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「大阪万博時にスーパーはくと増便」の案を考察(2) 臨時列車を走らせるダイヤ的余裕はあるか?

2025(令和7)年の大阪万博期間中、関西と鳥取を結ぶ特急・スーパーはくとを増便するよう、鳥取県がJR西日本に要望しました。万博来場客を鳥取への観光に誘致しようという狙いです。

このニュースについては、↓の記事で触れました。増便で車両が不足する場合、それをどう補うか? という観点で考察しました。

今回の記事では、万博に伴うスーパーはくと増便について、ダイヤ面を考えてみます。そもそも臨時列車を走らせるだけのダイヤ的余裕があるかどうか。専門的な要素も出てくるので難しいですが、それだけに、鉄道に興味がある人には面白い内容かと思います。

行き違い制約が伴う単線のダイヤ設定は難しい

スーパーはくとの走行区間は↓図の通りです。

本来は、西は倉吉・東は京都まで足を伸ばす列車だが、ここでは鳥取~大阪間のみを示す

大阪~上郡の東海道・山陽区間は、複線ということもあり、臨時列車をねじ込むのは可能だと思います。いや、そんな単純な話ではなくて、いろいろ考慮すべき要素はあるんですが……。まあ、東海道・山陽区間は大丈夫と見なして話を進めます。

問題は、智頭急行JR因美線の部分。

智頭急行と因美線は、特急の通過路ですが、いわゆるローカル線です。列車本数が少ない区間だから、臨時列車をねじ込むくらい余裕っしょ。

──などと考えるのは大間違い。智頭急行と因美線は全て単線で、複線のように駅間ですれ違いができないため、思いのほか制約が多いのです。

智頭急行には、沿線の市町村や岡山県も出資しています。決してスーパーはくとの専用路ではなく、地元民の足や、岡山方面からのアクセス(=特急スーパーいなば)も担わなければいけません。大阪方面からのアクセスばかりを重視して、はくと様が「俺のために道を開けろ! 他の列車は脇にどけオラァ!」とやるのはマズい。

したがって、前提条件として、現在のダイヤは変えない。定期列車の隙間に、臨時はくとが「みなさんの邪魔しないよう気をつけるんで、ちょっと通してください。えろうスンマセン」と頭を下げて入り込む余地があるか考えてみます。

図を使って時刻を考えてみた → 増便は上下2本ずつが限界では

ここで登場するのが、列車運行図表またはダイヤグラムと呼ばれるものです。↓図は、智頭急行と因美線をメインとした図表(注:鉄道会社の公式資料等ではなく私の自作です)。

みなさんが普段目にする時刻表は、数字の羅列ですよね。対して我々現場の指令員は、列車の動きを把握するために、こういうものを用います。xとyの一次関数グラフみたいな図です。
(→列車運行図表の読み方を知りたい人は、こちらの記事を参照)

スーパーはくとは、おおむね2時間に1本の割合で運行しています。たとえば、鳥取方面行のスーパーはくと、上郡駅12:44発の次列車は14:44発です。

では、この2本のちょうど真ん中、上郡発13:44あたりで臨時列車を作ることは可能なのか?

しかし、図表を眺めると、これは無理であることが(私のような鉄道マンには)一目でわかります。上郡発13:44と仮定したダイヤが↓図。

赤い線が上郡発13:44のスーパーはくと

図表の読み方を知らない人は「なんのこっちゃ?」と思うでしょうが、この赤線は、対向列車との正面衝突や先行列車への追突を起こしています。この時間帯を通すのは厳しいですね。

もし13時台に臨時列車を出したかったら……。うーん、上郡発13:35くらいか。これも無理やり感が否めませんが。

ただし、途中で対向列車行き違いのため、鳥取到着までにトータル15分くらいロスします。定期列車が邪魔になって、スマートなダイヤ設定はなかなか難しいです。

こんな感じで、臨時スーパーはくとを出せそうなダイヤの隙間を適当に探し、書き込んでみました(↓図)。

すみません。「定期列車の時刻は変えないのが前提」などと言いましたが、一部列車の時刻をいじらざるをえませんでした。そうしないと無理だったので(^^;)

実際に考えてみての印象ですが、現行ダイヤをベースにするなら、増便できるのは、せいぜい上下2本ずつまでではないでしょうか。それ以上はダイヤ面だけでなく、車両や乗務員調達の面からも現実的とは言い難く、ましてや1時間に1本などは不可能と考えます。
(抜本的にダイヤを見直すなら話は別ですが)

振り子非搭載の車両を使う場合は所要時間が増える

それから、上で示したダイヤは、「使用する車両が現行のものと同等であること」との前提条件が付きます。

どういう意味かというと──現在、スーパーはくと及びスーパーいなばには、振り子車両が使用されています。

写真左:スーパーはくとHOT7000系 写真右:スーパーいなばキハ187系

振り子とは、カーブ時に車両を内側に傾斜させることで遠心力を緩和し、カーブの高速通過を可能にするシステムです。急カーブが存在する智頭急行と因美線では、この振り子車両を使うことで、特急の所要時間を短縮しています。

しかし、振り子車両はそうそう存在しません。

もし、臨時列車の増便用に調達した車両が、振り子非搭載だと、ちょっと面倒です。高速カーブが無理なので、現行のはくと & いなばよりもスピードダウンします。当然、所要時間は増え、ダイヤも変わってきます。

ようするに、使用する車両とダイヤ設定には、密接な関係があるわけです。

ですので、まず「臨時列車にどの車両を使用するか?」を決めないと、ダイヤも検討できません。智頭急行とJR西日本が、車両調達について、どういう構想を練るのか非常に気になるところです。

(2023/6/16)

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