2005(平成17)年に起きた福知山線脱線事故では、原因や背景がいろいろと探られました。その中に、
「定時運行へのこだわり」が運転士にプレッシャーを与えていたのでは?
そのプレッシャーが事故の遠因になったのでは?
つまり、「定時運行へのこだわり」は、鉄道の安全を損ねるのではないか?
こういう論調があったことを覚えているでしょうか。
今日は、この点について私の考えを述べていきます。
「列車を遅らせたら日勤教育」は間違い!
本題に入る前に、まず一つ、世間一般の誤解を解いておきたいと思います。
その誤解とは、
列車を遅延させた運転士は日勤教育
これは完全に間違いです。
ネット上での意見を読むと、大部分の人が誤解しているように見受けられます。
列車の運転には、運転士ではどうしようもない「不可抗力の遅れ」が存在します。
たとえば、以下のような感じです。
こういうことはザラにあるのですが、これら不可抗力の遅れに対しても日勤教育をしていたら、運転士はアッという間にいなくなります(笑)
日勤教育は、あくまでも取扱いミスやマニュアル違反をした運転士に行うもので、列車遅延を咎めるものではありません。
現実には、ミスを起こせば対処しなければならず、ある程度の時間は喰ってしまうので、ほぼ間違いなく列車は遅れます。
そのため、「列車遅れ = 日勤教育」という誤解が生まれたのでしょう。
「取扱いミス = 日勤教育」が正しいです。
あくまでも遅れはミスに伴う“副産物”みたいなもので、列車の遅れ自体が直接咎められるわけではないのです。
極端な話、遅れが0分で済んでも、ミスがあれば日勤教育の対象になります。
定時性が高い新幹線は危ない乗り物か?
さて、ここからが本題。
「定時運行へのこだわり」は、安全を損ねるのか?
私の個人的な考えですが、答えは否です。
定時運行へのこだわりが、安全性を損ねることは基本的にないと思います。
たとえば、新幹線のことを考えてみてください。
新幹線は、遅延の発生が少ない、世界的にも定時性に優れた乗り物です。
このことは、みなさんもご存知でしょう。
関係者に「定時運行へのこだわり」がなければ、これだけ高い定時性はとても実現できないはずです。
また、以前に業界誌で読んだ話。
新幹線の乗務員は、プロとして定時運行にこだわっており、1分の遅れに対しても、原因をしっかりと追究するのだそうです。
(たしか東北新幹線の話だったかなと)
さて、もし定時運行へのこだわりが安全を損ねるのであれば、新幹線は非常に危険な乗り物ということになりますが……そんなことはありませんよね。
新幹線は安全性にも優れた乗り物です。
この例だけでも、「定時運行へのこだわり = 安全を損ねる」という論理はヘンだとわかります。
定時運行へのこだわり = むしろ安全性を高める?
以下は私の考えになりますが……
「定時運行へのこだわり」は、むしろ安全性を高めるのではないでしょうか?
定時運行を妨げるのは、さまざまなトラブルです。
ですから、定時運行にこだわろうと思ったら、何かのトラブルが発生した時に、遅れを最小限にとどめることが必要です。
遅れを最小限にとどめるためには、トラブルに迅速に対応しなければなりません。
そして、トラブルに迅速に対応するためには、各種規定やマニュアルを頭に叩き込んでおかなければなりません。
トラブルに遭遇してから「えーとえーと」なんてマニュアルをめくって調べているようでは、あっという間に時間が過ぎてしまいます。
規定やマニュアルを頭に叩き込むことは、係員のレベル向上につながります。
係員のレベルが上がれば、それは安全にも良い影響を与える……。
これが私の考えです。
最近は「遅れを取り戻せ」という原点回帰の風潮も
昔はトラブルが発生して列車が遅れた場合、「とにかく遅れを取り戻せ」という風潮がありました。
それが、福知山線脱線事故を境にして、パタッと変わりました。
「遅れを取り戻そうとすると、焦ってミスにつながる。だから遅れは気にせず、ゆっくり対処すればいい」
ここ10年は、この考え方が鉄道業界の“常識”になったと言って差し支えないでしょう。
(昔に比べると、遅れが発生した時に「なかなか正常ダイヤに戻らないな」と体感している利用者の方も多いと思います)
ところが、最近はこの「遅れは気にしなくていい」の考え方に対して、異議も出てくるようになりました。
どういうことかというと……
ダイヤが乱れると、現場は焦ります。
「焦るな」という方が無理なのです。
「遅れは気にしなくていいよ」の考え方だと、いつまでも遅れが回復せず、現場の係員が焦る状態がずっと続きます。
それがかえってミスを誘発するのではないか、という理屈です。
結局は程度の問題です。
「遅れを取り戻せ」の度が過ぎると、どうしても無理が生じます。
かといって「遅れは気にしなくていい」も、度が過ぎれば上で述べたような弊害が生じます。
そのあたりの匙加減をどうするかがポイントだと思います。
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