正直、わけわからん……。
いや、運転室内の「備品」が盗まれたとかならわかります。しかし、「運転台そのもの」を盗むって、どういうこっちゃ……。
とにかく、関係者以外が勝手に運転室に侵入する、ましてや窃盗などけしからん話です。一刻も早く、犯人が捕まることを祈ります。
運転士は「二種類のカギ」を持っている
ところで、ニュースでは「犯人はマスターキーを使って運転室に侵入か?」と報道されています。この「マスターキー」という表現、私のような鉄道マンに言わせると微妙なので解説します。
JRの運転士は、業務中に二種類のカギを所持しています。「忍び錠」と「マスコンキー」です。
忍び錠とは?
まず忍び錠とは、運転室の扉を開けるためのカギです。
運転室と客室は扉で仕切られていますが、ここの扉を開けるためのカギです。これを持っていないと運転室に入れないので、業務中に落としでもしたらエラいことになります。
また、車掌が駅でドアを開け閉めする際、車両側面の扉を開けてホームに降りたりしていますよね。この車両側面の扉も、忍び錠で開け閉めします。
マスコンキーとは?
対して、マスコンキーとは運転台を立ち上げるためのカギ。
初期状態では運転台にロックがかかっており、各種レバーを操作することはできません。パソコンに例えれば電源オフの状態です。
マスコンキーを運転台のカギ穴に差し込むと、パソコン風に言えば電源オンの状態になり、各種レバーを扱えるようになります。これがないと列車の運転ができないので、運転士は必ず持っています。
このように二種類のカギがあるのですが、ニュースが言うところの「マスターキー」とは、運転室の扉を開ける「忍び錠」の方を指しています。
JRの忍び錠は全国共通仕様
さて、ニュースでは「マスターキー」と言っていますが、なぜこれが微妙な表現なのか?
マスターキーとは、「その一本であらゆる種類の錠を開けられるカギ」です。しかし、JRで使われている忍び錠は全国共通の仕様で、北はJR北海道から南はJR九州まで、どの車両の扉も同じカギで開けられます。そして、JRの全乗務員が同じものを持っています。
マンションにたとえれば、どの部屋のカギも同じもので、すべての住民と管理人が同じ形のカギを持っているわけです。
ですから、「マスターキー」という言葉を使うのは、このケースでは不適切に思えますね。なにせ全国にあるすべてのカギが同じ仕様ですから、マスターキーもなにもありません。強いて言えば、すべてのカギがマスターキーです。
なぜJRのカギは全国共通仕様なのか?
なぜ、JR各社のカギは全国共通仕様なのでしょうか?
それは、もともと国鉄という一つの組織だったからです。
国鉄時代、もし車両ごとに違うカギが必要だったら、運転士は何種類ものカギを持ち歩かなければならなくなります。それだと非常にメンドーですから、車両のカギは全国共通仕様なのです。
国鉄がJRに分割された現在でも、全国共通仕様は続いています。ついでに説明しておくと、一部私鉄や第三セクターなど、JRの車両が乗り入れてくるとか、逆に自社車両がJRに乗り入れるような会社でも、JRと仕様が異なっては困るので同じカギを使うのが一般的です。
忍び錠の販売は業界として対策を
ところで、この忍び錠。ニュースを見ていろいろ調べてみたら、オークションとか通販サイトで普通に売られてる (゚Д゚;)!
いままで知らなかった……orz
職場の先輩いわく、「昔はカギの管理なんていい加減だった。箱の中に何本も入ったまま、普通にそのへんに放置されてた」。昔、誰かが社外に持ち出して、あとは複製などでどんどん増殖したものがオークションで売られているのでしょう。
外来生物の飼育に困った飼い主が野生に投棄し、それが繁殖していったのと似てる……。
ていうか、オークション管理者や警察も、これは取り締まってほしい。忍び錠なんて一般人が入手しても、「運転室に侵入する」という違法な行為にしか使えないでしょう。鉄道会社ごとバラバラに動くのではなく、業界として、オークション管理者や警察に対応を要請するべきです。
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