現役鉄道マンのブログ 鉄道雑学や就職情報

鉄道関係の記事が約460。鉄道好きや、鉄道業界に就職したい人は必見! ヒマ潰しにも最適

2018年度決算を見てみよう JR貨物は苦難の一年 

6月になり、鉄道会社を含め、いろいろな会社の2018(平成30)年度決算が出てきています。

いや、別に私は経理担当者ではないし、ましてや経営に携わる者でもない、現場の一社員に過ぎません。自分の仕事に直接関係はありませんが、しかし、気になる会社の決算書には、勉強だと思って目を通すようにしています。

輸送量の3分の1を失った西日本豪雨

個人的に、昨年(2018年)度の決算が一番気になっていた鉄道会社はJR貨物です。なぜかというと、JR貨物にとって、自然災害の影響をあまりにも多く受けた一年だったからです。

  • 6月 大阪北部地震
  • 7月 西日本豪雨
  • 9月 北海道胆振東部地震
  • 9月 台風

JR貨物は現在、一日に約9万トンの貨物を輸送しています。ところが、7月の西日本豪雨で山陽本線が長期間不通になり、このルートを通る約3万トン! の貨物が運べなくなりました。

9万トンのうちの3万トン、つまり3分の1ですよ。

関西~九州は、貨物輸送の“大動脈”ともいえる区間なのです。JR貨物にとって、あまりにも痛かった。

貨物列車が運転できなくても、トラックやフェリーでの代行輸送を行います。が、代行輸送はどうしても輸送力の規模が小さいので、列車で運べなくなった分をすべてカバーできるわけではありません。決算書には、輸送力の規模が縮小した影響で、109億円の減収になったと書かれていました。

また、代行輸送の手配にはカネもかかります。決算書では、代行輸送の費用として21億円が計上されています。

ちなみにこのとき、「山陰本線を使った迂回輸送」が行われました。しかし、一日に運んだのはせいぜい貨車数両分のコンテナ。焼け石に水です。輸送力の回復が目的というよりは、災害時のノウハウ獲得のために行われた取り組みといってよいでしょう。

泣きっ面に蜂の地震と台風

そして9月、北海道胆振東部地震が発生。主要路線は比較的早く復旧しましたが、すべての不通区間が解消されるまでには約2週間を要しています。この地震では、一日約2万トンの輸送力が失われました。

つまり、一番ひどい時では、一日の輸送量9万トンのうち、半分以上にあたる5万トン(=西日本豪雨3万トン+地震2万トン)が列車で運べなくなったわけですね。

ここまででもじゅうぶん「泣きっ面に蜂」ですが……

9月末、関係者の懸命の努力により、不通だった山陽本線がようやく復旧……したと思ったまさにその当日。この日を狙ったかのように台風が中国地方を直撃して、大動脈である山陽本線は再び不通に。再開までに2週間かかっています。

このニュースを見たとき、もはや言葉が出なかったことを覚えています……。

結局、これら一連の災害での損失額は、

  • 125億円の減収。輸送力が縮小したため
  • 24億円の特別損失。代行輸送の費用など

JR貨物にとって、2018(平成30)年は本当に災難な一年でした。災害で被災された方、そしてJR貨物の関係者に、改めてお見舞い申し上げます。

ここ2年の飛躍に水を差された一年

さて、JR貨物には災難続きだった2018(平成30)年度ですが、実際のところ決算はどうだったのでしょうか?

JR貨物はいろいろな事業を行なっており、グループ会社もたくさんあるため、連結と単体の決算を発表しています。が、ここでは鉄道事業をフォーカスしたいので、単体(さらにその中の鉄道事業の決算を見ていきます。

まずは、当該2018年度を含めた、過去5年分の売上額です。

2014年度 1338億円
2015年度 1363億円
2016年度 1369億円
2017年度 1411億円
2018年度 1355億円

細かい数字は見なくていいです、数字の流れをザッと見てもらえればOK。

ここ数年、順調に売上を伸ばしてきたところで、ガツンと前年比-56億円。さきほども書きましたが、災害の影響で100億円以上の減収になりましたから、順調にいっていれば、前年比+50億円くらいにはなっていたはずです。

続いて、売上から費用を差し引いた利益(営業利益)の額。

2014年度 -51億円
2015年度 -33億円
2016年度 +5億円
2017年度 +6億円
2018年度 -62億円

JR貨物の鉄道事業は、昔からずっと赤字が続いていました。それがここ2年で黒字に転換。さらなる飛翔を目指していたところで、ドカンと-62億円の赤字。

過去の赤字と違って、2018年度の赤字は自然災害による一過性のものですから、そこまで問題ない。来年は黒字で巻き返せるはず、大丈夫。

……と思いたいところですが、今年度も自然災害に襲われるかもしれません。事業エリアが広いだけに、自然災害に業績が大きく左右されるのがJR貨物の弱点。自然災害時の対応強化、そして損失額をいかに小さくできるか、こうした取り組みが今後のポイントですね。

最後に、決算の数字ではないですが、コンテナ輸送量を示しておきます。

2014年度 2154万トン
2015年度 2211万トン
2016年度 2199万トン
2017年度 2243万トン
2018年度 2027万トン

前年比で約-10%。ここ数年では最低の数字です。やはり、関西~九州の大動脈が3ヶ月近く不通だったのは痛すぎました。

JR貨物の財務体質は昔より大幅に強化された

ただし、JR貨物が手掛けているのは鉄道事業だけではありません。その他の事業、たとえば不動産事業は好調で、鉄道事業のマイナスを補ってくれています。(鉄道会社が不動産事業を手掛けているのはよく聞きますが、なぜそんなことができるのかについても、そのうち書こうと思います)

この「鉄道事業のマイナスを、不動産事業のプラスで補う」のは、JR九州と同じ構造ですね。いまや、不動産事業はJR貨物にとってなくてはならない収益の柱です。

ただ、単体決算での最終的な利益(当期純利益)は、災害による影響が大きく-9億円という結果。というわけで、JR貨物にとっては厳しい一年となりました。

しかし、上で紹介したような甚大な被害を受けながら、-9億円で済んでいるという見方もできます。私くらいの世代の人間だと、「JR貨物の鉄道事業=数十億円の赤字は当然」みたいな感覚があるので、いつの間にJR貨物の体質がここまで強くなったんだ、と驚いています。

「今後は、連結決算で経常利益140億円以上を目指す」などという目標も掲げられています。

JR貨物の上場はおそらく難しい

さて、JR貨物が利益を出せる状態になってくると、気になるのが「JR貨物は上場するのか?」という問題。

現在、JRで株式を上場しているのが、東日本・西日本・東海・九州の四社。北海道と四国の株式上場はありえませんから、この四社に続いて貨物が上場まで持っていけるのか?

しかし、個人的な意見を言わせてもらうと、JR貨物の上場は極めて難しいと思います。たとえ目標通り、連結決算で140億円以上の黒字を出せたとしても、です。

なぜか?

他の鉄道会社が納得しないからです。「どういう意味?」と思うでしょうが、長くなったので、この話は次回以降にいたします。

続きの記事はこちら 「アボイダブルコストルール」を日本一わかりやすく解説する

関連記事

→ 鉄道の豆知識や雑学 記事一覧のページへ


⇒ トップページへ