日本人なら誰もが知っている瀬戸大橋。鉄道と自動車用道路の併設橋としては、世界最大のモノです。私も通ったことがありますが、「よくこんな橋を作ったなぁ。日本人はすごいなぁ」と感動しました。
ところで、瀬戸大橋のような長大橋梁は“動く”ことをご存知でしょうか?
“動く”といっても、大陸が1年に数センチずつ移動しているみたいな話ではなく、伸び縮みしたり反り曲がったりするという意味です。“動く”ではなく“形が変わる”と言った方が正確かもしれません。
温度変化・太陽光の当たり方によって伸び縮みする
構造物は、温度変化によって伸縮します。みなさんご存知のように、鉄道のレールは暑い時期には伸び、寒い時期には縮みますよね。鉄骨で組み上げた構造物にも、同じことが起きるわけ。
温度変化による伸縮というと、「夏と冬」のような長期スパンを想像するかもしれませんが、実は「朝と夕方」という短期スパンでも起こります。時間帯によって、陽の当たる方向が変わるからです。
太陽光が当たる側は温度が高くなるので、鉄骨は伸びます。太陽光が当たらない側はそのまま。これによって、反り曲がり・傾きが発生する理屈です。
こうした温度変化による伸縮は、瀬戸大橋のような巨大建造物になると、無視できないレベルになります。
鉄道車両や自動車の重みで橋が「たわむ」
瀬戸大橋の“形が変わる”原因は他にもあります。通過車両の荷重です。
瀬戸大橋は鉄道車両だけではなく、自動車用の高速道路(瀬戸中央自動車道)も通っています。コロナ禍前2019年のデータですが、瀬戸大橋は一日に約23,000台の車が通過するそうです。
(本州四国連絡高速道路株式会社のホームページより)
単純計算ですが、一時間あたり958台、一分あたり16台。橋の通過に要する時間を15分とすれば、常に240台が橋上を走っていることになります。これは平均値であり、数字がもっと大きくなる瞬間も当然あるわけで。
鉄道にプラスアルファして、これだけ多くの車が、しかも高速道路なのでビュンビュン飛ばして通過すれば、その荷重で橋も大きく影響を受けます。
線路設備は変形する橋に追随できなければいけない
瀬戸大橋は温度変化や通過車両の荷重で、伸縮したり反り曲がったりすることは、理解できたと思います。
こうなると当然、橋に付設している鉄道施設にも影響が出ます。橋の“形が変わる”ことによって、敷いてあるレールが曲がったり浮き上がったりするのです。
鉄道のレールはミリ単位での精度が求められます。本来あるべき位置からレールがズレる(=専門用語では「軌道変位」と呼ぶ)と、列車は脱線してしまうからです。瀬戸大橋線では、この問題をクリアしなければなりません。
そこで瀬戸大橋線では、軌道伸縮装置なるものでレールの曲がりを吸収したり、レール締結装置を特殊仕様にしてレールの浮き上がりを防止したりしています。そうやって“形が変わる”橋に対応しているのですね。
ちなみに伸縮などの問題はレールだけでなく、車両の上に張る架線や、ケーブル類にも同様のことが言えます。当然、架線やケーブルにも特殊な設備を使用しています。瀬戸大橋の開業は1988(昭和63)年ですが、今から30年以上も前に、そういう技術があったわけです。
なお、「軌道伸縮装置」や「レール締結装置」は開業当時からあまり変状は生じていないため、それほど大規模な保守はしてこなかったそうですが、近年はさすがに経年劣化が進んできたそうです。
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本記事の写真提供 nikonikotrainさん
本記事内の写真は、はてなブロガー・nikonikotrainさんが運営する『そこに線路があるかぎり』から拝借しました。写真利用の許可をいただき、ありがとうございます。
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