千葉を走る暴走、じゃなかった、房総特急が全車指定席化です。東京都市圏を発着する他の特急列車と同様になります。
自由席があることで、近距離だと気軽にワンコイン利用できてよかったんですが……(^^;)
JR東日本によるニュースリリース & 新しい料金体系の案内は↓こちら。自由席利用者からすれば値上げ(※)ですが、指定席料金は現行よりも安くなります。
(※条件によっては値下げになるケースもある)
このニュースを見て、自由席と指定席の話を一つ思い出したので、記事を書きます。具体的には、「自由席と指定席の配分」がテーマです。
自由席・指定席それぞれのメリットとデメリット
ここに5両編成の特急があるとします。このとき、
- 自由席1:指定席4
- 自由席2:指定席3
どちらの配分が適切か? というのが今回の話。
「そんなんどっちでもよくね?」と思うかもしれませんが、よくありません。その理由は後述するとして──これは極めて難しいテーマです。自由席と指定席、それぞれに異なったニーズがあり、メリット・デメリットが存在します。乗客側の目線、鉄道会社側の目線といった違いもある。
自由席のメリット
- 指定席より安価
- 指定席と違って、特定の列車に乗る必要がない(好きなタイミングで乗れる)
- 場合によっては、指定席号車よりも空いていることがある
自由席のデメリット
- 着席できる保証はない。座りたければ早めに並ぶ必要がある場合も
- 鉄道会社からすれば、指定席よりも売上額が低い
指定席のメリット
- 着席が保証されている
- 鉄道会社からすれば、自由席よりも高く売れる
指定席のデメリット
- 自由席より割高
- 場合によっては、自由席号車よりも混む逆転現象が起きる
- 指定された列車に乗らなかった場合、指定席料金が無駄になることも
ザッとこんな感じでしょうか。自由席・指定席どちらの方が優れているという話ではなく、それぞれに利用スタイルがあり、需要が存在するわけです。
自由席と指定席の配分を誤ると乗客・鉄道会社双方が不幸になる
鉄道会社がそのへんの需要を読み間違えて、自由席と指定席の配分バランスを誤ると、乗客・鉄道会社双方が不幸になります。
たとえば、自由席2:指定席3の特急があるとしましょう。
この列車、指定席の売れ行きがよくて、満席(売り切れ)になりました。しかし、指定席を利用したい客がさらに存在するとします。
そういう客は、「指定席に乗りたかったけど、売り切れだから仕方なく自由席を利用する」でしょう。
客からすれば、指定席に乗りたかったのは確実に着席したかったから。しかし、自由席の利用を余儀なくされたことで、座れるかどうかが不明になった。これはサービス面での不満を生みます。
鉄道会社からしても、もう1両指定席を増やしておけば、サービス面で客に満足してもらうことができました。徴収できたはずの指定席料金も失っているので、売上面でも損をしています。
もっと言えば、この客は、着席保証がない故に特急の利用そのものをやめるかもしれません。たとえば、並行する高速バスに乗るとか。鉄道会社にすれば痛恨ですよね。
これは、指定席の需要に対して供給が少なかったケースですが、こういう不幸が起こりえます。
自由席が少ない(廃止する)ことによる影響とは?
じゃあ指定席を多くした方がよいかというと、そうでもないのが難しいところ。自由席1:指定席4の特急があるとします。
この列車、自由席がパンパンになりました。立ち客もいます。「座りたいなぁ……」と思いますよね。
指定席も満席なら、物理的に空席がないので、それ以上仕方ありませんが、指定席は比較的空いていたとします(↓図)。
これなら、自由席をもう1両増やした方が適切です(↓図)。そうすれば、立ち客は座れる = サービス面を向上させることができるからです。
鉄道会社目線だと、“料金お高め”の指定席を減らしてしまうと、売上面で損するように思えますが、一概にそうとも言えません。
たとえば、「指定席料金を追加してまで乗るつもりはない」つまり安価な自由席があるからこそ特急を使う客もいるはずだからです。
自由席には自由席のメリット・利用スタイルがあり、そこに魅力を感じて利用する人は絶対にいます。自由席を減らすと、そういう客の特急利用そのものを失うことで、売上が差し引きマイナスになる可能性があります。
先ほど、「自由席があることで、近距離だと気軽にワンコイン利用できてよかった」と書きましたが、そういう客のニーズに応えられなくなる、というのが一例。
(だからといって自由席を増やしすぎると、先ほど触れた「指定席が少ない弊害」が起きますが……)
「全車指定席化 = 鉄道会社の増収策」と単純に捉えられるわけではない
全車指定席化を「鉄道会社の増収策」と見る向きもありますが、話はそう単純ではありません。自由席の廃止によって発生するリスク──サービス面の低下による利用客離れ、かえって売上を失う──も存在します。
もちろん、JR東日本としても理由や目的があり、「トータルでは得だ」と判断しているから房総特急も全車指定席化するわけですが。低価格なチケットレス特急券の普及等も、一つの背景でしょう。
自由席・指定席の最適な配分は容易ではない
ちょっと話が逸れましたが、自由席と指定席の配分を誤ると、乗客・鉄道会社双方が不幸になるという話でした。
理想としては、自由席・指定席どちらも同じくらいの乗車率になっている、つまり平準化されているのが良い配分です。
では、それを実現するためにはどうすべきかというと……これが非常に難しい。なぜなら、ケースバイケースとしか言いようがないからです。
毎日同じ時刻を走る特急でも、季節や曜日によって事情が変わってくることは、容易に想像できます。
また、同じ列車でも、走行区間によって適切な配分が異なることもありえます。A~B駅間では自由席1:指定席4が最適だけど、B~C駅間だと自由席2:指定席3の方がいい、という具合。
つまり、最適な配分を実現するためには、細かい施策が求められます。そもそも、乗客側の需要を正確に把握することからして、非常に困難です。
考えようによっては全車指定席の方が不満が生まれない
そうした観点からすれば──全車指定席化は、鉄道会社の業務削減につながるとも言えます。全車指定席ならば、適切な配分を考える必要などなくなるからです。
自由席・指定席の配分を誤って不幸が生まれるくらいなら、最初から配分などやめちゃえ。難しい業務は、なんとか達成しようとするのではなく、そもそもやめる発想があってもいいじゃないかっ(←開き直り)。
また、考えようによっては、乗客の目線でも似たことが言えます。
自由席と指定席には、それぞれメリット・デメリットがあります。これを別の切り口で考えると、「どちらが得か・損か?」との思考が発生することを意味します。
「自由席じゃなくて、指定席にすればよかったなぁ」
「指定席にしたけど、自由席でも普通に座れた。損した」
比べる対象が存在するから → 損得を比較してしまうのですね。自由席・指定席の両方が存在するために、比較行為によって不満が生まれる、と言ってもよいでしょう。
全車指定席化すれば、そうした不満は生まれません。
もちろん、自由席がないことに対する不満はあるでしょうが、「特急は全車指定席が当たり前。そういうもん」との概念が浸透してしまえば、それもなくなります。ようは慣れの問題だと。
このように考えると、一味違った面白い見方ができるでしょう。