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花火大会輸送 名古屋鉄道のウルトラC

7~8月といえば、花火大会の季節。前回の記事では、そうしたイベント時の多客に鉄道会社がどういう対応をしているか、少しだけ紹介しました。

今回の記事は、その続きです。

全国屈指の過密ダイヤ・名鉄名古屋駅

前回の記事でも触れたとおり、花火大会をはじめとしたイベント時には、臨時列車の増発で対応するのがセオリーです。しかし、ちょっと違った工夫で多客対応している会社もあります。愛知県・岐阜県を走る名古屋鉄道(以下、名鉄)です。

まずは、名鉄の路線図を簡単に示しておきましょう。

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名古屋駅を中心とした“放射状”路線

もちろん、これ以外にも支線はありますが、ここに示した路線が名鉄の幹線であって“骨格”です。

メインターミナルである名古屋駅を中心に、各地から列車が集まり、名古屋駅からまた各地に向けて列車が散らばっていく……。

そのため、名古屋駅付近の列車密度は非常に高いです。全国屈指のレベル。鉄道好きならご存知の方も多いでしょうが、名古屋駅付近では、昼間でも2~3分間隔という朝ラッシュ並みの高密度で列車が走っているんですよ。

過密ダイヤの下では臨時列車は走れない

この名鉄の運行形態が意味するところは何か?

「名古屋駅付近においては、臨時列車を増発するのが非常に難しい」ということです。

臨時列車とは、定期列車と定期列車の間、スキマがあるところに走らせるもの。しかし、本来なら閑散時間帯である昼間でさえ、2~3分間隔で列車が走っている名古屋駅付近。そんな過密ダイヤのところに臨時列車をねじ込むのは、かなり難しいわけです。
(まったく無理なわけではないようですが)

もちろん、名古屋駅から離れれば列車密度は低くなるので、臨時列車を走らせるのは難しくないでしょう。しかし、旅客乗降の需要があるのは名古屋駅でしょうから、名古屋駅を通らない臨時列車を設定しても、あまり意味がないはずです。

では、花火大会などのイベントで多客が見込まれる場合は、どうしているのか? 実際、名鉄沿線では、夏になると大掛かりな花火大会があるそうで。

「列車本数」を増やすのは難しい……。であれば、残された策は一つしかありません。

「一列車当たりの連結両数」を増やす!

つまり、「臨時列車の増発」ではなく、「定期列車の増結」で勝負するのが名鉄の基本戦略というわけです。

増結のために他線区の車両を「間引く」

「イベントのときは連結両数を増やす」と口で言うのは簡単ですが、これ、容易ではありません。「増結用の車両は、どこから持ってくるの?」という問題があります。

もちろん、どこの鉄道会社もある程度は「予備車両」を保有しています。しかし、あくまでも「ある程度」です。

まさか、イベント対応のためだけに、普段から必要以上の予備車両を保有しておくわけにもいきませんね。余計な設備投資になってしまいますから。

鉄道会社が保有する全車両のうち、どれくらいを予備車両として置いておけるかの割合。これを「予備率」と呼んだりしますが、この予備率、どこの鉄道会社でも昔より下落傾向のはずです。

では名鉄、増結用の車両はどこから調達してくるのか?

他の路線を走る列車から、車両を「間引く」そうです。

イベントと関係ない路線ならば、一日だけなら輸送力が多少落ちても問題ありません。そこを走る列車、たとえば普段は4両で走らせるところを、その日は2両で走らせる。浮いた2両をイベント輸送の増結に回す。

名鉄では、こうやって増結用の車両を調達することもあるそうです。

おそろしく面倒な間引き・増結作業

他線区から車両を間引いて持ってくる。読者のみなさんは、「へぇーそうなんだ、なるほどぉ~」くらいにしか思わないかもしれません。が、同業者の目線からすると、これは恐ろしく大変な業務です。

少なくとも、私は絶対に担当したくない(^^;)

普段は他線区を走っている車両を、イベント増結のために一時的に転属させる。ちょっと想像しただけでも、いろいろな課題があります。

いつ、どのタイミングで車両の間引きを始めるか?
あまり早すぎると、お客様に迷惑をかける。
遅すぎると、応援のための増結に間に合わない。
間引いて輸送力が落ちた路線、お客様への周知は?

他線区から車両を「持ってくる」わけですから、その際は臨時の回送列車として運転する場合もあるかと思います。
そのダイヤをどう設定する?
その臨時列車を運転する乗務員の手配は?

持ってきた車両を、たとえばどこかの車庫に置いておくとして、そのためのスペースはあるか?
そこに置いておいて、車庫内の他の作業を支障しないか?

増結作業はいつ行う?
その作業の影響で、他の列車の運行に支障は出ないか?
作業を担当する係員の手配は?

普段と両数が変われば、駅での停車位置も変わります。
関係するすべての乗務員に、そのことを手落ちなく伝達できるか?
そもそも、どの乗務員が関係し、どの乗務員は関係ないか、その洗い出しは?

駅ホームの電光掲示板には、列車の時刻や行先とともに、両数が表示されたりします。
普段と両数が変われば、当然、表示される両数も変更しなければならない。
そのためのデータはちゃんと入力してあるのか?
駅員にも、両数変更の情報を伝えてあるか?

そして、イベント輸送が終わった後に、どうやって元の形に戻すのか?

……という感じで、クリアすべき課題が山ほどあります。

車両増結は部署同士の作業調整が大変!

肝心なのは、こうした作業すべてが一つの部署でできるのではなく、いろいろな部署間での調整が必要になる、ということです。回送のための臨時列車のダイヤ設定、乗務員の手配、車庫での作業、すべて担当部署は異なります。

特に、車両増結の手配については、一つでもがあったら全体が破綻します。部署を越えたすべての作業に整合性を持たせ、手配漏れがないようにしないといけません。

針の穴を通すような、恐ろしく神経を使う話です。

名鉄の採用している「定期列車の増結」という方法が、いかに大変なものか、なんとなくでもおわかりでしょうか? ぶっちゃけ、「臨時列車の増発」の方が楽なはずです。いや、そっちもじゅうぶんに大変ですが。

イベント輸送は本当に難しい

花火大会などのイベントで、列車が混雑してイライラした経験、みなさんもあると思います。

「もっと臨時列車をたくさん出すか、両数を増やしてくれよ」
「めっちゃ混むのは最初からわかっているはずなのに、この程度の対応しかできないって、鉄道会社はバカ?」

そう感じた方もいるかもしれません。しかし、プラレールや鉄道模型みたいに、車両をたくさん増やして走らせてハイ解決、とはいかないのです。

現実の列車運行には、いろいろな要素が複雑に連動しています。一つでも足を引っ張る要素があると、それだけで制約がいろいろ発生します。鉄道会社は、さまざまな制約と闘いながらイベント輸送に取り組んでいるのです。

不満もたくさんあるでしょうが、「鉄道会社も大変なんだなぁ」くらいに生温かい目で見てください(笑)


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