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「大阪万博時にスーパーはくと増便」の案を考察(1) 車両面の課題は?

2025(令和7)年の大阪万博期間中、関西と鳥取を結ぶ特急・スーパーはくとを増便するよう、鳥取県がJR西日本に要望。万博来場客を鳥取への観光に誘致しようという狙い。(2023年6月のニュース)

大阪万博に来た人のうち、「鉄道で鳥取に行きたい!」という人がそもそもどれだけいるか? との疑問はありますが(^^;) そこは置いといて、スーパーはくと増便について考察することにします。

列車を運行する場合、以下の3要素が必要です。

  • ダイヤ(運転時刻)
  • 車両
  • 乗務員

いくらダイヤを設定できても、車両や乗務員が調達できなければ「絵に描いた餅」です。その逆もしかり。ダイヤ・車両・乗務員が三位一体となって、列車は成立します。

今回の記事では、万博期間中のスーパーはくと増便に伴う車両調達に焦点を当てます。
(→ダイヤ面に関する考察は、こちらの記事をご覧ください)

いくら増便したくても、それ用の車両がなければ不可能です。どれくらい増便するかにもよりますが、車両が足りなくなる可能性はあります。

スーパーはくと用の新型車両の導入は難しそう

仮に現行の保有車両だけでは足りないとなった場合、どうやってカバーするか?

まず考えられるのが、新型車両の導入です。

実は智頭急行、2019年に発表した中期経営計画で、スーパーはくと用の車両の更新(新型車両導入)を示唆しています。そこで、大阪万博までに新型車両を導入し、増便で足りなくなる分を補う。万博が終わったら、余った旧型車両をポイして新型車両に切り替える。こういう構想です。

ただ、これは無理がありそう。私見ですが、智頭急行が新型車両を導入するまで、少なくともあと数年は待つ必要があると思います。大阪万博までにはさすがに……。

【理由1】財政面で問題があるのでは

理由は二つあって、まず一点目は財政面の問題。

2019年の経営計画発表直後、2020年からコロナ禍が始まりました。智頭急行も売上や利益にダメージを受け、計画が狂ったはず。早い話、車両更新を行うためのカネがあるのか? ウチの会社でもそうですが、コロナ禍による減収の影響で設備更新計画の見直しが行われ、延期や縮小がありました。

智頭急行も、コロナ禍からの財政回復期間として、数年は必要なのではないでしょうか。

【理由2】車両開発にまだ時間がかかるのでは

更新を数年待った方が良さそうな理由のもう一つは、車両の機能面の問題。スーパーはくとで使用されている車両・HOT7000系の特徴は、以下の通りです。

  • 液体式と呼ばれるタイプの気動車(ディーゼルカー)
  • 「振り子」機能を搭載

鉄道に詳しくない人、振り子ってわかります? カーブを高速で曲がろうとすると、いわゆる遠心力で外に振られますよね。そのままだと脱線するので、減速してカーブを曲がらざるをえません。

しかし、振り子車両ではカーブを曲がるときに車両を内側に傾斜させることで、遠心力を緩和し、高速通過を可能にしています。これにより、目的地までの所要時間を短縮できます。

スーパーはくとのHOT7000系は振り子搭載なので、後継車両も振り子が必須です。「お手本・モデルケース」となる振り子車両があれば、それをベースとして開発を進めたいところ。

2023年現在、振り子を搭載した最新の特急型気動車は、JR四国の2700系という車両です。2700系は、クネクネする四国の山岳路線を高速で走るため、振り子を採用しています。

この2700系をベースとして、智頭急行の新型車両も製造されるのが自然な流れです。

ところが、それは一つ問題(と私は思う)があって……。この2700系は、液体式気動車と呼ばれるタイプです。液体式とは何ぞや? については説明を省略しますが、有り体に言えば、液体式気動車は近年のトレンドから取り残されつつあります。

たとえば、ハイブリッド式って聞いたことありません? JR東海が2022年に導入したHC85系がハイブリッド式気動車です。つまり、「新型気動車は液体式以外」が最近のトレンドと言えます。

写真左:液体式のキハ85系 写真右:ハイブリッド式のHC85系

車両は20~30年は使うのが普通です。つまり、現在のタイミングで新型車両として液体式を採用した場合、10年後くらいにすっかり時代遅れになっている可能性があります。

いや、智頭急行の中で完結するならば、時代遅れでも構わないでしょうが、スーパーはくとはJR西日本との共同運行。JR西日本の事情も考慮する必要があり、保守メンテや運転士の免許の観点から、ハイブリッド式などの「次世代の気動車」を導入してほしいのがJR西日本の考えかもしれません。

話がゴチャゴチャしましたが、ようするに、スーパーはくとの新型車両としては「ハイブリッド式等の次世代型 + 振り子搭載」が望ましいわけです。

ところが、「ハイブリッド式等の次世代型 + 振り子搭載」の気動車は、2023年現在まだ存在しません。お手本・ベースとなる先行事例がない以上、開発・導入には慎重にならざるをえない。時間を要するわけで、大阪万博までには難しいでしょう。

どうやって増便分の車両を補うか? 他線区からの転属や譲渡?

というわけで、新型車両を導入して増便分を補うのは難しいと考えます。したがって、不足する分は他から融通してもらう必要があります。

智頭急行は他に特急型車両を持っていないので、JR西日本が用意するのが自然です。

JR西日本の近畿~中国エリアにおいて、気動車特急は複数存在します。大阪~鳥取を結ぶはまかぜ(キハ189系)。岡山~鳥取を結ぶスーパーいなば(キハ187系)。

スーパーいなば

これら気動車特急で使う車両に余剰があれば、一時的な転属でスーパーはくとに充てることは可能かもしれません。が、コストや管理の手間等の削減目的から、昔に比べ近年では余剰(予備)があまりないケースが多いです。

突飛な発想かもしれませんが、最悪、他社の「お古」を譲渡してもらうとか……。

JR東海では、先ほど紹介したHC85系の本格導入に伴い、“先輩”のキハ85系が間もなく引退します。まだ使えるはずなので、それを譲ってもらう案です。実際、京都丹後鉄道がお古のキハ85系を購入していますし。

再掲写真・左がキハ85系

キハ85系なら、JR西日本にもノウハウがある──つい最近まで特急ひだとして大阪まで乗り入れていた──ので、そのへんも好都合かなと。

もっとも、はまかぜのキハ189系や、JR東海のキハ85系は振り子車両ではないので、スーパーはくととして使用する場合、高速運転できずに所要時間がやや伸びそう。スーパーはくと、現行では大阪~鳥取間を約2時間半ですが、でもまあ、3時間程度で行ければ許容範囲内ではないでしょうか。

所要時間といえば──大阪から鳥取へ鉄道で行くには、スーパーはくとの「山陽本線~智頭急行ルート」以外にも方法があります。

  • 播但線~山陰本線ルート(大阪 → 姫路 → 和田山 → 鳥取)
  • 福知山線~山陰本線ルート(大阪 → 尼崎 → 福知山 → 鳥取)

ただ、山陰本線経由は特急でも約4時間かかります。スーパーはくとでの所要時間が約2時間半、高速バスで約3時間。4時間ではさすがに勝負にならないですね。やはり、臨時列車にもスーパーはくと同様のルートが必須です。

(2023/6/11)

続きの記事はこちら 「大阪万博時にスーパーはくと増便」の案を考察(2) 臨時列車を走らせるダイヤ的余裕はあるか?

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