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JR東日本 出区点検中の車両が100メートル動く

2019(令和元)年7月29日の朝、JR東日本の茅ヶ崎駅で、以下のようなトラブルがあったとのこと。

茅ヶ崎駅にて、運転前の点検を担当していた運転士が点検手順を誤り、車輪止めを外してから点検を開始したため、車両が動いてしまった。現場はやや傾斜していたため、車輪止めを外された車両が約100メートル動いてしまった。

【基礎知識】鉄道用語の解説

まずは鉄道用語を四つ紹介しましょう。新しい用語を覚えて、鉄道仲間に差をつけるチャンスです(笑) といっても、以下の用語は鉄道に詳しい人なら常識かもしれませんが……。

運転前の車両点検のことを出区点検(読み方:しゅっくてんけん)といいます。私鉄だと、「出庫点検」(読み方:しゅっこてんけん)と呼ぶことが多いです。パソコンに例えれば、立ち上げ作業に相当するものです。

車両を駅・車庫などに置いておくことを、鉄道用語では留置といいます。

留置の際に車両が動かないよう、車輪に噛ませておく車輪止めのことは手歯止めまたはハンドスコッチと呼ぶのが業界では一般的です。

それから、このトラブルのように、車両が勝手に動いてしまうことを転動といいます。

今回のニュース、この四つの用語を使って説明すれば、以下のようになります。

駅に留置してあった車両を出区点検する際、手歯止めを外すタイミングを誤ったため、車両が転動した。

車両のブレーキが掛かっていれば転動はしない

鉄道という乗り物の特徴は、鉄の車輪と鉄のレールを使用していること。鉄が素材のため、車輪とレールの摩擦が少ない、つまり、少しの力でも車両を動かせることを意味します。

ですから、少しでも傾斜がある場所でノーブレーキ状態だと、鉄道車両って簡単に転動します。車両を車庫などに留置するときは、車輪に手歯止めを装着して動かないようにしておくわけです。

ただし、手歯止めを噛ませるのはあくまでも念のための措置です。手歯止めを噛ませなくても、車両側のブレーキがちゃんと掛かっていれば、まず転動はしません。

昔の車両だと、一晩留置している間に、ブレーキシリンダの空気が抜けてしまってブレーキ力が落ちてしまうことはありました。しかし、現代の車両は性能が上がっているので、一晩留置したくらいではブレーキシリンダ内の空気は抜けません。

逆にどうやったら出区点検中に車両が転動するのか?

そういうわけですから、本件トラブル、同業者である私に言わせるとよくわかりません。「逆にどうやったらこんなトラブルが起こせるの?」みたいな感じで。

再度言いますが、車両のブレーキが掛かっている状態なら、手歯止めを外しても転動しません。つまり、手歯止めを外す順番を多少誤ったとしても、別に影響はないのです。

そして出区点検は、普通は車両のブレーキを掛けたまま行います。客室内の点検や、外に出て車両の下回り点検を行う、つまり運転士が運転台を離れる場面もあるので、車両のブレーキを掛けたままじゃないと危ないです。

「ブレーキ試験」といってブレーキの状態を点検する作業もありますが、そのときは運転士は運転台にいるので、万が一車両が転動したら、すぐにブレーキを掛けて車両を停止させるはず。

つまり今回、車両が100メートルも転動してしまったということは、

  • 手歯止めを外した状態で
  • 車両をノーブレーキ状態にしてしまい
  • しかもそのとき運転士は運転台にいなかった

この三つの状態が重なったということです。

うーん、普通に出区点検していれば、こんなことは起きないはずなんですが、よほど雑に仕事をしていたのか、寝ぼけていたのか……。とにかく、現時点では情報が少なすぎてよくわからない、というのが私の感想です。

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