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第三セクター鉄道の「赤字の構造」に迫る!

一般的に、第三セクター鉄道というと、「万年赤字」や「補助金」といったイメージが強いです。こういうイメージの背景には、実際に赤字や補助金漬けの三セク鉄道が多いことがあります。

なぜ、三セク鉄道は赤字になるのか? 別の言い方をすると、どういうところが原因で赤字になるのか?

今日は、そのあたりを解説します。

一口に赤字といっても、いろいろな原因があるわけで、赤字の構造は会社ごとに違います。詳しく見ていくと大変なので、ここでは二つに大別します。「田舎型の赤字」と「都市型の赤字」です。

「田舎型の赤字」はそもそも売上が足りない

そもそもの売上が足りていない、ちょっと洒落た言い方をすれば、償却前損益の段階ですでに赤字。これが田舎型の赤字です。

田舎の風景の中を、ディーゼルカー(気動車)が一時間に一本程度のダイヤで走っている。そういう典型的な田舎のローカル線を思い浮かべてくれればいいでしょう。

この手の三セク鉄道の多くは、国鉄分割時に切り捨てられた路線を引き継いだわけですが、もともと利用客が少なくて採算が取れなかったために、JRには引き継がれなかったのです。決算書的に言えば、損益計算書の一番上の部分「売上」が絶対的に不足している

これが田舎型の赤字です。
構造的にはイメージしやすいと思います。

「都市型の赤字」の原因は二つ

対して、東京圏でいえば、つくばエクスプレス東京臨海高速鉄道(りんかい線)に代表される都市型の三セク鉄道。

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つくばエクスプレス

この手の鉄道は、都市圏なので利用客も多く(というか利用客が見込めるからこそ新規開業させる)、売上もそれなりに多いです。にもかかわらず、赤字に苦しむケースがあります。それが都市型の赤字ですが、原因は主に二つ。

  1. 借金の利子
  2. 減価償却費

赤字原因① 低金利でも利子はバカにならない

鉄道を作るためには、莫大な資金が必要になります。

特に最近、新規開業する鉄道は、踏切を排するために全線高架だったり、地下を通すためにトンネルを掘ったりするケースが多いです。普通に地上に線路を通すのに比べると、どうしても建設費がかさみます。

そのための資金を、新規開業する会社が全額「自己資本」でまかなうのは実質不可能です。どうしても借金が必要になります。

借金をすれば、当然「利子」を支払わなければいけませんが、その負担がバカになりません。なぜなら、新しく鉄道を作るためには、10億円や100億円の借金では済まないからです。

たとえば、1,000億円(!)を借りて、金利が1%だとしましょう。それだけで、初年度は10億円の利子を支払わなければなりません。
(もっとも、現在の低金利が続く住宅ローンじゃあるまいし、1%なんて低金利で事業用の資金を貸してくれるところなんてないでしょうけど……)

赤字原因② 「減価償却費」の額も膨大

さらに、数百億円から数千億円の鉄道設備を保有するために、減価償却費も膨大な金額になります。この減価償却費が利益を圧迫しているケースが多いです。

ところで、「減価償却費ってよく聞くけど、実はよくわからない……」という人はいませんか? 私も、初めて会計(簿記)を勉強したときには、いまいちイメージがつかめなくて苦労したものです。わからない人用に、簡単な説明を書いておきます。

減価償却費とは、一言でいえばモノの劣化代です。

たとえば、会社の業務に使用するために、パソコンを10万円で買ったとします。さて1年後、そのパソコンの価値は10万円のままでしょうか?

そんなことありませんよね。当然、いくらか価値は下がります。価値が2万円下がって、8万円になったとしましょう。

なぜこのパソコンの価値が下がったかというと、「会社の業務に使用したから」です。別の言い方をすると、「会社の売上に貢献したために価値が下がってしまった」わけです。

会社の売上に貢献したために、価値が下がってしまった。だったら、その下がった分の価値(=この場合は2万円)は、会社の費用だと考えてよいのではないでしょうか。

これが「減価償却費」です。

ただし、実際には、パソコン購入時に10万円の支払いは終わっています。1年で価値が2万円下がったからといって、そこで2万円の現金が手元から飛んでいくわけではありません。あくまで会計上の処理です。

よく、減価償却費とは「現金の支出を伴わない費用」と言われますが、こういう理屈です。

赤字の具体例 東葉高速鉄道のケース

さて、基本的な説明が終わったところで、具体例を紹介しましょう。千葉県の三セク鉄道・東葉高速鉄道です。2019年現在では黒字決算なのですが、開業からしばらくは典型的な「都市型の赤字」が続いていました。

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この東葉高速鉄道、鉄道建設費用の約3,000億円を借金でまかないました。
(厳密には、「鉄道建設・運輸施設整備支援機構」という組織が鉄道を建設し、東葉高速鉄道がそれを買い取った)

決算書によると、東葉高速鉄道の売上は、年間150~160億円くらいです。この金額だけ見ると、めちゃくちゃ儲かっているように感じます。

赤字原因① 利子だけで売上の3分の1を持っていかれる!

ところが、3,000億円の借金が足を引っ張ります。開業からしばらくは、借金の利子だけで毎年50億円以上を支払っていました。

勘違いしないでほしいのですが、この50億円というのは「元本の返済額」ではなく「利子の支払い額」です。利子の支払いだけで、売上の3分の1近くを持っていかれます。

150億円の売り上げに対して、仮に50億円の利益(会計的にいえば営業利益)が出たとしても、利子の支払いで全部持っていかれて差し引きゼロ。もはや理不尽ともいえるレベルで、これで黒字を出せという方が無理です。

最近の決算では、元本返済がいくらか進んだことや、近年の低金利の影響で、利子の額は25億円程度に下がりましたが、それでもすごい金額ですよね。

赤字原因② 減価償却費も数十億円

そして決算書(貸借対照表)を見ると、約2,200億円程度の鉄道施設を保有しており、減価償却費の額もハンパではありません。

説明は省きますが、特性上、減価償却費の額は「最初は大きく、だんだん小さく」なっていきます。

すでに開業から20年以上が経っているので、開業当初に比べれば、減価償却費の額は小さくなっています。が、最近の決算でも40億円以上の減価償却費を計上しています。

減価償却費は、実際に現金の支出(キャッシュアウト)は発生しませんが、会計上では費用ですので、150億円の売上からマイナスされて利益額の数字は減ることになります。

カルロス・ゴーンでも手の打ちようがない

  1. 借金の利子がバカにならない
  2. 減価償却費が膨大

東葉高速鉄道の開業時を例に「都市型の赤字」を説明しましたが、いかがでしょうか? 一見、たくさんの利用客で儲かっているように見える都市圏の三セク鉄道も、裏にはこのような赤字の構造があるのです。

ちなみに、しなの鉄道改革の記事で紹介した杉野正(すぎの・ただし)氏。実は杉野氏、しなの鉄道を退任した後、やはり赤字で苦しむ三セク・埼玉高速鉄道の社長に就任しています。

しかし、そこでは目立った実績は上げられませんでした。

しなの鉄道は「田舎型の赤字」だったので立て直しようもあったのですが、埼玉高速鉄道は「都市型の赤字」。信濃のカルロス・ゴーンと呼ばれた杉野氏でも、都市型の赤字には歯が立たなかったのですね。

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本記事の写真提供 ふみとつさん

本記事内の写真は、『快速の部屋』を運営するブロガー・ふみとつさんにいただきました。ありがとうございました(^^)

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