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『天気の子』で学ぶ鉄道知識 「大雨による運転見合わせ」

きのこっのっこーのこ天気の子

2021(令和3)年1月3日、2019年に公開された映画『天気の子』が地上波で初放送されました。
劇中のある出来事について、こちらの記事で考察をしましたが、今回、もう一つ考察記事を書いてみます。

(注:以降はネタバレを含むので、ネタバレ勘弁の人は回れ右してください)

天気の子

天気の子

  • 発売日: 2020/03/04
  • メディア: Prime Video
 


この映画、鉄道関連のシーンがたくさん出てきました。
制作側が鉄道の描写にも力を入れているのが伝わってきて、鉄道マンとしては嬉しかったですね。

しかし、一つだけどうしても気になったことが。


劇中の東京は異常な長雨が続いていたけど、これ、鉄道は止まるよ?


今回の記事では、この点を突っ込んで考えてみます。

 

『天気の子』の劇中ではどれくらい雨が降り続いていた?


まず、劇中でどれくらい長雨が続いたかについて。

帆高が家出してきた際、東京は連日の雨に見舞われていました。
そして、陽菜さんが「晴れ女」の能力を使いすぎて消滅した後、東京は久々に晴れます。
その際、ニュースのテロップでは、次のように表示されていました。

『関東、72日ぶりの快晴』

劇中の週間天気予報では、たまに曇りや晴れマークもあったものの、雨マークのない日はありませんでした。
「連続降雨日更新」というニュースも流れていたので、実に72日もの間、東京は雨が続いていたのですね。
東京ヤバい。

そしてその後、陽菜さんが戻ってくると、今度はさらなる長雨が東京を襲います。
劇中のセリフによると、

「3年もの間、一日も止まずに降り続けた」

これが「24時間 × 3年 = 26,280時間連続で雨が降った」のか、「ちょこちょこ雨が止む合間はあったけど、まったく降らない日は一日もなかった」のかは不明ですが、いずれにしても東京超ヤバい。

劇中のような長雨で列車が動いていたのは不自然


実際のところ、これだけ長雨が続いた場合、鉄道はどうなるのか?
結論を言うと、運転見合わせになる可能性が非常に高いです。

帆高と陽菜さんは「晴れ女」の依頼先へ出向くとき、鉄道も使ったでしょう。
しかし、「雨で○○線が止まってる!」なんて事態に巻き込まれたこともあったのではないでしょうか。
鉄道が止まればバスやタクシーも混雑しますから、代替手段で依頼先に向かうのも大変だったはず。
遅刻とかしなかったんだろうか……。

帆高と陽菜さんの逃避行の際、JR東日本各線は遅延しながらも動いていました。
しかし、72日も雨が続いていた状況で、鉄道が動いていたのは不自然です。
JR東日本の雨量計、ちゃんと仕事してます?

物語最終盤、上京した帆高は、列車(都営地下鉄三田線の地上区間と思われる)に乗って依頼主のお婆さんを訪ねていました。
しかし、3年間も雨が止まない状態で鉄道を動かすのは、不可能に近いです。
いや、不可能と言い切っていい。

なぜ雨が続くと鉄道は運転見合わせになるのか?


なぜ、長雨が続くと鉄道は止まってしまうのか?
ここからは、それを説明していきます。
少し専門的な話になりますが、頑張って読んでください。

そもそも、雨のときに鉄道を止める理由とは何でしょうか?

大量の雨水が浸透して路盤が緩み、そこに重い鉄道車両が通ると、崩壊する恐れがあるからです。

キーワード解説① 時雨量


そして、「列車を止める・止めない」を判断するための基準が必要なのですが、それに使われるのが「時雨量」です。

時雨量とは、平たく言えば、直近1時間で降った雨の量のこと。

たとえば、「1時間に50ミリの雨が降ったら運転見合わせ」のような基準が線区ごとに存在し、これに則って運転見合わせが発令されます。
真夏のゲリラ豪雨で列車が止まるのは、時雨量の基準に引っ掛かるからです。

キーワード解説② 連続雨量


ただし、運転見合わせの判断基準が時雨量だけでは不十分です。

たとえば、「1時間に50ミリで運転見合わせ」の線区があるとします。
この一帯で、1時間に40ミリの雨が、24時間継続して降りました。
このとき、「1時間50ミリに達していないからセーフ」と判断するのは適切でしょうか?

適切ではないですよね。
40ミリの雨が24時間も降ったら、路盤がヤバくなるのは容易に想像できます。

こういう場合に列車を止める根拠になるのが「連続雨量」です。

連続雨量とは、ザックリ言えば、降り始めからの総雨量のこと。
時雨量がセーフでも、連続雨量が300ミリを超えたら運転見合わせ。
雨の降らない状態が12時間続けば、連続雨量はリセットして0ミリに戻る。

こんな感じで設定されています。

“短期指標”の時雨量と、“長期指標”の連続雨量。
この二つを組み合わせて、鉄道は雨に対応しているのです。

キーワード解説③ 実効雨量や土壌雨量


ただし連続雨量は、鉄道会社によっては使っていないことがあります。
たとえば、JR東日本では代わりに「実効雨量」という指標を、JR東海では「土壌雨量」という指標を用いているようです。

これらの指標は、「どれだけの水分が土中に浸み込んでいるか?」を表したものです。

先ほど説明したように、そもそも雨による運転見合わせの理由は、雨水が路盤に浸透して崩壊の危険があるから。
したがって、「どれだけ雨が降り続いたか?」ではなく、「どれだけの雨水が土中に浸み込んでいるか?」がわかるのであれば、そちらの方が判断基準として適切なのですね。

なお、実効雨量・土壌雨量は、「12時間の降雨中断で0ミリにリセット」されるのではなく、時間経過とともに連続的に減少します。
「新たに浸み込んだ雨水」と「時間経過で土中から排出される雨水」、つまり「イン」と「アウト」の差し引きによる数値とイメージすればよいでしょう。

3年どころか72日の連続降雨にもまず耐えられない


話が難しくなりましたが、ようするに、雨に対する判断指標は複数あることを理解してもらえればOKです。

で、『天気の子』に話を戻すと……
劇中のように、72日間や3年間も雨が降り続けば、“長期指標”の連続雨量や実効雨量に引っ掛かるのは確実でしょう。

では、何日くらい雨が続いたら、連続雨量などに引っ掛かるのか?

これは一概には言えません。
どれくらいの勢いで雨が降ったかや、途中で雨が止んでいた時間によっても変わってくるので。
さらに、“長期指標”の連続雨量で運転見合わせになる事例自体がそもそも少ないため、私も経験則からの予想がしにくい(^^;)

が、本降りによって、新たな雨水による「イン」が、土中から排出される「アウト」を上回る状態が1週間も続けば、かなり危ないセンではないでしょうか。

いちおう私の経験ですが、それなりの雨(=台風やゲリラ豪雨の短時間大雨はナシ)が5日間続いたときに、連続雨量が基準値の3分の2くらいまで上がっていた記憶があります。
そのあたりから考えると、やはり1週間から10日くらいが「当たらずとも遠からず」のラインな気がします。

3年間はもちろん、72日の連続降雨にも、鉄道が耐えるのは難しいでしょう。
というわけで、『天気の子』の劇中で列車が元気に走っていたのは、ちょっと無理がある設定では……というのが私の感想です。


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