今回の記事では、冬にまつわる鉄道雑学をお届けします。テーマはバラストネットです。
バラストネット。ちょっと鉄道に詳しい人でも、なかなか知らない単語だと思います。ぜひ覚えて周りの人に差をつけてください(笑)
線路に掛かっている網 バラストネット
そもそもバラストとは、線路に敷き詰められている石です。このバラストを覆うようにして、線路の路盤全体に網(ネット)が掛けられているのを見たことありませんか? あれがバラストネットです。
このバラストネット、何のために設置されているか、ご存知でしょうか? もちろん、設置の目的はいろいろありますが、その一つに「雪塊の落下によるバラスト飛散を防止するため」という理由があります。
線路作業員に向かって石が飛んでくる!?
降雪地帯では、車両の天井や、貨物列車ならば貨車やコンテナの上に雪が積もります。また、走行中に巻き上げた雪が床下機器に付着します。それらの雪が走行中に落ちて線路上のバラストに当たり、バラストが弾き飛ばされる、という現象があります。ビリヤードみたいなもんですね。
これが雪塊の落下によるバラスト飛散です。
雪塊の落下と書きましたが、雪合戦で雪玉をぶつける程度のものを想像しているとしたら、それは大間違い。なにせ100㎞/hとかで走っている列車から雪塊が落ちてくるので、けっこうな勢いでバラストを弾き飛ばします。
非常に危険な現象で、飛んできたバラストの直撃を喰らえばケガは必至。冬の線路での作業中、当たりそうになってヒヤリとした作業員は少なくないそうです。いや、作業員に当たるならまだマシで、駅ホームで待っている人や、線路脇の建物に当たりでもしたらアウト。
……というわけで、バラストの飛散防止が必要ですが、そのための一手段がバラストネットをかぶせることです。もっとも、全線にわたって張り巡らせることは不可能なので、特に危険だと判断された箇所のみの設置になりますが。
車両に積もった雪は暖かい都市部で溶けて落ちる
このバラストネット、降雪地帯だけではなく、普段は雪が降らないような都市部にも設置されています。なぜでしょうか?
答えは「雪塊の落下は都市部で起きやすい」から。
どういうことかというと……
「降雪地帯→都市部」というルートの特急列車、ありますよね。「北陸→関西」を走るJR西日本のサンダーバードが代表例でしょうか。
一般的に、山間部などの降雪地帯よりも、平地である都市部の方が気温が高いです。そのため、降雪地帯で特急列車に積もった雪は、暖かい都市部に入ると溶け始めます。そして線路にズリ落ちる、と。
原理としては雪崩と同じです。気温が急に上がると、雪の層が緩んで雪崩が発生しやすくなりますよね。それと同様の現象が列車でも起こるというわけ。
ですから、普段は雪と縁がない地域でも、運行する列車によっては、雪塊によるバラスト飛散防止が必要になるのです。
北から来る貨物列車も雪を落としていく
ちなみにこの現象、特急列車だけではなく、貨物列車でもまったく同じことが言えます。北海道や東北から、雪を満載した貨物列車が関東・関西の暖かい地域にやって来ると、雪を落としていくのです。
特にポイント部分を走るときに、列車が左右に揺れて雪が振り落とされやすい。線路に雪が落ちると、バラスト飛散以外にも、ポイントの可動部に雪が詰まってポイント不転換を引き起こすこともあります。雪が降っていない地域も油断は禁物なのです。
工事の際にバラストネットを取り外すのが手間
最後に一つ、トリビアを紹介して〆ます。
そもそも論ですが、バラストの役割とは何でしょうか? バラストにはいくつか役割がありますが、「レールやマクラギを支持する」というものがあります。
重い鉄道車両が通過を繰り返すうちに、レールはだんだんと正規の位置からズレてきます。これを専門用語で「軌道変位」と呼ぶのですが、それを元に戻すために行うのが突き固めという作業です。レールやマクラギを支持するバラストを整え直すことで、軌道変位を解消します。
レールがズレるといってもミリ単位の話ですが、侮るなかれ。ミリ単位のズレでも、列車の安全や乗り心地に影響を与えます。
突き固めの作業、黄色の工事用車両がバラストの中に棒みたいなものを突っ込んでいるアレです。映像などで見たことがある人も多いと思います。
この突き固め作業、バラストネットが掛かったままでは施工できません。保線担当の知り合いいわく、「突き固めのときは、バラストネットをいったん外さなければいけないのでメンドクサイ」のだとか。
バラストネットに着目して線路を眺めていると、最近どこで工事が行われたのかが推測できる……かもしれません。撮り鉄や乗り鉄ならぬ工事鉄(←そんな人いるのかっ?)の人、参考までに。