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急停車で転倒してケガ! 鉄道会社の責任は問える?

運転士が異常を感知し、非常ブレーキで列車を急停車させた際、手すりや吊り革に摑まっていなかった人が転倒してケガをしたとします。

「ちゃんと摑まっていなかった俺が悪かった、自己責任だな」と納得できればいいのですが、納得しない人もいますよね、きっと。たとえば、「急にブレーキを掛けたから転んでケガをした。治療費や慰謝料を払え!」と主張する人がいるかもしれません。

そうした主張で、鉄道会社に損害賠償の類を請求できるのか? つまり、急停車に対して、鉄道会社の法的責任を問うのは可能なのか?

それを考えるのが、今回の記事です。

異常時に緊急停止するのは正当行為

結論から言えば、異常時に非常ブレーキで列車を急停車させる行為で、鉄道会社が責任を問われることは、まずありません。「責任を問われない」とは、刑事上の責任を問われないのはもちろん、民事裁判で損害賠償を請求するのも難しい、という意味です。

なぜか?

異常時に非常ブレーキで列車を急停車させるのは、規定に基づく正当な行為だからです。

鉄道会社には「列車の運転に関する規定」があります。鉄道会社ごとに内容は異なりますが、どこの鉄道会社でも「異常を認めた場合は非常ブレーキで停止すべし」という条文があるはずです。
(もちろん、ウチの会社もそういうルールになっています)

というわけで、異常時に非常ブレーキで急停車するのは、ルールに則った正当な行為なのです。

正当行為で発生した結果について、責任を問われるいわれはありません。みなさんだって、ルール通りに仕事をしていたのに責任を問われたら「ふざけんなよ!」と感じますよね。

こういう理由で、損害賠償の類を請求するのは難しいです。

重要知識! 「鉄道会社の過失」や「通勤中」の場合は

ただし例外もあります。たとえば、急停車に関して鉄道会社側に過失がある場合は、損害賠償を請求できる可能性があります。こちらの記事を参照してください。

また、鉄道会社から治療費を支払ってもらうのが難しい場合でも、あきらめてはいけません。通勤中のケガなら労災保険で対応できることがあります。労災保険を使うと、通勤中のケガ(=これを通勤災害という)に対して、原則自己負担なしで治療を受けられます。

「労災保険? 自分はそんな保険に入ってないぞ」という人、この保険は個人が加入するものではありません。労災保険法という法律に基づき、会社が加入しているものです。

ですから、通勤中に列車内でコケて負傷した場合は、会社または労働基準監督署に相談してください。

非常ブレーキを掛けなかったら重大な責任問題

少し話が逸れました。「異常時に非常ブレーキで急停車するのは、ルールに則った正当な行為」という話でしたね。

逆に言うと、異常を認めたのに非常ブレーキで列車を停めなかった場合、乗務員は厳しく責任を問われます。社内で徹底的に事情聴取されるのはもちろん、もしケガ人でも出ようものなら、国交省の調査や警察の捜査が入ることもあります。

たとえば、ホームから人が転落したとか、踏切内に車が立ち往生したとかで、衝突事故が起きた。その際、運転士が絶対に問われるのが「どこの地点でブレーキを掛けたか?」です。

ようするに、「ブレーキが遅かったせいで事故になった可能性」も(一応)疑われるわけですね。

鉄道運行のルールは国交省のお墨付き

急停車で転んでケガをした場合、鉄道会社の法的責任を問えるか? について、もう少し突っ込んで考えましょう。もしかすると、ここまで読んで次のような疑問を抱いた人がいるかもしれません。

「異常時には非常ブレーキで停まらなきゃいけないのはわかった。でもそれは鉄道会社が自分で決めた、いわば企業内だけの私的なルールでしょ? それが法的責任回避の根拠になるの?」

根拠になります。というのも、実は「列車の運転に関する規定」は、国交省の“お墨付き”をもらっているからです。

もし、鉄道会社が好き勝手にルールを定めてOKとなったら、安全基準が不十分なルールがまかり通ってしまうかもしれません。そうならないよう、「列車の運転に関する規定」は、内容に問題ないかを国交省が審査するのです。

このように、列車の運転に関する規定は、確かに鉄道会社内の私的なルールですが、一方では国が認めた公的なルールという側面もあります。ですから、「異常時は非常ブレーキで停まれ」というルールの正当性には文句のつけようがありません。このルールを守ってさえいれば、法的責任回避の根拠としてはじゅうぶんでしょう。

したがって、急停車で転んでケガをしても、鉄道会社の法的責任を問うのは難しいわけです。

……というように、規定うんぬんという小難しい話をしましたが、そんなものを持ち出さなくたって、ヤバいときに危険回避のために緊急停止するのが正当行為であるのは、一般常識の感覚でわかりますよね。

「吊り革に摑まらなくていい」とは口が裂けても言わない

ただし、以上の話は、鉄道会社がヘンなことをしなければ、という前提条件が付きます。

たとえば現在、鉄道会社はコロナ関係の案内放送をいろいろしています。その一環として、「手すりや吊り革にはウイルスが付着しているので触らないように」なんて放送をしたとしましょう。

この場合はヤバいです。もしそんな放送をして、摑まらなかった人が転倒してケガでもしようものなら、責任問題になるのは明白です。

実際、そんな放送は聞いたことがないですよね。「列車は異常時には急停車することがあります。お立ちのお客様は、手すりや吊り革にお摑まりください」が鉄道会社として正しい発言で、「吊り革には摑まらない方がいい」なんて口が裂けても言ってはいけないのです。

メディアなどで、「ウイルス対策は手すりや吊り革に触れないのが基本」と言っている専門家がいますが、これ、転倒事故とかがあったときに問題にならないのかなあ……なんて思ったりします。

こういう専門家が、何かあったときに発言の責任を取ってくれるかというと、まあ取らないでしょう。「そんなのちゃんと摑まってなかったアンタの自己責任」で一蹴されて終わり、というのが目に見えます。

ですから、人の言うことを鵜呑みにせず、自分でちゃんと考えることが大切です。

さて、本記事の内容は、鉄道会社の公式見解ではなく私の個人的見解です。……ではありますが、鉄道会社に正式に問い合わせても、ほぼ同じような回答になるのは間違いありません。

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