現役鉄道マンによる鉄道雑学のブログ

趣味で鉄道好きな人はもちろん、就職・転職等で鉄道業界に興味がある人もどうぞ! 現役鉄道マンが、鉄道の雑学や裏話を語ります。

「アボイダブルコストルール」を日本一わかりやすく(!?)解説する

(けっこうな長文なので、時間があるときに読んでください)


こんにちは、現役鉄道マンのKYSです。

前回の記事では、JR貨物の2018(平成30)年度決算について、簡単に数字を見ていきました。
自然災害の影響で苦戦はしましたが、それさえなければ過去最高の黒字決算になっていたでしょう。

 

JR貨物の上場は難しいと予想


さて、これだけJR貨物が黒字を出せるようになってくると、気になるのが「JR貨物は上場するのか?」という点。

しかし、これについては私の見解はハッキリしています。

今のままでは、いくら利益を出してもJR貨物の上場は難しい。
なぜなら、他の鉄道会社が納得しないから。


これが私の見解です。
なぜ他の鉄道会社が納得しないのか、それは「アボイダブルコストルール」というものがあるからです。

アボイダブルコストルール。

ちょっと鉄道業界に詳しい人なら聞いたことがある単語でしょうが、「そんな舌を噛みそうな言葉なんか知らない」という人も少なくないでしょう。
というわけで、今回の記事では、アボイダブルコストルールとは何ぞや? について説明しますね。

このルール、JR旅客会社6社(=北海道・東日本・東海・西日本・四国・九州)とJR貨物の将来を関係を占う重要なものです。
鉄道会社への就職を目指す学生は、知っておいた方がいいと思います。
鉄道業界で働いていれば、いつJR貨物と接点があるかわかりませんからね。

今後、JR貨物が上場うんぬんの話になったときは、このアボイダブルコストルールが100%議論の対象になりますので、知っておけばニュースも読み解きやすくなります。

線路使用料にアボイダブルコストルールを適用


アボイダブルコストルール、まずは、あえてわかりにくい説明をします。

ご存じでしょうが、JR貨物は自前の線路をほとんど持っていません。
JR旅客会社の所有する線路を借りて、貨物列車を走らせています。

しかしこの際、JR貨物は他社の線路を「使わせてもらう」わけですから、線路の賃貸料=「線路使用料」を支払わなければなりません。

線路はメンテナンスする必要がありますが、それを行うのは線路の所有者であるJR旅客会社です。
貨物列車が走ると、その分だけ余計に線路が傷むので、JR貨物から受け取った「線路使用料」をメンテナンス費用に充てるわけです。

では、この線路使用料、いったいどのようにして“お値段”を決めているのか?

実は、この線路使用料にアボイダブルコストルールが適用されています。
「貨物列車が走行しなかった場合」と「貨物列車が走行した場合」のメンテナンス費用を比べ、その差額分だけをJR貨物は支払えばよい。
つまり、貨物列車の走行によって「追加的に発生する費用」をJR貨物は支払う。

こういう協定になっているのですが、これがアボイダブルコストルールと呼ばれるものです。

……という感じの説明がされることが一般的なのですが、わかりますか?
「よくわからん」という人が多いと思います。

アボイダブルコストルールのたとえ話


というわけで、今からたとえ話をしますので、イメージを掴んでください。

みなさんが、賃貸マンションを借りて一人暮らしをしているとします。

一人暮らし、いろいろカネがかかりますよね。
月々の家賃、管理費・共益費、賃貸マンションに住むなら火災保険への加入も必須。
そして、食費に水道光熱費、通信費などなど……。

ある日、一人暮らしをしているみなさんのところに、フリーターの友人が居候として転がり込んできました。
居候期間は1年の予定です。

こうなると、さすがにタダで居候させるわけにはいきませんよね。
友人にも、それ相応の費用負担を求めたいところです。

そこで、友人がフリーターであることを考慮し、アボイダブルコストルールで費用を負担してもらうことにしました。

この場合、アボイダブルコストルールとは、「友人の居候によって追加的に発生する費用のみを払えばよい」ということになります。

具体的に検証していきましょう。

家 賃


賃貸マンションに住んでいるみなさんは、月々の家賃を支払っています。
居候の友人に対しても、「少しくらい家賃を負担してもらいたいなー」と思ったとしましょう。

ところが、家賃を請求することはできません。
なぜかというと、「友人がいようがいまいが、家賃の額は同じだから」です。

友人がみなさんの部屋に転がり込んできたからといって、支払う家賃がアップするわけではないですよね。
今までと同じ額です。

つまり、家賃に関しては「友人の居候によって追加的に発生する費用はゼロ」。
ですから、友人は家賃を負担する必要はありません。

管理費・共益費、火災保険も同様です。
友人が居候しているからといって、支払う金額が変わったりしません。
したがって、友人は一円も支払う必要ナシ!

