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列車内で刃物男が! 「ドアコック」で脱出する手段は覚えておいてほしい

2021(令和3)年10月31日、京王電鉄の車内で、刃物を持った男が乗客を襲う事件が発生しました。車内で刃物事件は、近年だと小田急電鉄や東海道新幹線でも発生しています。

今回の記事では、焼け石に水かもしれませんが、みなさんに知っておいてほしいことを書いておきます。

現実的には「逃げ」一択

不幸にも今回のような異常事態に遭遇した場合、ハッキリ言って、対抗手段はほとんどないのが現実でしょう。カバンを持っていれば、刃物に対して防御に使えるかな……という程度だと思います。

本当に手ぶらの場合は、天井から吊り下げられている車内広告。あれを破って腕に巻き付ければ、少しくらいは刃物の攻撃力を削げる……かも。

また、鉄道車両は必ず消火器を載せていますから、それを使って犯人を怯ませる手はあるかもしれません。ただ、逃げまどう乗客で混乱している車内で消火器をぶっ放すのは、実際には難しいでしょう。

現実的には凶器を持った犯人に応戦するのは難しいので、「逃げ」一択になります。

「ドアコック」とは? 圧縮空気を排出してドア開を可能にする

逃げるといっても鉄道車両は“密室”ですから、列車が緊急停止したとしても、乗務員がドアを開けてくれなければ外に脱出できない。

……と思いますよね。ところが実は、乗客自身の操作でドアを開けて車外に脱出することができます。

みなさんは、車両の各扉に「ドアコック」があるのはご存知でしょうか? 知っている人も多いでしょうが、説明していきます。

車両ドアは駅に着くと開閉し、走行中はピタッと閉じていますが、そもそもコレ、何の力によって行われているのでしょうか?

圧縮空気です。

車両に搭載されている電動空気圧縮機(エアーコンプレッサー)が作り出した圧縮空気の力によって、ドアを動かしているのです。また、一度閉じたドアが開かないように圧着させておくのも、圧縮空気の力です。

緊急事態で外に脱出したい場合は、この圧縮空気を抜かないと、ドアを手で開けられません。風船にたとえれば、穴を開けなければいけないわけです。

そのために使うのがドアコックです。ドアコックを扱うと、風船でいえば穴があいた状態になり、ドア制御に使用している圧縮空気が排出されます。それによってドアがぶらぶらの状態になり、人の手でも開けられるようになります。

車外脱出しないと命が危ない場合は遠慮なく使ってよい

「ドアコックは乗務員が扱うものであって、乗客は勝手に触っちゃダメ」という意見もありますが、以下のような切羽詰まった局面では遠慮なく使っていいです。(ただし、列車が止まっているのが前提)

  • 刃物を持った犯人が迫ってきて、車両の奥に逃げ場がない
  • 車両火災が発生して、火や煙が目の前に迫っている

命の危険が目の前にある場合は、一刻も早く車外に脱出しなければなりません。乗務員を待っている暇はありませんから、乗客自身で脱出する必要があります。「ドアコックは乗務員じゃないと触っちゃいけない」などと躊躇し、その結果逃げ場を失って死んだらバカバカしいです。

また、こうした緊急時にドアコックを扱って脱出したことに関して、後で鉄道会社から責められることはないと断言しておきます。万が一なにか言われたら、「命の危険を感じたから車外に脱出した」で押し通せます。

ドアコックを使って線路に降りる際の注意点

ただし、ドアコックを使って車外に脱出する際、駅ホームに降りる場合はよいのですが、線路に降りる場合は注意点が二つあります。絶対に覚えておいてください。

  1. 他の列車が突っ込んでこないか注意する
  2. 第三軌条の場合は感電に気を付ける

① 他の列車が突っ込んでこないか注意する

車外に脱出するときに一番怖いのは、脱出して線路に降りたところに、他の列車が突っ込んできて轢かれること。ですので、線路に降りるときは、他の列車が来ていないか注意してください。昼間ならいいですが、夜は見にくいので。

もっと言えば、線路がない方向(=一般的には進行方向左)に脱出するのがベターです。

② 第三軌条の場合は感電に気を付ける

もうひとつ気を付けてほしいのが感電。ディーゼルカーが走っている非電化路線の場合は当てはまりませんが、電車が走る路線だと、一歩間違えれば感電事故がありえます。

みなさんは、「第三軌条」をご存知でしょうか?

日本で一般的なのは、電気の流れる架線が「上空」にあるタイプ。電車の上に架線を張り、パンタグラフを介して電気を受け取るという、お馴染みのやつですね。

ところが、電気の流れる架線を「上空」ではなく、「足元」の地面に設置してある路線もあります。これが第三軌条と呼ばれるもの。イメージしやすいよう大雑把に言えば、上にある架線とパンタグラフを、車両の足元に持ってきた感じ。

つまり、第三軌条では線路に降りたとき、電気の流れる「架線」が足元に存在します。迂闊に歩くと、感電することがありえます。

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ここに「架線」がある。触れないように注意

というわけで、第三軌条の路線は、線路に人が降りた場合の異常事態に備えて、送電を緊急停止させる仕組みがあるのが一般的です。たとえば、指令室に「送電停止ボタン」があって、異常を感知した場合に指令員がこれを扱う、という具合です。

ちなみに、第三軌条は地下鉄で採用されることが多いです。上空に架線を張ってパンタグラフの方式だと、トンネル断面積を大きくしなければならず、建設費がかさみます。第三軌条の方がトンネル断面積を小さくできるので、建設費が安上がりなわけ。

まとめ

長くなったのでまとめましょう。

  • 「ドアコック」を使えばドアは開けられる
  • 命の危険が目の前にある場合は、遠慮なくドアコックを使ってよい
  • 線路に降りるときは、他の列車に注意
  • 第三軌条の路線は、感電に注意

以上です。もっとも、目の前に刃物男がいるような異常事態に、これだけのことを冷静に思い出せるかって話ですが……。

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【外部リンク】第三軌条の路線(Wikipedia)

本記事の写真提供 marunkunさん

本記事内の写真は、はてなブロガー・marunkunさんが運営する『マルーンの部屋』から拝借しました。写真使用の許可をいただき、ありがとうございました。

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