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伊豆箱根バスの事件 運転手の行為は擁護できない

鉄道業界ではないですが、同じ国土交通省管轄下の「お隣さん」として、バス業界での話題に触れます。ネット上でけっこう話題になっている、あの事件です。

2022(令和4)年4月、静岡県の伊豆箱根バスにおいて、ノーマスクの女性が乗車。運転手はマスク着用を求めたが、女性客は拒否。運転手は停留所でない場所でバスを停め、女性客を降車させた。

正当な事由がないにもかかわらず運行の継続を拒否 & 停留所以外の場所で乗客を降ろした。これが道路運送法違反ということで、伊豆箱根バスは行政処分を喰らいました。

ノーマスク客を停留所ではない場所で降ろした運転士。言い分としては、「他のお客様に配慮した」とのこと。これに対して、「運転手は迷惑客に毅然とした態度で応じた。立派だ!」「これでバス会社への処分はおかしい」という擁護の声がネット上では多いようですが……

 正直ビックリ
 ないわぁ

何でもかんでも運転手の判断を尊重したらどうなる?

他の乗客への配慮とは、「この女性客を乗せ続けたら、他のお客様に迷惑が掛かってマズい」という意味でしょう。そう判断し、ノーマスク客を乗車拒否する決断を下した運転手。

ですが、「他のお客様の迷惑になるから」という大義名分で運転手のやることが何でも許されるなら、以下のような事例もOKになってしまいます。

事例1
乗客の一人が、車内でくしゃみを2回しました。 運転手(この人、コロナかも? またくしゃみをされてウィルスを撒き散らされでもしたら、他のお客様に迷惑だなぁ)→ 「いますぐ降りてください」

事例2
運転手(あっ、このお客様、布マスクだ。不織布マスクの方が効果が高いのに……。布マスクじゃ感染対策にならないだろ。他のお客様に迷惑だなぁ)→ 「いますぐ降りてください」

事例3
いま、バスの中には20人の乗客がいます。 運転手(やべーなー、これ以上お客様が乗ってきたら『密』になって感染リスクが上がって、お客様に迷惑が掛かるなぁ)→ 次の停留所で待っていた客に向かって、「これ以上は乗せられません。次のバスを待ってください」

これ、許されると思います? 「お客様への迷惑を防ぐため、運転手の判断を尊重すべき」という理屈なら、事例1・2・3いずれも許されるでしょう。が、こんなのが通るはずないのは、常識的に考えて理解できるはずです。

ようは「迷惑」を運転手の主観にすべて委ねてしまうと、解釈次第で何でもアリになってしまう、それはマズかろう、ということ。

運転手を擁護する人たちに聞きたい。今回の事例で「運転手の行為は問題ない」という方向に持っていくと、今後は運転手による強制降車・乗車拒否が横行しかねず、結局自分たちの首を絞めることになると思うのですが、それでいいでしょうか?

「ルール」と「お願い・要請」は異なる

というわけで、乗客がリアルタイムで法律や約款に違反していなければ、乗車拒否 → 降りろ! は難しい。

「いやいや、マスク着用というルールを守っていない客の方が悪い」という意見もありましたが……

いつ、バス内でのマスク着用がルール化したん?

「車内ではマスクの着用をお願いします」とは耳タコですが、これはあくまでお願い・要請レベル。着用を強制させることは不可能です。

というわけで、当該の女性客は、法律や約款に違反した行為をしていないのは明白。対して、運転手(バス会社)は明確に法律を破っています。言い方を変えると、運転手は法律よりも“俺ルール”を優先させた。

この構図は確定なので、バス会社側に非があるのは動かしがたいでしょう。

ノーマスク = 公の秩序若しくは善良の風俗に反する!?

約款といえば、某議員が以下のようなツイートをしていました。抜粋します。

これでバス事業者が処分を受けることは厳しい。標準運送約款の拒否要件 4.公の秩序若しくは善良の風俗に反する(~中略~)などで準用できないか、確認します。

ノーマスクは公の秩序若しくは善良の風俗に反するとの方向に持っていきたいようですが……

準用できるわけないだろ、常識的に考えて

ていうか、ノーマスクが公の秩序若しくは善良の風俗に反するとか考え始めたら、テレビ局はどうなるんだっ? ニュース番組では、アナウンサーがノーマスク。ワイドショーでも、出演者はノーマスク。ドラマやアニメでも、登場人物がマスクを着用していないのが普通。

つまり、ノーマスクが公の秩序若しくは善良の風俗に反していると解釈するなら、テレビ局はヤバい番組をガンガン流していることになります。ぴゃあぁぁ。

この自民党議員は、国土交通省ではなく、総務省と話すべきでしょう。「テレビ局は公の秩序や善良の風俗に反した番組ばかり流している! こんな奴らに放送免許を与えるな!」という感じで。まあ相手にされないでしょうが。

ノーマスクといえば、飲食店も同じです。みんなマスクを外し、さらには会話しながら食事をしている人も多いですが、飲食店の中は、公の秩序若しくは善良の風俗に反する行為が横行しているとでも言うのでしょうか? アホくさ。

大切なのは「根拠」に基づいて対応すること

というわけで、私個人の感覚では、バス会社を擁護できるポイントがまったく見出せません。2021年5月に起きた「東海道新幹線 運転士のトイレ離席事件」でも、ネット上では擁護の声が非常に多かったですが、そうした世間の風潮が私にはよくわからないです(^^;)

今回の件、当該運転手も悪気があったわけではなく、他の乗客を守らなければ! という気概でやったことでしょう。ただ、その場の空気や個人的な気分で判断するのではなく、根拠をしっかり用意すべきでした。

単に「他のお客様に配慮した」ではダメでしょう。「○○の法律や約款、営業規則を考慮したうえで、バスを停留所以外の場所に停め、女性客を降車させても問題ないと判断した」という具合です。

もっとも、今回の件では、正当な根拠を用意するのは難しかったはずですが……。

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【外部リンク】マスクを着用しなかったら反則負け!? 日本将棋連盟のバカげたルール