コロナによって鉄道会社の売上が減っていることは、みなさんご存知でしょう。
今後は、テレワークやウェブ会議の技術がますます発展するはずですから、鉄道利用の需要が減っていく可能性が高い。また、仮にコロナ騒動がなかったとしても、少子高齢化・人口減少によって鉄道会社の売上が減少していくのは、長期的に避けられない。
ようするに、鉄道会社の売上減少は「一過性」ではなく「持続性」です。
その対策として、JR東日本やJR西日本では時間帯別運賃の検討を始めました。ニュースになっているので、ご存知の方も多いでしょう。
今日から数回にわたり、時間帯別運賃に関する記事を書いていきます。
- 鉄道会社が時間帯別運賃を導入したい理由とは?
- 時間帯別運賃の導入で起きそうな問題
- 時間帯別運賃は通勤ラッシュ緩和に効果がある?
第1回の今回は、「鉄道会社が時間帯別運賃を導入したい理由とは?」です。
鉄道会社は「商売の原則」を外したビジネスをしている!?
いきなり「時間帯別運賃ってなんぞや?」の説明をしても、本質が理解できないと思うので、まずは前提の話から入ります。
そもそも、鉄道というビジネスは「商売の原則」を外していることはご存知でしょうか? 「商売の原則」とは、以下の二つです。
- 需要に対して供給が少なければ、商品の値段を上げる
- 需要に対して供給が多ければ、値段を下げる
これが基本ですよね。(現代社会においては、この基本が当てはまらない場面も多いですが)
ところが……鉄道会社は基本と逆のことをしています。
鉄道というビジネスにおいて「需要に対して供給が少ない」とは、ラッシュ時のことです。ラッシュ時には車内がパンパンになります。それは、多数の乗客という「需要」に対して、列車本数や連結両数といった「供給」が少ない(足りない)からです。
ということは、商売の原則からすれば、ラッシュ時に乗車するお客さんからは、高い運賃・料金をもらうべきですよね。
しかし、実際には真逆の状態なのです。というのも、ラッシュ時の乗客は、大部分が定期券で乗車します。定期券って、普通に乗車券を買って乗るよりも割安ですよね。
つまり鉄道会社は、「需要が多いときに商品の値段を下げている」のです。
定期券利用者の儲けは普通券利用者の半分!?
読者のみなさんは、通勤ラッシュに揉まれながら、「こんなにたくさんの人が乗っていたら、鉄道会社はさぞかし儲かっているんだろうなあ」と思っているかもしれません。
しかし、実際は逆です。
需要が多いときに値段を下げている通勤ラッシュは、見かけほど売上に貢献していません。
さらに、通勤ラッシュに対応するためには、列車をたくさん運行しなければいけません。当然ながら車両・乗務員の手配も必要になるため、経費もかかります。
乗客の多くが割安な定期券で乗車するうえに、出費もかさむ。ちょっと極端ですが、定期券利用者は一回の乗車あたり、普通券利用者の半分くらいしか儲けがないと思ってくれてけっこうです。鉄道会社からすれば、通勤ラッシュは、費用対効果がまったく割に合わない時間帯といえます。
こんなことを書くと、通勤ラッシュって、鉄道会社とお客さん、お互いが幸せになれない不毛な現象だなあという話になりますね……(^^;)
鉄道会社には通勤ラッシュを解消するメリットがない!
毎朝、列車内で人に揉まれながら、「通勤ラッシュを解消してくれよ」と嘆いている人は多いと思います。が、こういう仕組みになっていることを知ると、通勤ラッシュの緩和が容易でないことがわかります。
通勤ラッシュを緩和するためには、列車の増発や増結が必要です。しかし、ただでさえ儲からない時間帯のために、鉄道会社がそんなコストのかかることをするでしょうか?
ようするに、鉄道会社側に通勤ラッシュを解消するメリットがない(インセンティブが働かない)ので、ヤル気が出ないわけ。
時間帯運賃の目的はズバリ値上げ
結局は、「需要が多いときに商品の値段を下げている」のがいけないわけです。ならばどうするか?
「需要が多いときに商品の値段を上げればいい」ということになります。これが時間帯別運賃の目的の一つです。
まあアレです、ようは値上げしたいってことです(^^;)
ちなみに、いま流行りの「着席保証の通勤ライナー」も、時間帯別運賃と同じく「需要が多いときに値上げ」が狙いの本質です。実際、どこの会社の通勤ライナーも収益性は優秀らしいですね。鉄道会社側の狙いがバッチリ決まっているといえます。
ちょっと話が逸れました。
時間帯別運賃の具体的な仕組みとしては、7~9時や17~19時の運賃を通常より高くする。券売機でキップを買うときや、ICカードで改札を出るときに、余計に10円なり20円なりが掛かるようにする。IC定期券を利用する人は、改札を出るときに10円を引き落とす。
技術が進歩し、ICカードが普及した現在なら、こういう仕組みが考えられます。
……とサクッと書きましたが、そういう仕組みの実現は、想像しているほど簡単な話ではないと私は思います。次回の記事から、「時間帯別運賃の導入には、どのような障壁があるか?」を検証してみます。
続きの記事はこちら 時間帯別運賃の課題(1) ダイヤが乱れたときはどうする?