乗務員の操作ミスうんぬんではないはずなので、車両の故障でしょう。残念ですが、車両も機械ですから、どうしても故障したり誤作動したりがあるんですね。
本件のように、走行中の車両ドアが開く危険な事象はときどき起きます。原因はだいたい決まっていて、部品の劣化です。もう少し詳しく分類すると、以下の2パターンが「お約束」です。
- 部品の破断や外れ
- 電気回路の短絡
原因1 部品の破断・外れによってドアを支える力が失われる
走行中にドアが開いてしまう原因その1。「部品の破断や外れ」について。
車両ドアにはいろいろな部品が使われていますが、金属疲労などで破断したり、外れたりすることがあります。すると、物理的にドアを支える力が失われるので、走行中の振動でドアが開いてしまう。そういう理屈です。
今回の江ノ島電鉄の事象は、おそらくコレでしょう。両開き扉の片側だけが開いていたそうなので。
その他、最近ですと、2021(令和3)年11月に近畿日本鉄道で起きたインシデントも、確か部品の破損系だったような……。
この手の事象は、ドアが閉まっている状態からいきなり全開になるのではなく、振動によって徐々に開いていきます。一気に0→100になるのではなく、0→10→20……というイメージですね。
原因2 短絡によってスイッチがONになり誤作動を起こす
続いて、走行中にドアが開いてしまう原因その2。「電気回路の短絡」です。流れとしては、以下のようになります。
何らかの原因によって、流れるべきでない回路に電流が流れる
→スイッチがONになる
→それによってドアが誤作動し開く
この場合は、0→10→20……のようにドアがゆっくり開くのではなく、0→100のように一気に開くので非常に危険です。ドア開を命じる回路に電流が流れ、スイッチがONになるので、駅でドアが開くときと同じなのです。
短絡の原因は「水滴の浸入」や「絶縁不良」
もう少し、この「電気回路の短絡」という原因を掘り下げましょう。短絡というのは、ようは正当なルートではなく、誤ったルートで電流が流れてしまう事象です。言い換えると、「誤った電気回路が構成される」ということ。なぜ、そんなことが起きるのか?
- 経年劣化による水滴の浸入
経年劣化によりできたスキマから、電気回路に水滴が浸入
→水は電気を通すので、その水滴で短絡が発生
→機器の誤作動
ひび割れなどから内部に水滴が浸入しトラブル発生、というのは、電気回路に限った話ではありません。建物なんかもそうです。
私はマンション住まいなのですが、以前、大規模修繕が行われました。工事業者によると、ひび割れから建物内部に浸入した水分が、腐食やサビの原因になるらしいです。たかが水分ですが、侮ってはいけません。 - 経年劣化による絶縁不良
経年劣化で電線の被膜が剥がれ、電線がむき出しに
→何かの拍子に他の電線が触れて短絡が発生
→機器の誤作動
以上が、電気回路の短絡を起こす主な原因です。
設備投資は鉄道会社にとって大きな負担
さて、こうしたトラブルを防ぐためには、どうするべきでしょうか?
日々のメンテナンスをしっかり行い、更新時期になったら速やかに取り替える。
しかし、この当たり前のことが、実は簡単ではありません。特に設備更新については、カネの問題が必ずついてまわります。
積極的に設備改修・更新が行えるほどカネを持っている鉄道会社は、そう多くないはず。特に、地方の中小私鉄や第三セクターは厳しいところが多いでしょう。設備の経年劣化が進んで「もう取り替えた方がいい」とわかっていても、カネの都合がつかない。そういうケースは少なくないのです。
今後、コロナによる生活様式の変化や、人口減少に伴って売上が落ち、財政状況が厳しくなる鉄道会社は増えるでしょう。それに伴って、鉄道の安全を守るための設備に、じゅうぶんな投資ができなくなる……。私としては、そうした事態を非常に心配しているところです。