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阪神車庫で山陽電鉄の車両が脱線 原因を考察する

2020(令和2)年6月22日、山陽電鉄の車両が、乗入先の阪神線内で脱線。車庫内で走行試験をしていたところ、ブレーキが効かずに車止めに衝突・脱線した。

事故を起こしたのと同型の車両

事故の起きた場所 車両基地の隅の線路終端部分

今回の記事では、この事故の原因について考察します。運転士のブレーキが遅れただけの可能性もありますが、ここでは考えません。単なる操作ミスだとしたら、考察もクソもないので。

運転士は「ブレーキ操作をしたが、ブレーキが効かなかった」と述べており、車両に不具合があったものと仮定して話を進めます。

車両の仕組みを人体にたとえると理解しやすいかも

さて、一口に「ブレーキが効かなかった」といっても、考えられる原因はさまざまです。専門用語を交えてしまうと、読者のみなさんが理解しにくいので、わかりやすく人体にたとえて説明しましょう。

突然ですが、私からみなさんに一つ指示を出します。

右手と左手を、それぞれチョキの形にしてください。

どうでしょうか、ちゃんと右手と左手がチョキの形になったでしょうか? 「なった」という人の身体では、次のようなことが行われたはずです。

・まず、脳が「右手と左手をチョキにしろ」と命令を出す
→その命令は、神経を伝わって右手と左手に届けられる
→命令を受けた右手と左手が、チョキの形を作る

私、医学は素人ですが、たぶんこんな感じでいいんですよね? (^^;)

ブレーキが効かなかった原因として考えられるのは?

逆に言うと、チョキが作れなかった場合、原因は①~③のどれかのはずです。

  1. そもそも脳が命令を出せていない
  2. 脳からの命令は正常に出されたが、途中で神経が切れていて、手まで命令が伝わらない
  3. 手まで命令は届いたが、指を骨折しているなどのせいで、チョキが作れない

この例え話、「ブレーキが効かなかった」という今回の事故に、そのまま当てはめられます。

  1. 運転士はブレーキ操作をしたが、ブレーキの命令が出なかった
  2. ブレーキの命令自体は出たが、断線が原因で、命令が途中で切れた
  3. 命令は伝わったが、実際にブレーキを作動させる部分が壊れていた

ブレーキ関係の部品破損のセンは薄い

今回の事故原因として、まず除外できるのは、③実際にブレーキを作動させる部分が壊れていたです。さっきの人体の話なら、指を骨折していた可能性は薄いということ。

脱線した車両は6両編成。
ブレーキ時は6両それぞれに命令が伝わり、各車ごとにブレーキが掛かります。

仮に1両の部品が壊れていたとしても、残りの5両がブレーキを掛けるので、止まれるはず。「ブレーキの効きが悪い」という話にはなりますが、「ブレーキが効かない」はないでしょう。

またまた人体の例え話なら、右手の指が骨折していても、左手が無事ならチョキは出せるでしょ、ということです。

もちろん、6両すべてのブレーキ部品が壊れていた可能性も微粒子レベルでありますが……まあないですね。

ブレーキ命令を伝える線の断線も考えにくい

続いて、②途中で断線していてブレーキ命令が伝わらなかった。うーん、可能性はありますが、ちょっと考えにくいです。

一般的に、鉄道車両は3系統のブレーキを搭載しています。

  • 常用ブレーキ
  • 非常ブレーキ
  • 保安ブレーキ

この3系統のブレーキ、命令を伝えるための指令線は別々になっています。人体にたとえれば、脳→手の神経が1本だけではなく、複数本あるようなもの。1本が切れても、他の神経が無事なら命令は伝わる、という具合。

今回の件、運転士はまず「常用ブレーキ」を掛けたはずです。ところが、常用ブレーキが効かない! 慌てた運転士は、次の瞬間、ブレーキハンドルを「非常ブレーキ」位置にしたはずです。ところが、非常ブレーキも効かずに車止めに衝突。

(ちなみに、あと一つの保安ブレーキは、たぶん使うヒマがなかったかと)

先ほど書いたように、ブレーキ命令を伝えるための「指令線」は、常用ブレーキと非常ブレーキでは別々です。二つの指令線が同時に不具合を起こし、常用・非常とも効かなくなるのは考えにくい。

もちろん、ダメだったのは常用ブレーキだけで、実は非常ブレーキは無事だった可能性もあります。常用ブレーキが効かない → 非常ブレーキを掛けたら効いた → しかし間に合わずに衝突、という流れだったのかもしれません。ただ、運転士が「ブレーキが効かなかった」と言っているので、ここでは両方がダメだったと仮定します。

ブレーキハンドルに異常があった?

となると、消去法的に①そもそもブレーキの命令が出なかったが浮かび上がってくるわけですが……。人体にたとえれば、脳に異常があって、命令が正常に出せない状態です。

では、ブレーキ指令に関する「脳」はどこかというと、運転士が握っているブレーキハンドルです。もし、ここに何かの不具合があれば、運転士がいくら操作してもブレーキ指令が出ず、ブレーキは掛からないわけです。

他社の事例を活用する姿勢が大切

……とまあ、車両の仕組みを知っていれば、こんな感じで推測ができます。もちろん、他にも細かいところで原因は考えられますが、あまり専門的になると難しくなるので、ここでは大雑把な話にとどめておきます。

で、こういう推測をいったい何に活用するかというと、「ウチの会社でも同じようなことが起きる可能性はないか?」という検証に使うんですね。

他社の事故を見て、「ふーん大変だなあ」で終わるのでは鉄道マン失格。もちろん、現時点では断片的な情報しかありませんが、いろいろな可能性を考えて自社に当てはめ、安全のために活用する。そういう考える姿勢が大事です。

ただ、そのためには知識が必要です。「他社の事例を活用しよう」という姿勢があっても、元となる知識がなければ、考えようがありません。本件でいえば、ある程度は車両の仕組みを知らないと、推測のしようがないですよね。

ようするに、考える姿勢と知識は、セットになってこそ初めて意味があるわけです。どちらか一方だけでは足りないのですな。別の言い方をすれば、知識をつけることそのものが目的になってはダメで、活用する意識を持って知識を身に付けるのが大切、ということですね。

まあ、「そこまでできているか?」と問われれば、私もあまり自信はありませんが……。

続きの記事はこちら 阪神車庫での脱線事故 原因はブレーキの遅れ

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