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花火大会の裏側 鉄道会社はどのような工夫をしているのか?

7~8月といえば、全国各地で花火大会が開かれますよね。鉄道会社によっては、臨時列車を増発して多客対応にあたります。

今回は、こういったイベント時の多客対応について、一般にはあまり知られていない話を書こうと思います。

ホームの容量オーバーを招くダイヤはNG

多客対応の基本は臨時列車の増発です。

「臨時列車って、定期列車と定期列車の間、とにかくダイヤがあいているところに走らせればいいんでしょ?」

それはまあそうなのですが、実際に臨時列車を設定するにあたっては、いろいろ細かい工夫がいります。

たとえば、イベント時ならばホームの容量は考えなければいけません。

花火会場の最寄駅ともなると、列車が到着するたびに、乗客がバーッと降りてホームがいっぱいになります。いっぱいになったホームから人波が消えるまでには、数分かかったりします。

こういった事情を考慮せず、まだホームに人がたくさん残っている滞留状態で、次の列車を到着させてしまうとどうなるか? ホームの容量がオーバー、平たく言えば、ホーム上に人が溢れすぎの状態になり、非常に危険です。

そのため、「ホーム上の人波が消えるまでに何分くらいかかるか?」を考慮したうえで、先行列車と後続列車の間隔を決めたりします。

ホームの滞留を防ぐ工夫は必須

花火が終わると、みんな一斉に帰って来るので、短い時間帯にお客さんが集中します。「行き」は比較的分散して乗車してくれるので、対応はそこまで大変ではありませんが、「帰り」はお客さんが集中するので大変ですね。

こういう場合は、臨時列車をできるだけ早くホームに入線させるのが対応策です。発車2分前よりも、発車5分前に入線させられるならば、そちらの方が絶対にいい。

なぜなら、列車がホームに到着すれば、車内にお客さんを収容できるので、それだけホーム上の滞留は減ります。つまり、より安全を確保することができるというわけ。

そういう事情まで考慮して、臨時列車のダイヤは設定されています。

あらかじめ遅れを吸収できるダイヤ設定にする

それから、ダイヤ設定上でできる工夫としては、臨時列車にあらかじめ遅れ吸収のための余裕時分を持たせる手法もあります。

毎年4月になるとよく起きる現象なのですが、通勤・通学に不慣れなお客さんが増えるせいで、駅での乗降に時間がかかることがあります。これが原因で列車が遅れることは珍しくありません。

花火などのイベント時にも、同じように駅での乗降に時間がかかることがあります。ですので、臨時列車のダイヤ設定については、もし可能であれば、あらかじめ遅れ吸収のための余裕時分を入れた方が安全ですね。

具体的には、要所の駅では停車時間を通常よりも少し長めにとっておきます。

「段落とし」のテクニックで乗務員の折り返し時間を確保

ここまでは「臨時列車ダイヤを設定するときの工夫」を見てきましたが、イベント時に円滑な輸送を行うためには、他にもいろいろと考えることがあります。

たとえば乗務員の動線

乗務員は、終点の駅に到着すると、折り返しのために反対運転台に移動します。しかし、イベントで列車が混むときには、この移動がけっこう大変です。

反対運転台に移動するときには、当然、ホームか車内を通りますが、イベントで混んでいるときにはホームや車内から人波が消えるまでに時間を要します。そのため、反対運転台までの移動に時間がかかってしまい、折り返し列車の発車が遅れることがあります。

そこで使われるのが、業界用語で通称「段落とし」と呼ばれる方法。簡単に言えば、乗務員は到着した列車での折り返しはせず、一本後の列車で折り返すのです。以下は図を使った説明。

↓① ホームには乗務員Aがスタンバイしておりf:id:KYS:20190721083336p:plain

↓② 折返し列車が到着したら、Aが反対運転台に乗り込むf:id:KYS:20190721083343p:plain

↓③ 乗務員Bはホームに降りて移動f:id:KYS:20190721083349p:plain

↓④ 折返し列車が発車f:id:KYS:20190721083358p:plain

↓⑤ 乗務員Bは次の折返し列車を担当f:id:KYS:20190721083404p:plain

以下ループ……という具合。こうすれば、反対運転台への移動時間をじゅうぶん確保できます。乗務員を二人一組で運用することで、折り返しに手間取って発車が遅れることを防げるわけです。担当列車を一本後ろにズラすことになるので、「段落とし」と呼びます。

鉄道会社ごとの事情に対応した策が必要

一口に「イベント対応で臨時列車を走らせる」といっても、いろいろな要素を考慮したり、工夫する必要があるのがなんとなくおわかりいただけたでしょうか?

もちろん、ここで紹介した対応策はあくまで一例で、鉄道会社ごとに事情は異なりますから、それに対応した工夫が必要になります。↓の関連記事もご覧ください。

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