鉄道会社の社内で「安全」という単語がもっとも飛び交う季節、それが4月です。
というのは、新入社員の研修が行われるから。そこでは講師陣が繰り返し「安全第一・安全が再優先」と語り、講義の感想は? と聞かれた新入社員も、「安全がもっとも大切なことだと学びました」などと言う。まあ、よくある光景です。
それは大変結構なのですが、では一つ訊きたい。
「安全」という言葉の定義とは何ぞや?
「安全」とは何を指すのかキチンと定義できる?
安全という言葉の定義。研修を受けている新入社員のみなさん、答えられますか。
- 何を以て安全と言うべきなのか?
- どういう状態のことを安全と呼ぶ?
- 逆に「安全でない・安全が脅かされる」とは、どのような状態を指す?
頭の中の辞書に、安全という単語が載っています。では、そこに「説明文」は存在していますか? という話です。
安全という単語だけが載っていて、説明文の部分が空白では、まったくの無意味だと申し上げておきます。なぜ無意味かというと、具体的な行動に結び付けられないからです。
言葉を定義し分解すると「具体的行動」が見えてくる
……などと書いてみましたが、私が読者に何を伝えたいのか、ちょっと見えてこないと思います。そこで、わかりやすく説明するために、「安全」ではなく、別の言葉を例として出させてください。社員研修でもよく登場する「成長」という言葉です。
成長とは何ぞや?
私は自分の中で、「成長とは、今までできなかったことができるようになること」だと定義しています。
この定義に則れば、成長するために必要な第一歩は、「何ができないのかをハッキリさせること」です。できないことが → できるようになる。これが成長ですから、自分ができないことを炙り出さなければ、話が始まりませんね。
手っ取り早い炙り出し方法は、失敗です。失敗とは、すなわち「できないこと」に他なりません。失敗を失敗だと認識することが、まずは必要。
そして、「できる」とは、どのような状態を指すのか? これも定義しておく必要があります。もっとも、これは本人ではなく、上司や先輩が設定してあげなければいけませんが。
たとえば、指示されたときに表面的な作業だけでもできれば、それでヨシとするか。必要な状況を判断して自分から動けるレベルになってほしいのか。ここが曖昧だと、本人としては、どこまでやればいいのかがわからず困ります。
──こうやって言葉をキチンと定義し、分解していくことで、何をすべきかが見えてくるわけです。定義や分解を行わないと、具体的な行動に結び付けられないのですね。
新入社員は自分で「安全」という言葉を掘り下げてほしい
「成長」という言葉で説明してきましたが、「安全」も同じです。キチンと定義し、分解していく。それをやることで、何らかの事態に直面したときに、具体的な行動──鉄道マンとして何をすべきか、あるいは何をすべきでないか──に結び付けることができます。
ここで説明したような掘り下げをせずに、「安全が大切・安全最優先」と言ったところで、それは上っ面だけの無意味なものでしかないのですね。
それでは、私の中にある「安全」という言葉の定義ですが……ここではあえて書きません。新入社員のみなさんには、知識と経験を深めていく中で、自分で見つけてほしい。それこそが、鉄道マンとしての根幹を作っていくことに繋がると思います。