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鉄道関係の記事が約460。鉄道好きや、鉄道業界に就職したい人は必見! ヒマ潰しにも最適

新入社員に伝えたい 言葉は定義して分解しなければ意味がない

鉄道会社の社内で「安全」という単語がもっとも飛び交う季節、それが4月です。

というのは、新入社員の研修が行われるから。そこでは講師陣が繰り返し「安全第一・安全が再優先」と語り、講義の感想は? と聞かれた新入社員も、「安全がもっとも大切なことだと学びました」などと言う。まあ、よくある光景です。

それは大変結構なのですが、では一つ訊きたい。

「安全」という言葉の定義とは何ぞや?

「安全」とは何を指すのかキチンと定義できる?

安全という言葉の定義。研修を受けている新入社員のみなさん、答えられますか。

  • 何を以て安全と言うべきなのか?
  • どういう状態のことを安全と呼ぶ?
  • 逆に「安全でない・安全が脅かされる」とは、どのような状態を指す?

頭の中の辞書に、安全という単語が載っています。では、そこに「説明文」は存在していますか、という話です。

安全という単語だけが載っていて、説明文の部分が空白では、まったくの無意味だと申し上げておきます。なぜ無意味かというと、具体的な行動に結び付けられないからです。

言葉を定義し分解すると「具体的行動」が見えてくる

……などと書いてみましたが、私が読者に何を伝えたいのか、ちょっと見えてこないと思います。そこで、わかりやすく説明するために、「安全」ではなく、別の言葉を例として出させてください。社員研修でもよく登場する「成長」という言葉です。

成長とは何ぞや?

私は自分の中で、「成長とは、今までできなかったことができるようになること」だと定義しています。

この定義に則れば、成長するために必要な第一歩は、「何ができないのかをハッキリさせること」です。できないことが → できるようになる。これが成長ですから、自分ができないことを炙り出さなければ、話が始まりませんね。

手っ取り早い炙り出し方法は、失敗です。失敗とは、すなわち「できないこと」に他なりません。失敗を失敗だと認識することが、まずは必要。

そして、「できる」とは、どのような状態を指すのか? これも定義しておく必要があります。もっとも、これは本人ではなく、上司や先輩が設定してあげなければいけませんが。

たとえば、指示されたときに表面的な作業だけでもできれば、それでヨシとするか。必要な状況を判断して自分から動けるレベルになってほしいのか。ここが曖昧だと、本人としては、どこまでやればいいのかがわからず困ります。

──こうやって言葉をキチンと定義し、分解していくことで、何をすべきかが見えてくるわけです。定義や分解を行わないと、具体的な行動に結び付けられないのですね。

新入社員は自分で「安全」という言葉を掘り下げてほしい

「成長」という言葉で説明してきましたが、「安全」も同じです。キチンと定義し、分解していく。それをやることで、何らかの事態に直面したときに、具体的な行動──鉄道マンとして何をすべきか、あるいは何をすべきでないか──に結び付けることができます。

ここで説明したような掘り下げをせずに、「安全が大切・安全最優先」と言ったところで、それは上っ面だけの無意味なものでしかないのですね。

それでは、私の中にある「安全」という言葉の定義ですが……ここではあえて書きません。新入社員のみなさんには、知識と経験を深めていく中で、自分で見つけてほしい。それこそが、鉄道マンとしての根幹を作っていくことに繋がると思います。

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しっかり休憩や仮眠を取るのも鉄道マンの大事な仕事

どうも日本人は、「休む」という行為に対して、罪悪感や後ろめたいイメージを抱いているのではないか。休まず働くことが美徳であり、それが勤勉なのだ、と。

そうした風潮が、長時間労働や、年次有給休暇の取得率が上がらない、はたまた体調が悪くても無理に出勤してしまうといった“悪習”の背景になっているのでは? そう感じるのは、私だけではないでしょう。

しかし、休むべきところはしっかり休むことが大事です。

「スポーツでは休むのもトレーニングのうち」と聞いたことがあると思います。ロクに身体を休めずトレーニングばかりしていると、かえって害になり故障を招きかねません。

かの有名な『論語』も言ってますよね。「過ぎたるは猶及ばざるが如し」と。

休憩時間は「頭や身体をしっかり休めるのが仕事」

休むべきところはしっかり休むことが大事。これは鉄道の仕事でも同じです。

この記事では、乗務員の話をします。

乗務員の仕事は、乗務 → 休憩 → 乗務 → 休憩……の繰り返しで進んでいきます。泊まり勤務ともなれば長丁場なので、ちゃんと休憩しないと途中で息切れします。

安全運行を守るためには、集中力が大切です。そして、集中力を維持するためには体力が求められます。仕事や学校から帰って疲れた状態では、集中力をキープできないのは、みなさんも経験として理解できるでしょう。

休憩とは、遊ぶための時間ではありません。作業のクオリティを維持するために、体力を回復させ、心身の状態を整える時間です。言ってみれば、頭や身体をしっかり休めるのが仕事です。

仮眠前に人のことを捕まえて長話するのは勘弁してほしい

休憩だけでなく、仮眠も同様です。泊まり勤務では、4~5時間程度の仮眠があります。翌朝の乗務に備え、1秒でも多く寝て、心身を整えるべきです。

ところが、それを邪魔されることがあります。他の乗務員と一緒に宿泊所に泊まる際に、話好きの先輩に“捕まって”しまい、長話に付き合わされる事態です。

年配のベテラン乗務員なんかだと、そんなに寝なくても大丈夫な人が多いんですよ。仕事の要領もわかってますし、泊まり勤務に身体が慣れています。また、「歳を取ると睡眠時間が短くなる」と聞いたことがありませんか? 短い仮眠時間でも支障ないわけです。

