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北陸新幹線E7系・W7系が水没 車両を高架上に退避させられなかったのか?

引き続き、千曲川の氾濫で、長野車両センターのE7系・W7系が水没した事件の記事を書いていきます。

この事件ですが、今後の焦点は、「車両の水没を避けることはできなかったのか?」になってくるでしょう。別の言い方をすれば、「JR東日本に過失はなかったのか?」ということです。

いや、実際ネット上でも「JR東日本の不手際じゃないの?」という意見をチラホラ見たんですよ……。

今回の件では、JR東日本のE7系だけではなく、JR西日本が所有するW7系も水没してしまいました。JR西日本からすれば、「JR東日本の管理不行き届き」を指摘して、車両を弁償してほしいはずです。はたして、それは可能でしょうか?

氾濫情報が出てからでは退避は100%不可能

「千曲川の氾濫情報が出た時点で、すぐに車両を高架上に動かせばよかったのでは?」

もしかすると、こう考えた人がいるかもしれません。しかし、「氾濫情報が出た時点ではすでに手遅れで、車両の退避は100%不可能だった」が結論です。

なぜ100%不可能だったと断言できるのか? 理由は簡単です。

「千曲川の氾濫情報が出ました! 長野の新幹線車両センターが浸水するかもしれません!」

もしみなさんが、新幹線のしかるべき責任者だったとしたら、この報告を受けてどんな指示をしますか? ちょっと考えてみてください。いや、実際の状況だったら考える時間はありませんが……。

「車両センターが浸水するかもしれないだと! あそこには車両が置いてあっただろ、ただちに高架上に退避させるんだ!」

自分ならこう指示すると考えた人、残念ながら不正解です。いや、不正解という言い方は生ぬるい。あえてキツイ言い方をすれば、責任者失格です。

まともな責任者なら、次のように指示します。

「車両センターに社員が残っていないか確認しろ! もし残っていたら、すぐに避難させろ!」

別に難しい話でもなんでもなく、冷静に考えれば、これが当たり前の指示ですよね。優先すべきは「車両」ではなく「社員の命」です。

氾濫情報が出た時点で、ただちに社員を避難させなければいけませんから、車両を動かすどころではない。ですから、氾濫情報が出た時点では、すでに車両の退避は100%不可能なのです。

もし「車両を退避させろ」なんて指示したら、あとで責任問題間違いなしです。いや、責任問題で済めばマシで、もし間違って社員が死にでもしたら、責任者は手が後ろに回ってブタ箱行きでしょう。

これが仮に津波なら、車両を避難させる余地はあるかもしれませんが……。というのは、津波の場合は「何分後に到達するか」の予測が出るので、時間に余裕があれば対応できます。しかし、河川氾濫による浸水は、到達時刻の予測など不可能ですから、ただちに社員を逃がすしかありません。

「可能性があった」だけで責任を問うのは難しい

「氾濫情報が出た時点ではすでに手遅れ」というのは、みなさん納得していただけると思います。もし車両を避難させるのであれば、氾濫情報が出る前に済ませておかなければなりませんでした。

というわけで、もしJR東日本の不手際を指摘したいなら、「氾濫情報が出る前に車両を退避させることはできなかったのか?」が焦点になってきます。たとえば、「氾濫情報が出る前に、氾濫を予見することは可能だったか?」。

しかし、それは難しいでしょう。

以下は、なんだか禅問答みたいになってしまいますが……

氾濫情報とは、氾濫が予見されたときに出されるものであって、氾濫情報が出る前に氾濫を予見しろというのは無理ですよね。もし氾濫が予見されれば、その時点で情報が出るわけですから。しかも、JR東日本は気象庁や自治体ではありませんから、天気・防災情報の収集には限界があります。

「いや、氾濫情報が出る前に、氾濫を予見しろとまでは言わない。でも、台風なら大雨が降るのは予測できるのだから、氾濫の可能性も考えるべきだったのでは?」

そう言われれば確かにそうかもしれません。しかし、単に可能性があるからという程度の漠然とした状態では、さすがに動けなかったのではないでしょうか。

まだ事態が具体性を帯びていないのに、「可能性があるから」だけで何でもかんでも対策しなければならないとしたら、キリがありません。ただでさえ、計画運休等の業務に忙殺されていたはずですし……。

もし「可能性があるから」だけで履行義務を問われるなら、気象庁や自治体は、台風が通過するすべての地域に2~3日くらい前から避難指示を出しておかなければならなくなります。どこの地域でも、台風の被害を受ける可能性はあるわけですから。

再発防止のために各社でキチンとした定めを

さすがに今回は、JR東日本の過失を問うのは難しい気がします。仮にそうなったら、JR西日本には気の毒ですが、「自然災害で運が悪かった」で諦めてもらうしかありません。あとは保険でどこまで対応できるか、ですね。

さて、ここから先は、過失うんぬんとは別の話。

このブログで幾度か書いていますが、トラブルがあったときに大切なのは、「どうすれば再発を防止できるか?」です。

全国の鉄道会社は、今回の事件を受けて、緊急時の車両退避対策を強化するでしょう。
(元々そういう対策を定めている会社もあるはずですが)

今回は河川の氾濫でしたが、車両基地が水没する原因としては、高潮や津波も考えられます。それぞれの事態に応じて、「車両退避をさせる基準は」「いつ誰が判断するのか」などをキチンと定めておいた方がよいと考えます。

また、夜間などの非営業時間帯を使い、実際に車両を動かしての退避訓練も行えれば、より万全です。

車両は非常に高価なものです。
JR東日本は財政状況が優良ですから、今回の事態でどうこうはなりませんが、これが中小の鉄道会社だったら、不慮の車両滅失は経営を直撃します。それは最終的に、お客様の不利益になります。そうならないよう、今回の事態を糧に、対策を強化していかなければいけないでしょう。

(2019/10/16)

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