みなさんご存知かと思いますが、昨日(=2019年9月5日)、京浜急行電鉄で脱線事故が発生しました。踏切内で立ち往生したトラックに、列車が衝突して脱線。トラックの運転士は死亡、乗客にも多数のケガ人が出ました。
今回の記事では、この事故について、私の考えるところを書きます。
鉄道会社だけでは安全は守れない 国民も理解と協力を
今回の事故を受けて、鉄道各社は安全に対する取り組みを見直すことになると思います。事故の振り返りを行うことで、鉄道の安全は発展してきましたから、取り組みを見直すことは絶対に必要です。
しかし、鉄道会社が頑張るだけではダメなのです。
以前、こちらの記事でも書きましたが、みなさんにどうしてもわかっていただきたいので、もう一度書きます。
鉄道の安全対策とは、鉄道会社だけで完結できるものではない。国民全体の理解と協力が必要である。
もちろん、「鉄道会社が何をするか?」が安全対策の柱であることは間違いありません。ですが、その観点だけでは真の安全は達成できません。
たとえば、歩きスマホをしながらホームを歩いていて線路に転落した。この事故を「鉄道会社の安全対策がなっていない」と責めるのは適切でしょうか?
車で踏切を渡る際、渡った先は渋滞していて車の入るスペースがなかった。しかし、そのことを確認せずに踏切に乗り入れてしまい、踏切内で立ち往生。そこに列車が突っ込んできて衝突した。
(トラックでこういう事故がよくあります)
これも、車側が交通ルールを遵守していれば防げる事故です。
なんだか、「鉄道会社は悪くねぇし」みたいに開き直っているように聞こえるかもしれませんが、そうではありません。
国民全体が正しい知識・取扱いを知り、「安全は鉄道会社任せにするのではなく、自分たちも気を付けなければいけない」との意識を持つことで、防げる事故がたくさんあると言いたいのです。
- ホームでは歩きスマホをしない
- 泥酔状態でホームを歩かない
- きちんと線の内側を歩く
- 踏切の警報機が鳴り始めたら、渡るのはあきらめる
- 踏切を渡った先に、車が入れるだけのスペースがあることを確認してから、踏切を渡る
- やばいと思ったら躊躇せずに非常ボタンを押して列車を止める
この記事を読んだみなさんは、ぜひ守ってください。私からの真剣なお願いです。
「再発防止」のために報道機関に頑張ってほしい
事故が起きた際に一番大切なのは、再発防止です。
私の個人的な願望ですが、テレビや新聞などの報道機関は、もう少し再発防止という観点から報道してほしいなと思います。
鉄道会社側の安全対策がどうこうを論じるのは、大いにけっこうです。しかし、それだけだけではなく、私が上で書いたような「国民全体の理解と協力が必要」ということも併せて知ってほしい。それを、テレビや新聞を通して世の中に発信することで、再発防止に役立ててほしい。
しかし、そうした観点で報じるメディアはほとんどない印象です。
私がこんな弱小ブログでいろいろ書くよりも、再発防止に100万倍効果があるはずなんですが……。
報道機関は鉄道の素人なので仕方ないというのなら、ニュースやワイドショーなどに呼ばれて喋っている専門家の方に頑張ってもらいたいと思います。
京急を責めるのは筋が違う
それから、今回の事故の報道には少し違和感がありました。「安全のための高架化事業が進んでいない」「120㎞/hもの速度で走っている」のように、「京急が悪い」みたいな雰囲気が出ていた報道が一部にあったからです。
(あくまで私の主観ですが)
しかし、今回の事故に関して、あくまで京急は被害者です。京急を責めるのは筋が違うでしょう。
もし今回の事故で、
- 踏切の障害物を検知する「障害物検知装置」が正常に動作しなかった
- 異常を知らせる信号を運転士が見落とした
- 異常を知らせる信号を見たにもかかわらず、運転士がブレーキを掛けなかった
- そもそも、運転士が定められた最高速度以上で走っていた
こういう事実があれば、京急側の過失ということもできますが、この記事を書いている2019年9月6日現在では、こうした事実は確認されていません。少なくとも、決められていたことをキッチリやっていたならば、京急を責めるのはお門違いです。
自動ブレーキではこの手の事故は防げない
今回の事故を受けて、「自動ブレーキを導入すべきでは」と主張する専門家もいます。
京急の現行の仕組みを説明しておくと……
踏切の障害物検知装置が動作した際は、異常を知らせる信号が表示されます。しかし、それで列車が自動で止まってくれるわけではありません。あくまで、「異常を知らせる信号を見た運転士が、手動でブレーキを掛ける」という形なのです。
つまり、「手動操作ではミスがありうる。だから自動ブレーキにするべきでは」という主張ですね。
自動ブレーキ、おおいにアリでしょう。運転士のブレーキ操作が遅れたり、そもそも異常を知らせる信号を運転士が見落とす可能性もあるので。ヒューマンエラーを防ぐ意味では、自動ブレーキは有効だと思います。というか実際、自動ブレーキのシステムが備わっている鉄道も少なくないですし。
ただ、自動ブレーキを搭載すれば、今回のような事故が防げるわけではありません。
極端な例ですが、列車が踏切まであと100メートルという地点で、踏切内に車が突っ込んできた。これはもう、どうやっても衝突は免れません。ブレーキが自動だろうが手動だろうが、関係ないですよね。
このように、自動ブレーキがあってもダメなときはダメです。「自動ブレーキがあれば安全」と思っていると、間違った議論になってしまうので、気を付けてほしいと思います。
ハッキリ言ってしまえば、ブレーキの自動・手動は、今回の事故の本質的な問題ではないというのが私の意見です。
車外に脱出する際は「触車」と「感電」に注意しよう
最後に、安全のために読者のみなさんに知っておいて欲しいことを書きます。今回の事故のように、列車から脱出しなければならない事態に遭遇したときの注意点です。
基本的には、勝手に脱出したりせず、乗務員などの指示を待ち、それに従ってください。
ただ、火災が発生したなどの事情で、乗務員の指示を待つ暇がないような緊急事態があるかもしれません。その場合は勝手に脱出するのもやむを得ませんが、注意点が二つ。
- 線路に降りるときは、他の列車が突っ込んでこないか注意する
- 感電しないために、車体には不用意に触れない
注意① 線路に降りるときは他の列車が来ないかを見る
一番怖いのは、脱出した旅客が線路上に降りたところに、他の列車(対向列車)が突っ込んでくることです。
事故が起きた列車の運転士は、「列車防護」という措置を行なって周辺の列車を停止させます。ですので、旅客が線路に降りたところに他の列車が突っ込んでくることは、普通はありません。
ですが、何かの間違いが起きないとも限らない。
そのため、線路に降りるときには、他の列車にはじゅうぶん注意してください。昼間はいいかもしれませんが、夜は見にくいので。
注意② 感電を避けるため車体には触れない
もう一つ、感電を避けるために、車両には不用意に触れないこと。
通常、架線を流れている電流は、車両のパンタグラフから取り込まれて、モーターへと伝わります。車体に触れても感電することはありません。
ですが、今回の事故のように電柱が倒壊したり、架線が切れて垂れ下がったり、車両が傾いたりとなると、架線の電流がどこをどう伝わっていくかわかりません。何かが媒体となって、架線の電流が車体に流れ込む可能性もゼロではないのです。在来線の架線電圧は通常1500ボルトですから、感電すればアウトです。
今回のようなレベルの事故が起きれば、架線への送電はストップされるので、普通に考えれば大丈夫なのですが……。しかし、やはり何かの間違いが起きないとも限りませんので、気を付けてください。
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