だから、さっさと寝ずに若手を捕まえて、雑談や仕事などの話を始めると。

しかし、こういうのは正直言って迷惑ですね。若手の方から「もう寝ますんで」とは切り上げられないので、厄介この上ない。

若手~中堅の間では、「あの人に捕まると長話に付き合わされるから気を付けろ」的な情報共有もされていました(笑)

もちろん先輩としては、「寝るのを邪魔してやろう」などと思っているはずは絶対になく、親切心で話してくれている面もあるでしょう。が、文字通り、お気持ちだけで結構。30分や、下手すると1時間も付き合わされるこっちの身にもなってください(笑) そういうのは、飲み会のときにでも話してくれればいいです。

何かミスをやらかして説教されるなら、わからないでもないですが……。

再度書きますが、休憩や仮眠とは「頭や身体をしっかり休めるのが仕事」です。

そういうわけで、私は同僚とだべったりせず、さっさと寝ていました。自分が先輩になっても、後輩を捕まえて話をするようなことは絶対しませんでした。向こうから質問されたときなどは別ですが。

見習生は早起きしがちだが個人的には賛成できない

仮眠時間が短くなってしまうケースは、他にもあります。たとえば、見習運転士・見習車掌。彼らは先生(指導運転士・指導車掌)と一緒に乗務し、仕事を覚えていくのですが、やたら早起きしてくる人がいます。

見習生のうちだと、先生よりも先に起きなきゃ! という気持ちもあります。仕事モードが身体から抜け切らず、早く目が覚めてしまい、「もう起きちゃえ」と身支度を始めてしまうこともあります。

そのへんの事情は理解できますが、正直あまり誉められないですね。早起きし過ぎたせいで朝の乗務中に眠くなることがあったら、それはプロの体調管理として、いかがなものでしょうか。

くどいですが、休憩や仮眠とは、「安全運行を維持するために、頭や身体をしっかり休めるための時間」です。指定された作業開始時刻にさえ遅れなければよく、その範囲内でなるべく長く眠る努力をしてほしいと思います。

最悪、眠れなくてもいいんですよ。目を瞑って横になっているだけで、身体は休まりますから。

「早起きしてくる人はヤル気がある」という考え方もあるでしょうが、少なくとも私は全然そう思いませんし、まったく評価しないですね。

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寝るべきか寝ざるべきか 泊まり勤務が終わったあと


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寝るべきか寝ざるべきか 泊まり勤務が終わったあと

鉄道マンといえば、切っても切り離せないのが泊まり勤務。もちろん、夜中もずっと起きていて仕事をするわけではなく、途中で仮眠をします。

ダイヤがぐちゃぐちゃになると、徹夜になることもありますけどね……。

仮眠できる時間は、乗務員だと、担当する乗務内容によって異なりますが、まあ4~5時間の範囲内といったところ。5時間寝られれば大満足、もし6時間寝られる仕事があれば、それは神です。6時間は、もはや仮眠じゃなくて睡眠です。

泊まり勤務が終わって家に帰ってから寝る? 寝ない?

そして今回の記事は、泊まり勤務が終了して、家に帰ってからの話。具体的には、

鉄道マンは、家に帰ってから寝るか寝ないか?

ウチの会社は、前日から泊まりで仕事している乗務員は、午前中のうちに勤務終了する場合がほとんど。駅員や指令員といった職種も、9時台には終業します。
(もちろん残業がない場合の話)

職場で4~5時間しか寝てないうえに、朝から仕事して疲れたでしょ。家に帰ったら速攻で爆睡じゃないの?

そう思うかもしれませんが、私の場合は、家に帰り着いた途端にバタンキューと倒れることはないですね。時間的にも、昼メシを食べるまでは起きてます。

メシを食べ終わったら布団にゴー。満腹感と疲れの相乗効果で、あっという間に眠れます。そのあと1~2時間で起きることはなく、3時間は寝ます。

おやすみンゴ~ 『星のカービィWii』より

高齢になると睡眠時間が短くて済む 帰っても寝ない人が少なくない

では、みんながみんな帰ったら寝るかというと、そうでもありません。たとえば、ご高齢の先輩方に話を聞くと、「帰っても寝ない」という人が少なくありません。

「歳を取ると睡眠時間が短くなる」と聞いたことがありませんか? つまり、職場での仮眠だけで必要な睡眠時間が足りてしまうらしいのです。

いや、先輩の一人に言わせると、昼寝しようと思えばできるそうです。が、そうなると、今度は夜に眠れなくなる。結局それで体調が狂うので、昼寝は控えると言っていました。そのぶん、夜は早く寝るとのこと。

私の場合は、家に帰ってから3時間程度眠っても夜はちゃんと寝られるので、まだ年寄りではないということです(笑)

