現役鉄道マンのブログ 鉄道雑学や就職情報

趣味で鉄道好きな人はもちろん、就職・転職等で鉄道業界に興味がある人もどうぞ! 現役鉄道マンが、鉄道の雑学や裏話を語ります。

現行の仕組みはJR貨物にとって本当に有利なのか?

おはようございます、現役鉄道マンのKYSです。

前回の記事では、「アボイダブルコストルール」について説明しました。

blog.kys-honpo.com



内容を簡単に振り返ると……

  • 自前の線路を持たないJR貨物は、JR旅客会社の線路を借りて貨物列車を走らせている。
  • 線路の借り賃として「線路使用料」を払う必要があり、その値段は「アボイダブルコストルール」で決められている。
  • アボイダブルコストルールとは、「貨物列車の走行によって追加的に発生した費用」のみをJR貨物が払うというもの。別の言い方をすれば、変動費の追加分だけを払えばよく、固定費は払わなくていい。


……というように、JR貨物は経営基盤が弱いため、優遇措置が取られているのである。
そんな感じの内容でした。

 

JR貨物にとってそんなに有利な条件なのか?


ところで、前回の記事を読んで、次のような疑問を抱いた人がいるかもしれません。

これって、JR貨物にとってそんなに有利な条件なの?

アボイダブルコストにしても、貨物列車の走行によって追加的に発生した費用――電気機関車が走るときに使った電気代とか、摩耗させたレールのメンテナンス費用とか――は、払ってもらえるんでしょう?

つまり、使った分はキッチリ払ってもらえるんだから、少なくともJR旅客会社は損はしないのでは?

JR旅客会社が損をしないのであれば、JR貨物が有利なルールとも言えないのでは。

そう考えた人、素晴らしいですね。
人の言っていることを鵜呑みにせず、自分の頭で考えたり、調べたりする。
「専門家の言っていることだから間違いない」と権威に寄りかかりがちな日本人に、もっとも欠けている姿勢ではないでしょうか。

それはともかくとして……こうした疑問を抱くのは当然ですから、解説しておこうと思います。

貨物列車が走る線路は高規格


まず結論から言えば、現行の仕組みは、やはりJR貨物にとって有利なものとなっています。

一つ目は、「線路規格」についてです。

貨物列車の特徴とは何でしょうか?

「旅客列車に比べて、非常に重いこと」です。

重た~い貨物列車は、走行時、線路に大きな負担をかけます。
「旅客列車だけが走る線路」と「旅客と貨物の両方が走る線路」って、明らかに傷み具合が違うんですよ。
その違いは一目瞭然なんです。

つまり、貨物列車が走る路線では、大きな負担に耐えられるよう、線路は丈夫な造りにしておかなければなりません。

もし貨物列車が走らず、旅客列車だけであれば、線路規格は“お手軽”なものにすることができます。
そうなれば、線路所有者である鉄道会社は、設備投資額を軽減することができます。

しかし実際には、貨物列車を排除することはできませんから、JR旅客会社は、線路規格を高度なもので設計・維持する必要があります。
言ってみれば、他会社(JR貨物)のために、お膳立てをしてあげているようなもの。

もし、こうした設備投資の固定費までJR貨物から徴収していたら、JR貨物は経営が成り立たなくなります。

線路使用料を「列車キロ」で計算している


JR貨物にとって有利な条件。
二つ目は、「線路使用料を車両キロではなく、列車キロで計算しているから」です。

「車両キロ」「列車キロ」という新しい単語が出てきましたが、とりあえず流して読み進めてください。



注意・以下の内容は、私の盛大な勘違いで間違った内容を書いてしまいました。追記にて修正がしてあります。】


最近は、都市圏において相互直通運転が一般的になっていますよね。
直通運転とは、「自社車両が他会社線に乗り入れること」です。
言い換えれば、自社車両が他会社の線路を借りて走行している。

したがって、線路の借り賃として、乗り入れ先の鉄道会社に線路使用料を支払う必要があります。
(実際には、相手の車両もこちらに乗り入れてくるのが普通なので、「相殺」で処理するわけですが)


2019年7月1日・修正のための追記
相互直通運転で発生するのは、「線路使用料」ではなくて「車両使用料」ですね。
相互直通運転でA社の車両がB社の路線に入っていくと、「B社はA社の車両を使って営業した」ことになるので、B社はA社に対して「車両使用料」を払います。
間違った内容を書いてしまい、誠に申し訳ございませんでした。】



線路使用料の計算には、「車両キロ」という数字を用いるのが一般的です。

ところが、JR貨物については、線路使用料の計算において、「車両キロ」ではなく「列車キロ」という数字を用います。

話が複雑になるので、車両キロと列車キロの定義については説明を省略しますが、簡単に言えば、「車両キロ > 列車キロ」という図式になります。

車両キロが200、列車キロが10、みたいにイメージをしてください。

つまり、本来200という数字で計算すべきところを、10という少ない数字で計算する。
そのため、算出される線路使用料の額が低くなり、JR貨物は高額な負担を免れることができる
のです。

JR貨物にとっては、有利な条件というわけですね。

従来のルールでは第三セクター鉄道が困る


このように、JR貨物とJR旅客会社の間では、JR貨物にとって有利な条件が揃っています。

しかし、それでは困るのが第三セクター鉄道

JR貨物の貨物列車は、JR線だけではなくて、一部の三セク鉄道にも乗り入れています。
たとえば、旧・東北本線を新幹線開業に伴って三セク化したいわて銀河鉄道・青い森鉄道


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旧・東北本線を三セク化した



ここは、北海道~関東を結ぶ大動脈。
毎日、たくさんの貨物列車が通っています。

三セク鉄道は経営的に苦しい会社が多いです。

重た~い貨物列車が通すために線路規格を高度なもので維持し、それでいて、少ない線路使用料しか貰えないのでは、とても経営が成り立ちません。
というわけで、新幹線開業に伴い三セク化される鉄道会社では、この問題を解決する必要がありました。

しかし、これが容易ではありません。

三セク鉄道は、「アボイダブルコストルールじゃ無理。線路をキチンと維持するためにも、線路使用料は高くしたい」と主張します。
JR貨物は、「従来と同じルールでやってもらわないと、こちらは損してしまう」と主張。

どちらの主張ももっともですが、カネのない会社同士がカネの話をしているのですから、解決は難しいですよね。

いったい、この問題をどう解決したのかっ!? ……については、次回に続きます。

続きの記事はこちら 第三セクター鉄道に支給される「貨物調整金」とは?