現役鉄道マンのブログ 鉄道雑学や就職情報

鉄道関係の記事が約470。鉄道好きや、鉄道業界に就職したい人は必見! ヒマ潰しにも最適

台湾の特急脱線事故 運行側の対策を強いて挙げるとすれば

2021年4月2日に発生した、台湾での特急列車脱線事故から10日ほど経ちました。50人以上の人が亡くなったことは、本当に残念です。

乗務していた運転士も亡くなりました。

私も乗務員経験がありますが、はっきり言って、「今日の乗務で事故に遭って死ぬかもしれない」なんて考えたことは一度もありません。おそらく、亡くなった運転士もそうだったはずで、それが「あっ!」と思った数秒後には命を落としていた。無念を感じる暇さえなかったでしょう。

報道によると、1年前に結婚されていたそうです。お気の毒としか言いようがない……。

原因は調査中だが工事業者の重過失は間違いない模様

みなさんご存じでしょうが、事故原因は、付近に置いてあった工事車両が線路に転落し、それと列車が衝突したことによるもの。

事故直後は、「サイドブレーキのかけ忘れで工事車両が動き出し、線路に転落した?」と報道されていました。が、さらに調べてみると、「操作ミスで繁みに突っ込んだ工事車両を引っ張り出そうとしたが、失敗して線路に転落した」という可能性が浮上しています。

また、工事の遅れを取り戻すため、休工日に“ヤミ工事”をしていたという情報も。

そのへんの真偽は、まだ調査中ですが、いずれにしてもお粗末な話に変わりありません。

業者側ではなく運行側でできる対策はあるか?

このブログで何度も書いていますが、事故後に大切なのは再発防止です。

ただ、今回の事故は工事業者の重過失による、いわば「もらい事故」で、鉄道を運行する側からすれば、さすがに想定外。同種の事故を防ぐための対策としては、工事業者への指導・監督をしっかり行うくらいしかなさそうな……。

やや無理気味かもしれませんが、もし鉄道運行側ができる対策を挙げるとしたら、次の二つくらいでしょうか。

  1. 落石等検知装置をつける
  2. 運転速度を見直す

① 落石等検知装置で落下物があった場合に赤信号を表示

まず、①落石等検知装置の話から。

簡単に説明すると、線路脇の斜面にワイヤーや検知柱などを設置しておき、落ちてきた岩などがワイヤーを切ったり、検知柱が傾きを検出したりすると、「ヤバいよ」と情報を発信するもの。

この情報と信号機を連動させ、現場手前で赤信号を表示することで、列車を停める仕組みです。もちろん、指令室にも情報が飛んでいきます。

(興味がある人はリンク先へ 株式会社カネコ 災害監視システム

落石だけではなく、土砂崩れや倒木にも対応した仕組みで、日本でも山岳路線ではよく使われています。伐採していた業者が誤って線路上に木を倒したり、イノシシが山の上から岩を落としたりして、検知装置が働くことは実際にあります。

こうした装置があれば、同種の事故を防止できる可能性は高まります。ただ……今回の台湾の事故現場を見た感じ、落石検知装置まで設けるような危険な雰囲気の場所ではないですね。

② 見通しの悪い場所では運転速度を抑えて万が一に備える

続いて②運転速度を見直すについて。

今回の事故、ドライブレコーダーに残っていた衝突時の映像が公表されています。それによると、支障物を発見したのは約200m手前。また、車両のログデータによると、速度は125㎞/hくらいだったようです。

これはあくまで個人的な感想ですが、「あまり見通しの良くないこの場所を125㎞/hで走るのかぁ」というのが正直なところです。
(もちろん、「ここは125㎞/hで走ってよい」と定められているはずなので、ルール上は問題ありませんが)

日本にも見通しの悪い箇所はたくさんありますが、そういうのは山岳路線、つまりローカル線に多いはず。ローカル線ですから、そもそも最高速度が高くないわけで、見通し距離が200m程度のところを125㎞/hというスピードで飛ばす路線は、あまりないはずです。

あったとしても、前述のような検知装置が備わっていたり、そこの近辺だけ速度制限をかけていたり、そもそも周辺から支障物が入り込まないよう柵が設けられていたり、そんな感じで対策が施されているのが普通でしょう。

見通しが悪いと、万が一のときに高速で事故になって被害が拡大しますから、場所に応じた運転速度の見直しが必要かもしれません。

列車が何かに衝突した場合、車両の保持する運動エネルギーは、音・熱に変換され、車体や接触した物体の破壊などにも使われます。

今回、衝突時の速度は約121㎞/h。これが仮に100㎞/hだったら、運動エネルギーは3分の2程度になり、被害の規模はそれなりに違っていたと思われます。

(解説:運動エネルギーは速度の2乗に比例する。121×121=14,641 100×100=10,000)

日本も国民全体で「他山の石」として教訓にすべき

線路内に誤って自動車等を進入させてしまい、それと列車が衝突する事故は、台湾に限らず日本でも起きています。

最近だと、2021年3月に起きた常磐線での脱線事故。不審車が線路脇のフェンスを突き破って進入し、列車と衝突。逃走した運転手は、まだ捕まっていません。

また、サイドブレーキのかけ忘れ事案だと、2020年11月の阪急線での事故。下り坂に駐車した軽乗用車が動き出し、そのまま線路内に進入したものです。

幸運なことに、これらの事故では死者は出ませんでした。が、死者が出ても、まったくおかしくなかったと思います。そういう意味で、今回の台湾の事故は、日本(鉄道会社だけでなく国民全体)も「他山の石」として教訓にしなければいけません。

関連記事

京急の脱線事故(2) どれくらい手前でブレーキをかけたのか?


台湾の特急脱線事故 トンネル断面積の大小の話


→ 鉄道ニュース 記事一覧のページへ


⇒ トップページへ