若ければ体力があるので寝ずに遊びに行くこともできる

また、20代の若い社員だと、泊まり勤務を終えても体力が余っています。仕事を終えたその足で、遊びに行く人もいます。

私もそうで、乗務員をやってた20代の頃は、同じく仕事を終えた同僚と飲みに行ったりしていました。多くの人が働いている昼間に酒を飲む。最高です。

まさしくこういう気分になれる(笑) 『らーめん再遊記』第11話より

また、私は将棋が趣味なのですが、土日だと、道場に行って将棋を指すこともありました。いったん家に帰ると、もう外に出たくなくなるので、職場から直接向かうのがポイント。

本屋で立ち読みするのもイイですね。購入し家に持ち帰って読むと、ついつい寝転んでしまいがち。そうなると本が“睡眠薬”になってしまうので注意。

翌日~翌々日が休みなら、泊まり勤務終了後に旅行へ出発するのも有効。目的地が遠くても、飛行機なり新幹線なりを使えば、午後から出発しても現地入りするぐらいは可能です。すると翌朝から、すぐに観光を始められます。

ただ、いつもいつも遊びに行くのも、どうでしょうかね。睡眠時間が少ないと、高血圧・高血糖・肥満になりやすいと何かで読んだことがあります。さほど眠くないにしても、遊び回るのはほどほどにして、家で一眠りするのを基本スタイルにした方が、健康維持のためには良いと思います。

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鉄道マンになる人へ どういう機能を持った腕時計を買うべきか

「日本の鉄道は時間通りに走ってくれる。定時性が高い」などと言われますが、鉄道の仕事と切っても切れないのが時計です。

たとえば乗務員は、時計が“相棒”です。列車は「時・分・秒」で運転時刻が指定されており、それと時計を対照しながら列車を動かすためです。

というわけで今回の記事のテーマは時計なのですが、具体的には腕時計について語ります。

社会人ならば腕時計の一つは持っていると思いますが、「どーいう腕時計でもいい」というわけにはいかないでしょう。やはり、仕事に応じて必要な機能を搭載したものを用意したいところ。

では、鉄道マンとして仕事をするにあたっては、どういう機能を備えた腕時計が適してるのか? 個人的な経験から、それを解説します。鉄道会社に就職する学生さんの参考になれば。

結論から書くと、以下の機能が揃っていると便利です。

  • アナログ時計
  • 暗闇でも針が光って見える
  • アラーム機能付き
  • 日付と曜日が確認できる
  • ソーラー充電ができる

① 針で時刻を読むアナログ時計の方がベター

機能とはちょっと違いますが、まず前提として、アナログ時計とデジタル時計のどちらがよいか?

これはアナログです。

というのは、デジタル時計だと、光の加減によっては3が9に見えたり、7が1に見えたりすることがあります。つまり見間違えるリスクが存在する。そういう理由で、デジタルは推奨しませんね。アナログの方がベターです。

ただし、アナログ時計にデジタル液晶表示部分も付いているタイプなら別に構いません。↓みたいな感じの。ようは針で時刻を見れればよいと。

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② 暗い中でも針が見えるタイプがよい

そして、時計の針には蛍光塗料(?)が塗ってあり、暗闇でも時刻を読めるのが望ましい。

たとえば乗務員だと、まだ陽が昇っていないうちに外を歩くとか、夜間の乗務員室とか、ようは暗い状況で仕事をすることが多々あります。そういうときに時計が読みにくいと不便だからです。まあ、まったく光がないガチの真っ暗闇で仕事をするわけではないので、大丈夫と言えば大丈夫ですが。

③ アラーム機能で「出場遅延」を防ぐ

それから乗務員目線だと、アラーム機能が付いた腕時計が便利です。「出場遅延」を防ぐためです。

駅ホームで乗務員が交代しているシーン、見たことありませんか? あれ、もし交代乗務員が(時刻や場所を間違えて)不在だったら、列車を発車させることができず、エラいことになります。

これを業界用語で「出場遅延」と呼びますが、お客さんには迷惑がかかるし、やらかした乗務員は厳しく事情聴取されて人事記録にもバッテンがつくため、絶対に避けなければいけません。

(ちなみに、出場遅延で列車を出発させられない場合、バカ正直に「交代乗務員がいないため……」と案内放送はしませんね。安全確認とか車両の機器確認とか、フワッとした言葉で誤魔化します 笑)

乗務員は休憩に入る前に、「次に行く場所は○○で、ここを何時何分に出る」を必ず確認します。確認するだけではなくて、失念防止のためにアラームをセットするのが一般的です。

そこで、アラーム機能がある腕時計の出番というわけ。

「アラームならスマホを使えばいいじゃん」と思うでしょうが、スマホをいちいち取り出すよりも、腕時計でサッと設定できた方が便利です。

それに、仕事中は会社側が個人のスマホを預かるケースもあります。「運転士が運転中にスマホを操作」なんてニュースがたまにありますよね。そういうことを起こさないための対策です。まあ、業務用スマホは支給されるので、それでアラームをかけてもいいですが。

④ 日付と曜日も確認できると便利

ここまで乗務員目線で書いてきましたが、他の職種の視点からも一つ。

冒頭でも書いたように、列車は「時・分・秒」で運転時刻が指定されており、乗務員はそれと時計を対照しながら列車を動かします。「時」はよほどのことがない限り間違えないため、乗務員は時計の「分・秒」をメインで見ます。

これに対し、直接列車の操縦に携わらない職種──たとえば、列車の運行管理を行う指令員や、乗務員を管理する部署だと、話が違います。「分」を確認することは普通にありますが、「秒」まで見て仕事をすることは、まずないですね。

