に加え、レーダが捉えた「面の情報」も得ることができるようになるそうです。

レーダ雨量の活用法① 土石流の予知

「面の情報」であるレーダ雨量を、いったいどう活用するのか?

活用法その1は土石流の予知です。

山岳路線だと、土砂災害の心配は常について回ります。それは線路の近くに限った話ではありません。線路から離れていても、渓流などで大雨が降れば、土石流が線路に流れ込んでくることもありえます。

土石流の発生源になりうる場所については、線路から離れていたとしても、雨量を観測したほうがよいわけです。

といっても、渓流域の雨を観測し、土石流の危険性を評価する仕組みは、これまで存在しませんでした。しかしJR東海は、レーダ雨量の取得と、その情報を評価するシステムの確立により、土石流の危険予知を実現したのですね。

整理しますと……

渓流域などの雨は、気象庁や国土交通省の設置したレーダを活用して観測 → そのデータを使い、評価システムが土石流発生の危険度を算出 → 土石流の危険が高いと判断されれば、運転見合わせを行う

これが新システムです。

レーダ雨量の活用法② 雨量計をすり抜ける雨の把握

レーダ雨量の活用法その2は、雨量計の弱点をカバーです。

「大雨で徐行や運転見合わせ」というからには、雨がどれだけ降ったかを計測しなければいけませんが、そのために使われるのが「雨量計」です。

一般的に、雨量計は数駅ごとに一つ設置されています。イメージとしては、↓の図のような感じです。

f:id:KYS:20200519035025p:plain

↑の図では、B駅とD駅に雨量計が設置されていますね。設置された雨量計が、一定の雨量(=これを「規制値」と呼びます)を計測すると、付近の区間が徐行や運転見合わせになります。

ところが、この「拠点駅方式」とでも呼ぶ方法、実は弱点があります。一言でいえば、「雨量計の間をすり抜ける雨には対処できない」です。

たとえば、雨量計のないC駅でゲリラ豪雨が降ったら、まったくのお手上げです。路盤の崩壊を招くような大雨でも、徐行や運転見合わせになりません。それは鉄道の安全にとってマズいですよね。

しかし、レーダ雨量は、雨の状況をメッシュ状に面で捉えています。C駅で大雨が降れば、それもキャッチでき、その情報を徐行や運転見合わせに利用するのですね。

ようするに、雨量計という「点」だけではなく、レーダ雨量という「面」も付加することで、観測範囲の弱点をカバーできるというのがポイントです。

冒頭で貼ったリンク先の資料に、『当社は局地的な集中豪雨等をきめ細かく捉えるためにレーダ雨量を活用した運転規制を2020年6月1日から行います。』と記述があり、これは私がいま説明したことを指していると思われます。
(もし勘違いだったら申し訳ありません)

新手法が業界標準になるのはまだ先の話か

前回・今回の2記事にわたって、JR東海の新手法を解説してきました。

  • 「土壌雨量」という概念を導入
  • 「レーダ雨量」によって土石流の予知や雨量計の弱点をカバー

読者のみなさんはピンと来ないかもしれませんが、これらは雨規制に関する“業界の常識”を打ち破るものです。世の中の技術革新が、鉄道の安全向上にも一役買っている好例といえます。

ただ……このような新技術を使った手法を、これから他の鉄道会社もどんどん取り入れていくかというと、それはもう少し先の話だと思います。

というのも、これはどこの鉄道会社にも真似できることではないからです。

たとえば、土壌雨量の概念を取り入れるなら、沿線の土壌の状態がわからなければ適切な数値を設定できませんから、調査が必要です。土石流の予知も、渓流の調査が必要なのはもちろん、データをどう評価システムに落とし込むかという課題もあります。また、取得した気象情報をシステムと連動させようとすれば、システム改修も行わなければならず、非常にカネがかかります。

ようするに、技術面の課題はもちろん、費用の問題もあるわけです。その両方をクリアできるJR東海のような会社ばかりではありませんから、そう簡単には導入できないというのが、私の見立てです。

(2020/5/20)

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JR東海の新たな雨規制をやさしく解説! (1)

2020(令和2)年5月15日、JR東海は在来線において、新しい降雨運転規制の仕組みを導入すると発表。「土壌雨量」という指標や、土石流の危険性を評価するシステムを導入する。

降雨運転規制とは、大雨が降ったときに、列車を徐行させたり運転を見合わせるルールです。JR東海は、1972年(国鉄時代ですね)以来、50年近く続いてきたルールを改正するとのこと。

一般の方には地味なニュースかもしれませんが、私のような同業者にとってはビッグニュースです。

↓JR東海から公式発表された資料
https://jr-central.co.jp/news/release/_pdf/000040472.pdf

この資料、一般の方が読むには、ちょっと難しいかもしれません。そこで今回の記事では、JR東海が新しく導入した仕組みを噛み砕いて解説します。

雨規制はどのように行われる? 現行の仕組みを解説

新たな仕組みについて説明するためには、現在の仕組みがどうなっているかを知らなければいけません。というわけで、まずは現在の雨規制の仕組みをザッと解説しましょう。

「大雨で徐行や運転見合わせ」というからには、雨がどれだけ降ったかを計測しなければいけませんが、そのために使われるのが雨量計です。

一般的に、雨量計は数駅ごとに一つ設置されています。イメージとしては、↓の図のような感じです。

f:id:KYS:20200519035025p:plain

駅に設置された雨量計が、一定の雨量(=これを「規制値」と呼びます)を計測すると、付近の区間が徐行や運転見合わせになります。たとえば、B駅の雨量計が規制値に達すると、A駅~C駅間が徐行or運転合わせになる、という具合。
f:id:KYS:20200519035034p:plain

