前回の記事では、「第三セクター鉄道は、何が原因で赤字になるのか?」を説明しました。
内容を簡単に振り返ると……赤字の原因を以下の二種類に分けました。
① 田舎型の赤字
そもそもの売上が絶対的に足りておらず、償却前損益がすでに赤字
② 都市型の赤字
売上はそこそこあるが、借金の利子と減価償却費が大きくて赤字
そして、「都市型の赤字」の具体例として、東葉高速鉄道の数字を使って解説しました。
都市型三セク鉄道が数年で黒字転換は通常ありえない
ところで、都市型三セク鉄道の一つにつくばエクスプレス(以下、TX)があります。
このTX、決算書を見ると業績が好調です。
前回の記事で説明したように、都市型の三セク鉄道は、借金の利子と減価償却費の負担が大きいです。そのため、開業からしばらくは赤字続きで、20年くらいは経たないと黒字にならないのが普通です。
それくらいの期間が経てば、借金の元本が減って利子の支払い額も減ります。また、減価償却費は「開業当初は大きく、だんだん小さく」なっていく特性があるので、20年くらい経てば、減価償却費の額も減るからです。
ところがTXは、開業当初こそ赤字だったものの、わずか数年で黒字に転換しています。都市型三セク鉄道の常識からすれば、ありえない話です。
いったい、なぜでしょうか?
黒字の決定的要因 借金の利子を払わなくてよい!
実は、TXの黒字には決定的な理由があります。「借金の大部分が無利子だから」です。
TXの建設費は約1兆円(!)です。このうち、約8,200億円が国や地方自治体からの無利子の借金です。
仮定の話ですが、この借金に年率1%の利子を付けると、それだけで初年度は82億円の利払いが発生します。それは稼いだ利益から吐き出すわけですが、ではTX、年間でどれくらいの黒字(決算書的には営業利益)を出しているのか? ここ数年間の数字は以下の通り。
2014年度……56億円
2015年度……66億円
2016年度……66億円
2017年度……80億円
2018年度……80億円
(なお、この額はすでに減価償却費を引いた後の数字です。TXは、毎年190億円ほどの減価償却費を計上しています)
この利益から借金の利子を払うので、もし82億円の利子(8,200億円 × 1%)を払っていたら、TXは赤字になります。他の都市型三セク鉄道と同じように。
しかし実際は、「無利子の借金8,200億円」の部分には利子の支払いがない。そのため、上で示した利益額の大部分を残せるわけです。
補足ですが、TXの借金はすべてが無利子ではなく、一部は有利子です。そのため、いくらかは利子の支払いが発生しますが、決算書を見る限り、18億円くらいで収まっているようです。これくらいならば、上で示した黒字額をそこまで揺るがすものではありません。
18億円という利子は、東葉高速鉄道よりも少ない額です。鉄道の規模としては、TXの方がはるかに大きいにもかかわらず、です。
「無利子でずるい」という考え方もあるが……
さて、ここまで記事を読んできたみなさんの中には、こう思った人がいるかもしれません。
「借金の利子を払わなくていいなら、黒字になるに決まってる」
「他の都市型三セク鉄道は借金の利子で苦しんでいるのに、TXだけ無利子でずるい」
しかし実は、他の都市型三セク鉄道が借金の利子で苦しんでいる反省を活かして、TXは借金を無利子にした……という経緯があります。もしTXが有利子で借金をし、利子の支払いに苦しんで赤字になっていたら、
「また赤字の三セク鉄道を作ったのか……」
「どうせ税金を投入して救済するんでしょ。税金の無駄遣いだ」
といった批判が出ていたでしょう。そういう意味では、一定の評価はするべきだと思いますね。
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本記事の写真提供 ふみとつさん
本記事内の写真は、『快速の部屋』を運営するブロガー・ふみとつさんにいただきました。ありがとうございました(^^)
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