それよりも頻繁に見るのが「日付」と「曜日」です。

「今日は○○の7日前。あの件の手配をしとくか」
「金曜日なので○○の作業をしなきゃ」

こんな感じで、日付と曜日をチェックしながら仕事することが非常に多くなります。そのため、「今日は何日・何曜日」をパッと確認できると便利です。

そこで腕時計。私の腕時計には液晶表示部分があって、そこに日付と曜日が表示されるようになっています。これが重宝するんですよ。↓みたいなやつです。

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乗務員の仕事だけではなく、将来まで見据えるなら、日付と曜日も確認できる腕時計を買いましょう。

⑤ ソーラー充電できると電池交換の手間が不要

最後に、ソーラー充電できる機能。よっぽどないとは思いますが、仕事中に電池切れで腕時計が止まってしまうと厄介です。ソーラー充電できるタイプなら、そうした心配はありません。

私の腕時計もソーラータイプで、買ってから今まで一度も電池交換せず動き続けています。故障等で何かのメンテに出したこともありません。一回も止まってないって、よく考えたら偉大ですよね。この小さな時計の中に、高度な技術がたくさん詰め込まれているんだろうなぁ。

鉄道マンにとって腕時計は相棒 「良い買い物」をしてほしい

というわけで、鉄道マンにとって便利な腕時計の機能とは何ぞや? について説明してきました。

  • アナログ時計
  • 暗闇でも針が光って見える
  • アラーム機能付き
  • 日付と曜日が確認できる
  • ソーラー充電ができる

私の腕時計は、これらの機能をすべて備えています。もちろん、就職前に購入したときにそこまで見通していたわけではなく、たまたまですけどね……。一度も買い替えることなく、鉄道マンとしての時をすべて共に過ごしてきた“相棒”です。おそらく、退職時まで使い続けることでしょう。

これから鉄道マンになる人は、この記事を参考にして「一生モノの良い買い物」をしてください。

最後になりますが、「必要」ではなく「不要」な機能にも触れておきましょう。鉄道マンの腕時計に、以下のような機能はいりません。

  • 麻酔針を発射する機能

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「基本動作」をサボる人はイレギュラーが起きたときに脆い

2022~23年にかけて、残念なことに、鉄道業界では事故やトラブルが相次いでいます。たった1年でこれだけの事象が発生しているのは、ちょっと記憶にない気が……。

まず、業界用語で異線進入と呼ばれる事象。

予定していた線路ではなく、別の(=誤った)線路に信号が引かれているのに、運転士がそれを見落として、誤った線路に進入してしまう。予定と違う線路に進入して初めて「あれ? 違くね?」と気付くも、時すでに遅し。

  • JR西日本 おおさか東線での貨物線誤進入
  • 京成電鉄 京成高砂駅での入換ミス
  • JR東日本 大船駅での貨物線誤進入
  • 東京メトロ 副都心線の列車が有楽町線に誤進入

また、車両基地内での脱線事故も、ここ1年で多発。南海電鉄京成電鉄・近畿日本鉄道・都営地下鉄・しなの鉄道で起きています。

これらの事故やトラブルの原因はさまざまです。線路設備側に起因する(と思われる)事故もあって、運転に携わる係員のミスではないケースも。

ただ、この中には、運転士が信号をキチンと確認できていれば防げた事象──運転士のミスが原因のものが複数あります。実は赤信号だったのに、青信号と勘違いして発車してしまい事故が起きた。もっと言うと、「そもそも運転士は信号を確認しなかった」というケースすら存在します。

指差喚呼という基本動作にはどのような効果がある?

こうしたトラブルの多発を見て改めて思うのが、「基本動作の大切さ」です。

鉄道現場での基本動作。代表的なものが指差喚呼(しさかんこ)です。たとえば、運転士が信号機を指差して声出し確認してますよね。アレが指差喚呼で、みなさんも見たことあるはずです。

あの指差喚呼なる行為は、信号の見間違いや見落としといったミスを防ぐための動作です。声を出したり、指差したりするのが、一体どう見間違いや見落としの防止につながるのか?

まずは声出しの効果を説明しましょう。

みなさんは今この記事を漫然と眺めているだけかもしれませんが(笑) もし「声を出して読みなさい」と言われたら、ちゃんと読むはずです。

というのは、声を出して記事を読もうと思ったら、書かれているすべての文字を認識する必要があります。文字を認識せずして音読という行為は不可能です。必然、意識を込めて読まなければいけません。

つまり、声出しには「対象物の状態をキチンと認識させる効果」があります。

声出しだけでなく、指差しにも効果があります。突然ですが、みなさん、部屋にある時計を指差してください。

と言われたら、時計を探してしっかり視界に入れるはずです。どこに時計があるのか位置特定できないまま、時計を指差す行為は不可能です。指差すには、時計を探して「あそこに時計がある」と意識する必要があります。

つまり、指差しには「対象物をキチンと視界に捉えさせる効果」があるといえます。

基本動作を身に付けることの意味とは?

ただ、この指差喚呼をはじめとした基本動作ですが、サボったからといって、すぐ事故になる類のものではないです。言い換えると、「基本動作をキチンと行う効果」が見えにくい。そのため、「そんな真面目にやらんでも」と考え、サボる鉄道マンが残念ながら存在します。

まあ確かに、列車を運転していても、普段は青信号ばかりでスイスイ進めることがほとんど。目の前の信号一つくらい、確認動作をサボっても別にどうってことないでしょ、という気持ちはわからなくもないです。

では、基本動作を普段から真面目に継続する意義とは何なのか?

