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リニアなどの高速鉄道に発生する「速度の2乗」問題

今回の記事では、リニア中央新幹線に絡めて物理の話をします(^^)
「わしゃー理科は嫌いじゃあ」という人にも読めるよう、簡単な部分だけを取り上げたので、ぜひご覧ください。

テーマは、高速鉄道で発生する空気力学的な問題です。
具体的には、「車両の空気抵抗」と「トンネル内圧力変動」の二つを話します。
高速鉄道の大変さを理解する一助になれば。

 

リニアの空気抵抗は新幹線よりも2~3倍は大きい


物体が大気中を移動すると、空気抵抗(=空気との摩擦)が発生しますよね。

人間が歩いたり走ったり、はたまた自転車に乗る程度なら、空気抵抗は特に問題になりません。
しかし高速鉄道の場合、空気抵抗が非常に大きくなります。
空気抵抗を軽減する有効な策がないと、高速化の妨げになるのはもちろん、電力もムダに消費してしまいます。

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高速移動する物体は大きな空気抵抗を受ける


速くなればなるほど空気抵抗が増すのは、体感としてわかるでしょう。
では、速さに伴って、空気抵抗はどれだけ増していくのか?

空気抵抗の大きさは、「速度の2乗」に比例します。
……と書いてもピンとこないと思うので、具体的な数字を見てみましょう。
以下は、日本の高速鉄道の最高速度です。

東海道新幹線   285km/h
東北新幹線(将来)  360km/h
リニア      500km/h


それぞれの速度を「2乗」してみましょう。

東海道新幹線    285 × 285 = 81,225
東北新幹線(将来) 360 × 360 = 129,600
リニア       500 × 500 = 250,000


仮に、速度以外の諸条件(=車両形状や空気密度など)が同じだった場合、285km/hと500km/hでは、空気抵抗が約3倍!も違います。
また、東北新幹線(将来)の360km/hというのは、JR東日本で試験中のALFA-X(アルファエックス)のことですが、これと比べてもリニアは約2倍の空気抵抗です。

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速度と空気抵抗は二次関数


もちろん、リニア車両は空気抵抗を減らすための研究が続けられているので、「リニアは新幹線よりも空気抵抗が2~3倍」と単純にはいえません。
しかし、新幹線より空気抵抗が大幅に増えるのは間違いないはず。
「リニアは多大な電力を消費する」といわれていますが、こうやって実際に空気抵抗の数字を見ると、それも納得です。

先日のニュース 改良型リニア車両は空気抵抗を約13%減


ただし、リニアの消費電力を抑える取り組みは進展しています。
先日、改良型リニア車両が、空気抵抗を従来より約13%減らすことに成功したとニュースになっていました。

JR東海は、リニアが全線開業した際、ピーク時に約74万kWの電力を消費すると想定しています。
しかしこれ、2012(平成24)年の資料での数字。
そこから8年が経ち、車両の改良に成功するなど技術は向上していますから、実際には、消費電力は74万kWよりも少なくなるのではないでしょうか。

トンネル内圧力変動の問題 「耳ツン」もその一つ


ここまで、「空気抵抗は速度の2乗に比例する」と説明してきました。
しかし、「速度の2乗」に影響されるのは、車両の空気抵抗だけではありません。
トンネルの問題もあります。

高速走行する車両がトンネルに突入すると、圧力波というものが形成され、トンネル内に「圧力変動」が発生します。
トンネル内の圧力が高くなったり低くなったりするのですね。

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高速移動する物体がトンネルに入ると、大きな圧力変動が発生する


読者のみなさんは、「耳ツン」をご存じでしょうか?
列車がトンネルに入ると、耳の奥に何かが詰まったかのようにツンッ!と痛くなる。
唾をゴックンすると治る。

私のように、ある程度歳を食った人なら経験したことがあるはずです。

この耳ツン、トンネル内の圧力変動が車内に入り込んだせいで起きる現象です。
昔の鉄道車両は気密性が高くなかったため、トンネル内の圧力変動が車内に入ってきて、耳ツンを引き起こしていました。
現代の車両は、技術が進歩して気密性を保てるようになったので、耳ツンは起きにくくなっています。

リニアのトンネル設備はより高い強度が求められる


少し話が逸れました。

このトンネル内圧力変動の大きさも、「速度の2乗」にほぼ比例するそうです。
ようするに、リニアのような超高速鉄道では、トンネル内圧力変動も大きくなる。

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速度とトンネル内圧力変動も二次関数


これが何を意味するか?
「設備の強度を高くしなければいけない」です。
トンネル内には、さまざまなモノが存在します。

  • トンネルのコンクリート壁
  • 避難通路の扉
  • 換気や排煙設備
  • 消火設備
  • 電灯
  • 信号機器


これらの設備は、トンネル内圧力変動に繰り返し晒されます。
ヤワな作りだと圧力変動で壊れてしまうので、一定以上の強度が求められます。

先ほど空気抵抗の話で計算しましたが、同じ高速鉄道でも、新幹線とリニアでは「速度の2乗」の数値が2~3倍違います。
トンネル内圧力変動の大きさも「速度の2乗」にほぼ比例するので、リニアのトンネル内設備は、新幹線のそれよりも高い強度が求められるわけです。

鉄道の高速化というと、どうしても車両のスピードアップに目が行きがちです。
しかし高速化は、線路設備側の条件も整わないと実現しないことが、この話からも理解していただけると思います。

ちなみに、走行する車両自身も、トンネル内圧力変動の影響を受けます。
鉄道車両の寿命は、生涯に通過するトンネルの数と密接な関係があるそうです。
リニア車両の寿命は、新幹線よりも短くなるかもしれませんね。


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