昔よりも明らかに暑さが増している日本、もはやエアコンなしでは生きられない国になってしまいました。
今の若い人には信じられないかもしれませんが、大昔の鉄道車両には、エアコン(冷房)がついていませんでした。ついているのは扇風機だけだったんですよ。
今の時代、扇風機だけの車両なんぞ走らせようもんなら、車内で熱中症になる乗客が続出することは確実です。あ、でも非冷房車なんて、そもそも誰も乗らないですね。
冷房温度を「適正」に調整するのは難しい
乗務員が夏に苦労するのが車内の温度調整です。具体的に言うと、お客さんから「冷房が効きすぎて寒い」「冷房の効きが弱くて車内が暑い」という類の意見をもらうことが、必ずあります。
しかし、こんなことを言ったら身も蓋もないですが、これ、対策が難しいです。
暑い寒いの感覚は人によって違うので、乗客全員にとって快適な温度などありえないのです。ある人にとっては「寒い」と感じる温度でも、他の人は「暑い」と感じるかもしれません。
というわけで、「暑い」「寒すぎ」などと苦情を言っても、乗務員はその場で「申し訳ありません」と神妙にお詫びするだけで、温度を上げ下げする操作はあまり行わないと思ってください。温度を上げれば、他のお客さんから「暑い」と言われ、ならばと温度を下げれば「寒い」と言われる。
キリがないわけで、お客さんにはどこかで納得してもらうしかありません。
乗務員に対しては「車内温度の適正維持に努めるように」などと指示が出たりしますが、「適正ってなに?」といつも言いたくなります(笑)
もちろん、車内温度の調整について、まったく方針がないわけではありません。たとえば、ラッシュ等で車内が混雑する時間帯は、当然ながら冷房最大出力にします。しかし、そうでない時間帯は乗務員個人の“肌感覚”に頼るので、どうしてもバラつきが出ます。申し訳ないですが、そういうことで勘弁してください。
鉄道車両の冷房は家庭用よりはるかに強力
さて、鉄道車両に搭載している冷房は、どれくらいの性能なのでしょうか?
冷房の「能力」ですが、一般的な20m級の在来線車両で40~50Kwくらいです。
(冷房のカタログなどに書いてある○Kwという数字は、冷房の「能力」を示すもので、「消費電力」ではないそうです。この記事を書くにあたって調べて、私も初めて知りました)
冷房は各車両(1両)ごとに搭載されており、1両に1~2台を搭載することが一般的です。1両に1台しか載せていない場合(=集中式)は、その1台で40~50Kwをまかないます。1両に2台の場合(=分散式)は、1台あたり23Kwくらい。
……という数字を出されても、ピンときませんよね。というわけで、家庭用エアコンの数字と比較してみます。たとえば、ビッグカメラ公式サイトでの「エアコンの選び方」というページによると、
6畳用 2.2Kw
12畳用 3.6Kw
23畳用 7.1Kw
家庭用エアコンの能力はこういう数字になっています。23畳用のエアコンなんて、一般家庭ではあまり使わない大きなものですが、それでも鉄道車両用の冷房にはまったく及ばないわけです。
鉄道車両に搭載されている冷房が、いかに強力であるか、おわかりいただけたでしょうか。
冷房が故障すると特急料金は払い戻し!
最後に一つ、実際に役立つかもしれない知識を。
「特急列車が2時間遅れると、特急料金は払い戻し」
これは比較的よく知られた知識でしょう。この「2時間以上の遅延」の他にも、実は「特急車両の冷房故障」で特急料金が払い戻しになることがあります。
特急車両の冷房が故障した場合、他の車両に空席があれば、そちらに移っていただきます。ただ、他の車両が満席であれば無理ですよね。
そういう場合は、特急料金が払い戻されます。車掌から説明があるはずなので、ちゃんと聞きましょう。払い戻しを受けずに損をした、なんてことのないようにしてくださいね。
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