私は指導に当たる際、「平和なときは効果が感じられないけど、異常時などのイレギュラーに巻き込まれたときに差が出るよ」と言っています。

普段から身体に染み込ませておくことで、イレギュラーに巻き込まれたときに、ミスを防ぐための武器になるのが基本動作、というのが私の考えです。

たとえば、冒頭で挙げた異線進入や脱線事故の中には、「運転士がそもそも信号を確認しなかったケースもある」と書きましたが、事故のときだけたまたま基本動作(指差喚呼)をやらなかったとは考えにくい。普段からサボっていたのではないでしょうか。少なくとも、そう疑われても仕方ないです。

いつもはサボっていても大丈夫だったのでしょう。事故に繋がるイレギュラーとは、そうそう起きるものではないので。

ところが、事故を起こしたときは「いつもと違って信号がまだ赤だった」「いつもと違う信号が出ていた」とのイレギュラーが、たまたま入り込んでいた。そこを信号確認ナシ、いつものノリで運転したため、事故になった。

あくまで私の想像ですが、事故の実態はそんな感じではないでしょうか。もし運転士に信号を指差喚呼する習慣があったら、起きなかった事故かもしれません。

基本動作をサボる人は、イレギュラーが起きたときに脆い。対照的に、基本動作が身に付いていると、イレギュラーに遭遇したときに「あれ?」と気付きの機会を得やすく、ミスに引きずり込まれにくい。

普段は御利益が感じられないけど、異常事態に遭遇したときの「お守り」になるのが基本動作。だから習慣化して身体に染み込ませておくべき。サボっていると、いざというときに痛い目を見る。

私はこのように考えて、基本動作に意味付けをしています。

【補足】ヒューマンエラーはゼロにはならない

もっとも、基本動作を行なっていても、ミスるときはミスります。見間違い・見落とし・勘違い・うっかりといったヒューマンエラーの類ですね。人間である以上、これらはゼロにはなりません。それが人間の特性ですから。

(※もちろん、ヒューマンエラーを減らす努力は必要です。どうせミスは起きるのだから対策しなくてよいとの開き直りではないですよ)

それに対し、「そもそも信号を確認しなかった」のは、ヒューマンエラー以前の問題。やるべきこと(基本動作)をやったうえで間違えたなら仕方ないと考えることもできますが、やるべきことをサボっていたのでは、擁護のしようもないです。

基本動作の必要性を説く指導は難しいので苦労する

で、問題は、私がいま書いたような内容──基本動作の目的や意義を、部下や後輩にどう伝えていくか?

ぺーぺーの頃は自分一人が「意識高い系」なら合格ですが、指導する側になると、周りを「意識高い系」に変えていくのが仕事になります。

イレギュラーが何もない平和時は、「基本動作をしっかりやっている人」と「サボっている人」の差は見えにくいもの。そのため、「なぜ基本動作を行うべきか?」を指導するのは難しいです。現場で指導している人間の最大の悩みがコレ、と言ってもいいくらいです。

特に最近の若い世代は、理由の説明をキチンと受け、納得しないと動かない、などと言われます。「サボるのは道徳的にイケナイことだから」という曖昧な理由では納得せず、ましてや「決まりだからやりなさい」などと一方的に押し付ける指導は、下の下でしょう。

結局は、「サボると損するんだなぁ。しっかりやった方がいいな」と思わせられるかが勝負です。サボったことによって痛い目を見た実例などを集めてきて、具体的にイメージできるよう私も工夫しているつもりですが……事故事例などは他人事なので、自分事として考えてもらうのは大変ですね。日々苦労しております。
(ヽ´ω`)

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鉄道マンの電話対応のコツ 大声で復唱して周囲に情報をバラまけ

今回の記事では、みなさんの仕事に役立つかもしれない内容を書きます。これから社会人になる学生さんも、覚えておいて損はありません。

私は列車の運行を司る指令という仕事をしていますが、電話や無線機での通話がとても多いです。通話相手からの報告や要請を受け、対応を行います。

この、電話を受けて相手と会話をする際ですが、コツがあります。相手が話した内容を大声で復唱することです。

たとえば、通話相手から「○○の手配をお願いします」と頼まれたとします。このとき、「了解しました。手配します」みたいな返し方はダメ。「○○の手配が必要なんですね」と大きな声で復唱するのが良い対応です。

大声で復唱 → 周囲に情報をバラまくことで共有し迅速な対応が可能

通話相手が喋った内容を、大声で復唱する。この行為の目的を一言でいうと、周囲に情報をバラまくためです。

私の勤める指令室では、たくさんの人が一緒に働いています。つまりチームプレイなのですが、その際に大事なのは情報共有です。「いま何が起きたか」「いま何を求められているか」をみんなで共有してこそ、迅速・適切な対応が可能になります。

電話を受けた際に、「はい、了解しました」の応答方だと、周りの人からすれば「いま何の話をしてるんだ?」となります。

「△△が起きたんで○○の手配が必要なんですね」と電話口で大声で応答すれば、周りの人も、「あーそういうことか」と理解でき、それが情報共有 → 動き出しの速さにつながります。