同様に、D駅の雨量計が規制値に達すると、C駅~E駅間が徐行or運転合わせになる、という感じ。
f:id:KYS:20200519035042p:plain

「拠点駅」に雨量計を設置して、前後数駅分の区間を管理する。これがJR東海(というか全国の鉄道会社)の現行の仕組みです。

キーワード解説① 時雨量

さて、雨量計がどれくらいの雨を計測したかで徐行や運転見合わせが決まるわけですが、その指標として用いられるのが時雨量です。

時雨量とは、ようするに「直近1時間あたりの雨量」のこと。

どれくらいの時雨量で徐行や運転見合わせになるかは、一律ではなく、路盤の状態や線区によって異なります。たとえば、路盤がしっかりしている幹線ならば50ミリで運転見合わせ。対して、路盤が弱めの山岳路線などは40ミリで運転見合わせ。そんな感じです。

キーワード解説② 連続雨量

ところが、徐行や運転見合わせの判断指標が「時雨量」だけでは不都合もあります。時雨量は直近1時間の雨量なので、数時間にわたって大雨が続いた場合に対応できないのです。

たとえば、時雨量50ミリで運転見合わせになる区間があったとしましょう。この区間で、時雨量40ミリの雨が8時間!も続きました。

このケース、「時雨量は50ミリに達してないんだから、運転見合わせにしなくていいじゃん」と判断するのは安全でしょうか? 40ミリの雨が8時間も続いたら、路盤が水をたっぷり含んで危ない、と判断するのが常識的な感覚ではないでしょうか?

こういう場合に登場するのが連続雨量という指標です。

連続雨量とは、ようするに「降り始めからの累積雨量」と解してもらえばOKです。たとえば、連続雨量の規制値が300ミリだったら、40ミリ × 8時間 = 320ミリはアウトになります。時雨量50ミリを一度も計測していなくてもアウトです。

改正のポイント 「連続雨量」を廃して「土壌雨量」を導入

ここまでの話をまとめましょう。現在の仕組みのポイントは、以下の二つ。

  • 数駅ごとに一つの雨量計を設置している
  • 「時雨量」「連続雨量」という二つの判断指標がある

さて、いよいよJR東海が新しく導入した仕組みの話といきましょう。改正のポイントを一言でいえば、↓の通りです。

「連続雨量」を廃して「土壌雨量」という指標を導入

「土壌雨量」という新しい言葉が出てきました。JR東海の資料によると、『土壌中に浸み込んでいる水分量』のことだそうです。

そもそも、なぜ大雨が降ると徐行や運転見合わせになるのか? 路盤が水を含んで緩み、重い列車が走ったときに崩れる危険があるからですよね。

ですから、「どれくらい雨が降り続いたか?」ではなく、「土壌がどれくらい水を含んでいるか?」すなわち土壌雨量で判断できるのであれば、そちらの方が適切です。それを実現する仕組みを、JR東海は長年の研究によって具現化し、このたび導入するわけですね。ここが大きな改正ポイントです。

連続雨量の廃止は長年の業界常識に風穴を開けた!

現行の仕組みである、

  • 数駅ごとに一つの雨量計を設置している
  • 「時雨量」「連続雨量」という二つの判断指標がある

これらは、長年にわたって全国の鉄道会社で使われてきた仕組みで、“業界の常識”と言って差し支えありません。JR東海は、ここに風穴を開けたわけで、それが冒頭でビッグニュースと書いた所以です。

さて今回、JR東海は、「土壌雨量」以外にも新たな仕組みを導入しています。資料で、土石流発生危険度評価システムとかレーダ雨量とか書かれているのがそれです。それについては、次回の記事で説明します。

続きの記事はこちら JR東海の新たな雨規制をやさしく解説! (2)

(2020/5/19)

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名古屋鉄道の車掌が落とし物の財布から現金を着服

2020(令和2)年4月1日、名古屋鉄道(名鉄)の車掌が、落とし物の財布から現金数千円を着服。財布を届けた客からの問い合わせで発覚。当該車掌は懲戒解雇。

う~ん、これまた残念なニュースです。たかだか数千円、「魔が差した」というには、あまりにも低すぎる金額。読者のみなさんは、「たった数千円で人生棒に振るとはバカだな」と思うでしょうが、私も同じような感想です。

鉄道会社を懲戒解雇になるって、よっぽどです。

たとえばですが、過失によって鉄道事故を起こしたとしても、さすがに懲戒解雇にはなりません。重~い処分を受け、刑事責任もしっかり問われ、あとで関連会社に飛ばされますけど、さすがにクビまではいかない。

落とし物を「届けた人」からの問い合わせは珍しくない

今回は、財布を届けてくれたお客さんからの問い合わせで発覚したのですが、読者のみなさんは以下のような疑問を感じるかもしれません。

「落とし物を『した人』じゃなくて、『届けた人』が問い合わせてくることなんてあるの?」

はい、あります。よくあるとまでは言いませんが、決して珍しいことではありません。特に、今回のような現金関連だと、そういう確率は上がります。

「私が届けた財布はキチンと処理されたか?」
「落とし主は現れたか?」

こんな具合です。

「落とし物の処理は怖い」と教育された

落とし物の処理に関しては、私も駅員時代に、先輩からしっかり釘を刺されました。釘を刺されたというか、脅されたといってもいい(笑)

「落とし物を届けた人からの問い合わせもあるから、間違っても自分の懐に入れたりするなよ」

えっ、届けた人から問い合わせがあるの? マジで? と感じたことをよく覚えています。

「たとえ1円の落とし物でも、いい加減な処理をすると、あとで責任問題になる可能性があるぞ」
「たかが1円でクビになったりしたら馬鹿らしいだろ?」

ある意味、駅員の業務で一番“怖い”のが落とし物の処理なのです。うーむ、この車掌は駅員時代にこういうことを教わらなかったのだろうか。

「バレなきゃいい」という姿勢では安全を守れない

私がこの車掌に関して残念だと思うのは、「誰も見てないしバレなきゃいい」という、その心根です。

今回の事件は、落とし物の処理という、いわば旅客サービス関連の出来事です。運転に関する業務、もっと言えば、鉄道の安全に直接関係する話ではありません。

ですが、「バレなきゃいい」という心根で仕事をしていたのでは、いずれ運転に関する業務でもミスを起こしたのではないでしょうか。

特に、乗務員になると「一人での仕事」が当たり前です。うるさい上司に監視されるわけではないので、手を抜きたくなるんですね。しかし、「バレなきゃいい」という気持ちに打ち勝って易きに流されないのが、鉄道の安全を守るためには必要です。

そういう意味で、この車掌は鉄道の安全を守る資質に欠けていたと言わざるをえません。

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新幹線の定期列車を減便 なぜこのタイミングで決定された? 

