現役鉄道マンのブログ 鉄道雑学や就職情報

趣味で鉄道好きな人はもちろん、就職・転職等で鉄道業界に興味がある人もどうぞ! 現役鉄道マンが、鉄道の雑学や裏話を語ります。

「定時運行へのこだわり」は安全を損ねるのか?

福知山線脱線事故では、原因や背景がいろいろと探られました。
その中の一つに、

「定時運行へのこだわり」が運転士にプレッシャーを与えていたのでは?
そのプレッシャーが事故の遠因になったのでは?

「定時運行へのこだわり」は、鉄道の安全を損ねるのではないか?

こういう論調があったことを覚えているでしょうか。
今日は、この点について私の考えを述べていきます。

 

ありがちな誤解 「列車を遅らせたら日勤教育」

 

本題に入る前に、まず一つ、世間一般の誤解を解いておきたいと思います。
その誤解とは、

列車を遅延させた運転士は日勤教育

これは完全に間違いです。

列車の運転には、運転士ではどうしようもない「不可抗力の遅れ」が存在します。
たとえば、以下のような感じです。

・ラッシュ時の乗降に時間がかかったので遅れた
・駆け込み乗車によって発車が遅れた
・いわゆる接続待ちで発車が遅れた
・単線区間で行違いの列車が遅れてきた
・車両に異常が発生したので点検した


これら「不可抗力の遅れ」に対しても日勤教育をしていたら、運転士はアッという間にいなくなります(笑)
日勤教育は、あくまでもミスをした運転士に行うもので、こうした遅れに対してはお咎めはありません。

実際は、ミスが発生すれば、ほぼ間違いなく列車は遅れます。
そのため、「列車遅れ = 日勤教育」という誤った図式ができてしまったのでしょう。

あくまでも遅れはミスに伴う“副産物”みたいなもので、それ自体が直接咎められるわけではありません。
極端な話、遅れが0分でも、ミスがあれば日勤教育の対象になります。

定時性が高い新幹線の実例


さて、ここからが本題。

「定時運行へのこだわり」は、安全を損ねるのか?

私の個人的な考えですが、答えは「否」です。
定時運行へのこだわりが、安全性を損ねることは基本的にないと思います。

たとえば、新幹線のことを考えてみてください。

新幹線は、遅延の発生が少ない、世界的にも定時性に優れた乗り物です。
このことは、みなさんもご存知でしょう。
関係者に「定時運行へのこだわり」がなければ、これだけ高い定時性はとても実現できないはずです。

また、以前に業界誌で読んだ話。
新幹線の乗務員は、プロとして定時運行にこだわっており、1分の遅れに対しても、原因をしっかりと追究するのだそうです。
(たしか東北新幹線の話だったかなと)

さて、もし定時運行へのこだわりが安全を損ねるのであれば、新幹線は非常に危険な乗り物ということになりますが……

そんなことはありませんよね。
新幹線は安全性にも優れた乗り物です。

この例だけでも、「定時運行へのこだわり」=「安全を損ねる」という論理はヘンだとわかります。

定時運行へのこだわり = むしろ安全性を高める?


以下は私の考えになりますが……
「定時運行へのこだわり」は、むしろ安全性を高めるのではないでしょうか?

定時運行を妨げるのは、さまざまなトラブルです。

ですから、定時運行にこだわろうと思ったら、何かのトラブルが発生した時に、遅れを最小限にとどめることが必要です。

遅れを最小限にとどめるためには、トラブルに迅速に対応しなければなりません。

そして、トラブルに迅速に対応するためには、各種規定やマニュアルを頭に叩き込んでおかなければなりません。
トラブルに遭遇してから「えーとえーと」なんてマニュアルをめくって調べているようでは、あっという間に時間が過ぎてしまいます。

規定やマニュアルを頭に叩き込むことは、係員のレベル向上につながります。
係員のレベルが上がれば、それは安全にも良い影響を与える……。

これが私の考えです。

最近は「原点回帰」の風潮も……


昔はトラブルが発生して列車が遅れた場合、「とにかく遅れを取り戻せ」という風潮がありました。
それが、福知山線脱線事故を境にして、パタッと変わりました。

「遅れを取り戻そうとすると、焦ってミスにつながる。
 だから遅れは気にせず、ゆっくり対処すればいい」

ここ10年は、この考え方が鉄道業界の“常識”になったと言って差し支えないでしょう。
(昔に比べると、遅れが発生した時に「なかなか正常ダイヤに戻らないな」と体感している利用者の方も多いと思います)

ところが、最近はこの「遅れは気にしなくていい」の考え方に対して、異議も出てくるようになりました。
どういうことかというと……

ダイヤが乱れると、現場は焦ります。

駅係員は、お客様への案内、払い戻しや遅延証明書の発行に追われる。
運転士や車掌は、いつもと違う状態での運転を強いられる。
指令員や信号担当者は、乱れたダイヤを戻すための手配に追われる。

「焦るな」という方が無理なのです。

「遅れは気にしなくていいよ」の考え方だと、いつまでも遅れが回復せず、現場の係員が焦る状態がずっと続きます。
それがかえってミスを誘発するのではないか、という理屈です。

結局は「程度の問題」です。
「遅れを取り戻せ」の度が過ぎると、どうしても無理が生じます。
かといって「遅れは気にしなくていい」も、度が過ぎれば上で述べたような弊害が生じます。

そのあたりの匙加減をどうするかがポイントだと思います。