2019(令和元)年6月6日、横浜市営地下鉄ブルーラインにて、始発列車が脱線する事故が発生しました。原因は、工事で使用する装置を線路から撤去し忘れたため、そこに列車が乗り上げてしまった……ということのようです。
報道を見る限り、撤去し忘れたのは横取材という装置のようです。「なんじゃそりゃ」と思う方が多いでしょうから、簡単に解説しておきます。
「横取材」とは? 必要なときだけ車両を出入りさせるための装置
まずは↓図をご覧ください。
分岐器(ポイント)の図を簡略化したものです。直進・左への分岐、両方が可能です。続いて↓図をご覧ください。
分岐側の線路が「本線」とは微妙に離れている。こういう形の線路、見たことありませんか?
「こんな形の分岐じゃあ、左側に列車が行けないじゃん」と思うでしょうが、その通り。この線路は通常、直進しかできません。そこで登場するのが横取材。
図の赤丸あたりの箇所に、横取材を上から被せるように設置することで、左側へ分岐できるルートを作ることができます。ようするに、「離れたレールをつなげるための装置」みたいなものだとイメージしてくれればいいです。
「何のためにそんな装置があるの?」と思うでしょうが、この分岐線の奥には、工事用車両を置いておきます。工事用車両は普段は奥にしまっておき、必要なときに、この横取材を設置して本線に出入りさせるわけですね。
つまり、使った後に撤去し忘れると、直進すべき列車が左へ行ってしまい、今回のように脱線する場合もあるのです。
ちなみに会社の先輩の話では、昔、JRでも同種の事故があったそうです。が、このとき通ったのは貨物列車。貨物列車の先頭である機関車は非常に重いため、このときは横取材のほうが“負けて”しまい、脱線には至らなかったのだとか。
「横取材じゃなくて、普通に分岐器を設置するのはダメなの?」と疑問を感じた人へ。分岐器を設置すると、モーターなどの可動部分を保守・点検する必要があります。たまにしか使わない工事用のルートなら、分岐器よりも横取材の方が手間やコストの面で有利です。
同様の脱線事故は過去にも起きていた!
さて、話を今回のブルーライン脱線事故に戻します。
実は昔、これとまっっったく同じ原因の脱線事故が起きています。2009(平成21)年2月27日、三重県の近鉄大阪線での事故です。
このときは、作業者責任者が「他の作業員が横取材を撤去しただろう」と思い込み、その後の確認を失念しました。さらにそのあと、駅係員も「横取材はすでに撤去されているはず」と思い込み、本来行うべき確認作業を行わなかったことによる事故です。
事故後の再発防止策の一環として、近鉄はチェックシートの再整備を行いました。
というわけで現在、この手の「線路に取り付ける」類の装置は、「取り付けた時刻・取り外した時刻・取扱者」をチェックシートに書き込んで管理するのが一般的だと(私は勝手に)思っていましたが、横浜市営地下鉄ではどうだったのでしょうか?
もし、そうした管理が行われていなかったのであれば、近鉄での教訓が活かされなかったことになり、大変残念な話です。