東海道・山陽・九州新幹線、コロナによる乗客減で、2020(令和2)年5月11日から定期列車も減便へ。

2020(令和2)年5月7日に流れたニュースです。私もブログ内で、「新幹線は利用客が前年比9割減なのだから、定期列車も減便してよいのでは?」「現場社員の感染リスクを抑えるためにも減便を」と書きました。ですので、減便には賛成です。

ただ、今回の措置について、もしかすると読者のみなさんの中には疑問を抱いている人がいるかもしれませんね。

「なんで施行4日前というギリギリのタイミングで発表したのか?」

「緊急事態宣言の延長を受けて」が普通の見方だが……

確かに、急な決定という印象は否めません。わずか4日でどうにかできるなら、もっと早くに定期列車を減便するという選択肢はなかったのでしょうか?

別の言い方をすると、利用客が前年比9割減というボロボロの状態になりながら、なぜ3~4月は定期列車を減便しなかったのか?

「緊急事態宣言が終わるはずだった5月6日までは我慢してたんでしょ。で、緊急事態宣言が延長されたから、いよいよ定期列車も減らそうと」

当初は5月6日までの予定だった緊急事態宣言は、5月31日まで延長になりました。その決定がなされたのは、5月4日です。ですから、緊急事態宣言の延長を受けて、定期列車の減便にも手を付けた。

まあ、そう考えるのが普通ですね。ただ、今回の記事では、あえて少し違った見方をしてみたいと思います。

減便の準備はしていたが決断が難しかった?

読者のみなさんの中で、緊急事態宣言が当初の予定通り5月6日で終わると思っていた人は、おそらく一人もいないでしょう。4月下旬くらいには、「緊急事態宣言は延長だろ」と予想していたはずです。

JR各社の読みもおそらく同様で、だからこそ間引きダイヤの準備をしておいて、このたびの決定に踏み切ったわけです。ですから、緊急事態宣言が延長されることは、最初から織り込み済みだったはず。

だったら、ゴールデンウィーク前の4月下旬に、「ゴールデンウィーク明けからは定期列車も減便します」と決めてしまってもよさそうな気がします。

いや、正式決定とまではいかなくても、「仮に緊急事態宣言が延長された場合、ゴールデンウィーク明けから定期列車を減便する可能性があります」くらいの発表はあってよさそうなもの。

もちろん、検討中・未決定の事項は軽々しく発表できない、という事情はあるのでしょう。ただ、正式決定→発表がギリギリになって混乱を招くよりは、早めに情報提供する方がスマートです。にもかかわらず、わずか4日前の決定・発表となったのは?

これはやはり、「決断の決め手がなくて踏ん切りがつかなかった」が正直なところではないでしょうか。

スカスカの列車を見て、「これはさすがに減便してもいいんじゃ……」と鉄道会社の誰もが思っています。しかし、みなさんが鉄道会社のしかるべき責任者だったら、その決断ができるでしょうか?

ただでさえ、「列車本数を減らせば車内が混雑して感染リスクが上がる」という意見もありますよね。また、日本の大動脈である新幹線となると、減便は社会的なインパクトが大です。後でとやかく言われないとも限りませんから、決断には勇気がいります。

決断の背中を押してくれる「何か」があれば……なんて思ったりしますよね。

国交省の文書による「お墨付き」

背中を押してくれる「何か」があれば……

実は、それが出てきたのです。

緊急事態宣言の延長が発表された5月4日付で、国交省から『新型コロナウイルス感染症対策における鉄道の運行の考え方について』という文書が出ています。この文書は各鉄道事業者へ通達されるわけですが、その中に以下のような記述があります。

ちょっと長いですが、↓引用します。

『顕著な利用者の減少により混雑を生じない等の社会的影響等を考慮した上で、各鉄軌道事業者の判断により減便・運休を行うことはあり得るものと考えている。』

『顕著な利用者の減少や利用者のニーズの実態等を考慮した上で、各鉄軌道事業者の判断により減便・運休を行うことはあり得るものと考えている。』

ようするに「諸事情を考慮した上でなら、減便・運休もあっていいんじゃない?」と言っているのですね。もっと言えば、減便の「お墨付き」みたいなもので、こういう通達があれば確かに決断はしやすくなります。

それにしても、『減便・運休を行なってもよい』ではなく、『減便・運休を行うことはあり得るものと考えている』という表現が、いかにもお役所らしい(笑)

当該文書(PDF)
http://www.mlit.go.jp/common/001343070.pdf

当該文書が掲載された国交省のページhttp://www.mlit.go.jp/kikikanri/kikikanri_tk_000018.html

お墨付きの効果はそれなりにあった?