食 費


続いて、食費を見ていきましょう。

みなさんが一人暮らしをしていたときは月4万円だった食費が、友人が居候してからは、月7万円になりました。
この場合は、増えた分の月3万円を友人に支払ってもらえます。

友人がいないときは月4万円だったのが、友人の居候によって月7万円にアップした。
つまり、「友人の居候によって、追加的に3万円の費用が発生した」ので、その分を請求できるわけです。

インフラ関係


続いて、水道光熱費。

水道やガス、電気代って、「基本料金+使用量に応じた料金」みたいに“二段構え”になっていたりしますよね。
基本料金については、友人がいようがいまいが額は変わりませんから、友人に請求はできません。
使用量に応じた料金のうち、増加した部分のみ、友人は払えばよいのです。

最後に通信費。

みなさんは自宅でインターネットをするために、プロバイダー料金を毎月支払っていますが、それが定額プランだったとします。

もうおわかりでしょうが、友人には一円も請求できません。
定額プランですから、友人がインターネットをいくら使っても、追加費用は発生しないですからね。
全額みなさんが支払ってください。

貸主の“懐具合”が悪化すると揉める原因に


アボイダブルコストルールの具体例を見てきましたが、実はこのルール、次の一言で表現できます。

変動費の増加分だけを支払えばよく、固定費は払わなくていい。

なんとなくでもイメージが掴めたでしょうか?

さて、ここまで読めば明々白々ですが、居候の友人はメチャクチャ得をしてますよね。
家賃などの固定費は払わなくていい、自分の食費と少しばかりの水道光熱費だけを支払えばOKなのですから。

みなさんの収入が安定しているのであれば、アボイダブルコストルールは、まあ問題にはならないでしょう。

問題は、みなさんの収入が悪化したときです。

――居候が始まって半年後、みなさんの勤めている会社の業績が急に悪化。
給料が大幅ダウンしてしまい、月々のやりくりが赤字になってしまいました。

一方の友人、転職活動が実ってフリーターから脱却、上場企業に就職して月給50万円の身に!

……さて、この状況で、アボイダブルコストルールを続けられますか?

赤字に苦しむみなさんが家賃などを支払い、黒字化した友人は、家賃の一円も払いません。
みなさんは友人に、「少しは家賃を負担してほしいなー」と相談を持ち掛けますが、「いや、最初に決めたことだから」と友人は応じません。

……これって、絶対揉めませんか?

「いままで助けてやったのに、なんだその態度は!」くらい言いたくなりますよね。

アボイダブルコストルールのおかげで黒字


このたとえ話の「みなさん」と「居候の友人」が何に相当するか、おわかりでしょうか?

みなさん=JR旅客会社、居候の友人=JR貨物です。

そもそも、なぜ線路使用料の支払いが、このようにJR貨物にとって有利なものになっているのか?

国鉄分割時に、JR貨物は経営基盤が弱かったため、線路使用料の負担を少なくするための「救済措置」として定められたものです。
しかし、アボイダブルコストルールでJR貨物の負担が少なくなるということは、逆にJR旅客会社の負担が増えるということに他なりません。

もし、アボイダブルコストルールがなかったら、JR貨物は線路使用料の負担が大きくて、現在でもバリバリの赤字であるのは間違いありません。
つまり、アボイダブルコストルールのおかげで、JR貨物は黒字になっているといっていい。

赤字会社が黒字会社を支援する?


そして国鉄分割から30年、状況が変わってきました。
特に微妙なのが、JR北海道との関係です。

ご存知のように、JR北海道の経営状態は危機的です。
しかし、その状況でもアボイダブルコストルールは適用されています。
「赤字のJR北海道が、黒字のJR貨物を支援している」という図式なのです。

しかも、JR北海道管内では、貨物列車の走行率が比較的高い。
となれば、JR北海道としては、もう少し線路使用料を支払ってもらいたいわけです。

もちろん、JR貨物にも言い分があります。

「国鉄分割時に定めたルールでしょう。黒字や赤字という個々の都合で、いまさらルールを変えるのはおかしい」

まあ、正論ですね。

ただ、現在のJR北海道(やJR四国)の経営危機や、アボイダブルコストルールの恩恵でJR貨物が黒字になったことを考えると、そうしたスジ論だけではJR旅客会社は納得しないはずです。

さきほどのたとえ話でいえば、固定費を支払っていない友人が「俺の収支はバリバリの黒字。上場しちゃおうかなー」と言っているようなもの。
みなさんはそれを許せるのか、という話です。

JR貨物が上場しようと思ったら、この問題は片づける必要がありますが、絶対に揉めます。
ですから、JR貨物が上場するのは難しいというのが、私も含め、一般的な見方だと思います。

次回も引き続き、この問題について書きますね。

続きの記事はこちら 現行の仕組みはJR貨物にとって本当に有利なのか?