どちらの応答方が優れているか、言うまでもありません。

言われてみれば簡単な話でしょう。仕事術と呼ぶのも憚られるような内容です。しかし、こういう基礎をキッチリ実行できるかどうかで、対応のスピードや正確性が違ってくるんですよ。特に異常時は。

これが、自分が電話を取ったときの心得です。

周囲の人は耳をダンボにして通話内容を聞くべし

このように、電話している人が情報をバラまいてくれるので、周りで聞いている人も内容を把握するよう努めなければいけません。「自分は電話を受けていないから関係ない」ではなく、耳を澄ませて他の人が話している内容を把握しろ、というわけです。

私は新人指令員の頃に、「ダンボのように耳を大きくして周りの会話を拾え」と上司から言われました。

ダンボって知ってます? ディズニー映画に出てくる象のキャラクターで、耳がとても大きいのが特徴です。

ダンボ [Blu-ray]

なぜかはわかりませんが、この話になると、年配指令員は必ずダンボを持ち出してきます。

耳が大きい = ダンボ。確かにそうですが……ぶっちゃけダンボは古いでしょ(笑) 若い世代だと、知らない人もいるのでは。耳が大きいキャラクターの代表格として、いつまでもダンボを引っ張り出してくるのはいかがなものか。令和向けに、シナモロールとかでよいのでは。

シナモロールとはじめる子ども将棋入門

「シナモロールのように耳を大きくして周りの会話を拾え」。……うーん、ちょっと締まりに欠けるか(^^;)

というか、物理的に耳が大きい必要はなくて、ようは「周囲の会話を拾う感度の良さ」を求めているわけで。それならば、『るろうに剣心』の魚沼宇水さんあたりに登場願った方が、若い人は共感してくれる気がします。あそこまで耳が良い必要はないんですが(笑)

※魚沼宇水(うおぬま・うすい) マンガ『るろうに剣心』に登場する敵キャラクター。目が見えないが、その分とても耳が良い。数㎞先の小川のせせらぎまで聞こえるほどの異常聴覚。骨や筋肉の発する音から、対戦相手の動きや体勢を読み取って応戦する。心臓の音も聞き取ることができ、心拍数の変化で相手の心理を推し量る。

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【鉄道会社への就職】技術系職種を目指すなら自動車免許はマニュアルで

「オートマです」
「オートマです」
「オートマです」

マジかよ
時代が違うぜ

この前、会社で20代の後輩数名とクルマの話になったとき。「免許ってマニュアルとオートマのどっち?」と聞いてみたら、みんなオートマ(AT)限定免許でした。

私のようなオッサン以上の世代だと、自動車免許はマニュアル(MT)で取った人が多いと思います。私が免許を取得した昔は、MTに比べてAT限定免許は“格下”のような雰囲気がありました。ぶっちゃけ、AT限定は女性にだけ許されたものであって、男が取ると「ダッセェェェ!!」みたいに思われたものです(笑)

令和の現代では、もはやそんなことはありませんから、これはもう時代としか言いようがありません。

運輸現業職でAT限定免許が不利になるとは考えにくい

「就職活動において自動車免許を持っていない人は不利」「自動車免許は最低限必須」と言われることもありますが、鉄道会社への就職においては、どうなのでしょうか?

残念ながら私は採用担当ではないので、自動車免許を持っていない人は減点されるのかどうか、そのあたりのことは知りません。

まあ減点うんぬんはともかく、多くの就活生は免許持ちでしょうから、そこをあえて免許を持っていない人に対しては、面接の場で「なぜ?」と一言聞いてみたくなるのが採用担当者の心理だと思います。回答くらいは用意しておいた方がいいでしょう。

「免許は持っているけどAT限定。MTより不利になる?」と心配な人もいるかもしれません。

が、駅員・車掌・運転士の「運輸現業職コース」に関して言えば、不利になることはなさそうです。冒頭で書いたように、私の後輩にAT限定者がバンバンいるわけですから。

技術系職種はトラック(MT車)の運転が必要になるケースも

ところが、これが保線や電気といった「技術系コース」になってくると話が違います。

というのは、技術系の職種だと、トラック(社用車)に資材を積み込んで現場へゴー! みたいな展開がどうしてもあります。そして、ここが肝心なのですが、トラックってMT車が多いですよね。AT限定免許では運転不可能です。

現場に配属されたときに、「あ、自分AT限定なんで」と言って先輩に運転させるのもアレです。というか、社用車の運転ができないと、いざというときに困ります。

そういうわけで、技術系の職種を目指す人は、AT限定ではなくMT免許を取っておいた方が間違いないと思います。言われてみれば当たり前ですが、案外、学生の盲点になっているかもしれないので書いてみました。

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なぜ管理職手当(役職手当)というものが存在するのか?

