紙のキップを自動改札機の投入口に入れ、排出されたキップを取って通過する。そんな当たり前の光景が、数年後には見られなくなっているかもしれません。
JR東日本など複数の鉄道会社は、紙のキップをQRコード方式に切り替えると発表しました。
ご存知のように、現在の紙のキップは「磁気券」です。そこに情報が記録されており、自動改札機に入れると情報を読み取ってくれる。
対してQRコード券は、キップに印刷されたQRコードを、自動改札機の読み取り装置にかざして情報を読み取らせる方式。つまり、ICカードと同じような要領で自動改札機を通過するわけですね。
現行の磁気券では券詰まりがどうしても起こる
磁気券からQRコード券に切り替える。これを駅員目線で見ると、「自動改札機の券詰まり対応をしなくてよくなること」が最大の違いでしょう。
自動改札機に紙のキップを入れたら、中で詰まってしまった……。読者のみなさんにも、そんな経験を持つ人は少なくないでしょう。
私もそんなに長く務めたわけではないですが、ICカードがほとんど普及していない「紙のキップの時代」に駅員をやっていました。ですので、自動改札機の券詰まり対応は、本当によくやりました。今の若い駅員には負けんぞ(笑)
ただ、ICカードが普及し始めてからも、紙のキップは一定の利用割合を占めており、券詰まり対応はそれなりに必要だったはずです。というのは、黎明期のICカードは「全国相互利用」ができなかったからです。
若い人はあまり知らないかもしれませんが、登場当初のSuicaはJR東日本でしか使えなかったし、ICOCAはJR西日本でしか使えませんでした。だから他の地方に“遠征”したときは、紙のキップを買わざるをえなかったのですね。
夏のイベント多客時は湿気ったキップで券詰まりが起きやすかった
私が駅員をしていた時代を含め、ICカードの全国相互利用が始まるまでは、沿線で大きなイベントが開かれるときの券詰まり対応が大変でした。沿線でイベントがあると、定期券ではなく普通のキップの利用者が増えますが、定期券に比べて詰まりやすい。
券詰まりが起きると一時的に自動改札機が使えなくなり、人の流れが滞ります。イベントで人が多いときにこれが起きると、かなり混乱します。
そこで人海戦術。大量に駅員を動員し、それこそ自動改札機1台に1人を張り付けます。券詰まりが起きたら即座に手での回収に切り替え、改札機のゲートを開放する。人の流れがある程度収まったら、改札機をパカッと開けて券詰まりを取り除く。
こういうことも行われていました。なお、手で回収したキップは、あとで自動改札機に入れます。
夏のイベント多客時なんかは、特に券詰まりが起きやすくて大変でしたね。というのも、夏はキップが湿気りやすいからです。
大規模イベントで混む際、お客さんは往復キップを買うケースが多いです。たとえば花火大会をイメージしてください。会場最寄り駅の券売機は混むので、帰りに並んでキップを買うのは手間。たぶんみなさんも、行きのキップを買うときに、あらかじめ帰りのキップも併せて買うのではないでしょうか。
効率面からは当然ですが、帰りのキップはずっと肌身離さず(?)持っているため、湿気ってくるんですよ。で、湿気ったキップを自動改札機に入れると、券詰まりが起きやすい。
もうね、ポケットに直接キップを入れたまま汗だくになるとかマジやめて。汗でふやけて折り曲がったキップなんか、絶対詰まるやん(笑)
もちろんQRコード券でも、クシャクシャになったりして読み取れなくなるケースはあるでしょうが、券詰まりが起きない分、対応は簡単でしょうね。
それ以上に、ICカードが普及したのが大きい。改札機で券詰まりが起きないだけでなく、券売機にキップを求める行列ができないので、イベント多客時の対応は、昔に比べて格段に楽になりました。
技術の進歩によって、人の流れがスムーズになる。高速道路なんかもそうですね。ETCがなかった時代は、インターチェンジの出口で渋滞することは普通でした。本線上から渋滞が始まっていて、インターチェンジの外に出るまでに20~30分かかることもありましたが、そういうことは現代では少なくなったと思います。