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東海道新幹線の霜対策 あれもこれも自動化

前回の記事では、冬の電車を脅かす霜の話をしました。架線に霜が付着すると、アーク放電が発生してパンタグラフや架線の損傷につながる、という話でした。

各鉄道会社はさまざまな霜対策を行なっていますが、今回の記事では、東海道新幹線の霜対策を紹介します。キーワードは自動化です。

JR東海は霜対策の新手法を発表した

東海道新幹線の「寒冷地帯」といえば、岐阜羽島~京都間です。この区間、雪の影響でよく列車遅れが発生することは、ある程度鉄道に詳しい人ならご存知でしょう。雪が降るくらい寒いということは、霜も発生するわけで、アーク放電対策は必須となります。

東海道新幹線を管轄するJR東海は、2019年に霜対策の新手法を発表し、正式導入に向けて試行中です。それが↓です。

https://jr-central.co.jp/news/release/_pdf/000038959.pdf

JR東海の公式ホームページに掲載されている資料です。あやしいリンク先ではありませんので、安心してクリックしてください(笑) 前回の記事の内容を理解できた人なら、スラスラ読めるはずです。

……え? わざわざリンク先に移動してまで読むのはめんどくさい? じゃあ要点だけ説明しましょう。

加速を抑えてアーク放電を小さくする

アーク放電を抑える方法の一つに、ノッチ制限というものがあります。一言でいえば、「加速を抑えること」です。

電車は、加速時に架線から電気を受け取ります。その際、スピードを上げるために電気をたくさん受け取ろうとすると、アーク放電が発生したときのエネルギーも大きくなり、危険です。

アーク放電を小さく抑えるためには、架線から受け取る電気を少なくする、つまり加速を抑えて低速で走ればいい。そういう理屈です。

霜自体をどうにかしようという“積極的対策”ではなく、“消極的対策”ではありますが、簡単に行えるのは長所です。

霜の検出とノッチ制限を自動化

さて、ノッチ制限でアーク放電を抑える方法自体は、特に目新しいものではありません。JR東海の新手法が画期的なのはここから。ポイントは以下の二つ。

  1. 霜の発生箇所をシステムで自動検出
  2. ノッチ制限を運転士の手動操作ではなくシステムで自動化

いずれも自動化がキーワードです。

従来からの霜対策は、人の目・人の手に頼った方法でした。係員は、線路点検時に霜が発生している箇所を確認・報告します。その情報をもとに、運転士は霜が発生している区間を、手動操作でノッチ制限しながら走るのです。

新手法は、人の目・人の手ではなく、システムを用いての自動化です。走行中の車両は、パンタグラフのセンサーにより、架線をリアルタイムで監視。センサーが架線への着霜を検出すると、車両は自動的に加速を制限する。

これがJR東海の開発した仕組みです。実際に着霜が発生している箇所のみに絞ったノッチ制限が可能なので、列車遅延を最小限に抑える効果が期待できるそうです。

こうした事例から今後の流れを読み取るべし

「自動化」の考え方は、今後の鉄道会社に不可欠です。

今後の日本では、労働人口の減少や熟練作業者の引退は避けられません。それに対応するためには、「人の目・人の手を介する」という従来の枠組みから抜け出す必要があります。

また、人口が減少すれば鉄道利用の基礎需要も減るので、鉄道会社の売上・利益額も落ちていきます。そのため、各種作業の低コスト化が求められますが、自動化が進めばそれも実現できるわけです。

……という抽象論だけではイメージしにくいので、具体例をいくつか挙げると、

  1. 列車の自動運転

    これなどまさに「人の目・人の手からの脱却」の典型例ですね。JR東日本が推し進める“乗務員レス化”が議論を呼んでいますが、先ほど説明した理由から、当然の流れだと思います。運転士の仕事に職人魂を持っていた私としては寂しいですが。

  2. レーザーやドローンでの設備点検

    たとえば、橋梁の点検をするとします。大量の作業員を動員し、足場を組み立て、列車の通らない時間帯を狙って作業する。とても手間がかかります。

    レーザーなどの非接触技術やドローンを使って手間を削減、さらにはこれにAIを組み合わせて自動化すれば、こうした問題を解決できます。

  3. 営業列車による線路の検測

    ちょっと鉄道に詳しい人なら、「検測車」はご存知だと思います。新幹線でいえば、イーストアイやドクターイエローです。

    しかし将来、検測車という存在自体がなくなるかもしれません。計測機器の小型化・軽量化が進めば、営業車両に搭載して、線路状態を常時監視することが可能になるからです。というか、一部ではすでにそうした動きが実現しています。

東海道新幹線の霜対策から始まって、だいぶ話が広がってしまいました(^^;) が、こうした事例から、今後の鉄道会社が進んでいく方向を読み取ってもらえれば幸いです。

(2020/2/13)

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