スマホを操作しながら車を運転、その結果、事故を起こして加害者になってしまう……。
現在は「あおり運転」の報道が多く、一時期ほどスマホのながら運転は騒がれなくなりました。しかし、メディアで騒がれていないだけで、件数は減ってないのではないでしょうか。
2020(令和2)年3月3日、JR貨物は、乗務中にLINEをしていたことが発覚した運転士を解雇しました。
「乗務中にスマホ」は過去に何度もある
実は、乗務員が乗務中にスマホをいじる事例は、過去に何度も発生しています。「えっ、そんなことが何度もあったの?」と思うかもしれませんが、残念ながら事実です。スマホを見ていたため、赤信号を見落とした事例もあります。
さて、そうした事実を知って、みなさんはどう思うでしょうか?
「乗客の命や大切な荷物を運んでいる意識がないのか」
「安全運行を軽視している。モラルが低い」
確かにその通りです。
「ながら運転」をしていた乗務員には、厳しい処分が下されるべきです。そのことについて、異論を差し挟む余地はまったくありません。
わかっているけどやめられない スマホ依存症
しかし同時に、この手の問題は、意識やモラルの欠如だけで片付けられるものではないと私は考えています。では何の問題かというと、スマホ依存症ではないでしょうか。
そもそも、問題を起こした乗務員も、「スマホをいじりながら乗務することはダメ」とわかっていたはずです。
「乗務中にスマホを操作することは悪いことだと思うか?」
こう問い掛ければ、日本の鉄道会社に勤める100%の人が「悪いことだと思う」と回答するでしょう。さらに言えば、会社にバレれば何らかの処分を受けることもわかっているはずです。しかし、現実にはスマホの「ながら運転」をしてしまう……。
つまり、「いけないのは百も承知だが、我慢できずに手を出してしまう」わけです。これはまさしく、スマホ依存症という病気ではないでしょうか。
病気なのだから指導を徹底しても無意味
依存症とは、「依存性の強いものによって脳のプログラムが書き換えられ、我慢ができなくなってしまう病気」といえます。病気ですから、口で注意して治るものではありません。キチンと治療する必要があります。
たとえば、うつ病の患者に対して、「甘え」だとか「気合が足りない」と言うのは間違いですよね。精神論ではなく、病気なのですから。
それと同じように、スマホ依存症の乗務員に対して、「意識やモラルが欠如している」「ちゃんと自覚をもって仕事しろ」と注意・指導するだけでは、何の対策にもなりません。
「乗務中にスマホを持たせない」が一番の対策
スマホをいじっている人が多い世の中です。スマホ依存症は、増えることはあっても減ることはないでしょう。鉄道会社にも、スマホ依存症の対策が求められます。
アルコールや煙草など、依存症はいろいろありますが、治療の基本は「断つこと」だそうです。
ですから、最も有効なのは、乗務中にスマホを持たせない。乗務前に職場で預かってしまい、業務用携帯電話を持たせる。乗務から下りてきたらスマホを返却し、次の乗務前にまた預かる。
こういう対策が必要だと思います。実際、一部の鉄道会社では、このようなことが行われているようです。(ウチの会社ではそこまでやれていませんが)
重ねて言いますが、スマホ依存症は病気であって、モラルや意識だけの問題ではありません。鉄道会社側がそのあたりの認識を誤っていると、スマホの「ながら運転」を撲滅することは不可能だと私は考えています。