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JR外房線の脱線事故 置き石をした犯人が捕まる

2020(令和2)年5月8日に起きたJR外房線の脱線事故ですが、6月19日に進展がありました。付近に置き石の形跡があったため、警察が捜査していたのですが、置き石をした10歳の男児が捕まりました(児童相談所に書類送致)。

報道によると、男児は「実験で置いた」という趣旨の説明をして、反省の様子を見せているとのこと。また、過去にも何度か置き石をしたことがあり、だんだんと石の数を増やしていったそうです。

まだ置き石と脱線の因果関係確定には至ってない

ネット上では「脱線原因は置き石だった」と表現している記事もありますが、これは不正確。現時点では、あくまでも「置き石犯を捕まえた」だけで、「置き石が脱線原因だった」と決まったわけではありません。

別の言い方をすれば、まだ正式には置き石と脱線との間に因果関係が認められてはいない、ということ。

列車が脱線しようがしまいが、置き石という行為自体は犯罪ですから、ひとまずは「置き石をした行為」だけに着目して捕まえたわけです。

ですから、現時点でJR東日本が男児の保護者に損害賠償請求するのは、まだ早い。せいぜい、置き石事件調査のためにかかった人件費くらいしか請求できないはずです。

今後の流れは? 置き石と脱線の因果関係を調査

今後は、置き石と脱線との因果関係を調査し、「置き石のせいで列車が脱線した」との結論が出てから損害賠償請求、という流れになると思われます。

脱線などの事故の原因調査を行うのは、運輸安全委員会という組織。置き石の影響はもちろん、車輪やレールに異常が無かったかも考慮して、結論を出すでしょう。

「置き石が脱線原因なのは確定なんだから、車輪やレールはもう調べなくていいじゃん」と思うでしょうが、事故調査というのはそういうものではないんですね。「置き石が原因の一つなのはわかった。でも、その他にも脱線につながるような要因はなかったか?」という視点で調べるわけです。

意外や意外! 損害賠償の請求は難しい?

ただ……因果関係の立証および損害賠償の請求は、我々が思っているほど簡単ではないかもしれません。

常識的に考えれば、置き石が原因で脱線したに決まっています。しかし最終的に、運輸安全委員会の結論は、「脱線原因は置き石で間違いない」という断定ではなく、「脱線原因はおそらく置き石だろう」という推定で終わると思われます。

それはなぜか?
理由を説明します。

以前の記事で書きましたが、線路上に故意に置かれた障害物で列車が脱線した事例は、実はほとんどありません。公式な記録として残っているのは、以下の2件ぐらいです。

① 1980(昭和55)年 京阪電鉄での事故中学生たちがいたずらで、コンクリート製U字溝のフタを線路上に置いた。それに列車が乗り上げて脱線した。
② 2003(平成15)年 近鉄での事故線路上にコンクリートブロックが置かれており、列車が接触して脱線。コンクリートブロックの大きさは、34cm×13cm×15cm。後日、次の犯行を行おうとした犯人が現行犯で捕まった。

これらの犯行で置かれた障害物の大きさは、もはや「置き石」と呼べるレベルを超えています。ですから、脱線との因果関係が立証しやすかった。そのため、京阪電鉄の事件では、犯人たちに損害賠償請求がされています。

では今回、10歳の男児が置いた石の大きさは、どれくらいだったのか? 直前でも運転士が発見できなかったことから、たいした大きさではなかったはずです。つまり、過去に脱線事故を引き起こしたレベルの障害物とは程遠く、前例がない。

となると、置き石がどれくらい脱線に影響したのか、それを検証するのは容易ではないかもしれません。ですから、「原因は置き石で間違いない」という断定ではなく、「原因はたぶん置き石」という推定で終わるだろう、と考える次第です。

JR東日本には、男児の保護者からキッチリ損害賠償を取ってほしい。しかし、「断定じゃなくて推定だろ。置き石で脱線したと100%決まったわけじゃない」とゴネられる可能性がゼロとは言えません。まあ、断定じゃなくて推定レベルでも損害賠償は取れると思いますが、ちょっと面倒かも。

追記 損害賠償うんぬんの見解については、法務関係のお仕事をされているはてなブロガー・エストッペルさんから詳しいコメントをいただきました。下のコメント欄をご覧ください。

続きの記事はこちら 外房線脱線事故の調査報告書が発表される

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