まず、2019年台風19号で被災された方にお見舞い申し上げます。そして、台風対応に当たったみなさん、本当にお疲れ様です。
私も台風対応で忙しかったですが、なんとか無事に収束して帰ってきたら、新幹線がトンデモないことになっていました。
みなさんご存知だと思いますが、新幹線車両・E7系および同型のW7系が水没したというもの。台風による河川氾濫で、長野にある車両基地が浸水し、そこに置いてあった車両10編成が床下まで水に浸かってしまいました。
E7系・W7系は北陸新幹線等に使われており、全部で30編成あるそうですが、うち10編成が水没。車両の3分の1が使えなくなったわけです。
この記事を書いている2019(令和元)年10月13日現在、北陸新幹線は運転を見合わせており、復旧の目途はたっていません。
水没した機器はおそらく廃棄では……
水没車両の今後ですが、水が引くのを待ってから車両機器を取り外し、機器を水で洗浄→乾燥→動作試験→取付→試運転走行……という措置が必要になると思われます。すべての車両の処置を終えるまでに時間がかかるのは、容易に想像できます。
さらに、洗濯物ならいざ知らず、機械は乾燥させれば元に戻るというシロモノではありません。おそらく、試運転まで漕ぎつけたとしても、故障ゼロで走行試験完了とはいかないのではないでしょうか。
高速運転を行う新幹線では、少しの誤りが大事故につながる可能性があります。ちゃんと動いてくれるかどうかアヤシイ機器類を使うのは怖すぎる。私の勝手な予想ですが、水没した機器は廃棄し、すべて交換することになると思います。
そうなるとさらに時間がかかりますから、北陸新幹線は長期間にわたって運休、または間引き運転を強いられます。
なんとかならないのでしょうか? たとえば、↓のような対策はできないのでしょうか。
- 残りの20編成をフル回転して穴を埋める
- 東北新幹線など他線区を走っている車両を回す
残りの20編成をフル回転して穴を埋められないか?
30編成中、20編成は水没を免れていますから、この20編成を馬車馬のようにこき使って通常運転はできないでしょうか?
これはハッキリ言って無理。
車両の3分の1が使えなくなったというのは、軍隊でいえば、戦闘継続不可能レベルの壊滅的被害なのです。
たとえば、鉄道車両には検査があります。「○日以内に一回」とか「○○㎞走行する前に一回」というように検査基準があります。
(専門用語では「仕業検査」「交番検査」「列車検査」「月検査」などと呼びます)
これは規定で決まっている検査なので、省くことはできません。
この検査があるので、車両には「休日」が絶対に必要なのです。「休日」が発生するのを織り込んで、必要な編成数は何本、と決めています。人間だったら「いま人手が足りないから」という理由で休日の社員を駆り出しても問題ないかもしれませんが、鉄道車両ではそうはいかないのですね。
こういう事情があるので、3分の1もの車両が使えなくなった時点で、ダイヤに穴が開くのはどうやっても避けられません。
また、「検査をどこで行うか?」という問題もあります。
水没した長野新幹線車両センターは、車両を置いておくだけではなく、検査も行う施設です。そこが水没したのですから、検査のしようがありません。たとえ水が引いたとしても、検査するための機器が水没して壊れているかもしれませんし……。
北陸新幹線には、JR西日本が管轄する金沢エリアにも車両センターがあり、そこでも検査ができるようです。しかし、いままで長野と分担して行なっていた検査をすべて金沢でやれとなったら、とても手が回らないでしょう。
仮に金沢ですべて検査できるとしても、長野で検査するはずだった車両を金沢まで回送しなければいけません。その分だけ余分な走行距離が発生するので、「○○㎞走行する前に一回」という基準に引っ掛からないよう、早めに検査に入れる必要があります。そうすると、やはり旅客列車ダイヤには穴が空くでしょう。
回送のための臨時列車ダイヤをどう組むか、乗務員の手配をどうするかなどの問題もあります。
東北新幹線など他線区を走っている車両を回せないか?
案その2。
東北新幹線などで使用している車両を北陸新幹線に回せないか?
これも無理ですね。一口に新幹線といっても、車両によってスペックや搭載している機器類が異なります。それによって、「走行可能な路線」と「走行不可能な路線」があるのです。
極端なたとえですが、非電化区間に電車は入れないのと同じです。
北陸新幹線は特殊な路線です。急な勾配があったり、交流電源の周波数が途中で変わったりします。水没したE7系・W7系は、そうした条件に対応できる車両ですが、おそらく他の車両は対応できません。ですから、東北新幹線などで使われている車両を北陸新幹線に回すのは無理です。
(元々長野新幹線を走っていたE2系などはともかくとして)
百万歩譲って、車両の問題を解決できても、運転士の問題があります。
運転士というのは、その会社に所属するすべての車両を運転できるわけではありません。教習を受けた車両しか運転できないのです。
北陸新幹線を担当する運転士全員が、「俺は東北新幹線や上越新幹線を運転した経験もあるから、どの車両でもいける」ならよいのですが、それはありえません。北陸新幹線はJR東日本と西日本が共同で運行していますが、JR西日本の乗務員はE7系・W7系しか運転経験がないはず。新規に教習を行う必要がありますが、座学だけではなく、実車での試運転走行も必要ですから、簡単な話ではありません。
在来線を使った代替ルートは確保できないか?
車両の都合がつかない以上、残念ながら当分の間、北陸新幹線の運休または間引き運転は必至です。
そうなると、代替ルートを確保できないのか? と考える人もいるでしょう。たとえば……かつて首都圏と北陸地方を移動する際にははくたかという特急を使うのが一般的でしたが、その特急を一時的に復活させられないか? とか。次回は、そのあたりについて考察します。
続きの記事はこちら E7系・W7系が水没 はくたかルートの復活はあるか?