今回の記事は、↓の続き物です。
内容を簡単におさらいすると、
- 大雨が降った場合の運転見合わせは「雨量計の数値」で決まる
- 雨量計は数駅ごとに一つ設置されている
- 雨量計一つが数駅分の範囲をカバー。たとえば、A駅の雨量計が基準値に達したら、A駅~B駅間が運転見合わせ……のように区間が決まっている
- 大雨後には保線係員による線路点検をしてから運転再開となる
こんな感じの説明をしました。
ヘンな話 晴れているのに「大雨で運転見合わせ」!?
まずは一つ、実際にあったおもしろい(?)話を。ちょっと田舎、山の路線での話です。↓の図をご覧ください。
B駅に雨量計が設置されていて、仮にB駅の雨量計が基準値に達した場合、A駅~C駅間が運転見合わせになる。そういう設定です。
ある日、B駅周辺にてゲリラ豪雨(当時はそんな言葉はなかったですけど)があり、雨量計が運転見合わせの基準になりました。規定にのっとって、A駅~C駅間が運転見合わせに。
ところが……お隣のA駅・C駅の天気は、なんと快晴!
山の天気って、たまにこういうことがありますよね。ピンポイントで雨が降って、そこ以外は普通に晴れている、みたいな。
それから、田舎(山)の路線って、駅間距離も長いですよね。都会みたいに、1㎞ごとに駅があるわけではない。そのため、なおさら駅によって天気が全然違うという事態が起きやすいわけです。
快晴のA駅・C駅に、大雨という理由で足止めされた列車。乗務員は快晴の中、「ただいま大雨により運転を見合わせております」というアナウンスをする羽目になりました(笑) 列車に乗っているお客さんは、「???」という感じだったのではないでしょうか。
ついでに言っておくと……
大雨により運転見合わせになると、線路点検をした後でないと運転再開できません。というわけで、このときも(当然)線路点検をしたわけですが、快晴で雨が降っていなかった箇所についても点検をする羽目になったそうです。
数駅ごとの雨量計設置では「目が粗い」
ある駅に雨量計を設置して、その雨量計で数駅分の範囲をカバーする。こうした従来からの拠点駅方式だと、上で書いたような笑い話が実際に起きるわけです。
また、笑い話では済まない危険もあります。先ほどの話の路線図を再度示します。
B駅の雨量計がアウトになったら、A駅~C駅間が運転見合わせになるんでした。逆に言えば、B駅の雨量計さえセーフならば、運転見合わせにはなりません。
たとえば、A駅にピンポイントで1時間に100ミリの雨が降ったとしても、B駅の雨量計は感知できませんよね。したがって、A駅ではフツーに列車が走れてしまうわけで、これは危険です。
ようするに、雨量計と雨量計の間を“すり抜ける”ような雨に対しては、お手上げなのです。
従来からの“拠点駅方式”の欠点を一言でいえば「目が粗い」。理想をいえば、雨量情報を観測する地点をもっと増やし、キメ細かく雨の情報を収集する。そうすれば、大雨が降った区間だけを運転見合わせにし、雨が降っていない区間は列車の運転を継続できるとか、そういうことが可能になります。
また、先ほど書いたような、大雨が降っているのに運転見合わせにならないという危険な事態も避けられます。線路点検も雨が降った部分だけに絞ることができます。
いちばん簡単なのは、雨量計の設置数を増やすことです。が、実際にはそう単純な話ではありません。コストの問題や関連設備の改修、はたまた運用面が複雑になるなどの問題があります。
気象予報ビジネスとの連携で情報の精度向上
現在でも、鉄道会社は気象情報の収集にそれなりの力を入れています。たとえば、大きな鉄道会社なら、指令室には気象庁からの情報が直通で入るようになっています。(小さな鉄道会社でもそうなっているかもしれませんが、ちょっとわかりません。申し訳ない)
しかし、今後は気象情報の収集にもっと力を入れる鉄道会社が出てくるはずです。
近年は、気象予報ビジネスの規模が拡大しています。有名どころはウェザーニューズ。こういう気象予報会社って、ピンポイント予報をしてくれるらしいですね。「○○市の天気」みたいに大雑把ではなく、「○○施設の上空の天気は?」という具合で。ようするに、オーダーメイドで天気予報をしてくれるわけです。
こうした気象予報ビジネスと契約して、鉄道沿線の天気情報をピンポイントで拾う。これによって、大雨による運転見合わせ区間を柔軟に設定できるようになれば、上の話のように晴れている区間まで運転見合わせ、という無駄がなくなるわけです。
また、雨量計と雨量計の間をすり抜ける雨を拾うこともできる。線路点検も、大雨が降った部分にだけ絞ることができる。ようするに、安全面と効率面の両方が向上する。
現行の方式を急に変えるのは難しいので、5年くらいのスパンでは実現しないでしょうが、大手の鉄道会社ならば、10~20年後くらいには、そのような形が実現しているのではないかと思います。世の中の技術革新や新興ビジネスが、鉄道の安全向上にも結びついていく一例ですね。