もちろん、この文書の有無に関係なく、JR各社では新幹線の定期列車減便が検討されていたはずです。ただ、この文書が“最後の決定打”になって、減便のGOサインが出たんじゃないかなあ……というのが私の見解です。

4日に文書が出たので、5~6日の二日間で会社間や社内での最終調整を行い、7日に発表、という感じでしょうか。

なお、定期列車の減便を発表したのは、東海道・山陽・九州新幹線だけではなく、東北・北陸新幹線もです。また、私鉄でも定期列車の減便を決めるところが出てきました。この局面で事態が大きく動いたことを考えれば、お墨付きがそれなりに“効いた”のではないでしょうか。

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JR外房線で脱線 黒字会社での脱線事故は珍しい

2020(令和2)年5月8日、千葉県のJR外房線(JR東日本・千葉支社管轄)で、脱線事故が発生しました。

脱線事故が起きると、ネットでは「置き石か?」と騒がれることが多いです。しかし、いざ原因を解明してみると、置き石での脱線事故って、まずないんですね。

バラストくらいの置き石ではまず脱線しない

私も運転士時代、レール上の置き石を踏んだことがあります。どうやら、カラスがいたずらで、線路のバラストをレール上に置いたようです。

が、バラストくらいの大きさの石では、車両はビクともしませんでした。置き石を踏んだ際、まったくといっていいほど車両が揺れたりしなかったですし。(車輪が置き石を粉砕したときの「音」はすごかったですが)

コンクリートブロックでも置かれたら話は別ですが、それくらいのものがレール上にあったら、さすがに運転士から丸見え。もしそうなら、「脱線直前、運転士はレール上に○○が置かれているのを目撃した」という情報が、すでに出回っているはずです。

近年の脱線はほとんどが「線路の整備不良」

近年の脱線事故の原因は、そのほとんどが線路の整備不良です。もう少し詳しく言うと、「マクラギの腐食」が大半です。↓の記事が詳しいので、興味がある人はどうぞ。

簡単に説明しておくと、

  1. 木製のマクラギを使っている場合、そのうち腐食してくる
  2. マクラギが腐食すると、レールとマクラギを締結するために打ち付けてある「クギ」が緩んでくる
  3. クギが緩むと、レールとマクラギの締結が不十分な状態になる
  4. すると、重い車両が走ったときにレールがぐらついて、車輪がレール外に落ちる

こういう流れで脱線事故が起きます。

整備不良での脱線は赤字会社で起きるのが普通

では今回のJR外房線の脱線事故もコレかというと、それはかなり疑問。というのも、「線路の整備不良」での脱線は、赤字の鉄道会社で起きるのが普通だからです。

地方の中小私鉄や、国鉄・JR線から第三セクターに転換した会社を想像してください。そういう会社では、財政難や人手不足で線路の保守管理作業がじゅうぶんに行えないこともあるため、線路の整備不良で脱線、ということが発生しうるのです。

しかし、JR外房線を管轄するJR東日本はバリバリの黒字会社。JR東日本で、財政難や人手不足を原因とした線路の整備不良が起きるとは、だいぶ考えにくい。さきほど「マクラギの腐食」と書きましたが、今回の事故現場のマクラギは木製ではなく、PCマクラギっぽいですから、腐食はしませんし。

「黒字の鉄道会社で脱線事故」という意味で、今回のケースはかなり特異です。うーん、確かに置き石も疑いたくなりますね。現時点では、脱線の原因はまったく見当がつきません。

続きの記事はこちら JR外房線の脱線原因は置き石? それとも……

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東海道新幹線の車両故障 「渡り板」で乗客を救済

2020(令和2)年5月6日、東海道新幹線で車両故障。「渡り板」で乗客を救済するという、極めて珍しい事象が発生。

東海道新幹線で車両故障が発生し、その影響でダイヤが2時間以上乱れました。走行中、運転台にブレーキの異常を示す表示が出たとのことです。

ゴールデンウィーク中でしたが、コロナの影響で、利用者が例年の10%程度しかいなかったこと、および臨時列車は運転を取り止めていたため、運転本数が少なかったことが幸いしました。もし例年通りの人出だったら、すさまじい混乱になっていたはずです。

早くも今年度2回目の車両故障

東海道新幹線では、2020(令和)年5月2日にも同様の事象が発生しており、ゴールデンウィーク中、2度目の事象となります。こんな短期間で2回も同じようなことをやって、国交省から警告を受けたりしないのだろうか……。

東海道新幹線では、車両故障等が原因で発生する輸送障害(=ダイヤが大きく乱れること)は、年間に1~2回というところです。ゴールデンウィークだけで2回発生という事態が、いかに異例であるか、おわかりかと思います。

東海道新幹線
車両が原因の輸送障害件数


2018年度 3
2017年度 1
2016年度 1
2015年度 0
2014年度 2

今回の事象 一連の流れは?

さて、次に今回の事象の流れをザッと解説します。

↓① 名古屋→三河安城間を走行していたこだま号が車両故障で停止

f:id:KYS:20200507035215p:plain

↓② 点検後、なんとか三河安城の「通過線」まで移動。ここで運転打ち切り

f:id:KYS:20200507035327p:plain

↓③ 後続のひかり号が、ホームのある「待避線」に停車

f:id:KYS:20200507035349p:plain

↓④ こだま号とひかり号の間に「渡り板」、つまり橋を架ける。こだま号の乗客をひかり号に移し、さらにホームに降ろす

f:id:KYS:20200507035404p:plain

↓⑤ 故障のこだま号を「通過線」に停めたまま、後続列車はすべて「待避線」を経由して運転

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↓⑥ 故障のこだま号は、営業時間が終わってから浜松工場まで移動させたと思われる

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「渡り板」を使った極めて珍しい事象

今回の事象で特筆すべきは、ホームのない「通過線」にこだま号を停め、渡り板を使って乗客をホームに降ろしたところです。これは極めて珍しい事象です。

渡り板を使って列車間に橋を架け、「通過線」の車内から「待避線」の車内に乗客を移動させる。この手法は、過去のトラブル時の反省・検証から生まれたものだと聞いています。

たとえば、大雨などで全線運転見合わせが長時間続いた場合、駅ホームにたまたま停まっていた列車はいいのですが、駅間に取り残される列車も多数出ます。列車本数に比べると、駅の数は少ないですから、駅ホームに停まれずに“あぶれる”列車は必ず出てしまうわけです。

列車をホームに停められないときに、車内の乗客をどう救出するか?

