2019(令和元)年5月22日、こんなニュースを見つけました。
赤字路線を多く抱えるJR九州と、株主であるファンドの関係……。ちょっと気になるニュースだったので、個人的に考えるところを記事にしてみました。
JR九州は本業が赤字で上場した
JR九州は2016(平成28)年に株式を上場しましたよね。このことは、みなさんご存知でしょう。
しかし、以下の事実は知っていますか?
実は、JR九州は上場した際、「本業」である鉄道事業は赤字でした。副業の黒字で会社全体としては黒字だったのですが、本業は赤字の状態で上場したんですね。
JR九州は、福岡都市圏というドル箱を持っています。しかし、地方ローカル線も多く抱えており、そこでの赤字が都市圏の黒字を食い潰しています。そのせいで、鉄道事業全体としては赤字が続いていました。
ちなみに現在のJR九州は、鉄道事業も黒字です。が、これは減損処理という会計処理を行なったためであって、売上がグーンとアップして黒字になったわけではありません。
上場直前の2015(平成27)年度会計では、なんと4,700億円! の赤字が出ていますが、これは減損処理を行なった特別損失によるものです。
(減損処理とか特別損失とかの用語がわからない人、申し訳ない。ここで解説するスペースはないので、興味があれば調べてください)
将来は赤字路線の存廃に口出ししてくるのでは
JR九州は株式を上場していますから、株主に投資ファンドがいても変ではありません。そうした投資ファンドからすれば、JR九州が多数抱える赤字路線はどう映っているのでしょうか。
「なんらかの処置が必要だ」と考えるのが自然ではないでしょうか。
今回は「赤字路線を抱える鉄道事業について口出ししない」とコメントしたようですが、今後もその姿勢が続くかどうか、すごく疑問です。今後ますます持ち株の比率を高めていったときに、「この赤字路線は廃止にすべきでは」という主張をしてくる可能性は低くないと思います。
西武鉄道 vs 投資ファンドの路線廃止議論
実は、2013(平成25)年に、投資ファンドによる鉄道会社への「口出し」があったことはご存知でしょうか?
このとき舞台になったのは、関東大手の西武鉄道。西武鉄道に出資していた米投資ファンドが、「一部路線を廃止してはどうか」と提案したと報道されました。西武鉄道は都心だけではなく、埼玉県の郊外にも路線を抱えており、そこの採算性を疑問視したファンドが口出ししたのでしょう。
結局、このときは路線の廃止は行われなかったのですが、日本における今後の鉄道事業のあり方を考える上では、大きな事件だったと思います。
そもそも論 鉄道事業は儲からない
そもそも論になりますが、鉄道というものは儲からない事業です。
あれだけ広大な設備を維持しているわけですから、当然ながら出費は大きい。それでいて、運賃は国土交通省による認可が必要であり、出費が増えたからといって、好き放題値段を上げられるわけではありません。
「商品の値段」を自由に変えられないのが、他の産業との大きな違いといえます。
ようするに、出費が多いのに収入は制限されているわけですから、構造上儲けるのが難しい事業です。乱暴な言い方をすれば、赤字になって当然なのですね。
(東海道新幹線や首都圏の「ドル箱路線」は別ですが、それは例外)
赤字路線の拡大と「物言う株主」の増加
このブログでもたびたび書いていることですが、少子高齢化・人口減少が進めば、鉄道会社は苦しくなっていきます。赤字路線・不採算路線がどんどん増えてくるのは確実です。
そして、投資会社が株主の座に収まり、いろいろとモノを言う事例も、今後ますます多くなるでしょう。
この二つの流れ──「赤字路線の増加」と「物言う株主の増加」──により、自らの利益を考えた株主の主張がきっかけで、路線が廃止される事態が本当に起きるかもしれません。
鉄道とは、公共性・公益性が大きい事業です。いったん廃止すれば、復活させることは実質的に不可能でしょう。
そういった事業を「採算性が悪いから」「株主の利益を損ねるから」という理由だけで廃止してよいものでしょうか。激しい論争になるのは必至でしょう。
将来、こうした事態が起こったとき、鉄道会社はどうやって株主を納得させる(あるいは対決していく)のか、非常に興味深いところです。赤字路線の黒字化は難しいとしても、会社全体としての黒字を最大限確保し、株主の利益確保に努めることが、これまで以上に求められるようになるでしょうね。