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経営危機の鉄道会社を救う必殺技 「DES」ってなに?

毎年赤字だ赤字だと騒がれながら、なんやかんやで潰れない鉄道会社。特に、第三セクター鉄道でそういう会社が多い印象ですね。もちろんそれは、沿線自治体(県や市)などがカネを注入したりしているからですが。

沿線自治体によるカネの注入というと、補助金交付や赤字の穴埋めをイメージします。しかし実際は、他にもやり方があります。

みなさんはDES(デット・エクイティ・スワップ)という手法をご存知でしょうか? 経営危機の鉄道会社を救済するために、このDESが使われることがあります。

ラーメン屋開業で学ぶ決算書の基礎

今回の記事では、DESという手法について説明しますが、ようは会社のカネに関する話です。どうしても決算書を避けて通れません。決算書アレルギーの人もいるかもしれませんが、やさしく説明するので大丈夫です。

まずは基本のキから。
(※貸借対照表、資産・負債・純資産を知っている方は読み飛ばしてOK)

みなさんが脱サラしてラーメン屋を開くとしましょう。最初にしなければいけないことは何でしょうか?

カネを集めることですよね。カネがなければ何も始まりません。

開業に必要な金額は1,000万円です。サラリーマン時代からコツコツ貯金していたため、みなさんの手元には700万円があります。

足りねぇ。ということで、銀行から借金しましょう。無事に300万円を借りることができ、これで1,000万円が集まりました。

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開業資金1,000万円の内訳

次にすることは何でしょうか?

集めた1,000万円を使って、ラーメン屋を作ることです。店舗を借りる。厨房設備を整える。もちろん、ラーメンを作るための食材も買わなければいけません。

そして、おそらく1,000万円すべてを使い切ることはなく、いくらかは「現金」という形で残しておくと思います。つまり、現金という「モノ」を購入したとみなせば、集めた1,000万円は必ず何らかのモノに姿を変えます。言い換えると、「開業資金1,000万円」と「店舗・厨房設備・食材・手元現金などのトータル金額」は絶対に一致するわけ。

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左右は必ず一致する

↑の図では、開業資金1,000万円を「自分の貯金700万円」と「銀行からの借金300万円」に分けて表示してあります。

ここで問題ですが、「自分の貯金700万円」と「銀行からの借金300万円」の違いは何でしょうか?

一言でいえば、「返済義務があるかないか」です。

「自分の貯金700万円」は、誰にも返す必要はない。対して「銀行からの借金300万円」は、当然ですが銀行に返済しなければいけません。返済義務がないカネ・あるカネの違いというわけです。

ちなみに、株式会社を設立する際は、出資者からカネを集めますよね(=それと引き換えに株式を渡す)。この出資者から集めたカネも「返済義務のないカネ」です。「会社が倒産したら株式は紙クズになる」とか言われますが、それは出資したカネには返済義務がないからです。

ここで会計用語が登場。「返済義務がないカネ」を純資産と呼び、「返済義務があるカネ」を負債といいます。ついでに言っておくと、店舗・厨房設備・食材・手元現金などの「店の財産」は、資産と呼びます。

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はい、これで決算書の一つ・貸借対照表の完成です。「どういう形でカネを集めて → それを何に使ったか」の内訳を示した表というわけですね。

なお、貸借対照表はBSとも呼びます。Balance Sheetの略です。表の左右の金額が一致、つまりバランスしているからそう呼ばれるのだと思います。

これで基礎知識の説明は完了です。

開業したけど客が入らず赤字 苦しい経営

みなさんは、無事にラーメン屋を開業させました。提供するラーメンは、オリジナルの鮎の煮干し・鹿児島県産黒豚の豚骨・比内鶏のガラなどでスープを取り、醤油ダレや麵にもこだわった絶対の自信作です。これに比べれば、巷にあふれるラーメンなどは“エサ”としか言いようがない。

ところが、お客さんが全然入りません。経営はどんどん苦しくなっていき、預金通帳の残高も減っていく。それでも頑張って銀行には毎月返済を続けていたのですが、ついに崖っぷちに追い込まれました。

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経営が行き詰まり汗ダラダラのラーメン屋店主(『ラーメン発見伝』番外編「スープが冷めた日」より抜粋)