その答えが、今回のように渡り板を使って橋を架けるという方法なのです。ちなみに、↓図のように列車を配置すれば、2本の列車から乗客を救出することもできます。

f:id:KYS:20200507035447p:plain

故障のこだま号をホームに停めなかった理由は?

……と、ここまで書いたところで、みなさんが感じているかもしれない疑問に答えましょう。

そもそも、なぜ故障のこだま号をホームのある「待避線」に停めなかったのか? 渡り板を使うという、まどろっこしいことをしなくても、こだま号をホームのあるところに停めて乗客を降ろせばよかったのでは。

しかし、故障のこだま号をホームに停めて、そのままホームを塞ぎっぱなしにしてしまうと、後続のこだま号が三河安城に停車できませんよね。つまり、三河安城から東京方面に向かう乗客が列車に乗れない。それはマズいです。

三河安城のホームを空けるためには、故障のこだま号を次の豊橋まで移動させる必要があります。豊橋は「待避線」が2本あるので、そのうちの1本に収容してしまえば万事解決です。

ところが、故障のこだま号を動かすならば、豊橋まで徐行運転しなければいけません。三河安城から豊橋までの距離は約42㎞。仮に40㎞/hで運転したとしても、1時間以上かかります。そんなことをしたら、当然ですが後続列車が詰まってしまいます。

ようするに、故障したこだま号は、少なくとも営業時間内は三河安城から一歩も動かせなかったわけ。ですから、今回のような手法が採られたのです。

なぜ通過列車も停車させるのか? 副本線の通過禁止

三河安城の「通過線」から一歩も動けなくなってしまった故障のこだま号。そのため、後続の列車はすべて「待避線」を経由しました。

その際ですが、本来は三河安城を通過するのぞみ号もひかり号も、わざわざいったん停車しています。
(ただしドアを開けての客扱いはせず)

通過するはずの列車を停車させれば、時間のロスになりますよね。ホーム上の安全確保のために停車させた? いやいや、ホーム上に係員をたくさん配置して、50㎞/hくらいで通過させれば、安全上は別に問題ないはずです。

なぜ、無意味に思えるいったん停車をさせたのか?

これは副本線の通過禁止というルールのためです。

「副本線」という言葉が出てきましたが、ようするにこれは待避線のことを指していると思ってくれて結構です。実は、運転に関するルールで、待避線(副本線)は通過禁止と決められているのです。

いや、私、新幹線の人間ではないので、新幹線の規程を見たことはないのですが、おそらくそうなっているはず。

一般的に、待避線(副本線)は通過を前提としたものではないから、というのがこのルールの趣旨です。ドアを開けて旅客の乗り降りがあるわけでもないのに、のぞみ号もひかり号もいったん停車させられたのは、このルールのせいですね。

故障の原因は不明だが……

最後に、この短期間で2回も同様の事象が発生したことについて、原因を考えてみます。

現時点では不明としか言いようがありません。仮に判明したとしても、一般に公表されるかどうかは別ですし。

というわけで、以下に書くことは、私の突拍子もない想像の域を出ませんので、話半分に聞いてください。
(本職の人間が見たら、笑うような内容かもしれませんが)

コロナの影響で、東海道新幹線は利用者数が前年比10%くらいまで激減しています。そのため、ここ1ヶ月半くらい、どの車両も荷重の掛かっていない“軽い”状態でずっと走っているわけです。

“軽い”状態ばかりで走り続けるという、異例な事態が車両に何か悪さをしている……と考えるのは捻りすぎでしょうか。

私の運転士経験からいっても、満員の“重い”列車と、スカスカの“軽い”列車とでは、走りっぷりやブレーキの効き方が明らかに違います。満員列車は運転していても重い感じがしますし、回送列車はシャーっと走ります。ましてや、新幹線くらいの高速運転となると、条件の違いが車両に与える影響も大きくなるのかもしれません。

N700系の編成重量は、約700トン。
定員は1,323人。

乗客一人の体重+手荷物の合計を65㎏と仮定すると、1,323人でおよそ86トン。もちろん、常に満席とは限りませんし、体重の軽い女性や子どもだって乗っています。そのあたりを考慮して、合計70トン前後と仮定しましょう。

高速走行する約700トンの車両に対して、70トンの荷重の有る無しは、車両に与える影響がけっこう違ってくるのではないでしょうか。

再度お断りしますが、これは私の突拍子もない想像です。ただ、何かトラブルが起きたときに、「いつもと違う点はなかったか?」とアプローチすることは必要ですので、無理気味に考えを捻り出した次第です。

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JR北海道の苦境 コロナで過去最大の赤字決算

JR北海道は、コロナでの売上減が響き、2019年度の連結決算は過去最大の赤字と発表した。(2020年4月28日のニュース)

JR旅客会社の2019年度決算が次々に発表されていますが、今回の記事では、JR北海道の決算を見ていきましょう。元々の経営状況が思わしくないこともあり、今回のコロナ禍がどれくらい影響してくるか、みなさんも関心があると思います。

純利益はまさかの黒字決算

さて、報道では「JR北海道が過去最大の赤字」という部分だけが大きくクローズアップされていますが、決算の最終成績を示す「純利益」では、まさかの黒字決算!になっています。
(JR北海道単体では7億円の赤字だが、グループ会社まで含めた連結決算では19億円の黒字)

ただし、これは国・北海道・関係自治体から171億円の支援を受け、それを利益として計上した結果。したがって、この支援がなかったとしたらバリバリの赤字であり、「やったぁ今年度は黒字だー!」なんて喜ぶ余地は1ミクロンもありません。

実際、会社が通常の事業活動をした結果を示す「経常損益」という段階では、単体で204億円の赤字、連結(グループ)で135億円の赤字になっています。報道で「過去最大の赤字」と言われているのは、この部分を指しているのですね。

意外や意外! 売上額は昨年とほぼ同じ

今回の報道を受け、世間の雰囲気は「JR北海道のダメージがヤバい、もう駄目だ」みたいになっています。が、物事を議論するときは、メディア等が発する雰囲気にのせられるのではなく、数字や理論を根拠にすることが大切です。

実際、JR北海道は、コロナによる売上減のダメージをどのくらい受けてしまったのでしょうか?

