こんにちは、現役鉄道マンのKYSです(^^) 実は先日、JR東海のリニア鉄道館(名古屋市港区)に行ってきました。とあるバスツアーで立ち寄ったものです。
そのリニア鉄道館で、いわゆる運転シミュレーターを体験してきました! 在来線のシミュレーターです。今回の記事では、運転士経験[ピー]年である私の運転シミュレーター体験レポをお送りします。
「線路の情報」がないと上手な運転はできない
もしかすると今、みなさんはこう思っているかもしれません。
「本物の運転士経験があるなら、一般人向けの運転シミュレーターなんて楽勝でしょ?」
「時間通りに運転できて、駅の停車ブレーキもバッチリ決められるんでしょ?」
いいえ、無理です(^^;)
なぜかというと、「線路の情報」が何もないから。たとえば、次の駅までの距離が分からなければ、どれくらいの速度で走るべきかもわからないですよね。また、途中で下り坂やカーブがあったとしたら、そこでの制限速度は何㎞/hなのか?
そういう情報が何もない状態で、バッチリ運転を決めろというのは無理なのです(^^;)
そう、情報がない……。
ならば偵察だっ!
幸い、運転シミュレーターの体験ゾーンは、他の人がプレイしているところを後ろから見学できます。まずは後ろから見学して、どんな感じの線路を走るのかを把握することにしました。鉄道会社の専門用語でいうところの「線見」(せんみ)というやつです(笑)
少し眺めた結果、以下のことがわかりました。
これだけわかればバッチリ。
プロの運転ってやつを見せてやんよ(笑)
チケット(1回100円)を買い、列に並ぶ。すぐに順番が来て、案内されたのは211系電車のシミュレーター。
この211系電車は、国鉄時代に開発された一昔前の電車です。運転台はいわゆる「ツーハンドルタイプ」で、加速するための「マスコン」を左手で、「ブレーキハンドル」を右手で操作するタイプ。
近年の電車は、いわゆる「ワンハンドルタイプ」といって、「マスコン」と「ブレーキハンドル」が一体化したものが一般的。私が案内されなかった方の313系電車のシミュレーターは、ワンハンドルタイプです。私としてはどっちのタイプでも問題ないですね。
一般人向けにATS-PTという鬼畜仕様
それよりも厄介なのは、保安装置であるATS-PT。
ATSとは、赤信号の行き過ぎやカーブでの制限速度オーバーなどを防ぐための装置です。鉄道会社によって少しずつ仕様が異なり、JR東海の在来線で採用されているのはATS-PTというもの。リニア鉄道館はJR東海の施設なので、そこでの運転シミュレーターにもATS-PTが採用されているわけですね。
……そして、同業者である私は知っている。
ATS-PTは運転士に優しくないシステムであることを
ATS-PTについて詳しく説明すると、話が脱線してしまうので簡単に書きます。
たとえば、制限速度50㎞/hのカーブがあったとします。そこに60㎞/hで走る列車が近づいてきた。このままだと、制限速度をオーバーしてしまう……。
もしみなさんが「速度制御を行う機械」だったらどうしますか? 少しだけブレーキをかけて、60㎞/hの速度を50㎞/hまで低下させる。それが普通ですよね。
しかし、ATS-PTにはそんな温情はない。
「あっ速度オーバーしそう」と機械が判断した時点で、非常ブレーキが掛かり、列車を止めてしまうのです! つまり、ブレーキを掛けて適切な速度まで落とすのではなく、非常ブレーキで列車を止めてしまうという極端な仕様になっています。
ゲームに例えて言うなら、ザコ敵(またはザコ敵が発射する弾)に当たったときにダメージを受けるのではなく、常に即死するようなもの。
理不尽極まりない
実際、私が後ろで見ているときに、ATS-PTが動作して非常ブレーキで止められてしまった少年がいました。少年は何が起きたのかわからず、困惑していました。つーか、一般人向けの運転シミュレーターにATS-PTなんか導入するなよ……(笑)
この少年を見て、私は「B駅→C駅間には制限速度90㎞/hのカーブがある」ことを把握。ここさえ速度に気を付ければ、ATS-PTに非常ブレーキを掛けられることはないっ。
妻と甥っ子の理不尽な要求(笑)
いよいよ運転台に座りました。
目の前の画面には、『見習編』『練習編』『達人編』の3つが表示されています。難易度が違うのでしょう。
係員「どれにしますか?」
私「達人編で」(キリッ)
もしかすると、「難しいけど大丈夫ですか?」と聞かれるかもと思いましたが、そのときは「本職っすから」(キリリッ)と答えるつもりでした(笑) しかし何も聞かれずに、「では、この時刻表を使ってください」と渡された、その時刻表を見ると……
あれれー? 運転区間が4区間?
他の人がやっているのを後ろで見ているときは、確かに2区間しか運転していなかったのだが……。
ま、まさかコースが違うのか!?
私が見たのは『見習編』か『練習編』で、『達人編』はコースが異なるのか!? それじゃあ線路の情報がまったくわからん!
……と思っていたら、画面には「時間帯」の選択肢が表示されていました。昼間・夕方・夜。そんなものまで選べるのかと感心していたら、後ろで見ていた妻が、
妻「夜にしてー」
次はなんと「天気」の選択肢まで出てきました。さすが達人編、設定が細かい。
妻「雪がいい」
むーりー、さすがにヤバイ
初めての線路を雪の夜に運転するとか、さすがに無理。いくらシミュレーターとはいえ、本職の鉄道マンがオーバーランでもしたら格好悪すぎる。変な運転をして「えっ、あなた運転士やってたよね?」と妻に疑惑の目で見られでもしたら、家の中での私の権威が失墜する(笑)
私「雪はちょっとなあ……」
妻「えーいいじゃん、雪にしてよー。○○ちゃんも雪がいいよねー?」
妻、一緒に来ていた甥っ子を煽る。おいやめろ。
甥っ子「雪! 雪がいい!」
おまえら鬼畜すぎ orz
こうして強制的に雪の夜を選ばされた私は、もはや腹を括るしかないのであった……。
ついに運転画面が出てきます。雪の夜マジ怖い。いや、リアルでも雪の夜に運転したことはありますが、あれはマジ怖かった。ブレーキを掛けても効かずにスケート状態になったときは、全身の血が逆流する感覚に襲われました。
プルルルルルル…
ドアが閉まります、ご注意ください(自動放送)
ピンポーンピンポーン(ドアチャイムの音)
プシュー
ブー(車掌からの「出発していいよ」というブザー合図)
現役鉄道マンKYSの運命やいかに!?
続きの記事はこちら リニア鉄道館の運転シミュレーターに現役鉄道マンが挑戦!【後編】