こうなると、銀行側(堅苦しく言えば債権者)も困ります。このままだと、貸した300万円が返ってこなくなるかもしれないので。対応はいくつか考えられます。

  • 債権回収
    「オメーの店はもう潰れるわ。そうなる前に、貸した300万円を今すぐ返せ!」と迫る。

  • 返済計画の見直し
    「今は苦しいだろうから、来月分の返済はちょっと待ってあげる」「利率を下げて利子の支払い負担を軽くしてあげる」。

  • 債権放棄
    「貸した300万円はあきらめる」。ラーメン屋側から見れば、債務免除です。

銀行側からすれば、どれも大変な話です。強引に債権回収しようとしても、無い袖は振れないので、返済は期待できない。返済計画を見直しても、現状すでに死に体のラーメン屋が、そう簡単に息を吹き返すか? 債権放棄に至っては、ほぼメリットがありません(節税くらい?)。仮にその後ラーメン屋が立ち直っても、カネは返してもらえないのですから。

銀行側の利益も維持しつつ、ラーメン屋を救うのは大変です。「カネ返せ vs カネは返せない」という構図なので、当たり前ですが。

DESを行うと負債(借金)が純資産に化ける

カネの貸付先が経営危機に陥った場合、他にも手はあります。その一つがDES(デット・エクイティ・スワップ)です。「債務の株式化」「会社への貸付金を株式に振り替える」などと表現されますが……図を見てもらった方が早いでしょう。

DESを行うことによって、何が起きるかというと──

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なんとビックリ。「返済義務のある」借金が、「返済義務のない」純資産に化けました。

正確には、借金と株式を交換すること……って書いてもわからんか。平たく言えば、「借金を免除して、その額をそのままアンタんとこの純資産として差し上げる。その代わりに株式を寄越せ」。これがDESです。

債務者側のメリット 借金が消えるので財務体質が改善

カネを借りていた側の目線からすると、借金帳消し。借金の全部または一部がなくなることで、月々の元金返済や利子の支払いから解放されます。

ようはDESによって財務体質が改善するので、経営悪化から立ち直れるチャンスが生まれると。

債権者側のメリット 配当金受取や経営への口出しが可能に

貸した側(銀行等)からすると、DES実行によって貸付金が返ってこなくなります。「それってメリットある?」と思うでしょうが、あります。

たとえば債権放棄してしまうと、そのあと相手企業の経営が立ち直ったとしても、1円も回収できません。その点、DESは借金チャラの代わりに相手の株式を取得するので、経営が立ち直れば、配当金を受け取ること(インカムゲイン)や、株式を売却して利益を得ること(キャピタルゲイン)のできる可能性が残っているわけ。

また、株式を取得するということは、つまり株主になること。ですから、経営に口出しもできます。

もちろん、貸したカネが返ってこなくなるので、そこはデメリットです。が、融資先が潰れて貸付金が回収できずに焦げ付く、なんて事態になるよりはマシかもしれません。

DESは、経営難の会社を救う以外の目的で使われることもあります。たとえば、「会社の支配権の維持目的」です。

増資を受けると、出資の配分比率が変化します。すると、いままで会社を支配していた大株主(Aさん)が、会社の支配権を維持できなくなるケースがありえます。

そこで、Aさんが会社に貸し付けていたカネがある場合、それを株式に振り替える、すなわちDESを行うことで、支配権を維持するわけです。

都市型三セク鉄道やJR北海道でDESの実績あり

さて、このDES、実際に経営危機の鉄道会社で使われたことがあります。

三セク鉄道の赤字の構造を説明したこちらの記事で、「都市型三セク鉄道は、建設時に多額の借金をするため、利子の支払いが苦しい」と書きました。利子の支払いが苦しいということは、借金の元本を減らせば、それに付随して利子の支払額も減るので、少しは楽になります。

というわけで、借金(負債)を消滅させるDESの出番。この手法を使った三セク鉄道は私の知る限り2社あって、埼玉県の埼玉高速鉄道と、愛知県の名古屋臨海高速鉄道です。いずれも都市型鉄道ですね。

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名古屋臨海高速鉄道あおなみ線

これに加え、2021(令和3)年には、JR北海道JR四国でもDESが行われました。鉄道建設・運輸施設整備支援機構という独立行政法人から借りているカネのうち、JR北海道は約230億円、JR四国は約69億円についてDESを実施。コロナ禍で経営難に拍車がかかったので、負債を圧縮・純資産を強化して財務体質を改善するためです。

このように、DESは経営危機の鉄道会社で実行された例が複数あります。おそらく、今後も行われるケースがあるはず。その際にニュースを理解する手助けとなれば幸いです。

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本記事の写真提供 Rob-Royさん

本記事内の写真は、『数万人に一人の病気 褐色細胞腫になったときの体験談』を運営するはてなブロガー・Rob-Royさんにいただきました。ありがとうございました。

『数万人に一人の病気 褐色細胞腫になったときの体験談』は、いわゆる闘病記のブログ。入院や手術の様子が詳しく書かれていて、かなり面白く読めます。なお、ブログ主のRob-Royさんは鉄道好きだそうです。