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実はよく似ている「鉄道車両のドア」と「電子レンジの扉」

突然ですが、みなさんは電子レンジの稼働中(=何かをチンしているとき etc)に、電子レンジの扉を開けたことがありますか? 「ない」という人、扉を開けるとどうなるか知ってます?

答えは「電子レンジが止まる」

つまり、電子レンジは「扉が開いた状態では作動しないようになっている」のですね。別の言い方をすると、扉閉じが通電の条件ということです。

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すべてのドアが閉まっていないと加速できない仕組み

実は、鉄道車両のドアも同じです。電子レンジのように、「ドア閉が通電の条件になっている」のです。

列車が駅から発車するシーンを思い浮かべてください。ドアが閉まると、運転士がレバーを操作して列車は加速していきますね。

この加速操作、ドアが閉まっていないとできません。ドアが開いている状態では、レバーを操作しても列車は加速できないのです。

なぜ、鉄道車両はドアが閉じていないと加速できない仕組みなのか?

これは簡単な話で、まだ車両ドアが開いているのに、運転士が誤って起動操作(駅から発車)したら危険極まりないですよね。それを防ぐために、「車両ドア閉」を加速の条件にしているのです。

イメージとしては、編成のドア全体で加速のための電気回路が構成されていると思ってください。ドアが開くと、接点も開いて回路が遮断される。ドアが閉じると、接点も閉じて回路が構成される。回路が構成されているときのみ通電して、レバー操作で列車は加速できる。

電気回路ですから、一ヶ所でも切れていると成立しません。どこかの車両ドアが開いていると、列車は加速できないわけです。このあたりは自動車との違いですね。自動車は、ドアが開いていてもアクセルを踏んで加速できますから。

どうしてもドア開で運転したい場合は「非連動」で

ただし、「ドア閉でないと加速できない」を厳格に貫くと、不都合が起こりえます。たとえば、ドアが故障して物理的に閉まらなくなった場合、列車がまったく動けなくなってしまいます。そのままだと列車が線路をふさいでしまい、ダイヤが大乱れします。

こういうときは、運転席のスイッチを扱うことで、加速回路構成の条件から「車両ドア閉」を除外します。それによって、ドアが開いたままでも起動が可能になります。

これは非連動運転と呼ばれます。通常は「車両ドア閉」と「加速回路」を連動させているが → これの連動をやめるので、そう呼ぶわけ。また、電気回路を短絡させて非連動状態を作ることから、戸閉短絡と呼ぶこともあります。

ただし先述した通り、ドアが開いたまま走行するのは危険です。そのため、以下のような措置を講じてから運転再開するのが一般的です。

  • 開いたままのドアをロープなどの道具で封鎖し、監視員を立てる。車両自体を封鎖することも
  • 人員の都合等で監視が難しければ、乗客をすべて降ろして回送列車にする

京王電鉄の事件 ドアコックを扱ったため列車が動かせなかった

2021(令和3)年10月31日、京王電鉄の車内で、刃物による刺傷事件がありました。当該列車はホームドアがある駅に停車。その際、車両ドアとホームドアの位置が少しズレたので、運転士は修正のために列車を少しだけ動かそうとしたそうです。

ところが、列車は動きませんでした。これは、乗客が避難のためにドアコックを使ってドアを開けたため、加速回路が切れてしまったためです。

先ほど説明した非連動運転に切り替えれば、列車を動かしての停止位置修正は可能でしたが、車外脱出が始まっている状況で、下手に列車を動かすのは危険。どうしようもなかったようです。

「ドアに挟まれた!」とクレームが入ったときの話

最後に、現場話をひとつ。

鉄道の現場では、駆け込み乗車は日常茶飯事ですから、どうしてもお客さんがドアに挟まれる事態は発生します。ある日、会社に以下のようなクレームが入ったそうです。

「ドアが閉まるときに肩を挟まれた。そのままの状態で次の駅まで走ったぞ。めっちゃ痛かったんだけど!」

肩が挟まったまま、つまりドアが開いた状態で列車が動き出したというのです。

会社「肩が挟まれたということですが、ドアは何㎝くらい開いた状態でしたか?」
相手「10㎝近く開いていたんじゃないか」

ここまで読んできた人なら、おかしいとわかりますね。ドアが開いた状態で、列車が駅から動き出すのは不可能ですから。

もちろん、相手の言っていることが嘘とは限りません。車両故障のせいで、ドアが閉まっていないのに加速回路が構成された可能性もあります。ということで、会社が何をするかというと……

その1。
当該車両の当該ドアで、実際に社員が肩を挟む実験をします。肩を挟んだ状態では加速回路は構成されず、正常でした。

その2。
駅ホームにはカメラがあります。録画映像によって確認が行われました。その結果、当該ドアはちゃんと閉じていました。

あとは、「当該車両を点検しましたが異常なしです。録画映像も確認しましたが、ドアが開いたまま列車が動いた事実は認められませんでした」と回答して完了。

会社側の正直な気持ちは「見え見えのウソついてんじゃねぇ!」ですが、そういう雰囲気の回答だとカドが立ちます。相手も引くに引けなくなり、「そんなはずない!」とゴネて泥沼化する可能性も。

こういうときは、事実を淡々と述べることで、そちらが何か勘違いしてるんじゃない? みたいな感じに持っていき、相手に逃げ道を開けてあげるのが大人の対応ですね。

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