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時間帯別運賃はラッシュ緩和に効果がある? 個人的には疑問視

朝30分早起きしたら、10円あげる。
そう言われたら、みなさんは早起きしますか?

突然何の話? と思うでしょうが、時間帯別運賃の話です。

巷では、「時間帯別運賃が導入されたら、通勤ラッシュが緩和される」などと言われていますよね。それに対して、「本当に通勤ラッシュは緩和されるのか?」を考えるのが、今回の記事の趣旨です。

結論から言えば、私は懐疑派です。

通勤ラッシュが緩和されるメカニズムとは?

時間帯別運賃が導入されたら、ラッシュ時間帯には割増運賃を取られる。それを嫌った利用客がラッシュ時間帯の前後に分散するので、ラッシュ緩和につながる。

こうした理屈でラッシュが緩和されるだろうと言われています。もう少し具体的に考えると、通勤ラッシュ(朝)が緩和されるとしたら、そのメカニズムは次の二つでしょう。

  1. 企業側が始業時刻を遅くした(10時とか)ので、7~8時の利用者が後ろの時間にシフトする
  2. 始業時刻は従来のまま(9時とか)だが、割増運賃を取られるのが嫌なので、早く家を出る人が増える

この二つのメカニズムを考察します。

始業・終業時刻の変更は簡単には実現しない

① 企業側が始業時刻を遅くした(10時とか)ので、7~8時の利用者が後ろの時間にシフトする。

うーむ、このメカニズム、はたして実現するか。「始業・終業時刻を変えるくらい簡単にできるんじゃない?」と思うかもしれませんが、話はそう単純ではありません。

現在、時差出勤を取り入れている企業もあるでしょうが、これは「コロナの感染拡大防止」という大義名分があり、また、一時的な措置という感じが強い。そのため、多少の不都合があっても「仕方ない」で受け入れられています。

しかし、始業・終業時刻を恒久的に変えるとなると、話は違ってきます。

終業時刻が遅くなると従業員側から不満が出てくる

従業員は、現在の始業・終業時刻を前提として生活を組み立てています。それを大きく変えられると困る従業員もいるはずです。

始業9時・終業18時の会社があるとします。従業員が少しでも通勤ラッシュに当たりにくくなるよう、始業を1時間遅くし、就業時間を10~19時に変える案が出ました。

今まで18時だった終わりが19時になると、従業員から以下のような「困る」の声が出てくるかもしれません。

  • 子どもを保育園に迎えに行くのが遅くなる
  • 親族の介護をヘルパーさんに頼んでいるが、その時間まで見てもらえない
  • 買い物や夕飯の支度が遅くなる
  • 鉄道やバスの本数が減る時間になって、帰宅が不便に

こうした不満が出てきたときに、それを抑え込んでまで始業・終業時刻の変更を断行できるのか?

労働基準法では、「始業・終業時刻は、就業規則という社内ルールで決めておかなければいけない」となっています。そして、従業員側の同意を得ずに会社側が一方的に就業規則を変えるのは、基本的にNG(違法)とされています(→ それについてはこちらの記事を参照)

つまり、「明日から10時出勤ね。決定事項だから異論は認めない」などと突然やるのは、完全にアウトです。実際、こういう違法なことをやっている会社は少なくないはず。まあ、従業員側が抵抗しないため、なんとなく通ってしまうケースが多いと思われますが……。

始業時刻を変えると他会社との連携に影響が出るかも

また、始業・終業時刻を変えるときには、取引先や関連企業との関係も考慮しなければいけません。

みなさんは、「朝イチで問い合わせ」というと、何時をイメージしますか? 8時45分とか9時とか、そんな感じですよね。

「午後イチで打ち合わせ」は何時をイメージしますか? 13時と答える人が多いと思います。

言ってみれば、世の中の企業はこのような“暗黙の了解”を前提として、互いのスケジュール調整や問い合わせなどを行なっています。

自分の会社は今まで通り9時始業だが、取引先が10時始業に変更された。朝イチに問い合わせたい場合に、10時まで待たないといけない。取引先の昼休みは、1時間繰り下がって13~14時になったので、13時からの打ち合わせが難しくなった。

こういうことも予想される中で、保守的な日本企業が、あえて積極的に始業・終業時刻を変えるか? という疑問を私は感じます。

①のメカニズムの考察はここまでです。

10~20円のために早起きして家を出るか?

さて、次に②のメカニズム──始業時刻は従来のまま(9時とか)だが、割増運賃を取られるのが嫌なので、早く家を出る人が増える──を考えます。

私の予想ですが、ラッシュ時間帯に乗車したとして、余分に徴収されるのは10~20円レベルだと思います。50~100円を余分に取る仕組みは、暴挙すぎてさすがに実現しないでしょう。

となると、「10~20円を節約するために、あなたは30分とか、下手すると1時間も早く家を出るのか?」という話になります。

読者のみなさんはどうでしょうか。「朝の時間」「10~20円」のどちらを選びますか?

私の勝手な予想ですが、「時間」を選ぶ人が多いのではないでしょうか。つまり、10~20円はあきらめて大人しく徴収される。

社会人の方なら経験があるでしょうが、時として朝の5分10分には、ものすごい苦しみ(笑)が伴うことがあります。それを克服してまで10~20円を節約しようと思う人は、そんなに多くないだろう、というのが私の読みです。

ちなみに数年前、「朝活」なるものが流行っていたみたいですが、今はどうなんでしょうね。朝活という言葉は、あまり聞かなくなりましたが……。「早起きがしんどい」と断念した人も多いのではないでしょうか。

【結論】混雑緩和のメカニズムが実現するか疑問

時間帯別運賃が導入されれば、通勤ラッシュが緩和される。そのメカニズムを2パターン予想し、考察してきました。

  1. 企業側が始業時刻を遅くした(10時とか)ので、7~8時の利用者が後ろの時間にシフトする
  2. 始業時刻は従来のまま(9時とか)だが、割増運賃を取られるのが嫌なので、早く家を出る人が増える

これまで説明してきたとおり、これらのメカニズムが実現するか、私としては「どうかなぁ?」という印象です。もちろん、多少の効果はあるかもしれませんが、100の混雑が95になっても、それは緩和したとは言えないでしょう。

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