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現車・延長・換算…… 貨物列車の「両数に関する表現」を解説

2024(令和6)年6月12日、東海道線の茨木駅で事件がありました。貨物列車が退避線に入ったところ、線路の長さが足りず、ケツがはみ出してしまったのです。

イメージ図

つまり、線路の長さ < 列車の長さという図式になり、列車を収容しきれなかったのですね。これが信号制御に影響し、茨木駅は赤信号のまま変わらなくなり、ダイヤが乱れてしまいました。

原因ですが、報道によると、JR西日本の指令員が「車両数に関する二つの表現」を勘違いしたためだそうです。それにより、貨物列車の長さを間違えて、「この線路に収容しきれる」と誤った判断をし入線させてしまった。

車両数に関する二つの表現? なにそれ? 車両って、1両2両と数えるのでは? それ以外の数え方なんてあるの?

まあそうなんですが(^^;) 鉄道の世界、特に貨物列車には、車両数に関して少し特殊な概念が存在します。今回の記事は、やや専門的ではありますが、「車両数に関する表現」として、以下の三つの単語を解説します。

  • 現車
  • 延長
  • 換算

「現車」という概念 見たままの実際の車両数

現車・延長・換算という、まったく聞き慣れない単語が登場しました。それぞれの単語のイメージは、おおむね次の通りです。

  • 現車 → 実際に連結されている車両数
  • 延長 → 列車の長さ
  • 換算 → 列車の重さ

あ、まだ理解できなくても大丈夫ですよ。これから解説していきますので。まずは一番簡単な現車という概念から。

これは「実際に連結されている車両数」です。素直に見たまま。

みなさんの目の前を列車が通過しています。さあ、この列車の両数を数えてください! と言われたら、1、2、3……と数えていきますよね。それが現車という概念でカウントした両数になります。

「延長」という概念 「どれくらいの長さか?」を示す

ただし、現車という概念だけでは、貨物列車の仕事ができません。というのは、貨車にはいろいろな種類があり、それぞれ長さが違うからです。

たとえば石油輸送タンク貨車の車長が、だいたい13メートル。コンテナ貨車が、だいたい20メートル。

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石油輸送のための貨車。コンテナ輸送用貨車とは車長が違う

同じ「現車20両」でも、石油輸送列車とコンテナ輸送列車では、列車の長さが違うわけですね。

「列車の長さがどれくらいか?」は、特に指令員目線で重要です。追い越しや行き違いで退避線に貨物列車を入れる際、もし「線路の長さ < 列車の長さ」になってしまうと、茨木駅の事件のようにケツがはみ出すからです。

というわけで、実務上「列車の長さを示す数字」が欲しい。そこで登場するのが延長という概念です。延長51.0両とか、延長66.3両とか、そんな感じで長さを表現します。
(延長の他には「延ばし」などと呼ぶことも)

延長という概念では、8メートルを1両として、両数カウントします。たとえば、16メートルなら延長2両になります。

あれです。12個で1ダースとし、24個あれば2ダースと表現するのと似た感じです。

先ほど、延長51.0両という数字を出しましたが、延長51.0両をメートル変換すると、51.0 × 8 = 408メートルになりますね。

なんで長さを示すのに「両」を使うんだ。素直に「この列車の長さは○○メートル」と表現すりゃあいいじゃないか。たぶん読者のみなさん、そう思ってますよね(^^;) 鉄道の世界では、一般人からすれば、まどろっこしい長さの表現を使用しております。

延長とは「列車の長さがどれくらいか?」を示す概念だ、と書きました。ただし、その説明は厳密には誤り。

正確には、機関車の長さは除きます。つまり、延長○両には機関車が含まれていない。延長という概念は「貨車部分のみ」が対象です。なお、これは前述した現車、および後述する換算でも同様です。

そのため、列車全体の長さを計算しようと思ったら、延長○両だけでなく、そこに機関車の長さも加える必要があります。

普通は、貨物列車を牽く機関車は1両ですが、重連といって2両以上で牽くケースもあります。実は重連なのに、「機関車は1両だ」と早とちりすると、列車全体の長さを間違えます。

茨木駅の事件では「現車」と「延長」を勘違いした模様

というわけで、同じ「両」という単位を使っていますが、現車○両と延長○両は、まったく別の概念です。誤差というレベルではありません。ここを勘違いすると、エラいことになります。実際に、茨木駅の事件ではエラいことになった。

