現役鉄道マンのブログ 鉄道雑学や就職情報

趣味で鉄道好きな人はもちろん、就職・転職等で鉄道業界に興味がある人もどうぞ! 現役鉄道マンが、鉄道の雑学や裏話を語ります。

JR東海 運転台が盗まれる

2019(令和元)年5月26日、JR東海で、駅に夜間滞泊させていた車両の「運転台」が盗まれる事件が発生しました。

正直、わけわからん……。

いや、運転室内の「備品」が盗まれたとかならわかります。
しかし、「運転台そのもの」を盗むって、どういうこっちゃ……。

とにかく、関係者以外が勝手に運転室に侵入する、ましてや窃盗などけしからん話です。
一刻も早く、犯人が捕まることを祈ります。

ところで、ニュースでは「犯人はマスターキーを使って運転室に侵入か?」と報道されています。
この「マスターキー」という表現、私のような鉄道マンに言わせると、ちょっと微妙なので解説します。



JRの運転士は、業務中に二つのカギを所持しています。
「忍び錠」「マスコンキー」です。

「忍び錠」とは、運転室の扉を開けるためのカギです。

運転室と客室は扉で仕切られていますが、ここの扉を開けるためのカギです。
これを持っていないと運転室に入れないので、業務中に落としでもしたらエラいことになります。

また、車掌が駅でドアを開け閉めする際、車両側面の扉を開けてホームに降りたりしていますよね。
この車両側面の扉も、忍び錠で開け閉めします。



対して、「マスコンキー」とは運転台を立ち上げるためのカギ。

初期状態では、運転台にはロックがかかっており、各種レバーを操作することはできません。
パソコンでいえば、電源がオフの状態です。

マスコンキーを運転台のカギ穴に差し込むと、パソコン風にいえば電源がオンの状態になり、各種レバーを扱えるようになります。
これがないと列車の運転ができないので、運転士は必ず持っています。

したがって、ニュースでいうところの「マスターキー」とは、運転室の扉を開ける「忍び錠」の方を指しています。



さて、ニュースでは「マスターキー」と言っていますが、なぜこれが微妙な表現なのか?

マスターキーとは、「その一本であらゆる種類の錠を開けられるカギ」です。

しかし、JRで使われている「忍び錠」は全国共通の仕様であって、北はJR北海道から、南はJR九州まで、どの車両の扉も同じカギで開けられます。
そして、JRの全乗務員が同じものを持っています。

JR各社はもともと国鉄という一つの組織でした。
もし車両ごとに違うカギが必要だったら、運転士は何種類ものカギを持ち歩かなければならなくなります。
そうなったら、めちゃくちゃメンドーですから、車両のカギは全国共通仕様なのです。

国鉄がJRに分割された現在でも、全国共通仕様は続いています。
(ついでに説明しておくと、一部私鉄や第三セクターなど、JRの車両が乗り入れてくるとか、逆に自社車両がJRに乗り入れるような会社でも、JRと仕様が異なっては困るので同じカギを使うのが一般的です)

マンションにたとえれば、どの部屋のカギも同じもので、すべての住民と管理人が同じ形のカギを持っているわけです。

ですから、「マスターキー」という言葉を使うのは、このケースでは不適切に思えますね。
なにせ、全国にあるすべてのカギが同じ仕様なわけですから、マスターキーもなにもありません。



ところで、この忍び錠。
ニュースを見ていろいろ調べてみたら、オークションとか通販サイトで普通に売られてる (゚Д゚;)!

いままで知らなかった……orz

職場の先輩いわく、「昔はカギの管理なんていい加減だった。箱の中に何本も入ったまま、普通にそのへんに放置されてた」。

昔、誰かが社外に持ち出して、あとは複製などでどんどん増殖していったものがオークションで売られているのでしょう。

ていうか、オークション管理者や警察も、これは取り締まってほしい。
忍び錠なんて、一般人が入手しても、「運転室に侵入する」という違法な行為にしか使えないでしょう。
鉄道会社ごとバラバラに動くのではなく、業界として、オークション管理者や警察に対応を要請するべきです。