まずは「鉄道運輸収入」の額を数年分見てみます。ようするに、鉄道による売上額ですね。

鉄道運輸収入の額2016年度 727億円
2017年度 728億円
2018年度 712億円
2019年度 706億円

この数字を見て、みなさんはどのような印象を受けるでしょうか?

「あれ? 売上額は去年とほとんど変わらないじゃん」
「ニュースで過去最大の赤字と言っていたから、もっと酷いと思ったけど……」

そんな感想を抱くかもしれませんね。ついでに、利益額(といっても万年赤字なので損失額ですが)も見てみましょう。

営業利益(単体)の額2016年度 -498億円
2017年度 -525億円
2018年度 -520億円
2019年度 -521億円

これも、大きく赤字が増えたという感じではないですよね。

北海道は、2月末に鈴木知事が緊急事態宣言を出していました。つまり、他の都道府県に比べて、コロナによる売上減少が早く始まったはずです。その割には、このJR北海道の数字は健闘しているように見えます。

2019年度は売上が大きく伸びる……はずだった

ところが、一見健闘しているように見えるこの数字、実は大敗なのです。というのも、JR北海道は、2019年度の鉄道売上額を750億円ほどと見込んでいたからです。しかし実際は、706億円で着地してしまいました。

そもそも、2018年度の鉄道売上額712億円というのが、あまり良い数字ではありません。2018年度は、台風や北海道胆振東部地震など自然災害の影響で、売上が伸びなかった年だからです。

2019年度は、そうした減収からの巻き返しを図った年。令和の始まりを告げるゴールデンウィーク10連休もありましたから、好調なスタートが切れたはずです。

また、JR北海道は、2019(令和元)年10月1日に運賃を値上げしました。運賃を値上げしたのですから、売上額も当然増えます。

こういう事情があるので、2019年度の売上額は、2018年度よりも大きく伸びていなければいけません。ですので、「昨年とほぼ同じならば健闘している」という見方は、まったくの誤りです。

コロナで売上はおよそ半減する見込み

2020(令和2)年4~6月の3ヶ月間では、83億円の減収を見込んでいるとのことです。これが通年続くと仮定すると、330億円程度の減収。割合に直すと、売上目標に対して約45%減という感じでしょうか。

いっぽう、定期列車の運休や社員の一時帰休など、経費削減につながる行動はすでに起こされています。それでも、次の決算での赤字(営業損失)額は、800億円くらいになるのではないでしょうか。

営業利益(単体)の額2016年度 -498億円
2017年度 -525億円
2018年度 -520億円
2019年度 -521億円
2020年度 -800億円(予想)

キャッシュ残高31億円 資金ショートの心配も……

というか、「次の決算では……」なんて将来の心配をしている場合ではないかもしれません。現実的な危険は、もっと目の前に迫っています。

というのも、JR北海道はキャッシュが、つまり「手持ちのカネ」が非常に心許ないのです。

2020年3月末現在、JR北海道の手持ちのカネは31億円しかありません。投資活動で大きな支出があったこともあり、この1年間で急激に目減りしました。

これは、下手すると手持ちのカネが底を尽く、つまり資金ショートの心配もあるのでは……。

いや、過去の決算書を見ると、キャッシュの残高が20億円とか40億円ということも実際ありました。それでも資金がショートすることなく、大丈夫だったわけです。ただし、それは売上が正常だったから問題なかったのであって、現在のように売上が激減しているタイミングでは話が全然違います。

日々を凌ぐのでいっぱいか? 新たな設備投資は無理

たとえばですが、決算書を見ると、人件費が年間460億円くらいかかっています。これを単純に12ヶ月で割るのではなく、ボーナスが年間4ヶ月分だとすれば、16で割る。すると、だいたい30億円弱。

社員の給料は、「いま会社にカネがないから支払えなくて……」という“待った”が効きません。それをやったら給料の遅配ですから。

つまり、手持ちのカネが毎月30億円くらいは絶対に流出していくわけです。
(実際は、人件費に含まれる社会保険料や税金は、多少の支払い猶予ができるのでしょうけど)

鉄道を維持するための必要経費は、人件費だけではありません。列車を動かすための動力費や、設備の修繕費。

そうやって日々流出していくカネを考慮すると、キャッシュの残高31億円はかなり心配な水準では……。

もちろん、売上が正常なときであれば、残高31億円でもひとまずカネは回ると思いますが、売上減により「手元に入ってくるカネ」も激減しています。現在の売上額では、日々の必要経費を賄うだけでいっぱいいっぱいのはず。

この状況で新たな設備投資の支出をやってしまうと、手持ちのカネが一気に吹っ飛んで資金ショートまっしぐら。つまり、会社として発展するための投資活動が、まったく行えない状況に陥っているのです。

ですから、いまJR北海道が最優先でやらなければいけないのは、とにかく現金を搔き集めて資金繰りを安定させること。国からの借金なり支援なりを急いで取りつけ、資金調達しないと、会社として身動きができなくなってしまいます。

JR北海道ではコマーシャルペーパーを発行できない

もっとも、資金調達を最優先にやらなければいけないのは、JR北海道だけではありません。JR東日本やJR西日本でも、金融機関からの借金や、社債・コマーシャルペーパーの発行などで、せっせと資金調達に励んでいる最中です。

JR北海道は、コマーシャルペーパーを発行して資金調達することはできないのでしょうか?

