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南海電鉄での脱線事故 プラレールで原理を解説

突然ですが、まずは動画をご覧ください。プラレールを使った脱線の実験です。時間は10秒ほど。

なんじゃこの脱線? と思うでしょうが、現実の世界でも、これと同じような事故が起きることはあります。脱線というと、高速すぎてカーブを曲がり切れずに飛び出す……みたいなイメージが強いかもしれませんが、それとは全然違う形の脱線です。

2022(令和4)年5月27日、南海電鉄の車両基地で脱線事故が発生しました。どうやら、この動画に近い形の脱線だったようです。今回の記事では、こうした事故の起きる原理を説明します。

南海電鉄での脱線事故 概況

南海電鉄で起きた脱線事故、公式発表によると、以下のような流れとのこと。

運転士が赤信号を見落として発車。正しい方向に切り替わっていないポイントに、誤って進入した。その後、ミスに気付いた運転士はバックして元の位置に戻ろうとしたが、その過程で脱線が起きた。

まず赤信号を見落として誤進入。その後、ミスを帳消しにしようとして勝手にバックしたところ脱線。つまり、二重のミスがあったということです。

うーむ、最初のミス(=赤信号を見落として突っ込んだ)の後に冷静になって正しい処置をしていれば、脱線までは至らなかったと思いますが……。

赤信号を見落としてポイントに突っ込んでもセーフの場合

ただし、赤信号を見落として(無視して)突っ込んだら、必ず今回のような事故が起きるわけではありません。たとえば↓図を見てください。

いま、赤信号を見落として発車した列車が、ポイントに突っ込んでいくところです(=左から右に向かって動いている)。この後、何が起きるかというと……

ポイントに導かれて、列車は左に曲がっていくだけです。別に脱線したりはしません。バックすれば、元の位置に戻ることも可能でしょう。

もう一例。今度はポイントが直進方向になっています(↓図)。

赤信号を見落として発車した列車、このままポイントに進入したら何が起きるかというと……

ポイントの方向通りに列車が直進するだけです。やはり脱線事故は起きません。

進入する方向が違うとどうなる?

今度は、逆方向から列車を進入させてみましょう。↓図では、赤信号を見落として突っ込んだ列車に、何が起きるか?

はい、やっぱり何も起きません。列車はポイントに導かれて直進していくだけ。

事故になるケースとは? ポイントが開通していない状態

え~、なにィ? 赤信号を見落としてポイントに突っ込んでも、全然事故は起きないじゃん。そう思った人──本題はここからです。↓図ではどうなるでしょうか?

ポイントが列車を導く方向になっていないのが、おわかりでしょうか? これが「ポイントが開通していない」という状態です。

あ~ ポイントの方向が違う!

専門用語では、この状態を「ポイントを割り出す」と呼びます。

ただ、ポイント割り出し = 即脱線とまではいかないです。車両重量があるので、勢いそのまま先へ進みます。そして、通過時におそらく異常な音が出まくります。異変を感じた運転士はブレーキを掛けて列車を止めます。

たぶん、こういう形で列車が止まると思います。運転士、めっちゃ動揺する。まさか信号は赤だったのか? 間違えて突っ込んだ? バックして元の位置に戻らなければ。

この状態から元の方向へバックする(=右へ動く)と、どうなるか? それが冒頭の動画です。

別々の方向──右の車両は元の直進側・2両目はポイント左側──に進むことによって、編成全体がねじれて脱線しました。俗に泣き別れと呼んだりする現象です。なお、同じ車両で「前の車輪」と「後ろの車輪」が泣き別れを起こすというシチュエーションもあります(↓図)。

このまま右へ動くと、二つの車輪が別方向へ行ってしまう

南海電鉄での脱線も、今のところ、これに近い形で起きたと推測されています。今回発表されているシチュエーションで、最終的にああいう“脱線姿”になるのか、ちょっと疑問に思わない部分もなくはないですが。

いろいろな鉄道会社で同種の事故は起きている

ところで、この実験に使われているプラレール、どうしてJR西日本の車両(225系)なんだ? と思った人。いや、別に他意はないです。南海電鉄のプラレールは持っておらず、手に取ったのが、たまたま225系だった

……と言いたいのですが、実はJR西日本でも、2019(平成31)年4月に同種の脱線事故が起きています(→和歌山県御坊駅での脱線事故)。そういう事情があったので、この車両を使わせてもらいました。嫌味っぽく感じるかもしれませんが、勘弁してください。

近年では、南海電鉄・JR西日本以外でも、2016(平成28)年に九州の平成筑豊鉄道で同様の脱線事故が発生しています。よくある……とまでは言いませんが、決して珍しい事故ではないのですね。

先ほど少し触れましたが、この手の脱線は二重のミス──赤信号を見落とした + 失態を取り繕おうとして不用意にバック──によって引き起こされます。いや、急いでバックしたくなる気持ちはわかるんですよ。リカバリーしたいという……。

しかし、そこで今回のように傷口を広げてしまうか、それとも冷静に対処して最小限のダメージで抑えるか。その分かれ目が、こうした過去事例を知っているかどうかだったりします。

ちなみに私は、列車の運行管理を行う指令という部署で働いています。この手の赤信号行き過ぎ事件(=専門用語では「停止信号を冒進した」と呼ぶ)が起きた場合、今回のようにポイントへ誤進入している可能性があるため、動かす指示を出す前に、位置関係は絶対に確認するよう指導されています。

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