最近、いわゆる「撮り鉄」のマナーの悪さについて、ネット等で取り上げられる機会が増えてきました。あくまで一例ですが、撮り鉄のマナー違反として、以下のような行為が報告されています。
- 線路内に侵入する
- 撮影の邪魔になる樹木を勝手に切る
- 路上駐車で交通を妨げる
しかし、これらの行為、私はマナー違反だとは思いません。これらをマナー違反と言うのは、どう考えてもおかしい。
「ルール違反」じゃないの?
「マナー違反」を通り越して「ルール違反」
線路内に勝手に入るのは、鉄道営業法違反。撮影に邪魔な樹木等を勝手に伐採するのは、それが誰かの所有物であれば、刑法の器物損壊罪。路上駐車は、道路交通法違反。
明確に違法です。マナーの問題ではありません。
マナーとは、社会常識や周囲への配慮、節度などのこと。人と人とが社会で円滑に共同生活を送っていく上で必要なものですが、守ることに対して強制力はありません。といっても、守らなければ批判されたり、眉をひそめられたりするでしょうが。
ルールとは、法令・規程等で遵守することが定められているもの。ルールは守る必要があります。
マナー違反ならば、「守らなきゃいけない決まりでもあるんか!」という強弁が通じるかもしれませんが、ルール違反では無理。マナーとルールの線引きを、ちゃんと認識するべきだと思います。
もう一度言いますが、ネット上で晒されているような撮り鉄の行為は、
「マナー違反」じゃなくて「ルール違反」じゃないの?
それなのに、なぜか「マナーの問題」として論じられているケースが多いように感じます。
現場の鉄道マンはルール・マナー違反に怒っている
現場の駅員や乗務員は、撮り鉄をどのように思っているのでしょうか? 全国の鉄道マンの気持ちを代弁することは私には不可能ですが、ウチの会社・私が一緒に仕事をした同僚という範囲に限って言うと、次のような感じです。
まず、駅や沿線での撮影行為は、ルールやマナーを守っている限りは、特に何も思わない社員が多いようですね。私も「写真撮ってる人がいるネー」くらいにしか思いません。
問題は、ルール・マナー違反をする人や、こちらの指示を聞かない人です。
「危ないですので下がってください」と呼び掛けているのに、無視して線路に身を乗り出す人。場合によっては、運転士が危険を感じて列車を停めることもありますが、わかってるのだろうか。
撮影のために、沿線のマンションに侵入する人。ウチの会社に「なんとかしてくれ」と苦情が入るんですけど……
ホームの端に三脚 + カメラをセットし、その場を離れる人。「倒れて線路に落ちたら危ない」と撤去し、遺失物として回収したら、「カメラが盗まれた!」と騒いで窓口に来る。実際に盗まれても文句言えないと思いますが……
こちらも仕事ですから穏やかに対応しますが、内心では腸が煮えくり返っています。というか、お客さんのいないところでは、「あいつらマジふざけんなよ!!」と怒りを吐き出している社員も実際にいますよ。
ルール・マナー違反をするのは一部だけ 極論はよくない
もっとも、ルール違反(やマナー違反)をしている撮り鉄は、ごく一部でしょう。すべての撮り鉄が悪質であるかのような論調は、極論に過ぎます。
個人的には、生活保護バッシングと構図が似ている気がします。
不正受給の問題がたくさん報道されたこともあり、世間では「生活保護 = 不正受給ばかりでけしからん」みたいな雰囲気がありますよね。しかし、不正受給の割合は、金額ベースで0.4%ほどだそうです。「生活保護は不正受給ばかり」とは、とても言えないでしょう。
ついでに言っておくと、本来は資格のある人が生活保護を受けていないケースは8割にもなるそうです。そういう内容は、メディアも報じないですね。不正受給の方がニュースバリューがある = 視聴率が取れるからだと思います。
話が逸れましたが、同様に、撮り鉄のルール・マナー違反も一部だけの話でしょう。私も乗務員時代、数多くの撮り鉄さんを目にしてきましたが、「これはマズいんじゃないの?」と思ったことは、ほぼありません。
まあ、マズいことをやらかす一部の人に限って、こういう注意喚起記事は読んでくれないでしょうが……
「かぶりつき」は嫌がる運転士が多かった
さて、あとは軽い話で〆ます。
駅や沿線での撮影ではなく、運転席の後ろに張りつく、いわゆる「かぶりつき」。正直に書くと、コレは嫌がる運転士が多いです。みなさんも、自分の仕事シーンを第三者が後ろからジーッと眺めてきたら「なんじゃ」と思うでしょうが、それと同じです。
といっても、当然ですが業務の邪魔をしなければ何も問題ありませんので、ご自由にかぶりついてください。
私個人としては、かぶりつきは嫌ではなかったです。見せる(魅せる)のも運転士の仕事の一つだと思っていたので。かぶりつきが後ろに来ると、「プロの運転を見せてやる!」「カッコよく決めてやる!」と、むしろ気合いが入っていました。まあ、私のような運転士は少数派だと思います(笑)