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「俺が黒字にしてみせる」 赤字三セク鉄道を立て直した男(2)

前回は、赤字第三セクター鉄道・しなの鉄道の「立て直し物語」前編でした。

内容を簡単に振り返ると……
赤字続きのしなの鉄道を立て直すために、当時の田中康夫・長野県知事が、旅行会社のH.I.Sから杉野正(すぎの・ただし)氏を社長として招聘したところまで書きました。

ではこの杉野氏、しなの鉄道を立て直すため、具体的にどのような政策を行なったのでしょうか?

杉野氏がやったことは? どれも「常套手段」だが……

実は杉野氏、なにかすごい「ウルトラC」を繰り出したわけではありません。行なったのは、「売上アップ」と「経費削減」という、赤字企業立て直しの常套手段にすぎません。

しかし、そのやり方は常人にはなかなか真似できない気がします。

① 不利な契約の見直し

契約書をビリビリ
ビリビリビリ

ビリビリビリビリ

杉野氏は就任直後から、会社が結んでいる契約をすべて見直しました。その結果、“不平等条約”をいくつも発見。

たとえば、駅構内の自動販売機。飲料メーカーと「直接」契約を結べばいいのに、他の会社が間に入って「間接」契約になっていた。そのため、売上の少なくない部分を、間に入った会社に搾取されていた。その会社は、自販機の売上に関して特に労力を使っていないにも関わらず、です。

そこで杉野氏、その会社の担当者を呼んで、「こんな不平等条約ふざけるな」と言って、相手の目の前で契約書をビリビリ破り捨てました。不平等条約を改定した結果、売上の3.5%だった取り分が30%になったそうです。

いや、いいのかこれ……(^^;)
不平等な内容はともかくとして、別に公序良俗に反しているわけではなく、正当に結ばれた契約(のはず)ですから……。

ただ、杉野氏としては、「しなの鉄道は本気で改革に取り組むんだぞ!」という姿勢を内外(=部下や取引先)に示すためのパフォーマンスの狙いもあったのでしょう。

② 運賃の値上げ

さまざまな分析の結果、杉野氏は「現在の運賃は安すぎて適正ではない」と結論し、しなの鉄道の運賃値上げを決定しました。特に、しなの鉄道の定期券は「全国最高レベルの割引率」だったそうです。

(定期券って、普通に乗車券を買って乗るよりも割安ですよね。どれくらい割安にするかの率を「割引率」といいます)

「さまざまな分析」と書きましたが、具体的に行なったのは「他の会社との比較」です。黒字を出している鉄道、県内の他の鉄道など、さまざまな会社の資料を集め、しなの鉄道の数字と比べる。そうやって適正値を探っていく。

杉野氏いわく、

「この不況でも黒字を出している会社はちゃんとあるのだから、それを手本にすればいい」

とのこと。

しかし、運賃の値上げは利用客離れを招きますから、必要だとわかっていても、なかなか決断できないことです。

現在、赤字で苦しんでいるJR北海道も、「運賃の値上げが必要」と昔から識者の間では言われていました。それがなかなかできなかったところに、運賃値上げの難しさがあります。
(最近、JR北海道はようやく運賃値上げを決めました)

③ 副業(関連事業)の強化

このブログでもたびたび触れていますが、これからの少子高齢化・人口減少に伴い、鉄道会社は鉄道事業だけで食っていくことは難しくなります。

長野県を走るしなの鉄道の強みは、首都圏・中京圏からそこそこ近く、観光客の誘致が見込めることです。そこで、イベント列車を走らせたり、旅行会社と連携してツアーを企画したりして、誘客を図りました。
(杉野氏が旅行会社のH.I.S出身という事情もあったのでしょう)

現在(2019年)では、イベント列車・観光列車などは当たり前の存在ですが、当時(2000年代前半)はそこまで力を入れている会社は少なかったですね。

その他、社員の「やりたい」という意見を取り入れて、駅構内での物販にも乗り出しています。

実際、こうしたイベントや物販を始めたからといって、どれだけ収益を上げられるかは微妙なところです。しかし、鉄道事業は沿線人口が増えない限り収入が増えませんから、定期旅客に頼らないところで利益を出そうという「姿勢」は大切だと思います。ノウハウ・経験値という財産も得られますし。

④ 人件費の削減

以前の記事で、

「三セク鉄道は、地元の地方自治体が出資している」
「その関係で、地方自治体からの出向者を受け入れている」

と説明しました。
しなの鉄道も例外ではなく、長野県庁からの出向者を受け入れていました。しかし、これが人件費高騰の一因になっていると見た杉野氏、思い切ったことをします。

長野県庁からの出向者27人に帰ってもらった

個人的には、これが一番びっくりした内容ですね。出向者に帰ってもらうなんて、なかなかできない。たとえば、しなの鉄道の社長が県職員OBとかだったら、絶対にやらないはずです。

しかし、そうした「しがらみ」にとらわれて必要な手を打てないという例は、いろいろな会社にあるはずです。

県とはまったく関係ない出身である杉野氏だからこそ、断行できたのだと思います。

⑤ 聖域なきコスト削減

杉野氏「コスト30%減を目指す!」

いやー、それはさすがに厳しい。

「目標達成できなかった部分は、担当社員が自腹を切れ」

いやいやいや、それはさすがにちょっと……(^^;)

ただし、杉野氏は本当にコスト30%減を目指していたというよりは、30%減という目標を掲げることにより、社員に「成長するための負荷」をかけるのが狙いだったようです。

30%減を達成しようと思ったら、今までのやり方の延長線上では絶対に無理です。今までのやり方はいったん脇に置いておいて、ゼロベースで考え直さなければならない。

そうやって社員に「考えさせる」ことにより成長を促すのが目的というわけです。

改革とは社員の意識を変えること

杉野氏の政策(もちろん、これだけではないですが)をザッと並べてみましたが、どうでしょうか?

売上アップにコスト削減。
正直、どこの会社でも行われている内容です。

しかし、徹底度が違うなあという感想を私は抱きました。あえて悪い言い方をすれば、「やり方がちょっと過激すぎない?」という感じです。

が、こうした厳しい“改革”を行なったのには、杉野氏のちゃんとした狙いがあったのだと思われます。

みなさんは三セク鉄道というと、「いざとなったら税金が投入されるから潰れることはない」と思っていませんか?

おそらく、しなの鉄道にも、そのように考えていた社員がいたと思います。杉野氏の改革の目的は、社員のそうした意識を改めさせることにあったといってよいでしょう。

なぜなら、未来永劫、いつまでも杉野氏が社長を続けられるわけではありません。いつかは会社を去ることになります。そのときに残った社員が、「いざとなったら税金で助けてもらえる」なんて姿勢で仕事をしていたら、いずれまた会社は傾きます。それでは改革の意味がありません。

売上アップ・コスト削減といった手段を通して、社員の意識改革を行う。そこまでできて、ようやく改革の達成といえます。

杉野氏の著書紹介

あとは余談というか、裏話を一つ。

実は、この杉野改革の話は本になっています。もう15年以上も前の本ですが、今でも手に入るのだろうか。手に入らなければブックオフオンラインですかね。

俺が黒字にしてみせる!

俺が黒字にしてみせる!

 

そして私、杉野改革当時にしなの鉄道に在籍していた「中の人」から話を聞いたことがあります。その人によると、「社長の著書だからってことで、社員はなかば強制的に買わされた」そうです。

おい(笑)


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