この事件では、貨物列車の運転士が「両数は?」と指令員から聞かれたときに、「現車」で申告したのでしょう。それを指令員が「延長○両だな」と勘違いし、長さの判断を誤った。

先ほど少し書きましたが、指令員が貨物列車を捌くときに大事なのは「延長」の方です。「現車」の両数なんか教えてもらっても、役に立たないんですよ。長さが知りたいのであって、貨車を何両繋げているかなんて、どうでもいいわ(笑)

指令員から両数を聞かれたときに、貨物列車の運転士が「現車」で答えたとしたら、それってどうなん? という気はしますね。もっとも、「それって現車? 延長?」と確認しなかった指令員が結局は悪いのですが。

「換算」という概念 「どれくらいの重さか?」を示す

現車と延長は説明しました。最後に換算という概念を解説しましょう。

これは、一言でいえば「重さ」を示すものです。10トンで1両と数えます。たとえば重量1,300トンの貨物列車があったら、換算130両になりますね。

まあアレだ。1万円を10千円と表現するみたいなもんでしょうか。……うーん、ちょっと違うか。

先ほど「指令員目線だと重要なのは延長」と書きましたが、この換算両数は、貨物列車の運転士にとって必要な指標です。というのは、列車の重さによってブレーキなどの運転操作を変える必要がありますから、換算の数字を知らないと困るわけです。

もちろん、延長という概念も、貨物列車の運転士にとって重要。自分の列車がその線路に入れるかどうかを示す数字ですからね。

単位は同じ「両」でも概念としては別物

  • 現車 → 実際の車両数
  • 延長 → 長さ
  • 換算 → 重さ

それぞれの単語の解説をしました。現車も延長も換算も、どれも単位は「両」です。しかし、概念としては、まったく異なります。そのため、「現車・延長・換算、どの話をしているか?」という前提をキチンと合わせたうえで作業を進めないと、茨木駅のような事故が起きてしまうため、注意しなければいけません。

【余談1】「延長換算」と表現するのは推奨できない

あとは鉄道好きな人向けの余談。ややマニアックな話なので、一般人はここで離脱してください(笑)

余談1。茨木駅の事故は、X(旧Twitter)でも騒がれていました。鉄道知識をある程度持った人なら、現車やら延長やらは知っているので、そういった文言も飛び交っていました。

その中で、延長のことを「延長換算」と表現している人がいました。

この延長換算という呼び方、個人的には推奨しないです。

いやね、別に間違ってないですよ。延長とは、8メートルで1両と「換算」する方式なので、延長換算という呼び方は誤りではない。

ですが、換算という文言を出すと、「重さ」を示す換算両数と混同する危険があります。つまり、延長換算という表現は蛇足なんですよ。単に「延長」などと表現した方が、間違いの起きる可能性は少ないです。

【余談2】列車が「基本の両数」より短いときの対応

余談2。ダイヤ改正というと旅客列車のイメージが強いですが、貨物列車(JR貨物)にも、ちゃんとダイヤ改正があります。ダイヤ改正を機に、列車の時刻やラインナップを新しくするわけです。

ダイヤ改正では、各列車ごとに基本の両数が決められます。たとえば○○列車は現車26両で運転するのが基本計画、みたいなイメージです。

貨物列車を、基本計画での両数よりも長くすることは(原則)ありません。ただし、基本の両数よりも短くなることは、輸送の都合上ありえます。

というわけで、基本の両数だけを見ると、「この列車は長いから、この線路に収まりきらない」という場合でも、その日の両数がたまたま短かったりすると、普段は収容できない線路に入れることが可能です。

もちろん、列車の長さ(延長両数)の確認は必須。JRの指令員は、当該貨物列車の運転士や、貨物指令というところに問い合わせて、問題ないかを判断します。

各駅の番線ごとに、「延長○両までの貨物列車なら入れる」という許容両数が設定されているので、その番線の許容両数(たとえば60)よりも、貨物列車の延長(たとえば51)が短ければ入線できます。

ちなみに、番線の許容両数は、ギリギリではなく、多少の余裕を見越して設定されています。以下の図のような感じです。

線路の長さ、これを専門用語で有効長と呼びますが、ここから機関車1両分と余裕分を差し引いた残りが、貨車(延長)の許容両数になります。

あくまで機関車1両を想定した数字のため、機関車2両以上で牽く列車では、その分だけ貨車の許容両数が少なくなります。注意が必要です。

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