コマーシャルペーパーとは、社債と同じようなもので、市中の投資家(といっても個人投資家ではなく、銀行や保険会社などの機関投資家)などからカネを調達するために発行するもの。借用証書みたいなもので、早い話が借金です。

通常の社債との違いは、償還期間つまり借金の「満期」が短いこと。一般的に、社債とは満期が1年以上のものを指しますが、コマーシャルペーパーの満期は数ヶ月程度であることが多いです。

しかし残念ながら、JR北海道ではコマーシャルペーパーは(ほぼ間違いなく)発行できません。

というのも、コマーシャルペーパーは返済できなくなった場合の担保がない、つまり無担保の債権。もっと簡単に言えば、信用だけでカネを貸し借りするわけ。もし、コマーシャルペーパーを発行した会社が潰れた場合、コマーシャルペーパーはただの紙くずになります。コマーシャルペーパーならぬトイレットペーパー同然に

担保が存在せず、信用だけでカネを貸し借りする以上、財務的に優良な信用力の高い企業しか発行できません。いまのJR北海道には無理です。銀行も、赤字の会社にはそう簡単に融資してくれませんから、当座の資金を集めるだけでも大変なはず。大丈夫なんだろうか……。

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新幹線の乗務員がコロナウイルスに感染

2020(令和2)年5月2日、北陸新幹線の車掌(JR東日本所属)がコロナウイルスに感染していることが判明した。

遅かれ早かれ乗務員の感染が発生するとは思っていたけど、ついに出たか……という感想です。今回の記事では、この件について私の考えるところを書きます。

乗務員がお客さんと直接接触する機会は意外と少ない

まず、この乗務員の感染経路ですが、乗務中に車内の乗客からウイルスをもらった可能性は低いのではないでしょうか。

「鉄道マンはお客さんと接触する機会が多いから、感染の危険も高い」という意見が普通の感覚でしょう。ただ、私自身の経験から言えば、駅員ならともかく、乗務員がお客さんと直接接触する機会は案外少ないのです。

運転士にしても車掌にしても、乗務中は基本的に運転室に入っています。しかも、客室とは壁やガラスで仕切られていますから、飛沫感染・接触感染の危険はあまりないはず。

車掌ならば、車内巡回や検札の業務がありますが、乗客の大多数は車内では無言ですから、ウイルスの飛沫がそう飛び交っているとも思えない。ただでさえ、利用者大幅減のスカスカ状態ですし。

また、検札時に触れた切符にウイルスが付いていて、そこから感染した可能性はどうか? お客さんが切符を触るのは、券売機から取り出すときと、自動改札機に通すときぐらいなので、そう都合よくウイルスが付着する可能性は低いと思います。

ですから、プライベートで感染したか、あるいは職場の無症状感染者からもらってしまったかの、どちらかではないでしょうか。

いま乗務員はすごいストレスに晒されている

ところで、この乗務員は4月27日に体調不良を自覚した後も、乗務を続けていたとのことです。読者のみなさんは、「なんで早く会社に申告して休まないんだ」と思うかもしれません。

が、私にはこの乗務員の気持ちが痛いほどわかります。正直、自分が同じ状況に置かれたら、私も無理を押して出勤するかもしれません。

「鉄道会社の社員、特に乗務員が感染したら、列車運行のための人手が足りなくなるのでは?」

これ、メディア等でよく言われていますが、そのことは現場の乗務員が一番よくわかっています。わかっているからこそ、「自分のせいで鉄道を止めたくない」「感染者第1号にはなりたくない」という気持ちが強いのです。

別の言い方をすると、現場の乗務員には「コロナにかかっちゃいけない」という強烈なプレッシャーが掛かっています。そのプレッシャーが、「ちょっと体調が悪いけど大丈夫だろう」と無理して出勤するという行動をとらせてしまうのだと思います。

ただでさえ、乗務員には安全輸送を遂行するという大きなプレッシャーが掛かっています。さらに、利用者の激減を現場で目の当たりにして、「ウチの会社は大丈夫だろうか……」と不安になっている乗務員もいるでしょう。

早い話、乗務員は今、ものすごいストレスに晒されながら仕事をしているのです。

乗務員を守るためにも減便を考えるべきでは

こういう状況ですから、「乗務員を守る」という観点からも、列車本数の削減を考えてよいのではないでしょうか。

現在はコロナ騒動が始まってまだ3ヶ月程度なので、張り詰めた状態を保てていますが、先行きの見えない現状の中、緊張の糸がいつ切れるかわかりません。緊張の糸が切れることで、一気に乗務員の感染者が増えるかもしれません。また、乗務中に思いがけないミスをして、鉄道の安全を脅かす事態が発生する心配もあります。

そうならないよう、心身の両面から乗務員を守っていく対策を適宜考えるべきだと思います。

また、乗務員から複数の感染者が出た場合に備え、代替乗務員を確保しておくという意味でも、列車本数の削減は有効です。

すでに一部の鉄道会社では、臨時列車だけでなく、定期列車の本数も減らしています。それに伴って、乗務員を一時的に休業(一時帰休)させたり、自宅待機を命じたりしていますから、いざというときの代替乗務員は確保できるはずです。

様子見ではなく本格的に検討する時期が来たのかも

正直に言えば、私、列車本数を減らすのには気が乗りません。外出自粛中とはいえ、どうしても鉄道を利用しなければいけない人はいます。減便によって、そういうお客さんの利便性を損なったり、車内混雑を招いて感染リスクを上げたりするのはどうかと思うからです。

が、こと新幹線に限っていえば、どこも利用者9割減と壊滅状態ですから、さすがに定期列車も減便してよいのでは……。

もちろん、間引きダイヤを設定するのは簡単ではありません。列車ダイヤだけではなく、乗務員や車両の使用スケジュール(運用計画)も組み直す必要があります。場合によっては、相互直通先との調整もしなければいけません。

私はそういうのを手配する側の人間なので、作業の大変さはよくわかります。もしウチの会社で減便することになったら、「え~間引きダイヤとかめんどくせぇわぁ。もう少し通常ダイヤで様子を見れば?」と言ってしまうかもしれない(笑)

しかし、様子見を続ける段階は、そろそろ終わりに来ているのではないでしょうか。

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コロナの売上減でJR東日本は資金繰りのピンチ!?