鉄道マンといえば、酒や飲み会が大好きというイメージがあるかもしれません。

私はこの業界でしか働いたことがなく、他業界との比較ができないので何とも言えませんが、少なくとも私の周りには、飲みに行くのが好きな人は多かったですね。

実際、泊まり勤務主体の駅員や乗務員だと、飲みに行きやすいんですよ。前日からの泊まり勤務が午前中に終われば、そのまま昼メシを兼ねて飲みに行くのが一つのパターンです。世間がみんな働いているときに、昼間から飲む酒は美味いっ! いやぁー愉快愉快(笑)

今回の記事は、そんな飲み会の中から学んだ話。テーマは管理職手当(役職手当)です。

「管理職手当ってのは、部下に奢るために支給されるんだよ」

私が乗務員をしていた20代の頃の話。ある日の飲み会で、酔っ払った年長者が私に絡んで(?)きました。

「おい○○(←私の名前)! お前は将来偉くなりそうだから、今のうちに教えといてやる。よぉぉぉく聞いとけ!」

ちなみにこの人、私を特別に見込んでいるわけではなく、若手の誰にでも同じようなセリフを言っていましたが。

「管理職手当ってあるだろ? 役職が付くと貰えるやつ」
「ありますね」
「あの管理職手当ってのは、何のために支給されるか知ってるか?」

まだ20代のぺーぺーなのに、いきなりそんなこと聞かれても……って感じの質問ですが、私は真面目に答えました。

「そりゃまあ、管理職になれば仕事の責任も重くなるから、それに対する報酬みたいな……」
「違う」

一刀両断された(笑)

「管理職手当ってのは、部下に奢るために支給されるんだよ」

(;゚Д゚)そうなの!?

「だからな、管理職手当はな、間違っても自分の懐に貯め込むんじゃないぞ。部下のために使え」
「はぁ……」

こんな感じのやり取りをしました。数ある飲み会の中の一コマにすぎないのですが、これはずっと頭の中に残っていました。

割り勘に唖然とした若かりし頃の経験

月日が経ち、私は乗務員から指令員になりました。

あるとき、他の部署の偉い人から、「せっかくだから飲みに行くか」と誘われました。私だけでなく、同僚の指令員も一緒です。乗務員と違い、指令だと「横の連携」でいろいろな部署と仕事で絡むので、そういうこともあるのですね。

そうして、そのお偉いさんと一緒に飲みに行ったのはいいのですが……

まさかの割り勘……(唖然

いや、「ご馳走してください!」なんて言いませんでしたよ。そんなこと実際に口に出したら図々しいから。でもなぁ、こっちは30歳前後のぺーぺー。向こうは、50歳くらいの役職付きの人。しかも、誘ってきたのは向こうの方。このシチュエーションで割り勘は正直考えなかった。

お偉いさんと別れた後、駅までの帰り道で、同僚と愚痴ったのをよく憶えています。

「割り勘はねぇわな」
「だよなぁ」

ケチな上司は信用を失う……とまでは言いませんが、人間としての評価が落ちることは実感しました。

いや、仕事とは直接関係ない「奢る・奢らない」を、上司の人間的評価にどこまで繋げてよいかは難しいところです。ただ、もしみなさんが私と同じような場面に遭遇したとき、ケチ上司の評価をまったく落とさないという人は、おそらく少数派だと思います。

「組織としてのパフォーマンスを保つための管理職手当」という解釈

人間的評価という言葉を出しましたが、人格と言い換えてもよいでしょう。自分がぺーぺーのときもそうだったので、よくわかりますが、部下というものは上司の仕事の能力だけではなく、人格も見ています。

いくら仕事ができても、「この上司は人間的にアカンな」と思われたら、部下からソッポを向かれるのが現実です。そして、部下たちから「この上司はダメ」と思われたら、その部署のパフォーマンスは落ちる可能性が高い。嫌な上司のもとで、頑張って仕事する気にはなれないのが人間だからです。

それを考えると、「管理職手当は部下に奢るために会社から支給される」という言葉も、一理あると思います。

というのは、奢らない・ケチという要素が上司の人間的評価を下げ、結果的に組織のパフォーマンスを落とすのであれば、会社側もそれは避けたいと考えるはずです。そこで会社は管理職に手当を支給し、その手当を部下のために使ってもらう。それによって上司の人間的評価は保たれ、組織のパフォーマンスが落ちるのを防ぐ。

このように、組織としてのパフォーマンスを保つために、会社側は管理職手当というものを設けている。

これが正しいと言っているわけではなくて、そういう解釈もありえるという話です。

【注意】奢るのは思いやりという人徳で行うべき

誤解しないでほしいのですが、仕事を進めやすくするために部下に奢って媚びを売れとか、「ここでご馳走しなかったら俺の評価が下がって仕事に差し支える」と考えて奢れとか、そういうことを言っているのではありません。奢るとは、あくまで思いやりという人徳で行うべきものだと私は思っています。

会社としては、組織のパフォーマンスを保つという「打算」のために管理職手当を設けているのかもしれない。けれど、管理職個人までがその考えに乗っかる必要はないよ、というわけです。

ついでに言っておくと、打算による奢りは見抜かれると思って間違いありません。部下もバカじゃないので。

まあここまで書いといて言うのもなんですが、実際は、奢るという行為をそこまで難しく考える必要はないでしょう。私としても、自分が若い頃にさんざん上司や先輩に奢ってもらったので、自分のところで堰き止めず、これまで得した分を後ろの世代に放出しているだけというくらいの感覚です。

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マンガ『そばもん』から学ぶ 仕事をマニュアル化すると害もある

鉄道業界への就職を目指す学生さん向けに、たまには仕事の心得みたいな話をします。といっても、堅苦しい雰囲気では読んでもらえないので、私の好きなマンガを絡めて話しましょう。

今回紹介するのは、『そばもん ニッポン蕎麦行脚』というマンガです。

そばもんニッポン蕎麦行脚(2) (ビッグコミックス)

主人公の矢代稜(やしろりょう)は、有名な蕎麦職人だった祖父から蕎麦打ちの技をすべて伝授されていますが、自分の店を持たない「流れの職人」です。蕎麦に関するテーマや問題がいろいろ出てきて、蕎麦職人の稜がそれを解決していく物語。

まあアレだ、『美味しんぼ』や『ラーメン発見伝』と似た感じ。蕎麦に特化したバージョンといえるのが『そばもん』です。

美味しんぼの山岡さん・ラーメン発見伝の藤本クンは、一応アマチュア(=プロの料理人ではない)ですが、『そばもん』の矢代稜はれっきとした蕎麦職人というのが、違いといえば違いでしょうか。

教わった通りにやっているのに上手くいかない?

