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東海道新幹線の車両故障 「渡り板」で乗客を救済

東海道新幹線で車両故障。「渡り板」で乗客を救済するという、極めて珍しい事象が発生。

2020(令和2)年5月6日、東海道新幹線で車両故障が発生し、その影響でダイヤが2時間以上乱れました。
走行中、運転台にブレーキの異常を示す表示が出たとのことです。

コロナウイルスの影響で、利用者が例年の10%程度しかいなかったこと、および臨時列車は運転を取り止めていたため、運転本数が少なかったことが幸いしました。
もし、例年通りの人出だったら、すさまじい混乱になっていたはずです。

 

早くも今年度2回目の車両故障


東海道新幹線では、5月2日にも同様の事象が発生しており、ゴールデンウィーク中、2度目の事象となります。
こんな短期間で2回も同じようなことをやって、国交省から警告を受けたりしないのだろうか……。

東海道新幹線では、車両故障等が原因で発生する輸送障害(=ダイヤが大きく乱れること)は、1年間に1~2回というところです。
ゴールデンウィークだけで2回発生という事態が、いかに異例であるか、おわかりかと思います。

東海道新幹線
車両が原因の輸送障害件数

2018年度 3
2017年度 1
2016年度 1
2015年度 0
2014年度 2

 

今回の事象 一連の流れは?


さて、次に今回の事象の流れをザッと解説します。

① 名古屋→三河安城間を走行していたこだま号が車両故障で停止。

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② 点検後、なんとか三河安城の「通過線」まで移動。ここで運転打ち切り。

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③ 後続のひかり号が、ホームのある「待避線」に停車。

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④ こだま号とひかり号の間に「渡り板」、つまり橋を架ける。こだま号の乗客をひかり号に移し、さらにホームに降ろす。

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⑤ 故障のこだま号を「通過線」に停めたまま、後続列車はすべて「待避線」を経由して運転。

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⑥ 故障のこだま号は、営業時間が終わってから浜松工場まで移動させたと思われる。

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「渡り板」を使った極めて珍しい事象


今回の事象で特筆すべきは、ホームのない「通過線」にこだま号を停め、「渡り板」を使って乗客をホームに降ろしたところです。
これは極めて珍しい事象です。

「渡り板」を使って列車間に橋を架け、「通過線」の車内から「待避線」の車内に乗客を移動させる。
この手法は、過去のトラブル時の反省・検証から生まれたものだと聞いています。

たとえば、大雨などで全線運転見合わせが長時間続いた場合、駅ホームにたまたま停まっていた列車はいいのですが、駅間に取り残される列車も多数出ます。
列車本数に比べると、駅の数は少ないですから、駅ホームに停まれずに“あぶれる”列車は必ず出てしまうわけです。

「列車をホームに停められないときに、車内の乗客をどう救出するか?」

その答えが、今回のように「渡り板」を使って橋を架けるという方法なのです。
ちなみに、↓の図のように列車を配置すれば、2本の列車から乗客を救出することもできます。

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故障のこだま号をホームに停めなかった理由は?


……と、ここまで書いたところで、みなさんが感じているかもしれない疑問に答えましょう。

そもそも、なぜ故障のこだま号をホームのある「待避線」に停めなかったのか?
渡り板を使うという、まどろっこしいことをしなくても、こだま号をホームのあるところに停めて乗客を降ろせばよかったのでは。

しかし、故障のこだま号をホームに停めて、そのままホームを塞ぎっぱなしにしてしまうと、後続のこだま号が三河安城に停車できませんよね。
つまり、三河安城から東京方面に向かう乗客が列車に乗れない。
それはマズいです。

三河安城のホームを空けるためには、故障のこだま号を次の豊橋まで移動させる必要があります。
豊橋は「待避線」が2本あるので、そのうちの1本に収容してしまえば万事解決です。

ところが、故障のこだま号を動かすならば、豊橋まで徐行運転しなければいけません。
三河安城から豊橋までの距離は約42km。
仮に40km/hで運転したとしても、1時間以上かかるわけです。
そんなことをしたら、当然ですが、後続列車が詰まってしまいます。

ようするに、故障したこだま号は、少なくとも営業時間内は三河安城から一歩も動かせなかったわけ。
ですから、今回のような手法が採られたのです。

なぜ通過列車も停車させるのか? 副本線の通過禁止


三河安城の「通過線」から一歩も動けなくなってしまった故障のこだま号。
そのため、後続の列車はすべて「待避線」を経由しました。

その際ですが、本来は三河安城を通過するのぞみ号もひかり号も、わざわざいったん停車しています。
(ただしドアを開けての客扱いはせず)

当たり前ですが、通過するはずの列車を停車させれば、時間のロスになりますよね。
ホーム上の安全確保のために停車させた?
いやいや、ホーム上に係員をたくさん配置して、50km/hくらいで通過させれば、安全上は別に問題ないはずです。

なぜ、無意味に思えるいったん停車をさせたのか?

これは「副本線の通過禁止」というルールのためです。

「副本線」という言葉が出てきましたが、ようするにこれは待避線のことを指していると思ってくれて結構です。
実は、運転に関するルールで、待避線(副本線)は通過禁止と決められているのです。
いや、私、新幹線の人間ではないので、新幹線の規定を見たことはないのですが、おそらくそうなっているはず。

一般的に、待避線(副本線)は通過を前提としたものではないから、というのがこのルールの趣旨です。
ドアを開けて旅客の乗り降りがあるわけでもないのに、のぞみ号もひかり号もいったん停車させられたのは、このルールのせいなんですね。

故障の原因は不明だが……


最後に、この短期間で2回も同様の事象が発生したことについて、原因を考えてみます。

現時点では不明としか言いようがありません。
仮に判明したとしても、一般に公表されるかどうかは別ですし。

というわけで、以下に書くことは、私の突拍子もない想像の域を出ませんので、話半分に聞いてください。
(本職の人間が見たら、笑うような内容かもしれませんが)

コロナウイルスの影響で、東海道新幹線は利用者数が前年比10%くらいまで激減しています。
そのため、ここ1ヶ月半くらい、どの車両も荷重の掛かっていない“軽い”状態でずっと走っているわけです。

“軽い”状態ばかりで走り続けるという、異例な事態が車両に何か悪さをしている……と考えるのは捻りすぎでしょうか。

私の運転士経験からいっても、満員の“重い”列車と、スカスカの“軽い”列車とでは、走りっぷりやブレーキの効き方が明らかに違います。
満員列車は運転していても重い感じがしますし、回送列車はシャーっと走ります。
ましてや、新幹線くらいの高速運転となると、条件の違いが車両に与える影響も大きくなるのかもしれません。

N700系の編成重量は、約700トン。
定員は1,323人。

乗客一人の体重+手荷物の合計を65kgと仮定すると、1,323人でおよそ86トン。
もちろん、常に満席とは限りませんし、体重の軽い女性や子どもだって乗っています。
そのあたりを考慮して、合計70トン前後と仮定しましょう。

高速走行する約700トンの車両に対して、70トンの荷重の有る無しは、車両に与える影響がけっこう違ってくるのではないでしょうか。

再度お断りしますが、これは私の突拍子もない想像です。
ただ、何かトラブルが起きたときに、「いつもと違う点はなかったか?」とアプローチすることは必要ですので、無理やり気味に考えを捻り出した次第です。


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