JR東日本、2019年度の第4四半期(2020年1~3月)は連結で530億円の赤字。

2020(令和2)年4月28日、JR東日本の2019年度決算が発表されました。

もちろん通年では黒字決算なのですが、第4四半期(2020年1~3月)では赤字。1~2月はコロナの影響は少なかったので黒字だったはずですが、3月のマイナス分だけで、1~2月の“貯金”が吹っ飛んだわけです。

今回の記事では、コロナによる売上減が、JR東日本に与える影響について考察します。

すでに毎月数百億円の減収が起きている

コロナの影響で、JR東日本の鉄道収入は大幅に減少してしまいました。報道によると、2月は110億円、3月は730億円の減収。

この減収額と、JR東日本の決算書を踏まえてザックリ計算すると、2020年1~3月で、鉄道事業単独では100億円程度の赤字(経常損失)が出たのではないでしょうか。そこに関連事業や連結子会社が出した赤字が加わって、連結で530億円の赤字(経常損失)になったと思われます。

減収が続くと年間で数千億円の赤字に!?

もし、この調子で大幅な減収が1年間続いたとしたら、JR東日本の今期(2020年度)の業績は、いったいどうなってしまうのか?

それを考察するために、まずは最新発表された2019年度の数字を見てみましょう。みなさんがイメージしやすいよう、数字はザックリしたものにしています。

2019年度の鉄道事業の成績
売上  1兆9,700億円
費用  1兆7,150億円

営業利益  2,550億円

おそらくですが、2019年度の売上は、2兆400億円くらいを“着地点”として予測していたはずです。ところが、2~3月の減収の影響で、2兆円に届かなかったと。

つまり、通常ならば年間で2兆円は鉄道事業の売上があるわけです。では、コロナの影響で、年間の売上はどこまで減ってしまうのか?

JR東日本の鉄道収入は、3月に730億円の減収になったと先ほど書きました。4月以降はさらに落ち込みが激しいはず。かなり甘めですが、仮にひと月当たりの減収額を800億円として計算します。

また、いろいろ経費削減をするはずですから、費用の額を1,500億円程度減らしてみます。そういう条件で計算してみると……

売上  1兆0,400億円
費用  1兆5,500億円

営業利益 -5,100億円

約5,000億円の赤字!
しかもこれは、減収額をかなり甘めに見積もっての計算です。

以前に「コロナによる売上減が1年間続いたら、JR東海は数千億円の赤字になるのでは?」という記事を書きました。JR東日本も、それと同様になる可能性が極めて高いです。

JR東日本は「手持ちのカネ」が心許ない

ただし、JR東日本とJR東海、決算書的にみると、この二社には決定的な差があります。「手持ちのカネ」です。

JR東海は、手持ちのカネが豊富です。単体の決算書(貸借対照表)では、「現金・預金」が約3,900億円。連結の決算書(キャッシュフロー計算書)まで範囲を広げれば、現金および現金同等物が約7,600億円。コロナの減収で大打撃をこうむっても、資金繰りに詰まってヤバくなることは考えにくい。

JR東海に比べると、JR東日本の手持ちのカネは少ないです。単体の決算書を見ると、「現金・預金」は約1,240億円。

ここに数千億円の減収が直撃すると、資金繰りが心許ないのではないでしょうか。

もちろん、決算書(貸借対照表)を見ると、「換金できる資産」はいろいろあります。未収運賃が約3,000億円。未収金が約970億円。ただし、これらの資産は今日明日すぐに換金できるわけではないので、その点を割り引いて考えないといけません。

(以上の数字はいずれも2020年3月末現在)

資金ショート寸前!? 資金調達は綱渡りだった!?

今年(2020年)3月、JR東日本はコマーシャルペーパーを1,500億円分発行しました。

コマーシャルペーパーとは、社債と同じようなもので、市中の投資家(といっても個人投資家ではなく、銀行や保険会社などの機関投資家)などからカネを調達するために発行するもの。借用証書みたいなもので、早い話が借金ですね。

通常の社債との違いは、償還期間つまり借金の「満期」が短いこと。一般的に、社債とは満期が1年以上のものを指しますが、コマーシャルペーパーの満期は数ヶ月程度であることが多いです。

JR東日本の決算書(連結のキャッシュフロー計算書)にも、「コマーシャルペーパー」というお題目で、しっかりと1,500億円が加算されています。

さて、ここで決算書(連結のキャッシュフロー計算書)を改めて眺めてみると、ヤバいことに気が付きます。2020年3月末で、キャッシュ(=現金・預金・容易に換金できる資産。ようするに手持ちのカネ)の残高が、なんと1,538億円しかない!

ということは、もしコマーシャルペーパーで1,500億円を調達していなかったら、JR東日本グループのキャッシュはほとんど底を尽いていた(残り38億円)わけ。キャッシュがなくなるとは、資金がショートすること、もっと言ってしまえば「会社の倒産」です。かなり危ない状況だったわけで、JR東日本はキモを冷やしたのではないでしょうか。

この事例からも、JR東日本の資金繰りが容易ではないことがわかります。社債やコマーシャルペーパーの発行、銀行からの借入などで、今後も資金調達をバンバン行なっていくはずです。というか、すでに実際、4月に新たなコマーシャルペーパーを900億円、社債を1,250億円発行しています。

一時凌ぎに近いかもしれませんが、そうやって手持ちのカネを増やす“輸血”を行い、コロナウイルスによる売上激減という“出血”が終わるのを待つしかありません。

(2020/4/29)

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