『そばもん』第8~9話では、脱サラして蕎麦屋開業を目指す田中さんが登場します。

田中さんは、蕎麦打ち教室(プロ養成講座)で知識・技術を学んだあと、さらなる修行のために、とある蕎麦屋に弟子入りします。1ヶ月ほど雑用をこなしてから、ついに蕎麦を打たせてもらえるようになりました。まあ、客に出す用ではなく従業員のまかない用ですが。

しかし(案の定と言うべきか?)、なかなか上手く蕎麦を打てません。以前の蕎麦打ち教室で教わった通りの分量の水を入れ、習った通りに作業しますが、できあがるのは失敗作ばかり。

教わった通りにやっているのに、なぜ上手くいかない……。

自分の教わった内容が間違っているのか。田中さんは、 「どれだけ水を入れるか? 何回混ぜるか?」 と修行先の御主人に質問しますが、なぜか教えてくれません。

行き詰まった田中さんは、主人公・矢代稜が登場する蕎麦イベントに出掛け、そこで稜に接触してアドバイスを求める……という流れ。もっとも、稜からも有効なアドバイスを得られませんでしたが。

店に戻った田中さん、蕎麦打ちの練習を続けます。依然として、教室で習った通りの分量の水を入れ、習った通りに捏ねる。そして失敗を続ける。

「こうやればこうなる」ではなく「こうなるためにどうするか?」

田中さんの何がいけないか?

ようは、蕎麦打ちという作業をマニュアル化しようとしているのです。

というのも、一口に蕎麦粉と言っても、みんな品質が違います。たとえば、乾いた蕎麦粉なら水分を多めに加えなければいけないし、湿り気のある粉ならその逆が必要。また、考慮すべきは蕎麦粉自体の品質だけでない。その日の温度や湿度によっても作業を微調整するべきでしょう。

だから「どれだけ水を入れるか? 何回混ぜるか?」について、唯一絶対の解などありえないのですが、それを求めているのが田中さんなのです。

こうしたマニュアル化思考から抜け出せない田中さんに対し、ようやく修行先の御主人がアドバイスをくれます。その内容とは、

「こうやればこうなる」じゃないんだ、蕎麦打ちは。
「こうなるためにどうするか?」だ!

前提となる諸条件が毎回違うので、こう打てば美味しい蕎麦になるという、絶対的なマニュアルなどありえない。しかし、最終的に完成した蕎麦は、毎回同じでなければいけない。日によって味(商品の品質)が違うようでは、プロとは言えないからです。

だから、毎日同じ品質を保つという「こうなる」を実現するには、逆算して「どうするか」を毎日考えながら作業しなければいけません。

鉄道の仕事も「こうやればこうなる」ではない

「こうやればこうなる」じゃないんだ、蕎麦打ちは。「こうなるためにどうするか?」だ!

これ、鉄道の仕事でも同じなので、すごく納得しました。

たとえば、運転士は列車を駅に停めるときにブレーキを掛けますが、「駅手前この地点から、この強さのブレーキを掛ければピッタリの位置に停まる」という唯一絶対の解は存在しません。というのは、同じ形式の車両でも、実はブレーキの強さが微妙に違うからです。

天候でもブレーキ距離は変わります。雨でレールが濡れていればブレーキ距離は伸びますし、向かい風ならスピードが落ちやすい。乗客の多寡でも変わってきます。

しかし、諸条件の違いを考慮したうえでブレーキ操作を調整し、正しいフィニッシュに持っていく。これが運転士の仕事です。まさしく、「こうやればこうなる」ではなくて、「こうなるためにどうするか?」なのです。

運転士のブレーキ操作に限らず、一つ条件が違うと、手順や考え方を変えなければいけない仕事はゴロゴロあります。そのあたりを臨機応変に対処できるかが、経験の差です。

まあ、そのあたりは鉄道に限らず、みなさんの仕事でも同じだと思います。

勘違いしないでほしいのですが、私はマニュアル自体は否定しません。見える化・明文化は大事だと思います。ただ、前提となる条件が毎回異なるので、マニュアルを絶対視して作業を進めると思わぬ落とし穴に嵌まるかもよ、と言いたいのです。

マニュアルは、あくまで指針・目安みたいなものだと私は考えています。

だから、部下や後輩から「こういうときはどうすればいいですか?」と質問されても、「条件による。ケースバイケースとしか言いようがない」と答えることがけっこうありますね。

もっとも、それだけでは上司失格なので、「たとえばこういう条件なら俺はこうする」「前に起きたときはこう対処したけど、こういうやり方もありえる」と一例を示すようにはしています。

なお、『そばもん』の田中さんが結局どうなったかは、みなさん自分の目で確かめてください。他にもビジネスの参考になる考え方がたくさん出てくる、オススメのマンガです。

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