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北陸新幹線水没 年末年始の混雑はどう凌ぐ?

台風で10編成が水没し、暫定ダイヤでの運転を余儀なくされている北陸新幹線。前回の記事では、「ギリギリの車両でどうダイヤを回しているのか?」について考察しました。

そして2019年11月1日から、暫定ダイヤでの運転本数がさらに増えました。上越新幹線用で運用していたE7系、および新造車両を回すことで本数増を実現した模様です。これによって、北陸新幹線の暫定ダイヤが一段落した感じです。

混雑する年末年始の対応はどうする?

しかし、約2ヶ月後に大きな課題が迫っています。「年末年始の輸送をどう乗り切るか?」です。

JR東日本・西日本としては、迂回ルートを推奨したいところでしょう。東京~(東海道新幹線)~米原~(北陸本線)~金沢……というルートです。米原~金沢間を走る特急「しらさぎ」は、最大限の増発・増結がなされると思います。

しかし、東海道新幹線や「しらさぎ」も年末年始はパンパンですから、北陸新幹線の乗客を迂回させる余裕がそうあるとも思えません。となると、やはり「北陸新幹線の輸送力をどこまで回復できるか?」が重要になってきます。

年末年始期間に検査を発生させないように調整する

普通に考えれば、年末年始に輸送力をマックスに確保する方法は一つしかありません。「全編成を馬車馬のごとくこき使う」です。

前提条件として、まず、鉄道車両は検査を行う必要があります。「○日以内に一回」または「○㎞/h走行する前に一回」といった検査基準が存在します。これは規定で決まっている検査なので、省くことはできません。

この検査のために、車両には必ず「休日」を与える必要があります。車両の検査場には、毎日、どれかの車両が検査のために入線しているのですね。

そのため、“手持ちの駒”をすべて営業列車として投入することは、通常あり得ません。

前回の記事では、「E7系・W7系の使用可能20編成のうち、暫定ダイヤを回すために使用しているのは17編成ではないか?」と考察しました。この例でいえば、20編成のうち、17編成が営業列車として走り、3編成は検査場にいるわけです。

しかし、もし年末年始に最大限の輸送力を確保しようと思ったら、3編成を遊ばせておく余裕はありません。“手持ちの駒”をすべて営業列車として使いたいのです。そのためには、「年末年始のピーク期間中には、検査を発生させない」ことが必要です。

年末年始のピーク期間中には、検査を発生させないようにする。そんなことが可能でしょうか?

年末年始前に車両検査をやりまくって備える

あくまで机上の理論ですが、できないことはありません。

ようするに、「年末年始が始まるギリギリ前」に、全編成の検査を済ませておけばいいのです。そうすれば、年末年始期間中に「○日以内に一回」または「○㎞/h走行する前に一回」という検査基準に引っ掛からず、全編成を走らせ続けることができます。それによって、遊んでいる車両をゼロにして、最大の輸送力を確保するわけ。

実際、ウチの鉄道会社でも、年末年始の数日間は検査担当の部署が縮小体制になるので、年末年始前に検査の本数を増やすことをやってるみたいですし。

また、どうしても年末年始期間中に検査が発生する場合は、営業時間終了後に検査場まで回送して、夜中に検査を行うとか。検査担当社員や回送列車を運転する乗務員をこき使えば、理論上は可能でしょう。

「年末前」と「年始後」に運休が発生してしまう?!

……と口で言うのは簡単ですが、現実的にこれは非常に難しい。

「年末年始が始まるギリギリ前」に全編成の検査を済ませておけばいい、と書きましたが、そのためにはたくさんの編成を検査場に送り込む必要があります。そうなると、営業列車に使う編成の頭数が足りなくなり、運休が発生します。

また、「年末年始が終わった後」には、どの車両も検査期限切れ目前の“満身創痍”になっていますから、やはり検査場送りが続出します。やっぱり頭数が足りなくて運休、という事態は避けられません。

早い話、年末年始を乗り切るために、その前後を犠牲にするわけ。

もしそのような非常手段をとる場合、ダイヤの調整や、運用計画の策定も大変です。「年末前」「ピーク期間中」「年始後」の3パターンのダイヤを作る。車両や乗務員の運用計画も複雑になります。指定席の予約業務など、営業面でもメンドクサイ。

この手の調整や計画は、一つでも穴があくと全体が破綻します。99%ではダメで、100%が求められるのですが、そのためには恐ろしい労力が必要です。

そして、検査を担当する社員も連日の激務は必至。昼間に加えて、仮に夜中にも仕事をしなければならないとなったら死ねますね。

輸送力減少がダイヤ乱れにつながらないか心配

実際にこうした非常手段までとるかどうかは不明ですが、年末年始ですから、多少の無理をしてでも列車本数を確保するとは思います。が、とにかく車両が足りない以上、輸送力を増やすのには限界があるのです。

2019年11月1日開始の暫定ダイヤから、そう本数は増えないのではないでしょうか。

輸送力が不十分な状態で年末年始を迎えた場合、心配なことが一つあります。「車内に乗客がパンパンになりすぎて乗降に時間がかかり、列車が遅れないか」ということです。

みなさんは、2019年10月12日の台風時に、東海道新幹線が計画運休したのは覚えているでしょうか?

台風襲来の前日に「明日は計画運休します」と発表されると、計画運休が始まる前になんとか目的地に行こうとした乗客が駅に殺到し、どの列車も満員になりました。車内はパンパンですから、駅での乗降に非常に時間がかかり、どんどん列車が遅れていく。駅での乗降に時間がかかったせいで、ダイヤ全体に60~70分の遅れが生じるという、ひどい事態になりました。

今回の北陸新幹線の場合は、あらかじめ列車本数減がわかっているので、他の交通機関を使う人も多いでしょう。ですから、東海道新幹線の計画運休のときのように、北陸新幹線がパンパンになることは考えにくい。それに、もともと東海道新幹線と北陸新幹線とでは、利用客の数も違いますしね。

ただ、万が一北陸新幹線のダイヤが乱れると、東北・秋田・山形・上越新幹線にも影響します。ただでさえ年末年始のギリギリのところでダイヤが乱れると、帰省・Uターンラッシュが大混乱することは必至です。

そうならないよう、JR東日本・西日本は知恵を絞っているはずですが、どういう対策が打ち出され、そしてどういう結果になるかが気になるところです。

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