『運転士になるまでシリーズ』の続きです。
ハンドルを握り始めたばかりの見習運転士は、当然ですが試験に合格するだけの力量はありません。その未熟な見習生は、どのような過程を経て上達していくのか? 別の言い方をすると、運転上達のために必要なことは何か?
今回の記事では、そのあたりを少し説明します。
- 学科講習
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- 実車試験
【前振りの話】ゲーム上達のためには何をすればよいのか?
いきなり「どうすれば列車の運転が上達するのか?」の話に入ると堅苦しいので、前振りとしてゲームの話から。
みなさんは、マリオカートをやったことがありますか?
レーシングゲームでは日本……というか世界でも相当メジャーですから、プレイ経験のある人は多いと思います。我が家にもありまして、よく甥っ子が遊びに来ます。
このマリオカート、初心者から「上達のコツは?」と聞かれたら、どう答えるべきでしょうか。私なら、情報を覚えることと答えます。
- コースの形
- 障害物の特性
- アイテムが置かれている地点
- ショートカットが可能な地点
- 罠を仕掛けるのに適した地点
- 無理が利く場所と安全に行った方がいい場所
ある程度回数をこなし、こういう情報を覚えると、現在の状況と照らし合わせて、どう走るかを適切に判断できるようになっていきます。すなわち、それが上達です。
コースのことを何も知らないと、戦略・戦術を組み立てられず、行き当たりばったりで走ることになります。それで勝てるわけがありません。
新コースが登場し、「そのコースを事前に10回練習した私」と「そのコース初見の世界チャンピオン」が対戦したら、間違いなく私が勝ちます。テクニックでは劣っても、知識・情報量で圧倒しているからです。
言い換えると、せっかくの世界チャンピオンのテクニックも、知識や情報がないとフルに発揮できないということ。
運転に関する様々な知識・情報を頭に叩き込む
列車の運転も同じで、まずは知識・情報を頭に叩き込むことが必要です。
- 次駅に定刻通り到着するための適正な速度
- カーブや勾配の場所、その制限速度
- 信号機の位置と名称
- ブレーキ開始の目安地点
- ホームでの停止位置
- 列車が遅れ気味のときに、遅れを取り戻せるポイント
よくYouTubeで、運転席の真後ろから走行風景を撮った「前面展望」というコンテンツがありますね。あの映像を“脳内再生”できるくらい覚えてこそ、上手な運転ができます。
「そんなん覚えられる?」と思うかもしれませんが、可能です。再びゲームの話で例えれば、マリオカートにしてもロックマンにしてもドラクエにしても、ある程度やり込んだ人なら“脳内再生”できるはず。それと同じです。
さらに、運転士になる前の車掌時代から、「この駅の配線はこうなっている」とか「A駅~B駅間は90㎞/hくらいで走ればいいんだな」とか、そういう情報に触れながら仕事をしています。まったくのゼロから覚えるわけではないので、それほど無茶な話ではありません。
そうやって頭に叩き込んだ知識・情報と、現在の状況を照らし合わせて、どう運転するかを判断します。簡単な例を挙げれば、「雨が降っているから、いつものポイントより少し手前からブレーキを掛けよう」とか「駆け込み乗車で20秒遅れたけど、10㎞/h余分に出せば次駅に定時到着できるな」という具合です。
実際には「線路の情報」だけでなく、「快速系統 or 各駅停車」「車両形式ごとの特性」なども考慮すべき要素として存在するので、組み合わせは膨大になりますが……。
知識や情報は絶対的なものではなく目安
なお、運転に必要な知識・情報は、指導運転士(先生)に教わるほか、ちゃんと資料が存在します。
たとえば、「○○駅~△△駅間は、これくらいの速度で走れば定時運転できるよ」という標準がまとめられた表があります。そこに示された速度通りに走れば、次駅到着が極端に早かったり遅かったりという事態にはなりません。
まあ、この手の資料は、あくまで目安ですけどね。同じ区間でも、列車によって駅間の運転時分が異なることは珍しくないです。
(たとえば、列車間隔が詰まるラッシュ時と、列車本数が少ない閑散時間帯とでは違ってくる)
また、運転士の技量によっても、出すべき速度は変わってきます。簡単に言えば、上手な運転士ほど速度を抑えても定時運転ができます。私も見習いのときはガンガン飛ばしていましたが、独り立ちして経験を重ねるにつれて、ゆっくり運転できるようになりました。
そのへんはさておき、最初は先生の指示や資料通りに運転し、必要な知識・情報を叩き込んでいくのが見習運転士の仕事です。